(59)マリユスはコゼットに一目惚れしていない!?原作での初対面は何とも味気ないものだった

「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(59)マリユスはコゼットに一目惚れしていない!?原作での初対面は何とも味気ないものだった
第三部 マリユス 第六章 二つの星の出会い ⑵
さて、祖父の家を出てから3年が経ち、すでにマリユスは弁護士となっていました。貧乏を耐え抜き、苦学に苦学を重ねて弁護士試験に合格したマリユス。実にあっぱれな頑張りぶりです。
そして前回の記事でも見ていきました通り、20歳になったマリユスは街の女性達からも憧れられるような美青年へと成長していました。
弁護士になり、出版の仕事でも安定した収入を得ていたマリユス。普通ならばモテモテのウハウハ状態になっていてもおかしくないのですが、そこは堅物マリユスです。女性との接触を極端に避ける生活を続けていたのでありました。
ですが、そんな彼にもついに春が訪れることになります。
そうです。ここでついにコゼットと出会うのです。第三部が始まってからすでに230ページ近く進んできましたが、ようやくこの2人が同じ舞台に立つことになるのです。
・・・とはいえ、ミュージカルのように一瞬で一目惚れというわけではありません。ミュージカルではまさに一瞬の稲妻のように2人は恋に落ちるのでありますが、原作ではそうではないのです。むしろ、彼らが恋に落ちるには初対面から1年以上もの時間が必要になるのです。
では、そのマリユスとコゼットの初対面のシーンを見ていくことにしましょう。皆さんもきっと驚くと思います。
マリユスは、リュクサンブール公園の人けのない小道で、苗木の柵に沿った小道で、一人の男とうら若い娘の姿を見かけた。二人はその小道でもいちばん人通りの少ない、ウエスト通り寄りのはずれで、ほとんどいつも同じベンチに並んで腰をおろしていた。自分の心ばかり見つめている人によくあるように、マリユスは自然にその小道に足が向いた。そこに行くと、ほとんど毎日、その二人に会うのだった。男は六十歳ぐらいだろうか、わびしそうな、気むずかしそうな様子をしていた。退役軍人らしくたくましいが、疲れたような体つきだった。もし勲章でもつけていたら、「退役軍人だな」とマリユスは思っただろう。人間はよさそうだが、何か近づきにくいところがある、決して人と視線を合せようとしなかった。青いズボンに青いフロックコート、鍔の広い帽子という服装だったが、どれもいつも新品のように見えた。黒ネクタイに、クェーカー教徒の着るような、つまり真っ白だが、粗末な麻のワイシャツを着ていた。ある日、彼のそばを通りかかった蓮っ葉娘が言った。「とても身ぎれいな男やもめね」。髪は真っ白だった。
二人が専用にしているらしいべンチに、初めて連れて来られて腰をおろしたとき、娘は十三、四の少女のようでみにくいほどに痩せて、ぎごちなく、別に人目をひくところもなかったが、目はかなり美しくなりそうに思えた。ただいつも上目づかいで見すえるので、どこか不愉快なところがあった。年寄りじみて、しかも子供っぽい修道院の寄宿生のような服装で、厚ぼったい黒いメリノの仕立ての悪い服だった。二人は親子のようだった。まだ老人というほどでもない年かさの男と、まだ女になっていない少女に、マリユスは二、三日の間は気をとめたが、その後はなんの注意も払わなくなった。二人の方もマリユスが目にさえ入らないようだった。二人きりでのどかな、屈託のない様子で話していた。娘はひっきりなしに、楽しそうにしゃべっていた。老人は口数が少なく、ときどき彼女になんとも言えない父性愛のあふれた眼差しを送っていた。(中略)
マリユスはこうして最初の一年は、毎日同じ時刻に彼らの姿を見た。老人は気に入ったが、娘はむさくるしいと思った。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P228-231
なんと、一目惚れどころか全く無関心!マリユスにとってこのコゼットは恋の相手どころか、「むさくるしい」存在に見えていたのです。これは驚きですよね。
では、この最悪の第一印象からいかにして恋が始まったのでしょうか。引き続き見ていくことにしましょう。
続く
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