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『人類の知的遺産49 バクーニン』あらすじと感想~ロシアの革命家バクーニンの生涯を知るのにおすすめの伝記

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勝田吉太郎『人類の知的遺産49 バクーニン』概要と感想~ロシアの革命家バクーニンの生涯を知るのにおすすめの伝記

今回のご紹介するのは1979年に講談社より発行された勝田吉太郎著『人類の知的遺産49 バクーニン』です。

早速この本について見ていきましょう。

「破壊の情熱は創造への情熱である」をモットーに波乱万丈の生涯を送ったバクーニン。宗教と国家とを徹底的に否定した彼にとって、自由の実現こそ至高の価値理念であり、天上と地上の一切の権威と権力に対する反逆こそが、その生と思想を一貫して流れるパトスであった。バクーニンを語ることを通してアナーキズムの本質や今日的意義をも論じた本書は、現代の「管理社会」に多くの問題を投げかけている。


講談社勝田吉太郎『人類の知的遺産49 バクーニン』 帯より
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前回の記事で紹介したゲルツェンと同じく、マルクスを知るために同時代の革命家たちのことを知ろうということでこの本を取りました。バクーニンもマルクス伝記を読めば必ず出てきますし、ドストエフスキー伝にも出てくる人物です。

バクーニン(1814-1876) Wikipediaより

バクーニンはロシアの大貴族の家に生まれました。前回紹介したゲルツェンもそうでしたよね。19世紀ロシアを代表する革命家の二人が共に大貴族の息子という事実は驚きでした。ちなみに1917年のロシア革命の立役者になるレーニンも貴族の生まれです。

では、この本のまえがきにバクーニンという人物の面白さが書かれた箇所がありますのでそちらを見ていきましょう。

第一に、バクーニンのマルクス批判、その〝権威主義的社会主義〟の教説批判の痛烈さである。私は、マルクス在世中にあれほど鋭利なメスでマルクス主義のアキレス腱を裁断し、解剖してみせた思想家を他に知らないのである。


講談社勝田吉太郎『人類の知的遺産49 バクーニン』 P4

たしかにこの本を読めばバクーニンによる鋭いマルクス批判を目にすることになります。

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こちらの記事でもそれは紹介しましたが、マルクス主義を突き詰め、政治的なイデオロギーにしていくとどういうことになるのかを彼は正確に見抜いていました。

第二に、文字通り波瀾万丈のバクーニンの生涯は、それだけとってもなまなかな小説よりずっと面白い。だからこそネトラウやコルニーロフを先頭に、多くの史家が多くのバクーニン伝を倦きもせず書いてきたのである。イギリスの歴史家であり政治学者でもあるE・H・カーも、数冊の〝伝記もの〟を世に送っているが、何といってもその『バクーニン』が白眉だといってよい。それというのも、バクーニンの一生そのものが、まさしく「小説よりも奇」だからである。(中略)

彼の伝記の面白さは、たんに波瀾に富んだ生涯ということだけにつきるのではない。神を拒否するニヒリストが辿る精神的彷徨のドラマとはいかなるものかという意味でも、つきせぬ興趣をそそるであらう。だからこそドストエフスキーは、バクーニンを常に念頭に置き、いわば彼の無神論と対決するといった仕方で、あの『悪霊』の執筆を構想したのであった。


講談社勝田吉太郎『人類の知的遺産49 バクーニン』 P4-5

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『悪霊』をもっと深く知るためにもこの伝記は大きな意味を持ちそうです。

第三に、バクーニンの魅力の多くは、その思考の論理的徹底性にある、といってよいであろう。思考を徹底しないということは、知的に誠実ではないことであり、知的に誠実でないことは、同時に、道徳的に怠惰なことをも意味するであろう。バクーニンがなによりも忌み嫌ったのは、そういう論理的不徹底であり道徳的怠惰であった。換言すると、不純なる知性と偽善の徒輩を、彼は何にもまして憎んだのである。たとえば、『ドイツにおける反動』における自由主義者への痛罵をみるがよい。それは精神の軟弱さに対する痛烈きわまる、ほとんど戦慄的なまでの批判である、といってよいだろう。

バクーニンの思考は、いたる処で論理を徹底するあまり常軌を逸するものとなっている、と評して差支えない。思考を極端にまで押しすすめるなら、大抵は誤謬に陥ってしまうものだ、と言うこともできるであろう。常識ある人間なら、誰しもそういう極端な論理的帰結の前にたじろいでしまうのだが、バクーニンのようなタイプの人間なら、〝常識なきを憂えず、ただなまぬるさと偽善とを憂うのみ〟と答えるのではなかろうか。(中略)

考えてみると、われわれの大半は、「熱きにもあらず、冷やかにもあらざる」人種であって、中途半端な思考と情緒の世界に安住する人間ではなかろうか。われわれ自身の思考を強靱に鍛えあげるためにも、バクーニンの常軌を逸した反逆の溶鉱炉の火焔を一度内面的にくぐり抜けることがあってもよいのではなかろうか。第一級の思想家とは、しばしば大なり小なり猛毒をもつコブラにも似た存在である。その毒に自らの身体をさらし、自己の抗体によってその毒に打ち克ち免疫を得たものだけが、真に健康を回復した人間なのであろう。ドストエフスキーがその多くの作中人物の苦悩と迷妄とを通して描き出そうとしたのも、そういうニヒリズム克服の精神的ドラマであった。


講談社勝田吉太郎『人類の知的遺産49 バクーニン』 P 5-6

これは特に最後の箇所が強烈です。「第一級の思想家とはしばしば大なり小なり猛毒をもつコブラにも似た存在である」という表現は絶妙ですよね。たしかに、ドストエフスキーを読んでいると本当にそのことを感じます。

バクーニンを知ることもこうした思想の鍛錬を積むことになっていく。「バクーニンの常軌を逸した反逆の溶鉱炉の火焔を一度内面的にくぐり抜けることがあってもよいのではなかろうか」と著者が言うように、この伝記はかなり刺激的です。

とにかくぶっ飛んだ強烈な個性を目の当たりにすることになります。

この伝記もとても面白かったです。この本もおすすめです!

以上、「 『人類の知的遺産49 バクーニン』ロシアの革命家バクーニンの生涯を知るのにおすすめの伝記」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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