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上田隆弘『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ローマの魅力に迫る!
前回までの記事で私の旅行記『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』は完結した。
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私はドストエフスキーが好きです。ですが、何よりも「アンナ夫人といるドストエフスキー」が好きです。 そんな二人の旅路が少しでも多くの人の目に触れるきっかけとなったらこんなに嬉しいことはありません。
私は11月初旬から12月まで「ドストエフスキーの旅」と題してヨーロッパを旅した。そして上の旅行記の中ではお話ししなかったが実は私はこの日程の中でローマも訪れていたのである。
ローマは2019年の世界一周の時にも訪れていたがその時はバチカンしか見ることができなかった。今回は古代ローマや芸術の都としての顔を見るために私は再びローマを訪れた。
この記事からはそんな私のローマ滞在記を『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』と題してお届けしていきたい。
さて、タイトルにもあるように私が「ローマとドストエフスキー、ベルニーニ」というテーマに関心を持つようになったのは次のような理由がある。
ドストエフスキーは1863年にスースロワという女性と西欧旅行の旅に出掛けた。(「(1)妻アンナ夫人と出会うまでのドストエフスキー(1821~1866年「誕生から『罪と罰』頃まで)をざっくりとご紹介」参照)
1867年のスースロワ Wikipediaより
アポリナーリヤ・スースロワはドストエフスキーの恋人として知られる女性だ。しかもただの恋人ではない。後に書かれるドストエフスキーの作品『賭博者』の主要人物ポリーナのモデルともなった強烈な個性を持った人物である。
ドストエフスキーはこの女性に熱烈に恋し、まさに自分の小説の登場人物のように煩悶し苦しんだ。
この旅で二人はパリ→バーデン・バーデン→ジュネーブ→トリノ→ジェノア→リヴォルノ→ローマ→ナポリ→リヴォルノ→トリノ→ベルリンを巡った。
ドストエフスキーはこの旅の中でローマに立ち寄り、サンピエトロ大聖堂やコロッセオを見物している。
私はドストエフスキーがこれらローマの象徴についてどう思うか非常に興味があったのだ。
と言うのも、ドストエフスキーは作品や書簡においてローマカトリックを強く批判していたという事実がある。だがバチカンはミケランジェロやベルニーニといった天才たちによって作られた最高の芸術都市だ。しかもベルニーニはローマを劇場的な芸術の街へと変貌させた超一流の天才。ベルニーニについては当ブログでもこれまで紹介してきた。
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ベルニーニを知れば新たに見えてくるものがあるということを強烈に感じた1冊でした。
素晴らしい名著です!
ベルニーニ(1598-1680)Wikipediaより
ベルニーニは劇場的、演劇的効果を極めた芸術家だ。彼の建築や彫像には観る者を魅了する圧倒的な表現力がある。それに対しドストエフスキーも実は演劇的効果を極めた作家として知られている。このことについてはジョージ・ステイナーの『トルストイかドストエフスキーか』で述べられていた。なんとドストエフスキーはシェイクスピア的な作風の持ち主なのだ。特に『カラマーゾフの兄弟』は『リア王』的な悲劇で、そのシナリオだけでなく表現技法そのものがシェイクスピア的なのだそう。
そう考えるとローマカトリックが嫌いなドストエフスキーではあるが、その本山サンピエトロ大聖堂やローマのベルニーニの舞台芸術に心奪われずにいられるだろうかという興味が浮かんできたのであった。
このことについてはドストエフスキーの1863年9月18日ストラーホフ宛ての書簡が遺されている。彼は長い手紙の後に、追伸という形でローマについて言及している。
妙でしょう、ローマから手紙をだしているのに、ローマのことが一言もないのですからね。しかし、いったいなにを書ことができましょう?ああ!はたしてこれが手紙に書けるでしょうか?一昨日の夜到着して、昨日は午前中に聖ペトロを見物しました。ニコライ・ニコラエヴィチ、背筋に寒けを感じるほど強烈な印象でした。今日はForumとその廃墟を残らず見物しました。それから大劇場!いやはや、貴兄に何をいうことがありましょう……
河出書房新社、米川正夫訳『ドストエフスキー全集16』P442
たったこれだけだ。
1862年の旅行記『冬に記す夏の印象』であれだけ饒舌だったドストエフスキーが、あのローマについてたったこれしか述べないのである。これは逆に不思議だ。
これは完全に私の想像なのだが、ローマカトリックに対する嫌悪感とベルニーニの演劇的芸術の魔力の恐るべき葛藤がドストエフスキーの中に生まれていたのではないだろうか。
おそらく上の言葉からしても、ローマの魅力にドストエフスキーはあっという間に魅了されてしまったことだろう。だが冷静になって考えるとその裏側も考えてしまう・・・『カラマーゾフの兄弟』であれだけカトリック批判をやってのけたドストエフスキーだ。しかも自身が演劇的手法を用いる作家なのだから、ベルニーニの意図するところも見抜いていたことだろう。
そうなってくると「そう簡単には魅了され続けはせんぞ」という思いが浮かんできてもおかしくないかもしれない。
あるいはスースロワとうまくいっていないことから最悪の精神状態に落ち込み、そんな状況では最初の感動はどこへやら・・・といったことになっていたのかもしれない。
これらはあくまで私の想像ではあるが、ドストエフスキーがローマにも来ていたというのは非常に大きな意味があるのではないだろうか。
というわけで私はベルニーニの街ローマに強い関心を持ったのであった。
この『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』ではまず石鍋真澄著『サン・ピエトロが立つかぎり』に沿ってローマをご紹介していきたい。
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この本は最高です!
ローマの魅力を堪能するのにこれほど優れた作品は存在しないのではないでしょうか!それほど素晴らしい作品です。
「本書によってローマの魅力を会得した読者は、熱い旅心を呼び覚まされるにちがいない。」
まさにこれです!この本を読むとものすごくローマに行きたくなります!
この記事の中でもお話ししたが、この本は最高のローマ案内だ。ローマの魅力を知るのにこの本に勝る本はないのではないだろうか。それほど私はこの本に心酔している。今回の旅でも唯一「紙の本」として持参したのがこの本だ。現地でもこの本を何度も読み返しながらローマを散策した。
そして古代ローマ、キリスト教ローマを見た後にいよいよメインのベルニーニへと突入していく。ベルニーニの生涯に沿ってその作品を順次見ていき、その上でドストエフスキーと芸術都市ローマについて改めて考えていきたい。
私もローマの魅力にすっかりとりつかれた一人だ。この旅行記ではローマの素晴らしき芸術たちの魅力を余すことなくご紹介していきたい。
「ドストエフスキーとローマ」と言うと固く感じられるかもしれないが全くそんなことはないのでご安心頂きたい。これはローマの美しさに惚れ込んでしまった私のローマへの愛を込めた旅行記だ。気軽に読んで頂ければ幸いである。
続く
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サン・ピエトロが立つかぎり: 私のローマ案内
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