M・I・ゴールドマン『強奪されたロシア経済』オリガルヒ(ロシア新興財閥)はいかにして生まれたのか。ソ連崩壊後の経済の流れを学ぶのにおすすめ

現代ロシアとロシア・ウクライナ戦争

M・I・ゴールドマン『強奪されたロシア経済』オリガルヒ(ロシア新興財閥)はいかにして生まれたのか。ソ連崩壊後の経済の流れを学ぶのにおすすめ

今回ご紹介するのは2003年に日本放送出版協会より発行されたマーシャル・I・ゴールドマン著、鈴木博信訳の『強奪されたロシア経済』です。

早速この本について見ていきましょう。

ソ連崩壊から12年。いまやロシアを支配しているのは、オリガルヒ=新興財閥とよばれるひとにぎりの人間である。かれらは、性急な市場経済への転換に乗じて、国家財産、メディア、世界最大級の天然資源を独占し、巨万の富を築いた。一方、GDPは40~50%も落ちこみ、庶民は貧困にあえいでいる。まさにロシアの私有化は一部の人間による強奪化だった―。ロシアに精通した著者が、膨大な資料とインタビューを通しその内実を浮きぼりにする。

いまロシアを支配しているのはオリガルヒ=新興財閥と呼ばれる一握りの人間だ。ロシアの「失われた10年」を明らかにし、「改革」の名のもとに、国全体の富をわがものにした彼らの実情を暴く。

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『強奪されたロシア経済』という、なんとも過激なタイトルではありますが、この本は陰謀論のようなものではありません。

ゴールドマン,マーシャル・I.
1930年生まれ。ペンシルヴェニア大ウォートン・スクールを経て、ハーヴァード大学院でソ連経済の研究により博士号を得る。現在、ハーヴァード大ロシア・ユーラシア研究デイヴィス・センター副所長。ウェルズリー女子大学名誉教授。ロシア経済・政治の世界的権威で、ゴルバチョフやブッシュ(父)をはじめ、米ロの政治家、財界人、官僚に幅広い人脈をもつ。ソ連時代には、数回にわたりモスクワ国立大学で客員教授をつとめた。また、CNN、BBCなどの人気番組の常連出演者であり、『モスコウ・タイムズ』紙『ニューヨーク・タイムズ』紙など多数の新聞、雑誌に定期寄稿するなど、学識とジャーナリストのセンスをあわせもつ大家として活躍

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この著者プロフィールにもありますように、この本はロシア経済の専門家による作品になります。この本を読んでいると、タイトルの意味がものすごくわかります。まさしく「強奪されたロシア経済」としか言いようのないロシア事情を知ることになります。かなりショッキングです。

著者は日本語版の序文でこの本について次のように述べています。この本が何を明らかにしようとしているかが非常にわかりやすく語られているので、少し長くなりますがじっくり読んでいきます。

ちょっと、想像してほしい。―日本中のすべてのビジネスは、日本政府が七〇年にわたって所有し経営にあたってきた。そこへ突然、首相と国会が決定する。すべてを国有から私有に移すことにする、わが国におびただしく存在する原油の油田、天然ガス田、鉄鉱山、非鉄金属鉱山ももちろんこれにふくまれる、と(日本がそんなにラッキーな国だといいのだが)。

これらの資産は日本国民全体が所有者ということになってきた。したがって、国有財産の売却にさいしては、売却額がどれほどになるかはさておいて、国民の一人ひとりがそれぞれ分けまえを受けとるというのが理の当然であろう…。

さらに想像を続けてほしい。実際にはそうはならないで、あたらしくオーナーになるのがひとにぎりのごく少数の連中だとわかったとき、どんな反応が起きるだろう、と。

この連中をわたしたちはオリガルヒとよぶことにしよう〔権力とむすびつき利権を獲得して一挙に富裕化した、エリツィン・ロシアの申し子ともいえる「オリガルフ」(寡頭支配者・寡占資本家)の複数が「オリガルヒ」。組織としての寡頭支配制はオリガルヒア、その複数ガオリガルヒー。いずれも「新興財閥」とよばれることが、日本では多い〕。かれらのうちすくなからぬ者は、私有化が始まるまえは闇市場で商売をし、あやしげな取り引きで悪名をあげつつあった。

そのこと以上に、心おだやかではいられないことがある。ほんの一五年まえまでは財産とよべるほどのものは何ひとつもっていなかったこれらオリガルヒのうち、一七人が、アメリカの雑誌『フォーブズ』が毎年発表する世界の億万長者リストに突然そろって登場するのである。同時に別の事態も進行する。このグループが日一日と金持ちになっていく一方で、日本国民の三分の一が、一夜にして貧困線以下の生活をするようになる。つまり、比較的平等な社会(平等に金持ちでないというべきかもしれないが)としてやってきたものが、少数の億万長者がいて、そのまわりを釣り合いのとりようもないほど多数のきわめて貧しい人びとがとりまいている、という国になりかわるのである。

これにくわえて、これらあたらしく出現するオリガルヒは、ちょっぴりでも起業家精神を発揮してそんな大金持ちになるのかといえば、そんなことはほとんど何もしないのである。かれらは投資家でもなければ、活動をとおして付加価値を生みだしてくるわけでもない。かれらの富は、所有権を強奪することで手に入れるものなのである。

そのさいかれらが使う一連のテクニックは、だまし、暴力、そしてそれ以上にひんぱんにワイロ、政治家と示しあわせて痒い背中をかきあうこと(このまえはきみに便宜をはかってやった。今度はきみがしてくれる番だ)などである。このじつに少数の人間がじつに豊かで、じつに多数の人間がじつに貧しいという比較的あたらしい環境のもとで、このプロセス全体にたいしてふかい恨み・つらみの感情が蓄積されていくのは避けようがない。(中略)

オリガルヒが奪取していく獲物―私有化の決まった国有財産をわがものにしていく「盗品」といってよい―の膨大さを目のまえにしながらも、ロシアの国民大衆は比較的受け身だった。

ロシア人はむかしから苦難を味わってきた。かれらの歴史は、人民が反抗もしないでいかに不正に耐えてきたか、その実例にみちている。

だが、おもてむきは受け身に見えるものの、こんにちの平均的ロシア人が私有化の手順がデザインされ実施されたやり口に胸がかき乱され、おさまらない気持ちになっていることに、うたがいはない。

そのことは世論調査にも反映しており、七〇%(ときには九〇%)もの人が、結果をもとにもどして私有化をやり直すこと、に賛成と回答している。この数字は驚くにはあたらない。とりわけロシアのふつうよりは一段と値打ちの高い資産の私有化をめぐっては、詐欺・殺人にはじまってその他もろもろの不正・腐敗のうわさが絶えないからである。

それに、オリガルヒがあたらしく手に入れた豪邸や、自家用ジェット機や、美人コンテス卜に出せば優勝しそうなガールフレンドを得意気に披露する姿が報道されたりするのも、かれらのプラスにはならなかった。

ロシアの天然資源を外国へ輸出しこうしてためこんだお金を外国へもちだして資本逃避をやらかしたり、そこから二億ドルも引きだしてロンドンのサッカー・チームを買収した、などと聞かされると、いっそう胸かきむしられる思いがしたはずだ。そんなお金があったら、ロシアに積みたててロシアのサッカー・チームを強くするのに使え!ほとんどのロシア人はそう思っていた〔イングランド・プレミアリーグの人気チーム、チェルシーFCを手に入れた若手オリガルヒの一人、ロマン・アブラモヴィッチの買収資金は自分の石油会社の脱税でつくったものだ、と七月七日、会計検査院長が批判を開始している〕。(中略)

以下にお読みいただくのは、エリツィン政権の改革担当者たちがどんないきさつで、あのような選択をするにいたったのか、オリガルヒというあの一群の人たち、なかでもソ連時代には権力周辺からはずっと外にいた人びとが、どのようにしてあれほど急速に、あれほど富裕化したのか、についてのいますこし立ちいった説明である。日本人は隣人の一人であり、また、ロシアの豊かな天然資源にアクセスすることに関心をもつ未来の投資家の一人でもある。この本は、そうした日本の人びとにとって、とりわけ重要な物語である。
※適宜改行しました

日本放送出版協会、マーシャル・I・ゴールドマン、鈴木博信訳『強奪されたロシア経済』P7-18

ソ連崩壊後のロシア経済界で何が起こっていたかが非常にわかりやすくまとめられていますよね。ロシアの経済事情がいかに私たちの常識とは違う論理で成り立っているかがうかがえます。

そしてこうしたオリガルヒのあまりの横暴に国民の不満が高まっていたからこそ、プーチン大統領が台頭してきたということもこの本では明らかにされます。プーチン大統領は無法地帯となったオリガルヒ経済界に対し強い姿勢を取り、それによって国民の支持を得ていたという側面があったのでした。

また、上の引用の終盤に出てきたロマン・アブラモヴィッチ氏は今ニュースでかなり話題になっています。ロシアへの金融制裁によってアブラモヴィッチ氏の資産が凍結され、彼が保有しているイングランドの名門サッカークラブ、チェルシーの運営がほぼストップせざるをえない状況になっています。

ロシアの経済のことを学ぶまでオリガルヒという言葉すら知りませんでしたが、実際の世界経済においてオリガルヒがいかに強い力を持っているのかということを感じることになりました。

そして最後に、この本の訳者あとがきで印象の残った言葉がありましたので引用します。

さいごに一言―。ロシアの国有財産が「私有化」をとおして強奪されたいきさつは、まったく新奇な現象というわけではない。一九世紀後半に始まるこの一五〇年近くのあいだ、野放図な資本主義至上の思想、腐敗した官僚制、かたちばかりの法の支配―この三者がむすびついたところでは、「進歩」の名においてボス政治家や軍人層がすべてを正当化し富裕化してきた例が、中南米や南イタリアやスペイン等、随所に見られる。たとえばメキシコでは一八八〇年代から、リベラルな改革者というふれこみの「科学的な人びと」が、教会財産やインディオスや農民の共有地を、「進歩と効率」の名において前例のない規模で強奪して大地主化し、インディオスや農民が抵抗すると実力で排除してだまらせた。こうして一九一〇年になると、メキシコ農民の半分以上が大農場に住む使用人へとおちぶれた。

よき騎馬将校はまず馬の、ついで部下の、さいごに自分のめんどうをみるべきものだといわれる。ロシアの私有化は、わたしたち自身の国ですすめられようとしている私有化・民営化を見る目にたいしていま一つの視点を提供し、点検の必要を迫る他山の石でもある。

日本放送出版協会、マーシャル・I・ゴールドマン、鈴木博信訳『強奪されたロシア経済』P426-427

この箇所を読んで私はハッとさせられました。

たしかにオリガルヒの問題はロシア固有の特徴もありながらも、こうした腐敗と利権の強奪はロシアに限ったことではないというのを改めて気付かされました。

この箇所を読んで連想したのは『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』という本です。

この本は衰退していく国家とはどのようなものなのか、逆に言えば繁栄の条件とは何なのかということを考察していく作品なのですが、これまで見てきた通りこのままではロシアはまさしく衰退する側の国に位置づけられるかもしれません。上の引用で「野放図な資本主義至上の思想、腐敗した官僚制、かたちばかりの法の支配―この三者がむすびついたところでは、「進歩」の名においてボス政治家や軍人層がすべてを正当化し富裕化してきた」と言われているように、ロシアの実態はまさしくそのようなものでした。

『強奪されたロシア経済』はかなりショッキングな内容が書かれています。ただ、読み物としては調査結果を記したレポートのような雰囲気で、読むのには若干苦労したというのが正直なところです。物語的な面白さが売りの本ではないので当然と言えば当然ですが、読み応えのある作品であるのは間違いありません。

ソ連崩壊後のロシア経済事情を知るのにとても役に立つ作品だと思います。

以上、「M・I・ゴールドマン『強奪されたロシア経済』オリガルヒ(ロシア新興財閥)はいかにして生まれたのか。ソ連崩壊後の経済の流れを学ぶのにおすすめ」でした。

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