MENU

G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』概要と感想~定説だった大乗仏塔起源説を覆した衝撃の説!インド仏教の実際の姿とは!

インドの僧院生活
目次

G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』概要と感想~大乗仏塔起源説を覆した衝撃の説!インド仏教の実際の姿とは!

今回ご紹介するのは2000年に春秋社より発行されたグレゴリー・ショペン著小谷信千代訳の『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』です。私が読んだのは2018年の新装版第一刷です。

早速この本について見ていきましょう。

インドでは四世紀まで大乗経典は制作されても大乗教団は存在しなかった! 世界の学界に衝撃をあたえた学説の提唱者が、当時の「清貧」とはほど遠い僧院の姿を浮き彫りにした名著の復刊。

僧院の「清貧」はイメージか?事実か?大乗教団の誕生にまつわる衝撃の学説を提唱した研究者が語る、律文献から見る当時の僧団と私有財産、仕事との関係。私たちの想像とはかけ離れたその生活の実態が明らかになる!

Amazon商品紹介ページより

著者のグレゴリー・ショペンについて私が興味を抱いたのは以前当ブログでも紹介した『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』がきっかけでした。

あわせて読みたい
『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』概要と感想~仏教のイメージが覆る?仏教学そのものの歴... 私達が当たり前だと思って享受していた〈仏教学〉が日本の仏教思想や文化とは全く無関係に生まれたものだった。 この本を読めば〈仏教学〉というものがどんな流れで生まれてきたのか、そしてそれがどのように日本にもたらされ、適用されることになったのかがよくわかります。

この作品の中でグレゴリー・ショペンの説が紹介されていて、それがものすごく衝撃的でしたのでぜひショペンの本を読んでみたいと私は思いこの本を手に取ったのでありました。

本書は大谷大学で1996年と1997年に開催された、ショペンによる大学院特別セミナーの講義録が基になっています。この講義について「訳者まえがき」では次のように述べられています。

西暦一、二世紀から四、五世紀にかけては、大乗仏教が既成の部派仏教(小乗仏教)を凌駕して華々しく活動した時代であるとするのが、インド仏教史における通常の了解である。はたして大乗仏教は当時それほどの勢力を有する存在になっていたのであろうか。ショペン教授の講義はそのインド仏教史の定説に疑問を投げかけるものであった。このテーマは教授が一貫して追い続けてきたものであり、数々のすぐれた論文や著書としてその成果が公刊されている。

そのような研究業績に裏付けられた教授の主張は、公開講演会でも多数の聴衆を魅了したが、特別セミナーの授業においても、他大学からの聴講生をも交えて常時五十名前後の聴講者が授業を満喫したことであった。教授の講義は、碑文研究と考古学的研究法を律典研究に導入するという教授独自の方法論に基づいて行なわれ、ほとんど毎回、新たな知見を示してわれわれ聴講者を瞠目せしめ、知的好奇心をかきたてる刺激的なものであった。

春秋社、グレゴリー・ショペン、小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』Pⅰ-ⅱ

「教授の講義は、碑文研究と考古学的研究法を律典研究に導入するという教授独自の方法論に基づいて行なわれ、ほとんど毎回、新たな知見を示してわれわれ聴講者を瞠目せしめ、知的好奇心をかきたてる刺激的なものであった。」

まさにその通り!この本を読んでいるとどんどん驚くべき事実が目の前に現れてきます。「え!?そうだったの!?」と驚かずにはいられません。ものすごく刺激的でスリリングな講義をこの本では聴くことができます。

巻末の「訳者あとがき」ではこのことについて次のようにまとめられています。

お読みいただければ分かるように、今回の講義では、教授の関心はもはや大乗仏教の起源論争の枠を超えて、一世紀から四、五世紀にかけての時代の仏教教団のありさま、あるいは僧の生活の実態を、小乗の一部派の戒律の書『根本説一切有部律』に基づいて、可能な限り具体的に明らかにすることへと向けられている。教授が紹介する律の記述の中には、われわれの予想とはまったく異なる僧たちの姿が描かれている。僧は普通、三衣一鉢や濾水嚢および坐具などの必要最低限の品物以外は、財産を私有しないものと思われてきた。しかし実際には、かなりの量の、しかも相当高価な装飾品などの品物まで所有していたことが教授の講義によって明らかにされた。あるいはまた、学習や瞑想に明け暮れているものと考えられてきた僧たちが、現実には、建築の監督や犬の世話、はては金融業まがいの仕事まで、僧院の内外で実にさまざまな業務に携わっていたことも明らかにされた。私たち受講者は僧たちの実に人間くさい姿が紹介される度ごとに驚いたことであった。

春秋社、グレゴリー・ショペン、小谷信千代訳『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』P307-308

ここで述べられるように、これまでの文献学中心の仏教学では見えてこなかった世界がショペンの新たな研究によって明らかになってきました。この本ではそんな仏教学の新展開を切り開いたショペンの刺激的なお話を聞くことができます。

大乗仏教は紀元後から小乗仏教を批判する形で生まれ、大きな勢力となりやがては中国を経由して日本にやって来た。私たちはそうしたイメージで大乗仏教を考えてしまいがちですが、大乗仏教教団そのものが5、6世紀になるまで存在していた形跡がないというのは驚くべき事実です。大乗経典自体は紀元一世紀頃から生まれてはいるものの、小乗教団と別の形で大乗教団が存在していたわけではないと言うのです。

「経典があるのに教団がないってどういうこと?」と皆さんも不思議に思うかもしれません。私もそうでした。

ですがショペンはこの本の中で鮮やかにその仕組みを解き明かします。正直、衝撃としか言いようがありません。

できることならこの記事でその理論をご紹介できればよいのですが、長くなってしまいますし、断片のみを紹介しても逆に理解しにくくなってしまうかもしれないのであえて紹介しません。

ぜひこの本を読んでその内容を確かめて頂ければと思います。ものすごく面白い本です。買って間違いなしの名著です。仏教を学ぶ上でとてつもない衝撃を受ける本です。

ショペンの説の概略やその後仏教学界に与えた影響については『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』に詳しく解説されていますのでそちらとセットで読むのをおすすめします。

これはとてつもない一冊でした。ぜひぜひおすすめしたい作品です。インド仏教や大乗仏教についてのイメージが変わってしまうほどのインパクトです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「G・ショペン『大乗仏教興起時代 インドの僧院生活』~大乗仏塔起源説を覆した衝撃の説!インド仏教の実際の姿とは!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

大乗仏教興起時代 インドの僧院生活〈新装版〉

大乗仏教興起時代 インドの僧院生活〈新装版〉

次の記事はこちら

あわせて読みたい
G・ショーペン『インド大乗仏教の虚像と断片』概要と感想~インド仏教研究に革命を起こした泰斗による最... 当時のインド仏教徒にとっても遺骨の存在は大切なものだったということが考古学的な証拠から明らかにされつつあります。これは刺激的な論稿でした。 また真宗僧侶である私にとって阿弥陀仏像の碑文のエピソードは非常に興味深いものがありました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第一巻 大乗仏教とは何か』概要と感想~最新の研究を基に様々な視点から大乗を考察... 『シリーズ大乗仏教』は最新の研究成果が反映されているところにその特徴があります。 仏教の基本を知りたい方、入門書を読みたいという方には少し厳しい内容の本ですが、仏教の大枠を知り、さらに大乗仏教をより深く学んでいきたいという方にはぜひぜひおすすめしたい作品です。

関連記事

あわせて読みたい
【現地写真から見るブッダ(お釈迦様)の生涯】⑴ネパール、ルンビニーでの王子様シッダールタの誕生! 今回の記事から全25回の連載を通してゴータマ・ブッダ(お釈迦様)の生涯を現地写真と共にざっくりとお話ししていきます。 私は2024年2月から3月にかけてインドの仏跡を旅してきました。 この連載では現地ならではの体験を織り交ぜながらブッダの生涯を時代背景と共に解説していきます。
あわせて読みたい
『シリーズ大乗仏教 第二巻 大乗仏教の誕生』概要と感想~大乗仏塔起源を批判したショペンの説の概略を... 本書ではこれまで当ブログでも紹介したグレゴリー・ショペンの説がわかりやすくまとめられています。現代における仏教学においてとてつもない影響をもたらしたショペンの説の概略を学べるのは非常にありがたいものがありました。
あわせて読みたい
奈良康明『〈文化〉としてのインド仏教史』概要と感想~葬式仏教批判に悩む僧侶にぜひおすすめしたい名著! 文献に書かれた教義だけが仏教なのではなく、そこに生きる人々と共に歩んできたのが仏教なのだというのがよくわかります。私自身、この本にたくさんの勇気をもらいました。仏教は現代においても必ずや生きる力に繋がるのだということを私は感じています。
あわせて読みたい
『新アジア仏教史03 インドⅢ 仏典からみた仏教世界』概要と感想~仏伝や経典に説かれる史実はどこまで史... 私たちはブッダの生涯をこれまで様々なところで見聞きしたことがあると思います。ですが、実はブッダの歴史的な事実というのはわかっていないことも多々あります。 それをこの本では経典や資料を用いて丁寧に見ていくことになります。特に本書前半の仏伝に関する解説は私にとっても非常に刺激的なものとなりました。
あわせて読みたい
辛島昇・奈良康明『生活の世界歴史5 インドの顔』あらすじと感想~インド人の本音と建て前。生活レベル... 本書では宗教面だけでなく、カーストや芸術、カレーをはじめとした食べ物、政治、言語、都市と農村、性愛などなどとにかく多岐にわたって「インドの生活」が説かれます。仏教が生まれ、そしてヒンドゥー教世界に吸収されていったその流れを考える上でもこの本は非常に興味深い作品でした。
あわせて読みたい
中村元『古代インド』あらすじと感想~仏教が生まれたインドの風土や歴史を深く広く知れるおすすめ参考書! 仏教の教えや思想を解説する本はそれこそ無数にありますが、それらの思想が生まれてきた時代背景や気候風土をわかりやすくまとめた本は意外と少ないです。この本は私達日本人にとって意外な発見が山ほどある貴重な作品です。これを読めばきっと驚くと思います。
あわせて読みたい
新田智通「大乗の仏の淵源」概要と感想~ブッダの神話化はなかった!?中村元の歴史的ブッダ観への批判と... 今作では浄土経典について説かれるということで浄土真宗僧侶である私にとって非常に興味深いものがありました。 特に第二章の新田智通氏による「大乗の仏の淵源」は衝撃的な内容でした。これは仏教を学ぶ全ての人に読んで頂きたい論文です。
あわせて読みたい
F・C・アーモンド『英国の仏教発見』あらすじと感想~仏教学はイギリスの机上から生まれた!?大乗仏教批... この本を読むと、「原始仏教に帰れ。日本仏教は堕落している」という批判が出てきた理由がよくわかります。これまでどうしても腑に落ちなかった大乗仏教批判に対して「ほお!なるほど!そういうことだったのか」という発見がどんどん出てきます。この批判が出てくる背景を追うととてつもない事実が浮かび上がってきます。これは最高に刺激的な一冊です。
あわせて読みたい
平川彰『インド仏教史』概要と感想~仏教学の不滅の古典!仏教の歴史や教義が網羅された名著! 一つの著作でここまで教えを網羅し、ひと流れの仏教史として書き上げられた本書は驚異としか言いようがありません。 これはものすごい本です。初学者に気軽におすすめできる本ではありませんが、仏教をより深く学びたいという方にはぜひおすすめしたい一冊です。
インドの僧院生活

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次