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ナポレオン以後のフランスの流れをざっくりと~フランス七月革命と二月革命

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ナポレオン以後のフランスの流れをざっくりと~フランス七月革命と二月革命

今回の記事ではナポレオン以後のフランス、具体的にはナポレオン失脚後の1815年から二月革命という出来事が起こった1848年までの流れをざっくりとまとめていきます。

なぜドストエフスキーを知る上でこの時代のフランスの歴史を学ぶ必要があるのかと言いますと、この時代はまさしくドストエフスキーの青年期と同時代であるからです。

フョ―ドル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

ドストエフスキーは1821年生まれです。

彼の青年期はフランス文学と共にあったと言ってもよいほど、フランス文学に浸った生活をしていました。

特に1830年以降のフランスを舞台にした名作を大量に生み出したフランスの文豪バルザックの影響をかなり受けています。

バルザックの小説はまさしくこの時期のフランスの歴史や文化と共にあったと言ってもよいでしょう。

というわけで、この時代のフランスの歴史を知ることは、フランス革命、ナポレオンを学んだ時と同じようにドストエフスキーを知る上で面白い発見があるのではないかと私は思うのであります。

今回は岩波書店出版の喜安朗訳、トクヴィル『フランス二月革命の日々』を参考にまとめていきます。歴史の流れを掴むためにかなりざっくりとではありますが、フランス革命から遡って始めていきます。

1789~1804年 フランス革命政府期

1789年に勃発したフランス革命。

これにより絶対王政は崩壊し、王侯貴族や聖職者の特権階級も没落。

しかしブルジョアが主体の第三身分が主体となった政府は内紛が続き大混乱が続きます。

1804~1815年 ナポレオン帝政期

フランス革命の混乱に乗じて一軍人から驚異的な速度で出世し、1804年にはフランスの皇帝にまでなってしまったナポレオン。

国王が圧倒的な権力で国を統制するのが絶対王政でありますが、ナポレオンは自ら皇帝となることでそれと同じような体制を作ったのです。

フランス革命で国内の秩序は崩壊し大混乱に陥りましたが、ナポレオンの統治により秩序も回復、経済的にもフランスは繁栄を取り戻します。

ナポレオン時代は成り上がりを望む若者達にとってはフレンチ・ドリームとも言える時代でした。

ナポレオンは身一つで大尉から皇帝まで一気に駆け上がりました。

武勲を挙げれば出世できる。力があれば、自分の未来を切り開くことができる。

これまでの社会では身分が絶対です。どんなに望んでも一般民衆が王侯貴族になることなど夢のまた夢。

ビジネスで成功しようと思っても元々資本金や知識がない人間にはあまりに厳しい道であり、極々一部の人間にしかそれは許されなかったのです。

そんな時に現れたナポレオンという男のインパクトは想像を絶するものがあったことでしょう。

1815年~1830年 復古王政期

ロシア遠征で壊滅的な敗北を喫し、その後も苦しい展開が続いたナポレオンが完全に失脚したのが1815年。

そのナポレオン帝政の後に続くのが復古王政期という時代です。

この時代はフランス革命で打倒された王侯貴族の復活という特徴があります。

フランス革命が勃発した際、多くの王侯貴族がフランスを脱出し他国へと亡命していました。

ナポレオンが倒れ、フランス革命の混乱もついに終わりを迎えた今、いよいよ王政を復活させる時が来たのではないか。

そしてそれまでフランスに敵対していた諸外国、つまりナポレオンを打ち破った諸外国もその流れを望み、強力に支援します。

こうしてフランス革命でせっかく打倒したはずの王政がまた復活したのでありました。

政治も露骨なまでにフランス革命前まで逆戻りです。

これにはブルジョワや一般民衆も怒りを覚えます。その怒りは徐々に蓄積されていくのでありました…

1830年~1848年 フランス七月王政期

復古王政への怒りはいよいよ爆発の時を迎えます。

1830年7月、七月革命の勃発です。

時代錯誤な王侯貴族優遇政策を連発する復古王政に、ついに民衆は反旗を翻しました。

これにより復古王政は崩壊。

次に政治を担ったのはルイ・フィリップを国王にすえたブルジョワ勢力でした。

これはどういうことかといいますと、たしかにこれまでと同じように国王はいたままなのですが、このルイ・フィリップというのは資本家たるブルジョワ達とべったりの国王でした。

つまり、王という存在はそのままに、政治の流れは資本家たちに有利な国づくりがこれからなされていくという時代に向かっていくことになります。

私たちがイメージする優雅な「おフランス」はヴェルサイユ宮殿の舞踏会をイメージしてしまいますが、実は舞踏会であったり豪華な馬車、優雅なファッションが全盛を迎えるのはこの時期に入ってからです。

それは復古王政により王侯貴族が復活したことと、ブルジョアの繁栄が結びついたことがその要因です。

フランスに貴族の洗練された優雅な文化が戻り、同時にそれを自分たちのものにできるほどの金銭的余裕を持った人間が激増したのがこの時代なのです。

経済的繁栄がブルジョア達に、自分たちも貴族のような生活をしたい、そして「私はあなたたちとは違うのよ」と他人に見せつけたい願望を生まれさせました。

そしてそんな欲望が爆発し出したのがちょうど復古王政半ばから七月王政期だったのです。

先程紹介したバルザックはこの時代の風潮を巧みに描いています。後の記事で紹介しますが彼の代表作『ゴリオ爺さん』『幻滅』は、まさに当時のパリの時代精神、そして繁栄ぶり(もちろん、その裏側も)も詳細に知ることが出来ます。

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ドストエフスキーはこれらの小説が特にお気に入りだったようです。『罪と罰』にもその影響を見ることが出来るほどです。

1848年~1851年 フランス二月革命期

さて、七月王政期は資本家であるブルジョワ達にとっては自分たちの繁栄を謳歌するよき時代でありました。

しかしその繁栄の裏にはますます過酷になっていく労働者への搾取がありました。

その結果1848年の少し前から社会主義思想が民衆の間にかなり浸透してきていました。

ブルジョワ達が国王と癒着して自分たちの利権をほしいままにし、これ見よがしにその富を見せつけ、享楽の日々を送っている。

パリは貧富の差がとてつもないほど広がっていました。

そのような社会状況の中で、利益の分配や自由や平等という理想の社会をうたう社会主義思想が民衆の思想の中に蓄積していったのです。

そして1848年2月、ついに民衆の怒りが爆発します。

政府が国民の権利をさらに奪おうとしたのがきっかけで、パリは一気に革命へと突き進んでいきます。この革命はほとんど突発的に起こったため、国王は有効な手を打つことも出来ず、間もなく退位し七月王政は崩壊します。

今回の二月革命期で特徴的なのは1789年のフランス革命と同じく、王政を廃止し、議会による国の統治を目指す共和制を取ったところにあります。

フランスにまたもや国王の存在しない時期が到来することになったのでありました。

しかしフランス革命の時もそうでしたが、急に国王を排して議会で国を動かそうとするとたいてい内紛が起き大混乱に陥ります。

この時も案の定、政府はそれぞれの勢力争いに紛糾し、議会は空転します。

そして公約を守るために打ち出す民衆救済の策はことごとくとんちんかんな愚策ばかり。

政府を倒す時に喧伝していた理想的な公約はことごとく破られ、早くも民衆は新しい政府にうんざりし始めるのでありました。

そして革命の4か月後の6月。ついに民衆は再び武器を取り、暴動に身を投じることになります。

これが6月事件と呼ばれる出来事で、この時は政府軍が暴徒を圧倒的な武力で鎮圧、この戦闘による死者は約5000人、逮捕者は1万五千人を超える大惨事となりました。(※鹿島茂『怪帝ナポレオンⅢ世』講談社を参照)

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この暴動によってブルジョワを主体とする政府と労働者たる民衆は決定的に対立を深めてしまいます。

こうした対立が二月革命期をたった3年で終わらせることになってしまい、後に続くナポレオン3世による第二帝政期へと繋がっていくことになるのです。

第二帝政期についてはまた改めて紹介していきます。

まとめ

フランス革命からナポレオンを経て、1851年までのフランスの流れをここまでざっくりと追ってみました。

ここでもう一度その流れを確認してみましょう。

1789年以前(絶対王政)

1789年フランス革命(絶対王政の終了―共和制)

1804年ナポレオン、皇帝に即位(帝政)

1815年復古王政、(王政)

1830年七月王政(ブルジョワ王政)

1848年二月革命(共和制)

1852年ナポレオン3世、皇帝に即位(帝政)

こうして見ると、ほぼ15年おきに政治体制ががらっと変わっています。

これは現代で言うなら、政権交代云々のレベルではありません。政府そのものががらっと変わってしまうということは、それまでの社会におけるルール、規範、秩序がすべてひっくり返ってしまうということを意味します。

15年おきにこれまで「良し」とされていたものがひっくり返される。

将来に向けてこつこつやろうにも、社会のルールそのものが変わってしまったらそれまで積み上げてきたものはすべてパーです。

もはや残された手段は誰の味方につけば一番いい思いが出来るのかを探るのみです。

誰が味方で誰が敵か。

この先時代はどう転んでいくのか。

これを見極めることができるかどうかが最大の関心事になっていく、権謀術数の時代です。だからこそ高度な社交関係が重要視されたのかもしれません。

悲しいかな、うまいこと立ち回れない人間は取り残されていくのみです。

その辺の事情はバルザックの作品にこれでもかと書かれていますのでぜひ参考にして頂ければと思います。

さて、ここまでフランスの歴史をざっくりと眺めてきましたが今回の記事の終盤に出てきました二月革命、これがドストエフスキーのシベリア流刑と関係があるとしたら皆さんはどう感じますか?

実はドストエフスキーの流刑も、フランスの政治情勢と深い関係があったからこそ起きてしまった出来事だったのです。

やはり歴史は面白いです。思わぬところで点と点が繋がります。

ロシアの問題はロシアだけにあらず。世界は複雑に絡み合い、相互作用して動いていきます。

次の記事では二月革命とドストエフスキーの流刑についてお話ししていきます。

以上、「ナポレオン以後のフランスの流れをざっくりと~七月革命と二月革命」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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