MENU

神野正史『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』あらすじと感想なぜ日露戦争は勃発したのか。ウラジオストクとシベリア鉄道との関係

神野正史
目次

はじめに

これまでの記事でロシアの歴史をざっくりと見てきたわけでありますが、日本とロシアの関係という面からはやはり日露戦争は避けては通れません。

歴史の授業でも必ず習うのがこの日露戦争であり、世界最強のバルチック艦隊を破ったという、もはや伝説のように語られる日本史上、いや世界史上の重大事件です。

ですが歴史の授業では日露戦争は海戦での勝利やその後のポーツマス条約の話などをさらっと学んで終わりとなってしまいます。

なぜこの戦争が起き、なぜ日本が大国ロシアに勝つことができ、そしてこれが世界の歴史において何を意味するのかということはほとんど学ぶ機会がありません。

ですがこの戦争の持つ意味は想像を絶するほど私たち日本人にとって大きな意味を持つ戦争だったのです。

今回の記事ではそんなロシアと日本の関係性を深くかつわかりやすく解説してくれる本をご紹介します。

神野正史『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』ベレ出版

以前私は「神野正史『世界史劇場 天才ビスマルクの策謀』普仏戦争とエミール・ゾラ、ドストエフスキーへの影響を考えるのにおすすめ!」の記事で19世紀後半の世界情勢を解説した神野正史氏の『世界史劇場 天才ビスマルクの策謀』を紹介しました。

あわせて読みたい
神野正史『世界史劇場 天才ビスマルクの策謀』あらすじと感想~普仏戦争とエミール・ゾラ、ドストエフ... 普通に生活していてはなかなか知ることができない戦争の真の姿や、なぜ戦争が起こるのか、なぜ平和は実現しないのかということを神野先生は国際関係の歴史から丁寧に解説してくれます。 この本を読めば世界に対するものの見方が変わってくると思います。 そして同時に、日本人たる私たちが今世界でどのような状況に置かれているのかも考えさせられることになります。 この本では日露戦争のことも言及されていて、遠いヨーロッパの出来事がいかに日本にも強力な影響を与えていたかが一目瞭然でした。

そして今回ご紹介するのがまさしくそれに連なる時代を解説した『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』という本です。

Amazonの本紹介では次のように紹介されています。

まるで劇を観ているような感覚で、楽しみながら歴史を“体感”できるシリーズ第2弾。なぜ日清・日露戦争が起こるに至ったのかを、世界史的視点からドラマティックに描いていきます。中国・朝鮮・日本は列強の脅威にさらされ、どのようにそれを乗り越えようとしたのか。そしてそれがもたらした結果は何であったのか?19C後半から20C初頭の東アジアの歴史をくわしく見ていきます。臨場感あふれる解説と歴史が“見える”イラストが満載で、歴史が苦手な方でもスイスイ頭に入ってくる一冊!

Amazon商品ページより

この本ではまず眠れる獅子清国がいかに繁栄しいかにして衰退していったのかが書かれ、それに伴い朝鮮や日本がどのように動いていったのかが描かれます。

その時日本はまさに幕末。外国勢力の圧力が否が応にも増し、開国か攘夷かで揺れていた時期です。

この頃の日本の混乱や、その当時の中国、朝鮮、ヨーロッパ情勢が神野先生によってわかりやすく解説されます。かなり意外な発見もありとても楽しく読むことができます。

そして神野先生はこの本の「はじめに」で次のように述べています。歴史を学ぶ上で非常に大切な視点を語ってくれていますので、少し長くなりますが全て引用します。

 「歴史」というものは、いろいろと難しい問題を孕んでいます。

 そのひとつが、歴史学の世界は「満場一致」「統一見解」など、まったくあり得ない世界だということ。

 たとえば、何かひとつの歴史事実について、ある人が「こうだ」と言えば、かならず別の誰かが「いや違う」と言い表す。

 もちろんそれは、本書に書かれた内容とて、例外ではありません。

 たとえば、本書では「西太后」という女性を「最悪の政治家」として扱っていますが、彼女を「名君」だと主張する人もいます。

 だからこそ、歴史を語る者は、なるべく自らの主観・願望を取り払うべきであり、客観的事実の積み重ねによってのみ、見解を構築せねばなりませんが、それがなかなか難しい。

 本書でも、歴史見解がなるべく偏らないように、極力”一般的な歴史見解(主流派)″を採用するよう心がけてはいますが、筆者の個人的見解を述べている箇所もありますし、また、主流派の見解だからといって、必ずしも「真実」とは限りません。

 歴史の本を読むときには、つねにこのようなことをよく理解した上で、書かれていることを鵜呑みにせずに読むことが大切です。

 そして、もうひとつの問題が、歴史を評価・判断をするときの「判断基準」。

 ほとんどの人は「”自分たちが教えられてきた価値観”こそが普遍的な絶対的に正しい判断基準」だと思いがちで、当然のようにして、それをもって歴史判断を行おうとします。

 しかし、それこそが大きな過ちであり、歴史問題をよりいっそう複雑にしています。

 価値観など、時代が変わり、社会が変わり、民族が変わり、国家が変われば、簡単に変化するもので、断じて「普遍的」でも「絶対的」でもありません。

 その時代にはその時代の「正義」があり、「常識」があり、我々現代人とは隔絶した価値観の中で人々が生きていることを理解しなけれぱなりません。

 たとえば仮に、100年後の未来において「ロボット人権」をロボットに与えるのが当たり前、という価値観の社会が生まれたとします。

 それを「絶対の普遍的価値観」だと信じる未来人が現代にやってきて、

「おいおい、この時代のヤツらは、ロボットに人権も与えてねぇのかよ?
なんて野蛮人なんだ!ロボットに謝罪しろ!慰謝料払ってやれ!」

と罵倒してきたとしたらどうでしょうか。

 100年前の人々の行動を評価・判断するとき、「100年前の価値観」に基づいて評価・判断してあげなければ、これと同じ愚を犯すことになります。

 さて。

 以上述べてまいりました2つの問題は、本書で扱っている「日清・日露戦争」のあたりを学ぶ際には、特に大きな問題となります。

 利害が複雑に絡みあい、感情的になりやすく、さまざまな歴史解釈が入り乱れ、現代人とはまったく異なる価値観の中で歴史が動いていたにもかかわらず、それを認識しにくい時代だからです。

 そこで本書の登場です。

 本書は、「敷居は低く、されど内容は高度に」というコンセプトのもと、どんな初学者の方でも容易に理解できるように、イラストを駆使して、平易な言葉で解説された「歴史入門書」でありながら、同時に、この2つの問題点に留意し、なおかつ歴史の臨場感まで伝えることを試みた「本格的歴史書」です。

 歴史に興味がある方はもちろん、今までまったく歴史に興味がなかった方にとっても、本書が、歴史を学ぶ重要性とその歓びに気づく、そのー臂となってくれることを願ってやみません。

神野正史『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』ベレ出版 

ここで言われている歴史に対する見方というのはまさしく今私が学んでいるドストエフスキーに対してもそうですし、親鸞聖人や仏教、宗教そのものを学ぶ時にも当てはまるお話だと思います。

神野先生のお話を聞くと、つくづく「世界は複雑極まりなく、単純なものなどひとつもない」と思わされます。

また、現代の私たちの感覚で昔の人の行動や思考を判断してしまうのもついやってしまいがちなことですよね。この辺のことも私自身も気をつけなければならないなと改めて気を引き締めたのでありました。

日露戦争はなぜ起きた?

1904年に日露戦争が勃発したのは多くの人が知っている歴史的事実だと思います。

ですがなぜこのタイミングでそれが起こったのかとなると難しい。

義和団事件が中国で起こりそれがきっかけで戦争になったと歴史の教科書で習いますが、あくまでそれはきっかけに過ぎません

実際には戦争への道筋は世界全体に及ぶ国際情勢の複雑怪奇な歴史や流れによって生まれていったのです。

以前紹介した『世界史劇場 天才ビスマルクの策謀』の中で解説されていた世界情勢がまさしくそれに当たります。

19世紀後半はビスマルク体制と呼ばれるヨーロッパ内での戦争を回避するための国際関係が結ばれていました。

しかし19世紀末、ビスマルクが失脚するとあっという間にプロイセン(ドイツ)は軍拡を進め、ヨーロッパは一気に不穏な空気に包まれます。

ロシアもその流れに乗り帝国主義的な領土拡大を狙い、戦争に備えます。

そうした背景の下アヘン戦争やアロー戦争を経てもはや西欧列強の植民地となり果てていた清国をめぐって大国間のさらなるバトルが繰り広げられていたのです。

そんな大国間の争いの中ロシアはシベリア鉄道を一気に作り、アジアの覇権を狙います。

そして、その最果ての超重要拠点となったのがウラジオストクだったのです。

ウラジオストクといえば最近日本からも直行便がたくさん飛ぶようになり、最も近いヨーロッパとして非常に人気のあるロシアの観光地です。

ですが、このウラジオストクの地名の由来を皆さんはご存知でしょうか。

実はこのウラジオストク、「東を征服せよ」という意味だそうです。

「東」がどこを示すかはもうわかりますよね。

ウラジオストクは1860年に清国からロシアに割譲されました。この地は日本海に面する良港で、ロシアにとっては喉から手が出るほど欲しかった不凍港です。

ここを拠点に「東を征服せよ」という意味を込めてここをウラジオストクと呼ぶようになったそうです。

とはいえ、やはりモスクワやペテルブルクからのシベリア鉄道がまだ完成しておらず、ここに大軍を移動させてくるのは不可能。

ですがもしこれが完成してしまったら日本は一巻の終わり。日本はその圧倒的な軍事力の前になす術もありません。

だからこそシベリア鉄道が完成する前になんとかロシアと戦わなければならない。今戦わなければ国が亡びる。もう時間は残されていない!

こうして引き起こされたのが1904年の日露戦争だったのです。

『世界史劇場』ではこの辺りの顛末をもっともっと詳しく、そして臨場感たっぷりにお話ししてくれます。ものすごく面白いです。これを中高生が読んだら歴史を好きになること間違いなしだと思います。中高生だけではなく大人にとってもこれはものすごく大切なことを教えてくれる本だと思います。いや、むしろ大人が読んだ方がいいです!きっとこれまで習ってきた歴史観がひっくり返ると思います。

神野先生の『世界史劇場』はどれも素晴らしいです。このブログでもフランス革命ナポレオンについての本も紹介させて頂いています。

今回紹介した『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』も非常に面白い本です。

今私がロシアを学んでいる関係でこのタイミングで紹介させて頂きましたが、ロシアやドストエフスキーに関係なく、日本の歴史を知る上でも非常に興味深い話を聞けますのでこの本はとてもおすすめです。

以上、「神野正史『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』なぜ日露戦争は勃発したのか―ウラジオストクとシベリア鉄道との関係」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった

世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった

次の記事はこちら

あわせて読みたい
R・マッカーター『名建築は体験が9割』あらすじと感想~建造物に込められた意味を知るのにおすすめの解... 建築は外観だけではなく、内部空間で感じる体験こそ人を感動させるのだということをこの本では教えてくれます。 写真や映像で見るだけでなく実際にその場に行ってみないとわからない感覚がある。 だからこそ現地に行って直接体験することには大きな意味がある。 そのことをこの本を読んで改めて感じました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
川端香男里『ロシア その民族と心』あらすじと感想~ロシアの精神的風土を学ぶのにおすすめの入門書! ロシアに関する本には文学論や思想論はたくさんあるのですが意外とこの本のようなロシア人の素朴な生活や気候、風土からその精神に迫っていく本は数少ないです。 ロシア人の精神がどのようなところにその根っこがあるかを知るのは非常に興味深いです。ましてそこからさらにロシア文学へと絡めてお話ししてくれるので非常にわかりやすいです。

関連記事

あわせて読みたい
神野正史『世界史劇場 フランス革命の激流』あらすじと感想~フランス革命のなぜと流れを知るならこの... この本は読んでいて本当にわかりやすいです。なぜその出来事が起こったのか、そしてそこからどう展開していくのかという歴史の流れを知ることができます。 この本はフランス革命の入門書として最適です。
あわせて読みたい
ナポレオンってどんな人?その出自と下積み時代 ドストエフスキー『罪と罰』とナポレオンの関係を考察 ナポレオンといえばその知名度は抜群ではあるものの、実際にいつ頃活躍し何をした人物かと問われれば意外とこれに答えるのは難しいのではないでしょうか。 正直に申しますと、今回フランスのことを学ぶまで私もよくわかっていませんでした。知れば知るほどなるほどなるほどと面白い発見でいっぱいでした。
あわせて読みたい
神野正史『世界史劇場 天才ビスマルクの策謀』あらすじと感想~普仏戦争とエミール・ゾラ、ドストエフ... 普通に生活していてはなかなか知ることができない戦争の真の姿や、なぜ戦争が起こるのか、なぜ平和は実現しないのかということを神野先生は国際関係の歴史から丁寧に解説してくれます。 この本を読めば世界に対するものの見方が変わってくると思います。 そして同時に、日本人たる私たちが今世界でどのような状況に置かれているのかも考えさせられることになります。 この本では日露戦争のことも言及されていて、遠いヨーロッパの出来事がいかに日本にも強力な影響を与えていたかが一目瞭然でした。
あわせて読みたい
謎の国ロシアの歴史を年表を用いてざっくり解説! 正直、ドストエフスキーを学ぶまで私はほとんどロシアのことを知りませんでした。 「極寒の薄暗いどんよりした恐い国」 そんなイメージが頭にあるだけでした。 いつ頃からロシアという国が成立し、どんな歴史を経て今に至っているかなど全く想像すらできなかったのです。いや、興味関心もなかったというのが正直なところかもしれません。 謎の国ロシア。 ですが、いざ調べてみると実はこの国の歴史は非常に面白いことがわかってきました。
あわせて読みたい
キャサリン・メリデール『クレムリン 赤い城壁の歴史』あらすじと感想~イデオロギーとしての「モスク... 歴史を知ることは現在を知ることである。 その歴史がどう編纂され、どのような意図を持っているのか。 この本はクレムリンの歴史を学んでいく本ではありますが、実は現在のロシア、いやそれだけにとどまらず世界中の人間の「現在」を解き明かしていく作品となっています。これは非常に興味深いです。 この本を読むことでクレムリンを通したロシアの歴史、精神を学ぶことができます。非常にスリリングで面白い本でした。かなりおすすめです!
あわせて読みたい
暴君!?名君!?イヴァン雷帝の混沌たる精神とは!ロシアの謎に迫る鍵! 謎の多いドストエフスキー作品を考えていく上でこの人物を知ることができたのはとてもありがたいことでした。 シンプルに読み物として、歴史物語としてもとても面白いので『イヴァン雷帝』はとてもおすすめです。彼を知ることは「かつての古い歴史」を学ぶというだけではなく、「今現在の私たちの世界」を知る手がかりになります。 それほど示唆に富んだ人物です。 ぜひイヴァン雷帝の圧倒的スケールを皆さんも体験して頂けたらなと思います。
あわせて読みたい
サンクトペテルブルクを作った男ピョートル大帝―ロシア版明治維新を断行した規格外の皇帝に迫る ロシアの広大な土地を統御するにはそれほどスケールの大きな人物でなければ成り立たない。 並の人物では到底成しえないことを彼らは軽々とやってのけます。 ドストエフスキーやトルストイが活躍するロシアはこうした規格外の皇帝たちが作りあげたものなのです。 ロシアの近代化を成し遂げ、サンクトペテルブルクを作った男ピョートル大帝も非常に興味深い人物でした。
あわせて読みたい
O・ファイジズ『クリミア戦争』あらすじと感想~ロシア・ウクライナの関係と、近代西欧情勢を学ぶのにお... この作品にも本当に驚かされました。 クリミア戦争ってこんな戦争だったのかと呆然としてしまいました。 世界史の教科書でも取り上げられるこの戦争ですが、どれだけ入り組んだ背景があったか、そしてこの戦争がもたらした影響がいかに現代まで続いているかを思い知らされます。 ウクライナ情勢で揺れる世界において、この戦争を学ぶことは非常に大きな意味があると思います。 ぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
モンテフィオーリ『ロマノフ朝史1613-1918』あらすじと感想~ロシアロマノフ王朝の歴史を学ぶのに最高の... 私にとってはモンテフィオーリは絶大な信頼を寄せうる歴史家なのですが、今作も安定のモンテフィオーリクオリティーでした。「素晴らしい」の一言です。 ロマノフ王朝の始まりからいかにしてロシアが拡大し、力を増していったのかをドラマチックにテンポよく学ぶことができます。 それぞれの皇帝ごとに章立ても進んでいくので時代の流れもとてもわかりやすいです。
あわせて読みたい
O・ファイジズ『ナターシャの踊り ロシア文化史』あらすじと感想~ロシアの文化・精神性の成り立ちに迫... ロシア的な精神とは何なのかということを学ぶのに最高の一冊!。 この本はドストエフスキーのキリスト教理解を学ぶ上でも非常に重要な視点を与えてくれます。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次