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名刺代わりの小説10選~恥ずかしながら、私、こんな人間です

ゾラの書斎
目次

名刺代わりの小説10選~『レミゼ』や『カラマーゾフ』など、私の大のお気に入りの作品をご紹介します

今回の記事では「名刺代わりの小説10選」ということで、私がこれまでに最も影響を受けた小説をご紹介していきたいと思います。「名刺代わりの小説10選」という名の通り、これらの作品は私の思考形成に強力な作用を与えています。私という人物のまさに自己紹介的な本達の紹介になりますので、正直少し恥ずかしいと言いますか、できれば紹介しないままでもいいのではないかとも思ったのですが思いきって記事にしてみることにしました。

では早速始めていきましょう。それぞれのリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていますのでぜひそちらも参考にして頂けましたら幸いです。

(ちなみにトップの画像は私の大好きな作家エミール・ゾラの書斎です。2022年8月筆者撮影「(14)パリ郊外メダンのゾラの家へ~フランスの偉大な文豪が愛したセーヌの穏やかな流れと共に」の記事参照)

1 村上春樹 『ダンス・ダンス・ダンス』

私にとってこの本はとても思い入れのある作品です。

私がこの作品を初めて読んだのは大学一年生の春。授業の課題図書としてこの本が指定されていたからでした。大学生活をこれから送るに当たりレポートの書き方を学ぼうという、いわゆるオリエンテーション的な授業の一環でした。

というわけで私はこの本を読んだわけですが、これが私の初めての村上春樹体験でした。

今思うとこの本を課題図書に選んだ先生、えげつないですよね、東京に出てきたばかりのピカピカの大学一年生にいきなりこれを読ませるのですから(笑) メディアや芸能界の華やかな世界の裏側や、どうにもならない社会システムを暴露していくこの作品は正直かなりどぎついです。

私はこの作品に完全に影響されることになり、20代後半になるまでずっとその影響を引きずり続けることになります。

これがいいことなのか悪いことなのかと言われたら、私は「結果的にはいいことだ」と答えるでしょう。ですがことはそんなに単純ではありません。この本で語られたことが当時の私にあまりにドンピシャだったため、その後の私の思考に凄まじい影響を与えることになってしまったのです。

今振り返れば、私はこの村上春樹読書をきっかけに本格的に本の虫になり始めたように思えます。高校時代は受験勉強がメインだったので私はそこまで本を読むことができないでいました。もちろん、本自体は好きだったのですが、やはりこの入学直後の新鮮な時期にガツンと『ダンス・ダンス・ダンス』の洗礼を受けたことが私の読書遍歴を形作ったのではないかと思います。そう考えるとこの作品を課題図書にしてくれた先生には感謝してもしきれないくらいの恩があることになります。出会いって不思議ですね。

そんな私の学生時代や20代を思い出させるのが『ダンス・ダンス・ダンス』です。この作品は今の私にとっても宝物です。

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2 伊藤計劃 『虐殺器官』

この作品はここ数年間で私が最も愛した作品と言ってもいい小説です。

タイトルが『虐殺器官』という、およそ僧侶のブログではまず馴染まないであろうフレーズではありますが、この作品で語られるお話は私にとってあまりに強烈なインパクトを与えることになりました。

私は2019年に世界一周の旅に出かけたのですが、その旅のお供に選んだのがまさにこの『虐殺器官』でした。

私は機内持ち込みだけの荷物で旅をする予定だったので、荷物は出来る限り小さくしなければなりません。本を一冊持っていくだけでも命取りです。

ですがどうしてもこの本だけは持っていきたい!「無人島に持っていくならこの1冊」の感覚で私はなんとかキャリーバックにねじ込んだのでした。

それだけこの本は私にとって思い入れのある本です。

この作品はアニメ映画化もされました。こちらの方で知っている方も多いかもしれません。

私はこの作品に信じられないほどのめり込んでしまい、何度も何度も読み返しました。何回読んでも飽きないんです。読む度に愛しくなっていきます。

この小説で語られるテーマや思想に共鳴したのはもちろんですし、著者の伊藤計劃さんの独特の語り口にも私はすっかりはまってしまいました。

主人公の軍人シェパードを通して語られる言葉の繊細さ、ナイーブさ。これぞ伊藤計劃さんの味です。

伊藤計劃さんはこの小説の重い世界観においてあえて軍人らしからぬ繊細でナイーブな語りを導入しています。これが見事にはまっています。私はこの語りにやられてしまいました。

好きな所をひとつひとつ挙げて行ったらそれこそ長大な論文になってしまいかねない勢いです。この作品は名作中の名作です。もう10回以上読み返しているのですがまったく飽きません。私の愛する作品です。

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3 セルバンテス 『ドン・キホーテ』

『ドン・キホーテ』はスペインのラ・マンチャ地方を舞台にスタートした小説です。

ですがこの『ドン・キホーテ』、名前は聞いたことがあっても実際にどんな小説で何がすごいのかということになると意外と知られていないのではないでしょうか。

作中ドン・キホーテが風車に突撃するというエピソードが有名ではあるものの、その出来事の理由は何かと問われてみるとさらに謎になってくるでしょう。

『ドン・キホーテ』は有名ではあるけれども、実は謎に包まれた小説と言えるかもしれません。

この作品はスペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスによって書かれた大作です。

ミゲル・デ・セルバンテス(1547-1616)Wikipediaより

これまでに幾人もの作家による翻訳が出版されていますが、私は岩波文庫の牛島信明訳を愛読しています。

牛島信明訳はとにかく読みやすいです。言葉遣いも現代的で私たちが読んでも全く違和感なく読むことができます。身近な文体で楽しく読書しようとするなら岩波文庫の牛島信明訳がベストなのではないかと私は思います。

さらに要所要所で挿入されている挿絵がまたすばらしいです。

挿絵のおかげでドン・キホーテの様子がより鮮明に想像できて物語に入り込みやすくなります。

一言で言うならば「こんなに読みやすい古典はなかなかない」と断言することができるでしょう。

古典と言えば小難しくて眉間にしわを寄せて読むものだというイメージもあるかもしれませんが、『ドン・キホーテ』においてはまったくの逆。

私は元気を出したいときや明るい気分になりたいときに『ドン・キホーテ』を読みます。

理想に燃えて突進し、辛い目にあってもへこたれず明るく前に進み続ける、そんな『ドン・キホーテ』を読んでいると不思議と力が湧いてくるのです。

2019年の世界一周の旅でも私は『ドン・キホーテ』をKindleに入れて旅のお供にしていました。

そしてボスニアで強盗に遭い、辛い気持ちになっていた時に力をくれたのは何を隠そう、『ドン・キホーテ』でした。(強盗の一件については「上田隆弘、サラエボで強盗に遭う。「まさか自分が」ということは起こりうる。突然の暴力の恐怖を知った日 ボスニア編⑨」の記事をご参照ください。

「ドン・キホーテはあんなにも大変な目にあってるんだ。それなら私だって大変な目に遭うのも当然じゃないか!旅に出て何かに挑もうとしたならば、辛い目に遭うのも当たり前なんだ。むしろそれこそ遍歴の騎士道において大切なことなのだ!私だってまだまだやれる!ドン・キホーテを真似て、自分も前向きに旅を続けねば!」と勇気づけられたのを鮮明に覚えています。

私の中で『ドン・キホーテ』が決定的に重要な書物になった瞬間でした。

ただ、おそらくいきなりこの作品を読んでみても頭の狂った変なおじさんが行く先々でトラブルを引き起こし、ひどい目に遭わされるという印象以上のものを受け取ることはなかなか難しいといのが実際のところです。

渡すが初めて『ドン・キホーテ』を読んだ時もそうでした。

たしかに1冊目はくすっとしてしまう面白さがあるのですが、それ以降はあまりそういうシーンもありません。

ただただドン・キホーテがトラブルを引き起こし、それに怒った人々がドン・キホーテたちをボコボコにするという展開が続きます。

正直、全て読み終えた直後はなぜこの小説が世界最高の文学と呼ばれているのかさっぱりわからなかったことを覚えています。

ですがそれもそのはず、作者のセルバンデスは一見不思議で愉快な冒険の中に裏のメッセージをふんだんに忍ばせるという手法を用いているのです。

つまり、小説の裏に潜む隠れたメッセージを読み取れなければ単なる狂人ドン・キホーテのトラブル冒険記を延々と読むことになってしまうのです。

となるとこの小説の何がすごいのかさっぱりわからないというのも当然のこと。

これでは読むのもなかなか辛い。

と、いうわけで、『ドン・キホーテ』を読むときはあらかじめ解説書を読んでおくことをおすすめします。

その中でも特におすすめは中公新書から出版されている牛島信明著『ドン・キホーテの旅 神に抗う遍歴の騎士』という本です。ぜひこの本とセットで読むことをおすすめします。これさえあれば百人力です。『ドン・キホーテ』の面白さがわかればもう病みつきになること間違いなしです。この本が世界最高の小説の一つとして称えられる意味がよくわかると思います。ぜひ楽しんでみて下さい。

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4 ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』

『カラマーゾフの兄弟』はドストエフスキーの晩年に書かれた生涯最後の作品です。

ドストエフスキーはこの作品で生涯変わらず抱き続けてきた「神と人間」という根本問題を描いています。

さて、この小説における重大な山場が「大審問官の章」であります。

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私自身、この本を初めて読んだのは20歳の冬です。宗教の知識も浅い未熟者だった私がその時どこまで読み込めていたのかはわかりません。

しかしこの「大審問官の章」は私にとてつもない衝撃を与えることになりました。

ここまで痛烈に宗教を攻撃する言葉を私は初めて目にしたのでした。しかもその言葉を吐いているのがカトリックの高位聖職者たる大審問官であり、こともあろうにその相手はあのイエス・キリストであります。

大審問官は異端者を火あぶりにする責任者です。その彼がキリストを攻撃するのです。なんという逆説でありましょう!

しかしその大審問官も根っからのキリスト批判者ではありませんでした。いや、むしろかつては熱烈なキリスト讃美者でした。キリストのために生き、キリストの説く自由な信仰を熱烈に求め修行していたのです。

ですが最後にはカトリック側についてしまったのです。彼にも抗いようのない苦しみや葛藤があったのです。

この辺の描写にも私は唸らされるわけであります。

当時の私は知ってはいませんでしたが、ドストエフスキー自身はロシア正教を熱心に信仰していました。ドストエフスキーは熱烈に信仰を求めたからこそ、信仰上の問題を極限まで突き詰めて論じていったのです。表面上は激烈なまでに無神論的なこの「大審問官の章」ですが、実はこの章があるからこそ、後の展開が開けてくるのです。

さて、「大審問官の章」についてここまで述べてきましたが、当時「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私の上にドストエフスキーの稲妻が落ちたのです。

私は知ってしまいました。もう後戻りすることはできません。

私はこれからこの「大審問官の章」で語られた問題を無視して生きていくことは出来なくなってしまったのです。

これまで漠然と「宗教とは何か」「オウムと私は何が違うのか」と悩んでいた私に明確に道が作られた瞬間だったのです。

私はこの問題を乗り越えていけるのだろうか。

宗教は本当に大審問官が言うようなものなのだろうか。

これが私の宗教に対する学びの原点となったのでした。私が当ブログで「親鸞とドストエフスキー」というテーマで世界文学や歴史の本を更新し続けてきたのもここに大きな理由があります。以下のまとめ記事でより詳しくお話ししていますのでぜひご参照ください。

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『カラマーゾフの兄弟』はただ暗くて重いわけではありません。

しかも「難しい」というイメージがかなり先行していますが、実際に読んでみるとそこまで難しい表現は出てきません。言葉自体は読みやすいとすら言えるかもしれません。

たしかに、上巻の前半は忍耐が必要になります。正直に申しまして、前半はプロローグといいますか、中盤からの盛り上がりのための前準備のような内容です。(慣れてくるとこの箇所もものすごく面白くなってきます)

もしかしたら、ここで挫折してしまう人が大半なのかもしれません。

ですがここを辛抱すると上巻の後半から一気にエンジンがかかってきます。

ここまで辛抱強く読んできた方なら、これまで溜めていたエネルギーが爆発するがごとく一気にドストエフスキーの筆の勢いに呑み込まれていくことになるでしょう。

中巻下巻に入ってもその勢いは止まることはありません。きっと抜け出せなくなるほど没頭すること請け合いです。それほどすごいです。この作品は。

上巻の前半部分さえ突破すれば後はもう怒涛のごとしです。

決してこの作品は難しいのではありません。難しいのではなく、深いのです。

『カラマーゾフの兄弟』が発表されてから120年の月日が経ってもなお変わらずに多くの人から愛され続けているのはそれなりの理由があるのです。

この物語そのものが持つ魅力があるからこそ、読者に訴えかける何かがあるからこそ、こうして読み継がれているのだと思います。

私の中でこの作品は別格の存在です。私に最も強い影響を与えたのはこの本で間違いありません。

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5.三島由紀夫『豊饒の海』

豊饒の海

三島はこの四部作を通して「生命とは」「人生とは」を追求していきます。私達の生きる「生」とは何なのか。私達にとって「死」とは何なのか。「善く生きる」とは何なのか。どう生きるべきなのか。こうしたことを壮大なスケールで描き出していくのが『豊饒の海』です。はっきり言いましょう。この作品の巨大さは想像を絶します。私はこの作品に文字通り圧倒されました。間違いなく私の人生に大きな衝撃を与えた作品です。

2023年から24年にかけての私のインド仏跡旅行にもこの三島のエキスは実に強い影響を与えています。三島が見たインドは一体何だったのかと考えながらの旅になりました。

『豊饒の海』は日本を超えて世界文学史上の大事件だと私は考えています。それほど巨大な作品でした。簡単には「おすすめです」とは言えませんが、恐るべき作品であることは間違いありません。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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6 エミール・ゾラ 『ルーゴン・マッカール叢書』

「ルーゴン・マッカール叢書」とは簡単に言えば、フランス第二帝政期(1852-1870)を舞台にしたエミール・ゾラの社会観察シリーズとでもいうべき作品群です。2021年の大河ドラマ『青天を衝け』で渋沢栄一が訪れたパリ万博はまさにこの時代に当たります。彼が目にしたパリの文化が後に日本にもたらされることになり、今を生きる私たちにつながっているのです。

現代では当たり前の存在になっているデパートが生まれたのがこの時代で、欲望を刺激し、人々の「欲しい」という感情を意図的に作り出していくという商業スタイルが確立していったのもこの時代でした。(※詳しくはデパートはここから始まった!フランス第二帝政期と「ボン・マルシェ」の記事を参照)

第二帝政期は私たちの生活と直結する非常に重要な時代です。現代のライフスタイルの起源がまさにここにあるのです。

そしてその当時の時代背景、そして人間心理を知る上でゾラの「ルーゴン・マッカール叢書」はこの上ない歴史絵巻となっています。

ですが、ゾラの作品は決してただ単に過去の時代を描いたものではありません。彼は人間の本質に迫ろうとしました。彼の描く人間たちは今を生きる私達と何も変わりません。

世の中の仕組みを知るにはゾラの作品は最高の教科書です。

この社会はどうやって成り立っているのか。人間はなぜ争うのか。人間はなぜ欲望に抗えないのか。他人の欲望をうまく利用する人間はどんな手を使うのかなどなど、挙げようと思えばきりがないほど、ゾラはたくさんのことを教えてくれます。

ゾラはどぎつい世の中の現実を私達に見せつけます。作中、きれいごとを排した人間のどろどろしたどす黒い感情、煩悩がこれでもかと飛び交います。

まるで「世の中を知るには毒を食らうことも必要さ。無菌室に生きてたら世の中を渡ることなどできるもんか」と言わんがごとしです。

そのゾラの集大成が「ルーゴン・マッカール叢書」であり、この中にゾラの代表作『居酒屋』や『ナナ』が含まれています。そしてそれぞれの作品はつながりはありつつも、単独の作品としても読むことができるようになっています。私が初めて読んだゾラ作品は『居酒屋』でしたがこれが面白いのなんの!その面白さに私はまさに衝撃を受けてしまったのでした。(その衝撃については「『居酒屋』の衝撃!フランス人作家エミール・ゾラが面白すぎた件について」の記事参照)

「名刺代わりの小説10選」ということで本来は一作品を上げるのがルールですが、このルーゴン・マッカール叢書はやはりその全体込みで大好きな作品ということでここで取り上げさせて頂きました。どれを読んでもものすごく面白いのですが以下私のおすすめ作品をピックアップしています。ぜひこちらもご参照ください。

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7 ヴィクトル・ユゴー 『レ・ミゼラブル』

この作品は1862年、ヴィクトル・ユゴーによって発表された言わずと知れた名作です。

ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)Wikipediaより

この小説を原作に数多くの舞台や映画化もされていて、むしろそちらの方が印象が強い作品かもしれません。

ちなみに私もミュージカルの大ファンです。観るたびに号泣し、今でもよくサントラを聴いています。

この作品は『レ・ミゼラブル』というタイトル通り、「悲惨な人々」がたくさん描かれます。ヒロインのファンチーヌはその最たる例です。

しかし、そんなみじめな人びとを生み出すこの世においてジャン・ヴァルジャンのような人間が戦い続けている。ミリエル司教のような高潔で善良な人間がいる。そしてかれらの善なる力が次の世代に引き継がれていく。

こうした人間の持つ崇高な善なる力、理想がこの作品では描かれています。

『レ・ミゼラブル』は分量も多く、原作はほとんど読まれていない作品ではあるのですが、基本的には難しい読み物ではなく、わかりやすすぎるほど善玉悪玉がはっきりしていて、なおかつ物語そのものもすこぶる面白い作品です。

しかも単に「面白過ぎる」だけではありません。この作品にはユゴーのありったけが詰まっています。つまり、ものすごく深い作品でもあります。私もこの作品のことを学ぶにつれその奥深さには驚愕するしかありませんでした。

原作も最高ですし、ミュージカルも最高です。まず間違いない作品です。原作を読むのが厳しいという方でも、まずはミュージカル映画を観てみて下さい。王道中の王道です!圧倒的な音楽と歌、ストーリー展開に夢中になること間違いなしです。

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8 チェーホフ 『六号病棟』

チェーホフは天才です。「ロシア文学を読むなら誰の作品がおすすめですか」と聞かれたら私はまずチェーホフをおすすめします。チェーホフはドストエフスキーやトルストイのような長編小説は書きません。短編や中篇がメインです。ですがその短い作品の中で驚くほどの人間模様を表現してしまいます。

そしてこの作品はあまりに強烈です。その恐ろしさをここで伝えきることは私にはできません。ぜひ読んで下さいとしか言いようがありません。

ものすごく個人的になのですが、この作品は浄土真宗の参考書になってほしいとすら私は感じています。それほどこの作品は親鸞思想ともつながりがあるように私には思えるのです。

そしてさすがはチェーホフ、それを読みやすい物語として語るというのがやはりすごいです。読みやすいんですよね、やはり。まったく難しくはないです。ですが異様に深い・・・心に突き刺すような何かがある。うまく言えませんがとにかく恐ろしい作品です・・・

ぜひ皆さんに手に取っていただきたい作品です。非常におすすめです。

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9 トーマス・マン 『魔の山』

この小説は私にとって非常に大切な作品です。私の「十大小説」を選ぶとすれば『魔の山』は確実にその中でも大きな位置を占めます。それほどこの作品は力強く、強烈なインパクトがあります。とにかくスケールの大きな作品です!

私がこの本を初めて読んだのは大学院生になってからのことでした。人生問題について書かれた重厚な小説を読んでみたいと思っていた私がふと出会ったのがこの作品だったのです。トーマス・マンについては学生時代に『ヴェニスに死す』を読んだことがあったり、ゲーテとの絡みでその名が出ていたりと元々興味のある存在でした。

ま~とにかくでかい!この小説のスケールは常軌を逸しています。小説の舞台自体は閉鎖空間たる「魔の山」ですが、私たちの日常を吹き飛ばす異界だからこそ存在する魔力をこの本では体感することになります。

そしてこの小説の中で私が最も印象に残ったのが次の一節です。

「生命とはなんだろう?だれもそれを知らなかった。生命が湧きでる、生命が燃えあがる自然的基点は、だれにもわからない。」

「生命のもっとも単純な形態と、無機であるために死んでいるとさえいうに値しない自然物とのあいだの距離にくらべたら、脊椎動物と偽足アミーバとの距離など問題にならなかった。」

生物と無生物との違いは何なのか。生命とは何なのか・・・

この一節を読んだ時の衝撃は今でも忘れられません。この一節だけを読めばなんてことのない問いのように思えるかもしれません。これはきっと誰しもが一度は抱いたことのある問いでしょう。ですが『魔の山』という異界に身を置いてハンス・カストルプと共にここまで歩んでくると、この問いは信じられないくらいの重さを持って私たちの前に現われるのです。

私は自分で問わずにはいられませんでした。自分と石ころの違いはなんだろう。石ころと生物を隔てるその究極の一歩は何なのだろう。仮にそれが命だとして、では命って何なのだろう。死者と生者の違いは何なのだろう・・・

こう考えていくと無限に問いが連なり、私たちが日常ほとんど目を向けないであろう根本問題が現れて来ることになります。偉大な長編小説をじっくり読むということはこういうことなのかと私はつくづくその時感じました。同じ一節でも大きな物語の中で語られた一節はそれこそ圧倒的な重みを持つのです。これは読めばわかります。ぜひこの小説を読んでそれを体感して頂けたらなと思います。

私がこの小説を初めて読んでからそれこそ10年近くも時が経ちましたが、それでもこの小説の衝撃は今も強烈に残っています。

この作品もぜひ学生のうちにおすすめしたい作品です。まさに学生という感受性豊かな時期に主人公のハンス・カストルプと共に「魔の山」の強烈な人物達と出会うのは非常に貴重な体験となると思います。本を読んでも人と出会うことはできます。本のよい所はここにいながら時と場所を超えて人と出会えることです。ぜひセテムブリーニ氏やペーペルコルンというとてつもないスケールの人物たちと対面してみて下さい。度肝を抜かれること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい名作です。

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10 井上ひさし 『ロマンス』

この本はロシアの劇作家チェーホフの生涯を喜劇化した作品になります。チェーホフは上でも紹介しましたが私の大好きな作家の一人です。彼は作家であり医者でもあるという異色の経歴の持ち主で、想像を絶するほど波乱万丈な生涯を生きた、まさに大人物であります。

そんなチェーホフの生涯を井上ひさしさんが喜劇化して舞台化したのが本作『ロマンス』になります。

タイトルに書きましたように、私はこの作品を読みながら「なんて見事な作品だろう・・・!こんな作品を生み出してしまうなんて!」と嫉妬してしまいました。

私はこれまで「親鸞とドストエフスキー」をテーマに世界の文学や歴史、文化を学んできました。もちろんチェーホフもその一人です。

ですがそうした名作たちを読んでも「嫉妬」を感じたことがありませんでした。

歴史の荒波を生き残った名作中の名作に嫉妬して何になるでしょう。私はそれら名作たちにひれ伏し、そこからできる限りのことを学ぼうと懸命になるばかりでした。「世界の偉人に勝負を挑むなんて」でおしまいです。

しかし、井上ひさしさんのこの作品においては違ったのです。私はこの本を読みながら自身に嫉妬の感情が巻き起こっていることをはっきりと感じました。この作品はあまりに素晴らしすぎるのです。私もチェーホフが好きです。ですが井上さんはもっともっとチェーホフを深く理解し、愛している。そして彼の人生、思想をこんなに楽しく、深く表現しているのです。この劇で展開されるひとつひとつのエピソードや舞台展開の美しさ、どれをとっても「やられた!もうだめだ!すごすぎる!」とため息が出てしまうほどでした。どうしてこんなに楽しくも美しい劇を思いつけるのか!

私は今まで読書している最中にこんなにメラメラと嫉妬の炎が燃えるなんてことは経験したことがありませんでした。

ですが、今やその炎をはっきりと認識しています。

きっとそれは今、私が作品を書こうとしている真っ最中だからかもしれません。私も勝負に出ようとしているからこそなのだと思います。

「日本を代表する劇作家井上ひさしさんに嫉妬するなんてなんと不遜な!身の程を知れぇ~い!」

まさにその通りです。

でも、どうせ嫉妬するなら超一流の人に嫉妬していたい。

そんなことを思うわけです。

いやあ素晴らしい作品でした。これを映像ですら観ることができないというのは本当にショックです。演劇という表現媒体の「一回性」というものを強く感じさせられました。その場でないと味わえないものがあるのだと・・・

この本では舞台の写真がシーンごとに掲載されているのでそれはとてもありがたいことでありました。この写真のおかげでまるで舞台を観ているかのごとく読み進めることができます。・・・う~ん、だからこそもっと映像で観たくもなってくる!なんとか映像化の道はないのでしょうか?記録映像は残っていないのでしょうか?狂おしい!

私にとってこの作品は忘れられないものになりました。何度も何度も大切に読み続けていきたいと思います。

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おわりに

さて、これまで私の「名刺代わりの小説10選」をご紹介してきました。無数にある本の中から10冊を選ぶというのはかなり厳しい作業でした。エミール・ゾラで『ルーゴン・マッカール叢書』全部という反則技を使ってしまったのもここだけの秘密です笑。

それにしても泣く泣く選外となってしまった本の多さたるや!

特にシェイクスピアを入れれなかったのは苦渋の選択でした。私はシェイクスピア演劇が好きなのですが、これはそもそも小説なのかという問題もあります。ですが物語としてはどれも素晴らしいものがあります。『ハムレット』しかり『リア王』『オセロー』『夏の夜の夢』・・・挙げていけばきりがありません。

そして今年にはシェイクスピアの全作品を読み、さらには蜷川幸雄さんの演劇についても学ぶことになりました。その最後に行き着いたのが上の小説10選の最後にご紹介した井上ひさし著『ロマンス』です。ですのでこの『ロマンス』はシェイクスピア全作品や演劇についての思いも含まれた上でのチョイスになります。そういう意味でも『ロマンス』は私にとって大きな作品となりました。

当ブログではこれまで多くの本を紹介してきました。そしてそれらは全て私が実際に読み、これは自信を持っておすすめできるという本たちです。

ですので、実はこのブログ自体が私自身の自己紹介のようなものでもあるのです。私自身そのような気持ちでこのブログを更新してきました。

また、当ブログについて様々な感想やご質問を受けるのですが、記事が多すぎてその中の何を読んでいいかわからないというお声が一番多くなっています。

たしかにいつの間にか記事数が1500近くになった今、何を読めばいいのかわかりにくくなっているのは正直なところかもしれません。当ブログについての案内板といいますか、見通しのようなものを今後作りたいなと私も考えております。

私は本が大好きです。そして本の力を信じています。これからも本の魅力やその面白さをご紹介できるよう更新を続けていきたいと思っています。

もちろん本業は僧侶ですので、これから先、仏教の記事の更新に突入していくことになりますがぜひこれからもお付き合い頂けましたら幸いでございます。

以上、「名刺代わりの小説10選~恥ずかしながら、私、こんな人間です」でした。

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ゾラの書斎

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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