池田知久『『老子』 その思想を読み尽くす』~老子の思想を様々な視点から考察したおすすめの参考書

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池田知久『『老子』 その思想を読み尽くす』概要と感想~老子の思想を様々な視点から考察したおすすめの参考書

今回ご紹介するのは2017年に講談社より発行された池田知久著『『老子』 その思想を読み尽くす』です。

早速この本について見ていきましょう。

『老子』には、「無為自然」「道」「徳」の根本思想、「小国寡民」「無為の治」の政治哲学、「不争」の倫理思想、養生思想など、古代中国の思想の根幹がある。本書は、『老子』の諸思想を総合的・体系的に解明し、その諸思想の内容を分かりやすく解説。充実の【注】は、『老子』成立の諸事情と思想の内容にも深く立ち入る。原文全文と【読み下し】【現代語訳】も収録。『老子』の初学者から専門家までをカヴァーする決定版。

Amazon商品紹介ページより
老子 Wikipediaより

この本は老荘思想で有名な老子について様々な観点から見ていく参考書です。

まずこの本を手に取って驚いたのはその厚さです。なんと、文庫本で860ページ超!ずっしり来ます!文庫本でこれほどの分厚さはなかなかお目にかかれるものではありません。

著者は「前書き」でこの本について次のように述べています。

我々はなぜ『老子』を読むのであろうか。言い換えれば、現代も二十一世紀社会の住人である我々は、なぜ中国、戦国時代の一書『老子』の思想に惹かれ、それを手に取ってひもといたりするのであろうか。恐らく、『老子』の作者たち、すなわち中国古代の感受性の豊かで、かつ大きく深い思考力のある知識人たち(本書ではこれを老子と呼ぶ)が、当代社会の中に見出していた重要問題およびその解決を模索した方向と、我々が現代社会の中に感取する重要問題およびその解決を願う方向との間に、何らかの共通点あるいは類似点があるためではなかろうか。

『老子』の作者たちが当代社会に見出していたと思われる重要問題を、『老子』に即して考えてみると、以下の四点を挙げることができよう。

第一は、戦国時代の各国はいずれも富国強兵政策を推進する中で、日常不断に他国との戦争を行っていたが、このような戦争が人々にもたらす悲惨で深刻な被害である(『老子』第三十章・第三十一章・第四十六章・第六十九章・第七十九章などを参照)。

第二は、以上の対外戦争による被害とも関連して、中国古代史上の巨大な変革のうねりが引き起こす各国の政治秩序の混乱と、例えば盗賊の横行など、それが人々に与える困窮と苦痛である(『老子』第三章・第十八章・第十九章・第三十八章・第五十七章・第六十五章などを参照)。

第三は、以上の政治秩序の混乱とも関連して、統治者と民衆との間のさまざまの格差の拡大、すなわち統治者の特権化と民衆の生存難・飢餓・貧困の激化である(『老子』第九章・第五十章・第五十三章・第五十七章・第七十二章・第七十五章などを参照)。

第四は、以上のいずれとも関連して、中国古代の伝統社会を基礎づける、家族の紐帯の希薄化、「孝慈」を始めとする素朴な倫理の消失、これらとは裏腹に人々の欲望追求の強烈化である(『老子』第三章・第十二章・第十八章・第十九章・第三十八章・第四十四章・第四十六章・第五十七章などを参照)。

講談社、池田知久『『老子』 その思想を読み尽くす』3-4

本書ではその前半で老子の生きた時代背景と、『老子』という書物の成立過程を見ていきます。そしてそこから著者は「倫理思想」「政治思想」「養生思想」「自然思想」と大きく4つのテーマに分けて『老子』の思想を見ていきます。

とてつもないボリュームです。この本ではかなり詳しく老子について語られます。注も充実しています。

著者の意気込みがものすごく感じられる一冊です。

入門書としては正直厳しいのではないかというのが私の思う所ではありますが、より詳しく老子について学んでみたいという方にはぜひおすすめしたい作品です。また、この本とセットで蜂屋邦夫著『老子探究 生き続ける思想』もおすすめです。こちらは老子と政治、国家、時代背景についてより詳しく知れる作品です。

私としては老子の本では森三樹三郎著『老荘と仏教』が最も読みやすく面白かったですが、それは『『老子』 その思想を読み尽くす』で詳しく学んだからこそだったかもしれません。一度かっちりその思想の全体像を学ぶことの大切さを改めて感じた読書になりました。

かなり骨太の作品ですが、老子を学ぶ上で避けて通れない一冊なのではないでしょうか。

以上、「池田知久『『老子』 その思想を読み尽くす』~老子の思想を様々な視点から考察したおすすめの参考書」でした。

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