目次
「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(2)ミリエル司教とゾシマ長老の共通点とは
第一部 ファンチーヌ 第一章 正しい人 ⑴
前回の記事では本文そのものと言いますより、レミゼの構成についてお話ししましたが、ここからはいよいよ物語の細部に入っていきたいと思います。
さて、前回の記事でもお話ししましたように、ミリエル司教というのは飛び抜けた善人でありました。ユゴーの言葉を借りるならばまさに「正しい人」です。そしてその人柄や生活の具体相をこの第一章で100ページをかけて見ていくのでありますが、私がまず気になったのは次の箇所です。
巡回中の彼は、寛大で優しく、説教するよりはおしゃべりをするといったふうだった。どんな徳でも、近寄りがたい高みまで持ち上げはしなかった。理屈や手本を、決して遠くに求めたりしなかった。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈠』P21
ここで語られるミリエル司教のあり方というのは実に興味深いです。と言いますのも、こうした民衆と共に生きるあり方というのは『カラマーゾフの兄弟』の重要人物ゾシマ長老とかなり似ているものがあるのです。
ゾシマ長老も主人公の見習い修道士アリョーシャを導く偉大なる宗教者です。そしてこのミリエル司教もジャン・ヴァルジャンを導く存在であります。
以前にもお話ししましたように、ドストエフスキーは『レ・ミゼラブル』を愛読していました。そして『カラマーゾフの兄弟』の執筆前にもこの作品を再読していたことが確認されています。『カラマーゾフ』を愛している私にとって、この事実は見逃せないものがあります。
そしてミリエル司教はこんなことも言っています。
罪をできるだけ少なくすることが、人間の掟である。全く罪のないというのは、天使の夢だ。地上のすべてのものは、罪を免れない。罪は引力である。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈠』P28
これは人々のことを言っているだけでなく、ミリエル司教自身のことでもあります。つまり、罪の自覚です。「自分は罪のない、正しい人間だ」という高慢さを司教は戒めているのです。これもまさにゾシマ長老と重なるものがあります。
ただ、こうした「一般的な司教」らしからぬ振る舞いはやはり反感も食らいます。
最も崇高な事柄が、最も理解されないことがありがちなので、町の人の中には司教の行為を解釈して「あれは気取りだよ」と言う者もあった。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈠』P32
ここから先、ミリエル司教の悪口を言う人々が度々出てくるのですが、これもまさにゾシマ長老と共通しています。「正しき人の堕落を人々は好む」とドストエフスキーはどぎつい言葉で表しましたが、ミリエル司教を認めたがらない人々の性質も私達は注意深く見ていく必要がありましょう。
続く
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