ドン・キホーテ

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

(5)セルバンテスの驚異の風刺技術!ガレー船での漕役刑と『ドン・キホーテ』のつながりとは

この記事内で説かれる箇所を読んだ時、私はビリビリっとしたものを全身に感じました。

と言うのも、ガレー船での漕役刑というのはセルバンテスの『ドン・キホーテ』にも登場し、漕役囚たちとドン・キホーテのエピソードは私の中で非常に大きなインパクトを占めていたからです。

『ドン・キホーテ』という作品のあまりのすごさに改めて衝撃を受けました。恐るべき風刺や皮肉がそこら中に散りばめられているのです。しかも、それを知らなくとも面白い小説として読めてしまうのですから驚異と言うほかありません。ますます大好きな小説になりました。

異端審問という歴史を知ることで、文学の見え方も変わってくる。これは非常に興味深いことでありました。

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

(4)スペイン異端審問時代の秘密主義と密告の横行による社会不信~疑心暗鬼の地獄の世界へ

この記事で見ていくのは単に「異端を裁くだけのシステム」と思われていたものが、社会全体の病気となっていく過程です。

最初は疑わしき者を罰するだけでした。

しかしそれがどんどんエスカレートし、もはや誰が誰に密告されるなどわからない疑心暗鬼の世界に変わっていきます。こんな世界で人と人との温かい交流などありえるでしょうか。私たちがこれまで当たり前のように交わしていた楽しいつながりはありえるでしょうか。

ここまで監視と密告が定着してしまえば、人間同士の信頼関係は崩壊です。

こうなってしまえばひとりひとりの国民にはほとんどなす術がありません。スペインは徐々に活力を失っていくのでありました・・・

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

(3)敵を打ち負かし、理想の実現を図るため拷問は行われる~犠牲者を人と見なさない心理とは

「私は不本意だがこれからお前を拷問にかける。お前が悪いことをしたから悪いのだぞ?神はそれを知っておられる。神は絶対に正しい。その神より委託を受けている私たちも正しい。お前は拷問によって苦しむかもしれんがそれは自業自得だ。だがそれによりお前は罪を償うことができるのだ。むしろ我々に感謝してもらいたい。」

異端審問官であれどさすがに自分の手を汚すのは精神的にダメージがあります。そこで自分たちの心が痛まないようにこうして神という絶対的な権威を利用していたのでした。これはスターリンやヒトラーによる虐殺の時にも見られたものです。絶対的な権威による免罪があるからこそ、淡々と暴力を振るうことができたのでした。

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

(2)スペイン異端審問の政治的思惑と真の目的とは

異端審問というと宗教的な不寛容が原因で起こったとイメージされがちですが、このスペイン異端審問においては政治的なものがその主な理由でした。

国内に充満する暴力の空気にいかに対処するのかというのがいつの世も為政者の悩みの種です。

攻撃性が高まった社会において、その攻撃性を反らすことができなければ統治は不可能になる。だからスケープゴートが必要になる。悪者探しを盛んに宣伝し、彼らに責任を負わすことで為政者に不満が向かないようにする。これはいつの時代でも行われてきたことです。このことは以前スターリンの記事でもお話ししました。私達も気を付けなければなりません。

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

マリア・ロサ・メノカル『寛容の文化』~ムスリム、ユダヤ人、キリスト教徒が共存した中世スペインについて知るのにおすすめ

セルバンテスによって『ドン・キホーテ』が発表されたのは1605年のこと。

1492年にグラナダが陥落し、カトリック勢力がスペイン全土を統一してからおよそ100年少し。この間に異端審問は全盛を極め、ユダヤ人やイスラム教徒は迫害を受けました。

この迫害に対しセルバンデスは作中で驚くほど巧みにそれを風刺し、皮肉っています。これは普通に読んでいたらまず気付かないレベルです。当時の歴史を知り、さらに解説を受けなければまず通り過ぎてしまうでしょう。

私自身、この本を読んで改めて『ドン・キホーテ』がいかにすごいかを再発見しました。

この本の最大の見どころは本の終盤に書かれたこの『ドン・キホーテ』とスペインの歴史とのつながりと言っても過言ではないくらい私には驚きの事実でした。

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

(1)スペイン異端審問はなぜ始まったのか~多宗教の共存とその終焉

異端審問が導入された当初、町の人々がそれを拒んだというのは驚きでした。人々は国から送られてきた役人、つまり異端審問官が町の文化や社会を壊してしまうことを察知していたのです。

この記事内にありますように、「コンベルソ」という改宗キリスト教徒と「モリスコ」という改宗イスラム教徒がこの街に居て、彼らはキリスト教徒とともに生活し、互いに様々な文化が入り混じった社会を形成していました。

これがこれから見ていくスペイン異端審問における重要な背景です。共存しながら生活していた人々が恐怖や憎しみ、嫉妬、相互不信によって引き裂かれていく過程がこの本では語られていきます。

愛すべき遍歴の騎士ドン・キホーテ

トビー・グリーン『異端審問 大国スペインを蝕んだ恐怖支配』~ソ連や全体主義との恐るべき共通点―カラマーゾフとのつながりも

この本で見ていくのはまさしくスペイン・ポルトガルで行われた異端審問です。

この異端審問で特徴的なのは、宗教的なものが背景というより、政治的なものの影響が極めて強く出ているという点です。

この点こそ後のスターリンの大粛清とつながる決定的に重要なポイントです。

ハムレットとドン・キホーテロシアの文豪ツルゲーネフ

ツルゲーネフ『ハムレットとドン キホーテ』あらすじと感想~ツルゲーネフの文学観を知るのにおすすめ

この作品はツルゲーネフがハムレットとドン・キホーテについて思うことを述べた論文です。

ツルゲーネフにとってこの2人は彼の作品創作に非常に重要な影響を与えたキャラクターであり、彼の作品にはその面影が随所に見られます。

ツルゲーネフはハムレットとドン・キホーテを対置することで2人の性格を際立たせました。

常に自分のことでうじうじ悩むハムレット型、そして常に他者のために行動するドン・キホーテ型をツルゲーネフは見るのです。

ロシアの文豪ツルゲーネフ

ロシアの文豪ツルゲーネフの生涯と代表作を紹介―『あいびき』や『初恋』『父と子』の作者ツルゲーネフの人間像

ドストエフスキーのライバル、ツルゲーネフ。彼を知ることでドストエフスキーが何に対して批判していたのか、彼がどのようなことに怒り、ロシアについてどのように考えていたかがよりはっきりしてくると思われます。

また、ツルゲーネフの文学は芸術作品として世界中で非常に高い評価を得ています。

文学としての芸術とは何か、そしてそれを補ってやまないドストエフスキーの思想力とは何かというのもツルゲーネフを読むことで見えてくるのではないかと感じています。

芸術家ツルゲーネフの凄みをこれから見ていくことになりそうです。