(48)スリランカの奥地に大乗仏教の大仏が眠っていた!スリランカに根付いていた大乗仏教の痕跡を訪ねて

ブドゥルワーガラ 仏教コラム・法話

【インド・スリランカ仏跡紀行】(48)スリランカの奥地に大乗仏教の大仏が眠っていた!スリランカに根付いていた大乗仏教の痕跡を訪ねて

キャンディで数日を過ごした私はいよいよスリランカ南部の聖地カタラガマを目指して出発した。

カタラガマ Wikipediaより

カタラガマは現代スリランカで最も人気のある聖地である。宗教を学ぶ人間としてここは外すことはできない。

キャンディからはノンストップでおよそ5時間ほどの距離である。休憩も挟めばかなりの長旅である。

そんなカタラガマの道中で私は「ある存在」を訪れることにした。

それが記事タイトルにもある大乗仏教の大仏である。

スリランカといえば上座部仏教の聖地というイメージがあるかもしれないが、実はこの地には大乗仏教も根付いていたのである。特に8世紀には密教の中心地として世界に大きな影響を与えていた存在だったのだ。インドネシア、ジャワ島のボロブドゥールもまさにその流れで作られた仏教遺跡である。

ボロブドゥール遺跡 Wikipediaより

このように、スリランカでは大乗仏教の歴史がたしかに存在していたのである。私はその痕跡を訪ねるべく、スリランカの奥地に向かうことにしたのである。

キャンディ周辺は高地エリアということで、すぐに美しい山々が目の前に現れた。今回は立ち寄ることができなかったがこの近くのヌワラエリヤは紅茶の産地として特に有名である。この高地地帯は紅茶栽培にも抜群によいそうだ。

高山エリアを抜けると再び水田が顔を出す。スリランカは景色が目まぐるしく変わるので飽きることがない。こうした美しい景色を眺めながら私達はスリランカ奥地へ向けてひた走った。

ダンベーゴダにある大観音菩薩像(Dambegoda Bodhisattva Statue)

私がまず目指したのはダンベーゴダにある大観音菩薩像である。

本当にこの道でよいのかと不安になるほど森の中に入っていく。

駐車場のようなものもないのでとりあえず車を置き、ここからは歩きである。

キャンディを出発してからすでに5時間近く経っている。

道が整備されていたので歩くには困らない。

道の横には黒い大岩がそこら中に転がっていた。そしてその隙間に昨日の雨が作った水たまりができていて実に神秘的だった。苔の緑も美しく、まるで高野山を歩いているかのようだ。

さて、大仏まであと少しのところまでやって来た。この広場の先にある階段を登ればそこにダンベーゴダ観音がいるという。

では、いよいよ観音様と対面といこう。

階段の正面に立ち、上を見上げてみるとそこに観音像が立っているのが見えた。木々の隙間に立つ観音像の凛々しい姿に私は思わず「お~!」と声を上げてしまった。これは素晴らしい。なんと奥ゆかしいお姿だろう。

近くまでやって来た。ここまで来るとその大きさも実感できるようになってきた。

さて、この像を間近でじっくり見ていく前にこの観音像についての解説を見ていくことにしよう。今回参考にするのは森祖道著『スリランカの大乗仏教 仏教・碑文・美術による解明』だ。

ダンべーゴダとは、スリランカ島の東南部に拡がるルフナ自然保護地域の北側の境界付近、最寄りの村落よりも更に5キロほども離れたジャングルの中に位置する。(中略)

このダンべーゴダに隣接する土地はマーリガーウェラと呼ばれ、そこは、後述するこの国最大級の大釈迦像が存することによって、以前より比較的よく知られ、一般の地図にもその地名は載っている。これに対してダンべーゴダの方は、最近までほとんど見捨てられていて、その地名は地図にも記載されていなかった。

このマーリガーウェラとダンべーゴダにまたがる一帯には、かつて大規模な仏教僧院が存在した。その遺跡の全面的発掘調査は未だ実施されておらず、従ってその全貌の詳細な解明は今後の課題である

※スマホ等でも読みやすいように一部改行した。また固有名詞の原語等も省略した。

大蔵出版、森祖道著『スリランカの大乗仏教 仏教・碑文・美術による解明』P368

この解説にもあるようにここダンベーゴダはジャングルの中に埋もれていた存在だった。また、ここで述べられたマーリガウェラには私もこの後向かうことになる。

この菩薩像は、一応、750-800年頃の作と考えられているが、前節の大仏像と同様、長い間ジャングルの地表に放置された末、1893年、今から約120年前に再発見された。その時この像は大仏像の場合とは反対に、俯せの姿勢であった。

そしてその後1948年頃に、内部に何か高価な貴金属類でも秘蔵されていないかと邪推した盗賊によって、背部に穴があけられた上、そこに発破がかけられたことにより、全体の損傷は一層ひどいものとなった。

※スマホ等でも読みやすいように一部改行した。

大蔵出版、森祖道著『スリランカの大乗仏教 仏教・碑文・美術による解明』P373

この像が作られたのは8世紀から9世紀にかけてということで、やはり大乗仏教がスリランカで栄えていた時期と重なる。

そしてこれまで見てきたような他の仏跡と同じく、放棄されて忘れ去られた存在となっていたのだ。

だが、それにしても再発見後の管理がずさんだったことは実に残念である。この仏像が大乗のものであったことももしかしたら関係するかもしれない。そして仏像そのものやその足元の地中に聖宝や貴金属を埋める伝統があることから盗賊たちの格好の的になってしまったというのも悲しい話である。

では、これより観音像をじっくり見ていくことにしよう。

うん。実に良い。これは日本人好みの仏像ではなかろうか。明らかにこれまで見てきたスリランカの上座部仏教の仏像とは異なる。その衣服や装飾、腰のくびれが強調されたその姿はどこかなつかしさすら感じる。

やはり大乗の仏像の方が親近感が湧くのである。

そしてこの像は先ほどの解説でも見たように、盗賊によって激しく損傷した形でしばらくの間放置されてしまっていた。この仏像が今の形で修復されたのは1990年のことだそうだ。仏像の表面に白いラインがたくさん入っているのが見えると思う。それは損傷した部分を修復してつなぎ合わせた痕なのだ。

斜めと後ろからのアングルからも。

後ろから見ると特に修復の痕が感じられるのではないだろうか。

現在は石台に立っているこの像ではあるが、最初に発見された段階ではこの像はうつぶせに倒れていたそうだ。このうつぶせに倒れていたというのが不幸中の幸いだったと言われている。と言うのも、うつぶせになったことで肝心の正面部分が雨風にさらされず損傷が少なかったというのだ。特に顔面部はほとんど無傷だったと言われている。

スリランカの仏教遺跡はほとんどが廃墟となりジャングルに埋もれてしまっていたのだが、その間これらの仏像がそのまま立ち続けていたわけではないのである。これはあまり意識しないことだが、改めて言われてみるとなるほどと思わざるをえない。

方形の石段のその奥に立つ観音菩薩像は実に神秘的だった。苔むした石段が時の流れを感じさせる。この空間は私の中でも特に印象に残っている。スリランカにもこういう場所があるのだ。やはり私は大乗仏教の文脈に生きる人間なのだということも改めて感じることになった。

マーリガーウェラ大仏(Maligawila Buddha Statue)

そしてここから徒歩10分ほどの位置にあるのが前述のマーリガーウェラ大仏である。

仏像の目の前に行くには水を渡らなければならない。

この水は昨日の雨によってできた水たまりなのかもしれないし、あるいはすぐに水が溜まるよう意図的に設計したのかもしれない。そのどちらかは私にはわからないが、水を渡るというのはこれから聖域に入っていくのだということを意識させるものである。

この仏像はスリランカに来て最初に見たアウカナ大仏によく似ている。

アウカナ大仏 「(26)サッセールワ大仏とアウカナ大仏~知る人ぞ知るスリランカの傑作大仏を訪ねて山中へ」の記事参照

横からのアングルも見ていこう。

レンガで後ろから補強する形で大仏を支えているのがよくわかる。この大仏も発見当時は倒れていて損傷が激しかったそうだ。しかもダンベーゴダ観音像と違って仰向けに倒れていたというのも損傷を強めたと言われている。

ブドゥルワーガラの磨崖仏像群(Buduruwagala Rock Carvings)

ダンベーゴダ、マーリガーウェラの大仏を見た私は次なる目的地ブドゥルワーガラへ向かった。

こちらもスリランカの奥地に位置していて、普通の観光客はまず来ない場所だ。

そしてこのブドゥルワーガラにも大乗仏教の仏像が彫られている。しかも密教色の強い仏像ということでスリランカ仏教学界においても特に注目されている仏跡なのである。

車を降りて、ここでも歩きである。

森の中を歩き続けると視界が開け始めた。そしてその先に垂直に切り立った岩山が現れてくる。

こちらが名高いブドゥルワーガラの磨崖仏群である。これらの仏像は岩山を削り、磨き上げて作られた。

この仏像群で目を引くのは何といってもこちらの白く塗られた仏像だろう。こちらは正確には仏像ではない。ダンベーゴダと同じ観音菩薩像である。この白色は漆喰で白く塗られているのだそう。圧倒的な存在感と神秘的な雰囲気をまとっている。

観音菩薩は大乗仏教で非常に重んじられた存在だ。『法華経』でもその名を唱えればどんな苦難からも救済してくれる存在として描かれている。大乗仏教圏においてこの観音菩薩の人気は非常に高いものがある。

ちなみに、ガイドさんによればこの菩薩像の色が残っているのはスリランカの独特な気候と地形によるものだそうだ。スリランカには年間で北東モンスーンと南西モンスーンの2回の雨季があるが、その名称のごとく、雨風の吹いてくる方向が決まっている。そしてこの岩山の向きはまさに雨風を受けない方向だったのである。というわけでこの白い彩色が残っているそうだ。

だがそうなるとなぜ他の仏像には彩色がなされていないのかという疑問も浮かんでくる。しかし私にはその理由を知る術はない。

さて、この磨崖仏像群の構造だが、中央のブッダを中心に全六体の菩薩像が左右に配されている。

向かって左側の三体は観音菩薩(中央)、善財童子(左)、ターラー菩薩(右)。

右側の三体が弥勒菩薩(中央)、観音菩薩(左)、金剛手菩薩(右)となっている。

では、私も右側の三尊の前に移動することにしよう。

この三尊において特に注目なのが右側の金剛手菩薩である。この菩薩はその名の通り右手に金剛杵(こんごうしょ)を持っている。

これは密教で使われる仏具だ。

金剛杵(ネパール)Wikipediaより

ここまで大規模な磨崖仏があるという以上、スリランカにも確固たる大乗仏教の流れがあったことは明らかだろう。

だが、私達の知るスリランカ上座部仏教にはそのような痕跡はほとんど見られない。これはどういうことなのだろうか。再び森祖道著『スリランカの大乗仏教 仏教・碑文・美術による解明』の解説を見ていこう。

現存の文献資料にはスリランカ大乗について関説するものが非常に少なく、たとえあったとしてもそれはほとんど大乗を批判誹謗する内容ばかりである。(中略)

その理由は、現存するスリランカの仏教文献・歴史文献は、そのほとんど全てが、南方上座部マハーヴィハーラ派のものであるからである。周知の如く、このマハーヴィハーラ派はスリランカ上座部の「保守的正統派」として、自由開明派のアバヤギリ派やジェータヴァナ派とは対立していた。

この対立は時代によって強弱があった様であるが、とにかく十二批世紀の後半に、時のパラッカマバーフ1世(在位1153-1186)によって、この国の仏教がマハーヴィハーラ派に再統一されるまで続いた。

一方、西暦紀元元年前後頃インドに興起した大乗仏教は、やがて主としてアバヤギリ派とジェータヴァナ派に受け入れられつつ、スリランカに根を下ろす様になったが、この大乗に対してもマハーヴィハーラ派は概して対立的であった。

その結果、上にも触れた様に、現存するこの派の文献には大乗に関する記述はほとんど存せず、稀れに見られる記述はおおむね否定的な内容となっているのである。そしてその大乗も、パラッカマバーフ1世によってその存在は間接的に否定され、やがて滅亡したと考えられる。

以上の様な事情により、スリランカの大乗仏教については、文献に基づく研究だけではその歴史の十分なる解明は期待できない。そこで眼を転じて、碑文研究や遺跡遺品の発掘調査などの考古学的研究、また仏像仏画などを対象とする美術史的研究などからのアプローチが必要と考えられる。

※スマホ等でも読みやすいように一部改行した。また、固有名詞の原語等も省略した

大蔵出版、森祖道著『スリランカの大乗仏教 仏教・碑文・美術による解明』P366-367

いかがだろうか。スリランカ仏教にはたしかに大乗仏教の流れがあったのだが、正統派を自認するマハーヴィハーラ派より異端視されたことで消滅してしまったのである。

また、上の解説の後半に説かれているように、そうしたマハーヴィハーラ派の伝承に大乗仏教が書かれていない以上、残された資料としてはこうした仏像や仏画などに頼るほかないのである。しかし、そうした資料の有用性が認められ始めた今、スリランカ仏教の歴史が今新たに見直されてきているのだ。

森の奥深くにあるブドゥルワーガラはまさに忘れられた遺跡そのもの・・・。今は木々も間引きされ仏像の前が広場になっているが発見当初はこの空間もジャングルそのものだったのではないだろうか。第一発見者は密林の中突然現れたこれらの仏像に度肝を抜かれたに違いない。

ジャングル奥深くの謎の巨大仏像・・・。

鳥のさえずりが響く神秘的な空間だった。

名残惜しいがここを去らねばならない。森の中にひっそりと佇むこの岸壁の仏像群のことを私はこれからも忘れることはないだろう。

次の記事ではそんなスリランカの大乗仏教の流れについてざっくりとお話ししていく。

皆さんのイメージするスリランカ仏教とは異なる視点からその歴史を見ていくことにしよう。

※以下、この旅行記で参考にしたインド・スリランカの参考書をまとめた記事になります。ぜひご参照ください。

「インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧」
「インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧」
「仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧」

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