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(57)実は孫マリユスを溺愛しているジルノルマン爺さんの天邪鬼っぷりとは

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(57)実は孫マリユスを溺愛しているジルノルマン爺さんの天邪鬼っぷりとは

第三部 マリユス 第五章 不幸のすぐれた点

さて、貧乏暮らしながらも何とか生活をやりくりして独り立ちしたマリユス。彼が祖父の家を出てから早3年の月日が流れました。

突然のケンカ別れからそれっきりの祖父と孫でありましたが、実は祖父は祖父でかなり傷ついていたのです。不器用で頑固なあの性格ですから、表面上はああであっても、実は繊細なところがあるのです。この箇所ではそんな祖父ジルノルマンの意外な一面を見ていくことになります。

はっきりと言うと、マリユスは祖父の心を誤解していた。ジルノルマン氏は自分を決して愛してくれたことがないと思っていた。

怒鳴り、叫び、あたり散らし、杖を振上げるあのぶっきらぼうで、頑固で陽気な老人は、せいぜい喜劇の中のジェロントみたいに軽薄で、気むずかしい愛情しか寄せてくれないと思っていた。マリユスは誤解していたのだ。

自分の子を愛さぬ父親はあっても、自分の孫を熱愛しない祖父はいない。

実は、前にも言ったが、ジルノルマン氏はマリユスを溺愛していた。彼らしいやり方で熱愛していたので、けんつくや、平手打ちが伴ったが、その子がいなくなると、心に暗い空虚を感じた。

もうあの子の話はするなと命じながら、それがあまりに固く守られるのをひそかに口惜しがった。

始めのころは、このビュオナパルテ派、ジャコバン党、テロリスト、虐殺者が帰ってくるだろうと望みをかけていた。ところが、何週間、何カ月、何年たっても、吸血鬼は姿を見せなかったので、ジルノルマン氏はたいそう絶望した。

「あれを追い出すほかはなかったのだ」と自分に言いきかせ、また自問するのだった。「もしやり直すとしたら、わしはもう一度繰返すだろうか?」自尊心は、やるとも、と答えはするが、年老いた頭は静かに振られて、やらぬ、と悲しく答えるのだった。

彼はしょんぼりと時を過すようになった。マリユスのいないのがつらかった。老人には愛情が日光と同じく必要である。それは温度と同じである。彼がどんなに剛毅でも、マリユスがいないことが彼の心にある変化をもたらした。

どんなことがあっても、あの「ならず者」に一歩も近寄ろうとはしなかっただろうが、苦んではいたのである。彼のことを決して尋ねはしなかったが、いつも心にかけていたのだ。

マレー地区に、ますますひきこもって暮すようになった。相変らず、陽気で癇癪持ちだったが、その陽気さには苦痛と怒りがまざっているかのように、痙攣的な辛辣さがあったし、癇癪を起してもいつも最後にはどこかしんみりとして、沈んでしおれてしまうのだった。よくこう言ったものである。「ああ、あれが帰ってきたら、うんとひっぱたいてやるんだが!」
※スマホ等でも読みやすいように一部改行しました

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P198-199

いかがでしょう。なんともいじらしいと言いますか、切ない老境ですよね。

「自分の子を愛さぬ父親はあっても、自分の孫を熱愛しない祖父はいない」というのは名言ですよね。不器用で天邪鬼のジルノルマンがあんなに激しくマリユスに当たるのも、溺愛しているからこそだったのです。

その証拠に、マリユスのいとこに当たるテオデュールという青年がジルノルマンの下にやって来た時、彼は帰り際に「お前は馬鹿だよ」と冷たく言い放ちます。このテオデュールは叔母のお気に入りで、彼女はあわよくば相続権をマリユスではなくこの青年に譲ろうとすら考えていました。「マリユスがいなくなったのなら、この子をジルノルマンの跡継ぎにすればいいのだわ」ということですね。

そしてテオデュールはジルノルマンに気に入られるべく、彼の演説に対して愛想よく相づちを続けたのですが、その結末は上の通りです。その魂胆をすっかり見透かされ、門前払いを食らうのです。

ジルノルマンにとっては何でも阿諛追従してくるおべっか使いよりも、自分に似た孫のマリユスがやはり可愛いのです。

そうです、やはり似ているのです、この祖父と孫は!

そして重要なことは、またもマリユスは勝手に相手を決めつけ誤解しているのです。そして一切相手を知ろうともしません。父の一件で懲りたかと思いきや、彼は全く変わっていないのです。またしても「何も知らないマリユスさん」なのでした。これも注意しておきたいポイントです。

ただ、これまで私は少しマリユスを悪く言い過ぎていたかもしれません。たしかにマリユスには勘違い癖があり、恩知らずな一面がありますが、基本的には真っすぐで、誠実で、賢くて、忍耐強くて、慈悲深い人間でもあります。

1831年の中頃、こんなエピソードがありました。

ある日、彼が住むゴルボー屋敷の管理人が「隣室のジョンドレッド一家が家賃を滞納し、このままだと追い出すことになる」と彼に話したところ、彼はなけなしのお金をはたいて、躊躇なく代わりに支払ったのでした。

しかも、彼は「隣人の苦しみに気付かなかった自分はなんと軽薄な人間だろう」と自分を責めたのです。こういう優しさを持っているのもマリユスなのだということは補足したいと思います。

続く

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ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む

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この記事を書いた人

2019年「宗教とは何か」をテーマに80日間で13カ国を巡り、その旅をもとにした世界一周記を全国9紙で連載。
現在は北海道新聞「みなみ風」で『インド・スリランカ仏跡紀行』を連載中。

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