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(48)マリユス、真実を知る~父は私を愛していたのだ!

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(48)マリユス、真実を知る~父は私を愛していたのだ!

第三部 マリユス 第三章 祖父と孫 ⑶

父の死に何の感慨も湧かないマリユス。

「父を愛していなかったのだ、仕方がない!」

王党派のジルノルマン氏に育てられ、何も知らなかったマリユスですからそう思ってしまうことは無理もありません。そんな彼を「恩知らず!」と責めることはさすがに酷でありましょう。

・・・が、ここでユゴーが見事なのは読者に対してはすでに真実を打ち明けていたということです。私達は父ポンメルシーの人柄や息子への思いをすでに知っています。だからこそこのマリユスの仕打ちに感情的になってしまうのです。これがもしマリユスと同じく何も知らされないままであれば、私達も彼と一緒に無感動になっていたことでしょう。やはりユゴーはさすがです。こうして私達読者はまんまとユゴーの術中にはまっているのです。

そして父の死を忘れて法律の勉強に勤しんでいたマリユスは、いつものように教会の日曜礼拝にお参りに行きます。

ただ、その日はたまたまいつもよりぼんやりしていて、いつもとは違う席に何気なく坐ってしまいます。これが彼の運命を変えることになったのでした。

ミサがはじまると、一人の老人がやって来て、マリユスに言った。

「あなた、これはわたしの席です」

マリユスは急いで立ち上がった。そして老人はその椅子に坐った。

ミサが終っても、マリユスは物思いにふけって、数歩離れたところにとどまっていた。老人がまたやって来て、彼に言った。

「先ほどお邪魔したのに、今もまたお邪魔してすみません。きっといやな奴とお思いでしょうが、そのわけを説明いたします」

「いいえ」とマリユスは言った。「結構です」

「でも!」と老人は言った。

「わたしのことを悪く思われたくないものですから。そう、わたしはあの席が好きなんです。あそこだと、ミサもよく思えるんです。理由ですか?お話ししましょう。

あの席で、長年の間、決って二、三カ月に一度は、気の毒な、立派な父親が来るのを見たのです。その人は自分の子供を見るのに、それ以外の機会も方法もありませんでした。家庭の事情で、許されなかったのです。

そこで、自分の子がミサに連れて来られるころにやって来ました。子供は自分の父親がここにいるなんて思いもしません。たぶん父親があることさえ知らなかったでしょう。無邪気なものです!

父親は見られないように、あの柱のうしろに隠れていました。子供を見つめ、涙を流していました。その子供を愛していました、哀れな人です!わたしはそれを見ました。この場所はわたしにとっても神聖なところとなりました。

そしていつもここへ来て、ミサを聞くようになりました。わたしは教会委員として坐れる役員席よりも、ここの方がいいのです。

その不幸な人の身の上話も聞きました。その人には、舅と、金持の伯母(訳注 作者の間違いで義姉のことか?)と親戚もあったでしょうが、よく知りません。とにかく、その人たちは、父親である彼が息子に会えば、息子に相続権を与えないと、おどかしました。そこで息子がいつか金持になり、仕合せになれるように、自分が犠牲になりました。政治上の意見のために遠ざけられたのです。

たしかに政治上の意見もあるでしょう。ですが、それだけでは、我慢のできない人たちがいます。そうですよ!ワーテルローにいたことがあるからといって、その人が化け物というわけじゃないのですから。そんな理由で、父親から子供を引離すことなんか、できないはずです。

彼はボナパルトに仕え、大佐でした。もう死んだでしょう。わたしの兄の司祭と同じく、ヴェルノンに住んでいました。名前は、ポンマリーとかモンペルシーとか…言っていました。たしか、サーべルの傷あとがはっきりありましたよ」

「ポンメルシー?」とマリユスは真っ青になって言った。

「そうです。ポンメルシー。あなたも知合いでしたか?」

「僕の父でした」とマリユスは言った。

老教会委員は両手を合せて、叫んだ。「おや!あなたが、お子さん!それはそうだ。今は大人になっているはずだ。そうですか!あなたには、あなたをたいへん愛していらっしゃった立派なお父さんがあったわけです!」
※スマホ等でも読みやすいように一部改行しました

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P97-99

出ました!またもやユゴーの偉大なるたまたまが炸裂です!

たまたま座った席で出会った老人が、父を知るあのマブーフ氏であったのです。

マリユスはこの老人の話を聞き真っ青になりました。それはそうですよね。彼にとってはまさに世界がひっくり返るようなお話です。

「父は自分を捨てた男だ」と思いこんでいたマリユスでしたが、事態は全くの逆でありました。つまり、真実を知った今となってはこれまでの世界が全て虚構の世界と化してしまったのです。

さて、この衝撃的な事実を知ってしまったマリユスはこの後どうなってしまったのでしょう。ユゴーはその姿をかなり念入りに描写しています。その様子を次の記事で引き続き見ていくことにしましょう。マリユスの性格を考えていく上でここは非常に重要なポイントとなっています。

続く

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この記事を書いた人

2019年「宗教とは何か」をテーマに80日間で13カ国を巡り、その旅をもとにした世界一周記を全国9紙で連載。
現在は北海道新聞「みなみ風」で『インド・スリランカ仏跡紀行』を連載中。

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