村山吉廣『中国の思想』~中国宗教の時代背景と全体像を掴むのにおすすめの参考書!

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村山吉廣『中国の思想』概要と感想~中国宗教の時代背景と全体像を掴むのにおすすめの参考書!

今回ご紹介するのは1972年に社会思想社より発行された村山吉廣著『中国の思想』です。

早速この本について見ていきましょう。

私たちが中国の古典や思想について持っている認識は、孔子や孟子の〝すぐれた教え〟を学ぶというようなかたよった立場からのものが多い。しかし、思想は、本来それが形成された国家の歴史や民族の生活に即して考えられるべきものである。

本書は、このような視点で、中国の上代から現代までの思想の流れをたどり、本質を分析しつつ、一般の読者に興味をもって読めるように書かれているユニークな中国思想史である。

社会思想社、村山吉廣『中国の思想』表紙カバーより

この本は日本人にとって隣人でありながら意外とわからない中国の宗教の全体像を知るのにおすすめの作品です。

私がこの本を読んだのは以前当ブログで紹介した菊地章太著『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』がきっかけでした。その本の中で本書『中国の思想』が次のように紹介されていたのです。

村山吉廣氏の『中国の思想』という本は、興味がある方にはおすすめの一冊。中国思想史を簡潔にまとめた本だが、ときどき身も蓋もないが書いてあってワクワクする。たとえば開口一番こんな惑じだ。

「中国の古典や思想に関心を抱いている人は多いけれども、そういう人の持っている知識はおおむね。不正確であり、時として大いに間違っている」

いきなり目のまえの人をたたっ斬るようで痛快ですね。

考えてもみてほしい。中国の古典や思想にいくらかでも関心があるから、この本を読もうというのではないか。なかにはたいそうな知識の持ちぬしだっているかもしれない。それもこれもふくめて、その「知識はおおむね不正確であり、時として大いに間違っている」と来たもんだ。でも、そのつづきを読むと、なるほどと納得してしまう。

村山氏はその理由をふたつあげておられる。かいつまんでみればこういうことか。

諸悪の根源の第一は、中国古典をむやみにありがたがる人々がいることである。彼らは孔子さまの教えをたてまつるあまり、古典の真意をゆがめて受けとめている。この傾向は江戸時代から今にいたるまでちっとも変わらない。

諸悪の根源の第二は、西洋かぶれの人々がいることである(ドキッ)。彼らは中国の思想を解釈するのに西洋哲学の概念をもってしようとする。しかし成立のまるでちがうものに西洋流の方法をあてはめるなんて無理な注文だ。―たしかに「認識論」とか「形而上学」とかいう言葉で中国の思想を分析した本や論文は少なくない。村山氏は言われる。

「それらは世間では表題のめずらしさの故に何かすぐれた革新的な内容のもののように考えられ、世に迎え入れられることとなったが、実際には学問の進歩に貢献することの少ない仕事であった」

トホホ……じつは今から筆者もそのまねごとをしようと思っていたところなので、これは大いに拳々服膺しないといけない。

そのうえで村山氏は、思想というものがそれを生みだした民族の社会や人々の生活とわかちがたく結びついていることを強調される。とりわけ言葉はものの見方や考え方をも規定している。私たち日本人は漢字を用いているために、つい中国の言葉や文化に親しんでいると考えがちだが、そういう安易な思いこみはなくさないといけない。日本と中国の地理上の近さは、かならずしも両国の文化の類似を意味しない。そのことゆめゆめ忘るなかれ。

さらにとどめ。「かくして、いま、多くの人々に望まれることは、『実は私は中国について何も知らなかったのだ』という自覚をもってもらうことである」

はい!これなら自信あります。

講談社、菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』P17-18

菊地章太さんの『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』もとても面白い本でしたが、その本の中でこのように紹介されていた『中国の思想』。

これは読みたくなりますよね!

実際に読んでみるとたしかにこの本は切れ味抜群です。あえて私たちのイメージを壊すかのような切り口で孔子や孟子などを論じていきます。

孔子や孟子はたしかに歴史上の大人物です。ですが無批判に聖人君子として崇め奉りすぎることは思想理解の弊害になってしまう。そのことを指摘してくれるのが本書の特徴です。

また、書名が『中国の思想』とありますように、中国における儒教、道教、仏教の流れの全体像を眺めることができるのもありがたいポイントです。

文庫サイズのコンパクトな作品ですが中身は非常に濃厚です。

ぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「村山吉廣『中国の思想』~中国宗教の時代背景と全体像を掴むのにおすすめの参考書!」でした。

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