(62)マリユス、痛恨のハンカチ事件~恋に狂ったマリユスの喜劇的悲劇

「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(62)マリユス、痛恨のハンカチ事件~恋に狂ったマリユスの喜劇的悲劇
第三部 マリユス 第六章 二つの星の出会い ⑸
コゼットの眼差しから恋に落ちたマリユス。堅物で熱狂家で夢想家の彼は、初めての恋にすっかり舞い上がってしまいます。その狂いっぷりは前回の記事でも見ていきましたが、その後彼は知らぬ間にとんでもない悲劇に見舞われることになります。
今回の記事ではそんなマリユスに起こった大事件?を見ていくことにしましょう。
さて、マリユスはあの運命的な日から毎日リュクサンブール公園に通い、コゼットを遠くから眺めていました。そしてかれこれ1か月もそのような日々が続いたのでありますが、ついに意を決してマリユスの方から彼女のいるベンチの方へと歩き出したのでした。
とはいえ、やはり堅物マリユスです。横にいる父親の注意を引くことを恐れ、目の前を通ることができません。結局父親からは見えにくい物陰に隠れながらコゼットに視線を送るのがやっとのことでした。
ただ、それでもコゼットはその視線に気づき、父親にばれないように目で合図を送ります。う~む、なんとプラトニック!色男のクールフェラックが見たら確実にからかうことでありましょう。
そして事件は起こります。恋で盲目状態に陥った夢想家のアホすぎる勘違いをご堪能ください。
恋はつのり、毎夜恋人を夢にえがいた。それに願ってもない幸運が訪れて、火に油をそそいで、彼の盲目はいっそう深まった。
ある夕方、夕闇のせまるころ、「ルブラン氏と娘(※ブログ筆者注 ジャン・ヴァルジャンとコゼットのこと)」が立ち去ったばかりのべンチの上にハンカチを見つけた。ごく普通の刺繍のないハンカチだったが、純白で上等だった。なんとも言えない香りがするような気がした。彼は有頂天になってそれを拾った。そのハンカチにはU・Fの字が読まれた。マリユスはあの美しい娘のことは、家族も名前も、住所も、何も知らなかった。この二字が彼女についてつかんだ最初の手がかりだった。すばらしい頭文字だった。彼はすぐに推測を積み重ねてみた。Uはたしかに呼び名の方だ。「ユルシュールだ!」と考えた。「なんて美しい名前だろう!」ハンカチに口づけし、香りをかぎ、昼は胸にあて、肌につけ、夜は唇にあてて眠った。
「あの人の魂の香りだ!」と彼は叫んだ。
そのハンカチは老人のもので、うっかりポケットから落したのだった。この見つけものをしてから、毎日、リュクサンブール公園にあらわれると、必ず、そのハンカチに口づけしたり、胸にあてたりしていた。美しい娘はなんのことやらさっぱりわからず、そのことをこっそりと合図をした。
「なんという恥じらいだろう!」とマリユスは言った。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P249-250
ああ!マリユス!なんと君はおめでたい人間なのだろう!
そのハンカチはあの子の物ではない!おじいさんの物だ!それをありがたがって、君は!君は・・・!
ミュージカルではこのアホすぎる喜劇的悲劇は完全にカットされていますが、実にマリユスらしい事件なのでありました。
続く
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