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(60)コゼットの急激な変化~むさくるしい娘からラファエロの聖母マリアのような美女へ

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
目次

「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(60)コゼットの急激な変化~むさくるしい娘からラファエロの聖母マリアのような美女へ

第三部 マリユス 第六章 二つの星の出会い ⑶

前回の記事でお話ししました通り、マリユスとコゼットの初対面は何とも味気ないものでありました。

恋をするどころかマリユスは「むさくるしい」と嫌悪感を抱く始末・・・。ミュージカルとは決定的にその出会い方が異なっています。

では、そんな第一印象最悪の状況からどのようにして彼は恋に落ちるようになったのでしょうか。

早速ユゴーの語りを聞いていくことにしましょう。

マリユスはこうして最初の一年は、毎日同じ時刻に彼らの姿を見た。老人は気に入ったが、娘はむさくるしいと思った。

二年目になると、つまり物語はちょうどそこまで進んでいたわけであるが、マリユスは、自分でも理由がはっきりしないままに、リュクサンブール公園通いをぷっつりとやめて、半年近くも例の小道に足を運ばなかった。ある日、結局またそこへ行ってみた。夏のさわやかな朝で、晴れた日には誰でもそうだが、マリユスもうきうきしていた。耳にする小鳥のさえずりも、木の葉越しにきれぎれに見える青空も、何もかも心にしみ入るようだった。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P231

ジャン・ヴァルジャンとコゼットの二人組を初めて見かけてから1年、マリユスは彼らにほとんど関心すら持っていませんでした。もちろん名前も知りません。そして、彼はふとリュクサンブール公園の散歩をやめて、半年近くもそこへは行きませんでした。つまり、半年間コゼットを見ることもなかったということになります。そして久方ぶりにこの公園を訪れることになったのですが、これがマリユスの恋のきっかけとなっていくのです。

まっすぐに「彼の小道」に進んで行き、はずれまで行き着くと、やはり同じベンチに見慣れた二人の姿が見えた。なるほど、近づいてみると、男の方は前と変りはないが、娘はもはや別人のようだった。今、目の前にいる人は背も高く、美しくもなって、まだ子供らしいあどけない愛らしさをそのまま残している年ごろの女性の最も魅力的な姿態を申し分なくそなえており、十五、という二語だけで表わせるうつろいやすく、清らかな年ごろだった。金色の筋がほのかにただようすばらしい栗色の髪、大理石でつくられたような額、バラの花びらのような頬、ほの白い淡紅色と目もさめるように白い肌。ほほえみが光のように、言葉が音楽のように流れ出る美しい口もと、ラファエロの聖母マリアを思わせる顔が、ジャン・グージョンが彫刻したヴィーナスを思わせる首の上にのっていた。このうっとりするような顔だちは、美しくはないが、可愛らしい鼻で申し分ないものになっていた。まっすぐでもなく、曲ってもいない、イタリア風でも、ギリシャ風でもないパリジェンヌの鼻、つまりどこか知的で、こまやかで、ととのってはいないが、純潔な感じで、画家を絶望させ、詩人を魅惑するような鼻だった。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P231-232

なんと、会わなかった半年の間にコゼットは急成長し、ラファエロの聖母のような美女になっていたのでした。

ドレスデン絵画館、ラファエロ『システィーナの聖母』、「(10)『システィーナの聖母』を愛したドストエフスキー~ドレスデン絵画館で『アキスとガラテア』などの名画を堪能」より
ピッティ宮、ラファエロ『小椅子の聖母』、「(22)フィレンツェでのドストエフスキーの日々~ゆかりの地や彼お気に入りの芸術をご紹介!」より

ユゴーはこの急激な変化を次のように説いています。

四月に入ると、わずか三日のうちに満開になる木があるように、彼女も半年で美の装いをまとったのである。彼女にも四月が来たのだった。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P233

ユゴーらしい、詩的な解説ではありますが、たしかに私達の生きる現代でも夏休み明けにガラッと雰囲気が変わったり、高校、大学進学と同時に別人のようになる人はいますよね。若いうちはほんの少しの時間でも急激な変化が訪れるものです。

では、この聖母マリアのような美人となったコゼットを見てマリユスは恋に落ちたのでしょうか。

いやいや、それが違うのです。やはり堅物マリユスは半端ではありません。

彼はそれからも若い娘のべンチのそばを四、五回通ったが、彼女には見向きもしなかった。

それから、毎日、彼はまたいつものようにリュクサンブール公園に散歩に来るようになり、いつものように「親子」に会ったが、なんの関心も払わなかった。この娘がみにくかったときと同じように、彼女のことは考えなかった。彼女のいるベンチのすぐそばをいつも通ったが、それが習慣だったからである。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P234

なんと、美しくなったコゼットを見てもまだ彼は関心を示さないのです。

まあ、リュクサンブール公園の散歩を再開したということは、心の奥底で彼女を見たかったということなのではないかとも思ってしまいますが、マリユスの意識からするとこの時点では恋心は全くなかったのです。

ではいつになったら彼は恋に落ちるというのでしょう!・・・と言いますより、どうやったらこんな堅物が恋に落ちるのでしょう!聖母マリアクラスの美人を見ても全く興味を示さないというのはかなりの重症です。パリ男子にあるまじき堅物ぶりではないでしょうか。

ですがご安心ください。ちゃんとこの後彼は恋に落ちます。

しかも、びっくりするほどベタな仕方で・・・。

続く

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この記事を書いた人

2019年「宗教とは何か」をテーマに80日間で13カ国を巡り、その旅をもとにした世界一周記を全国9紙で連載。
現在は北海道新聞「みなみ風」で『インド・スリランカ仏跡紀行』を連載中。

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