河出文庫『チョコレートの歴史』~マヤ文明から遡ってチョコの起源とその歴史を学べるおすすめ作品!

チョコレートの歴史 スリランカ、ネパール、東南アジアの仏教

河出文庫『チョコレートの歴史』~マヤ文明から遡ってチョコの起源とその歴史を学べるおすすめ作品!

今回ご紹介するのは2017年に河出書房新社より発行されたS・D・コウ/M・D・コウ著、樋口幸子訳の『チョコレートの歴史』です。

早速この本について見ていきましょう。

遥か三千年前に誕生し、マヤ・アステカ文明に育まれたチョコレートは、王侯貴族の「飲み物」として長く壮大な歴史をめぐって現代の大衆的「食べ物」となった。原料カカオの植生と成分から始まり、神々の聖なる食物として香料、薬効、媚薬、滋養などの不思議な力をもつとされたチョコレートの魅力を語り尽くした名著。各時代のレシピ付き。

Amazon商品紹介ページより
未熟なものから熟したものまで、さまざまなカカオの実 Wikipediaより

本書は私達にも身近なチョコレートの歴史をなんと、紀元前のマヤ文明にまで遡り見ていくという大スケールの作品となっています。

私が本書を手に取ったのはスリランカの歴史を学ぶ中で紅茶とコーヒーの西洋流通について調べていたのがきっかけでした。紅茶とコーヒーとチョコレートはほぼ同時期に西洋に入り、飲み物として親しまれていました。そしてそのプランテーションや貿易の展開はヨーロッパとアジアの思想を考える上でも非常に大きな意味があると考え私はチョコレートの歴史も学んでみたいと思ったのでした。

そんな時に出会ったのが本書『チョコレートの歴史』です。私はこの本に一目惚れでした。

と言いますのも実はこの本の表紙に描かれているリオタールの『チョコレート売りの娘』は私の大好きな作家ドストエフスキーが好んだ絵でもあったのです。

『チョコレートを運ぶ娘』※ドストエフスキーの資料では『チョコレート売りの女』と表記されていましたので本文ではそう書いています。 Wikipediaより

私はここ数年「親鸞とドストエフスキー」をテーマに学び続け、それが高じて昨年2022年にヨーロッパへ彼ゆかりの地を巡る旅に出たのでありました。

そしてこのリオタールの『チョコレート売りの娘』はドイツのドレスデン絵画館に展示されていて、ドストエフスキーもまさにここでその絵を見たのでありました。

私もドストエフスキーが好んだというこの絵を見にドレスデン絵画館を訪れました。

本書『チョコレートの歴史』の表紙を見てその時の記憶が蘇り、なんとも嬉しい気持ちになったものでした。

さて、話は脇道に逸れてしまいましたが本書について巻末の訳者あとがきでは次のように解説されています。

本書はソフィーとマイケル・コウ夫妻の共著となっているが、まえがきにもあるように、通常の共著とは少し事情が違う。ハーヴァード大学で人類学の博士号を取り、食物史研究家として優れた実績を持つソフィー・コウは、その研究の集大成ともいうべきチョコレートの歴史を書き始めたが、不幸にして執筆中に病に倒れ、本を書き上げることができないまま世を去った。そして、夫のマイケル・コウがその後を引き継ぎ、本書を完成させたのである。マイケル・コウはイェール大学人類学教授で、メソアメリカ古代史研究の第一人者である。彼自身の専門分野と重なる部分があるとはいえ、他人の研究を引き継ぎ、完成させることはたいへんな労力を要したにちがいないが、本書はまさにこの二人の共著にふさわしい内容と言えるだろう。本書の主な狙いの一つとして、これまでのチョコレートに関する本ではあまり論じられていない先スペイン期に光を当てることがあげられている。この時代が敬遠されがちだったのは、一つには先スペイン期のメソアメリカ史そのものがまだ充分に解明されていないことと、歴史の専門家はどうしても食物よりまず建築のように確かなものに目を向けるし、食物の専門家はなかなか考古学までは手が回らないという事情があるからだが、その点、コウ夫妻なら鬼に金棒といったところだろう。実際、本書の中でもマヤ・アステカに関する章は、とりわけ充実して読みごたえがある。

チョコレートといえば、最近では食物繊維や老化を防ぐ効果を持つポリフェノールを含む健康食品として注目され、ちょっとしたブームになっているが、本書を読むと、チョコレートのブームも、健康食品としての評判も、これが最初ではないことがわかる。また、チョコレートがバイアグラも顔負けの強精剤だと信じられていた時代もあった。本書にはこうした興味深い情報が満載されており、そのすべてが丹念な資料研究と厳密な考証に裏打ちされている。著者のチョコレートに対する熱い思い入れと、科学者らしい冷静なスタンスとの絶妙なバランスが、本書をおもしろい読み物にしている要素の一つと言えるだろう。

河出書房新社、S・D・コウ/M・D・コウ、樋口幸子訳『チョコレートの歴史』P374-375

ここで述べられるように本書はそれぞれ異なる専門を研究する学者夫婦によって書かれた作品です。亡き妻の研究を引き継いだというのも驚きですよね。そしてこの異なる専門の二人だからこそ本書はものすごく奥行きのある巨大な作品となっています。

単にチョコレートという食物だけを見ていくのではなく、メソアメリカ研究の第一人者がそれを引き継いだことで歴史に対する解説がものすごく充実しています。読んでいてこの本がチョコレートの本であることを一瞬忘れてしまうほどの充実ぶりでとても面白いです。

また、「著者のチョコレートに対する熱い思い入れと、科学者らしい冷静なスタンスとの絶妙なバランス」と書かれていましたように、著者のチョコへの愛が確かに感じられる作品です。こういう著者の熱い思いが伝わってくる作品というのはやはり読んでいても気持ちがよいものです。熱い思いはこうして本を通しても伝染するんだということを改めて感じました。

チョコレートの大まかな概略をさくっと学びたい方には本書は若干ヘビーではありますが、チョコだけでなくそこから世界を大きく見ていきたい方、歴史好きの方にはぜひおすすめしたい名著です。

以上、「河出文庫『チョコレートの歴史』~マヤ文明から遡ってチョコの起源とその歴史を学べるおすすめ作品!」でした。

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