MENU

【ローマ旅行記】『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ローマの魅力を紹介!

目次

上田隆弘『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ローマの魅力に迫る!

前回までの記事で私の旅行記『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』は完結した。

あわせて読みたい
「ドストエフスキーの旅」を終えた私の思いと今後のブログ更新について~当ブログを訪れた皆さんへのメ... 私はドストエフスキーが好きです。ですが、何よりも「アンナ夫人といるドストエフスキー」が好きです。 そんな二人の旅路が少しでも多くの人の目に触れるきっかけとなったらこんなに嬉しいことはありません。 この後、当ブログではローマについての記事を更新していきますが、私個人としてはこれから仏教の研究に突入していきます。いよいよ私は本丸に帰ってきました。インド、アジア、中国、日本とこれから仏教が伝えられてきたルートに沿ってその歴史と思想、文化を学んでいきます。そしてその最終目的は親鸞聖人の伝記小説を書くことにあります。私の研究もいよいよ新たな局面を迎えます。4年近くにわたった「親鸞とドストエフスキー」の研究に一片の悔いもありません。

私は11月初旬から12月まで「ドストエフスキーの旅」と題してヨーロッパを旅した。そして上の旅行記の中ではお話ししなかったが実は私はこの日程の中でローマも訪れていたのである。

ローマは2019年の世界一周の時にも訪れていたがその時はバチカンしか見ることができなかった。今回は古代ローマや芸術の都としての顔を見るために私は再びローマを訪れた。

この記事からはそんな私のローマ滞在記を『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』と題してお届けしていきたい。

さて、タイトルにもあるように私が「ローマとドストエフスキー、ベルニーニ」というテーマに関心を持つようになったのは次のような理由がある。

ドストエフスキーは1863年にスースロワという女性と西欧旅行の旅に出掛けた。(「(1)妻アンナ夫人と出会うまでのドストエフスキー(1821~1866年「誕生から『罪と罰』頃まで)をざっくりとご紹介」参照)

1867年のスースロワ Wikipediaより

アポリナーリヤ・スースロワはドストエフスキーの恋人として知られる女性だ。しかもただの恋人ではない。後に書かれるドストエフスキーの作品『賭博者』の主要人物ポリーナのモデルともなった強烈な個性を持った人物である。

ドストエフスキーはこの女性に熱烈に恋し、まさに自分の小説の登場人物のように煩悶し苦しんだ。

この旅で二人はパリ→バーデン・バーデン→ジュネーブ→トリノ→ジェノア→リヴォルノ→ローマ→ナポリ→リヴォルノ→トリノ→ベルリンを巡った。

ドストエフスキーはこの旅の中でローマに立ち寄り、サンピエトロ大聖堂やコロッセオを見物している。

私はドストエフスキーがこれらローマの象徴についてどう思うか非常に興味があったのだ。

と言うのも、ドストエフスキーは作品や書簡においてローマカトリックを強く批判していたという事実がある。だがバチカンはミケランジェロやベルニーニといった天才たちによって作られた最高の芸術都市だ。しかもベルニーニはローマを劇場的な芸術の街へと変貌させた超一流の天才。ベルニーニについては当ブログでもこれまで紹介してきた。

あわせて読みたい
ミケランジェロとベルニーニが設計したサン・ピエトロ大聖堂の美の秘密を解説 イタリア・バチカン編⑥ この記事ではサン・ピエトロ大聖堂の建築とミケランジェロ、ベルニーニという二人の天才についてお話ししていきます。 ミケランジェロが建築家としてサンピエトロ大聖堂を設計していたという驚きの事実や、それを引き継いだベルニーニがいかに人々を魅了する芸術を生み出していったかを紹介していきます。皆さんもきっと彼らの天才ぶりに驚くと思います。
あわせて読みたい
石鍋真澄『ベルニーニ バロック美術の巨星』あらすじと感想~ローマの天才のおすすめ伝記!これを読めば... 芸術とはそもそも何なのか。なぜ私たちはローマに惹き付けられるのか。 その鍵がベルニーニにある。 ベルニーニを知れば新たに見えてくるものがあるということを強烈に感じた1冊でした。 素晴らしい名著です!
ベルニーニ(1598-1680)Wikipediaより

ベルニーニは劇場的、演劇的効果を極めた芸術家だ。彼の建築や彫像には観る者を魅了する圧倒的な表現力がある。それに対しドストエフスキーも実は演劇的効果を極めた作家として知られている。このことについてはジョージ・ステイナーの『トルストイかドストエフスキーか』で述べられていた。なんとドストエフスキーはシェイクスピア的な作風の持ち主なのだ。特に『カラマーゾフの兄弟』『リア王』的な悲劇で、そのシナリオだけでなく表現技法そのものがシェイクスピア的なのだそう。

そう考えるとローマカトリックが嫌いなドストエフスキーではあるが、その本山サンピエトロ大聖堂やローマのベルニーニの舞台芸術に心奪われずにいられるだろうかという興味が浮かんできたのであった。

このことについてはドストエフスキーの1863年9月18日ストラーホフ宛ての書簡が遺されている。彼は長い手紙の後に、追伸という形でローマについて言及している。

妙でしょう、ローマ、、、から手紙をだしているのに、ローマのことが一言もないのですからね。しかし、いったいなにを書ことができましょう?ああ!はたしてこれが手紙に書けるでしょうか?一昨日の夜到着して、昨日は午前中に聖ペトロを見物しました。ニコライ・ニコラエヴィチ、背筋に寒けを感じるほど強烈な印象でした。今日はForumとその廃墟を残らず見物しました。それから大劇場コロセウム!いやはや、貴兄に何をいうことがありましょう……

河出書房新社、米川正夫訳『ドストエフスキー全集16』P442

たったこれだけだ。

1862年の旅行記『冬に記す夏の印象』であれだけ饒舌だったドストエフスキーが、あのローマについてたったこれしか述べないのである。これは逆に不思議だ。

これは完全に私の想像なのだが、ローマカトリックに対する嫌悪感とベルニーニの演劇的芸術の魔力の恐るべき葛藤がドストエフスキーの中に生まれていたのではないだろうか。

おそらく上の言葉からしても、ローマの魅力にドストエフスキーはあっという間に魅了されてしまったことだろう。だが冷静になって考えるとその裏側も考えてしまう・・・『カラマーゾフの兄弟』であれだけカトリック批判をやってのけたドストエフスキーだ。しかも自身が演劇的手法を用いる作家なのだから、ベルニーニの意図するところも見抜いていたことだろう。

そうなってくると「そう簡単には魅了され続けはせんぞ」という思いが浮かんできてもおかしくないかもしれない。

あるいはスースロワとうまくいっていないことから最悪の精神状態に落ち込み、そんな状況では最初の感動はどこへやら・・・といったことになっていたのかもしれない。

これらはあくまで私の想像ではあるが、ドストエフスキーがローマにも来ていたというのは非常に大きな意味があるのではないだろうか。

というわけで私はベルニーニの街ローマに強い関心を持ったのであった。

この『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』ではまず石鍋真澄著『サン・ピエトロが立つかぎり』に沿ってローマをご紹介していきたい。

あわせて読みたい
石鍋真澄『サンピエトロが立つかぎり 私のローマ案内』あらすじと感想~美術、歴史、宗教、全てを網羅し... この本は最高です! ローマの魅力を堪能するのにこれほど優れた作品は存在しないのではないでしょうか!それほど素晴らしい作品です。 「本書によってローマの魅力を会得した読者は、熱い旅心を呼び覚まされるにちがいない。」 まさにこれです!この本を読むとものすごくローマに行きたくなります!

この記事の中でもお話ししたが、この本は最高のローマ案内だ。ローマの魅力を知るのにこの本に勝る本はないのではないだろうか。それほど私はこの本に心酔している。今回の旅でも唯一「紙の本」として持参したのがこの本だ。現地でもこの本を何度も読み返しながらローマを散策した。

そして古代ローマ、キリスト教ローマを見た後にいよいよメインのベルニーニへと突入していく。ベルニーニの生涯に沿ってその作品を順次見ていき、その上でドストエフスキーと芸術都市ローマについて改めて考えていきたい。

私もローマの魅力にすっかりとりつかれた一人だ。この旅行記ではローマの素晴らしき芸術たちの魅力を余すことなくご紹介していきたい。

「ドストエフスキーとローマ」と言うと固く感じられるかもしれないが全くそんなことはないのでご安心頂きたい。これはローマの美しさに惚れ込んでしまった私のローマへの愛を込めた旅行記だ。気軽に読んで頂ければ幸いである。

続く

Amazon商品ページはこちら↓

サン・ピエトロが立つかぎり: 私のローマ案内

サン・ピエトロが立つかぎり: 私のローマ案内

ベルニーニ: バロック美術の巨星 (歴史文化セレクション)

ベルニーニ: バロック美術の巨星 (歴史文化セレクション)

※【ローマ旅行記】の記事一覧はこちらのカテゴリーページ

※ローマやイタリアを知るためのおすすめ書籍はこちらのカテゴリーページへどうぞ
「ローマ帝国の興亡とバチカン、ローマカトリック」
「イタリアルネサンスと知の革命」

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(1)ローマの玄関ポポロ門とポポロ広場~一瞬で旅行者を引き込む目の一撃!劇場都市ローマの真骨頂とは! 私のローマ旅行記の記念すべき第一回目はローマの玄関口ポポロ門とポポロ広場です。 ゲーテやスタンダールもここを通りました。私が好きなドストエフスキーもメンデルゾーンもここを通ったことでしょう。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
「ドストエフスキーの旅」を終えた私の思いと今後のブログ更新について~当ブログを訪れた皆さんへのメ... 私はドストエフスキーが好きです。ですが、何よりも「アンナ夫人といるドストエフスキー」が好きです。 そんな二人の旅路が少しでも多くの人の目に触れるきっかけとなったらこんなに嬉しいことはありません。 この後、当ブログではローマについての記事を更新していきますが、私個人としてはこれから仏教の研究に突入していきます。いよいよ私は本丸に帰ってきました。インド、アジア、中国、日本とこれから仏教が伝えられてきたルートに沿ってその歴史と思想、文化を学んでいきます。そしてその最終目的は親鸞聖人の伝記小説を書くことにあります。私の研究もいよいよ新たな局面を迎えます。4年近くにわたった「親鸞とドストエフスキー」の研究に一片の悔いもありません。

関連記事

あわせて読みたい
(14)ローマバロック芸術の王ベルニーニとは!ローマの美の鍵はこの男にあり!この旅行記の主役をいよ... 芸術とはそもそも何なのか。なぜ私はこんなにもローマに惹き付けられるのか。その鍵がベルニーニにある。そしてそれを確かめんがために私はローマでベルニーニ詣でを決行したのでありました。 ベルニーニについて知ればもっともっとローマが楽しくなるのは間違いありません。現に私は今回のローマが楽しくて楽しくてなりませんでした。ローマはこんなにも奥深い所だったのかと驚嘆せずにはいられませんでした。
あわせて読みたい
藤澤房俊『「イタリア」誕生の物語』あらすじと感想~ドストエフスキーがなぜ妻とローマに行かなかった... この本のおかげでドストエフスキー夫妻が避けたローマ周辺の政治状況を知ることができました。私にとって非常にありがたい1冊でした。 イタリアという国について知る上でもこの本は非常に興味深い内容が満載でした。ぜひおすすめしたい作品です。
あわせて読みたい
星野立子『シェイクスピアとロシアの作家・演劇人たち』あらすじと感想~ドストエフスキーやトルストイ... この本はタイトル通り、シェイクスピアとロシアの作家・演劇人たちとのつながりについて書かれた作品です。 ドストエフスキー、トルストイ、チェーホフと、ロシア文学を考える上で絶対に避けることのできない重鎮たちとシェイクスピアのつながりをじっくり見ていけるこの本はとても貴重です。
あわせて読みたい
G・ステイナー『トルストイかドストエフスキーか』あらすじと感想~ロシアの二大文豪の特徴をわかりやす... 「トルストイかドストエフスキーか」。両方はありえない。 このことはこれまでトルストイ作品を読んできて強く感じたことでしたがこの作品はそのメカニズムを見事に解明してくれる名著です。
あわせて読みたい
ローマカトリック総本山バチカン市国へ 世界一周記イタリア・バチカン編一覧 僧侶が訪ねた美の殿堂―ローマカトリック総本山バチカン市国 僧侶上田隆弘の世界一周記イタリア・バチカン編一覧 クロアチアの美しき港街ドブロブニクを堪能した後はい...
あわせて読みたい
石鍋真澄『サン・ピエトロ大聖堂』あらすじと感想~美の殿堂の歴史とその魅力をもっと知るためにおすす... サン・ピエトロ大聖堂はその歴史を知らずとも圧倒される驚異の建築です。 ですがその歴史や観るべきポイントを知ることでその魅力をもっと味わうことができます。 ものすごく面白い作品です。ぜひおすすめしたい一冊です。
あわせて読みたい
高階秀爾『バロックの光と闇』あらすじと感想~ベルニーニの魅力やバロック芸術とは何なのかを時代背景... この本ではダ・ヴィンチやミケランジェロ、ラファエロなどのルネッサンス全盛期の芸術とバロックは何が違うのか、どのようにしてバロックの技術が生まれてきたのかということがわかりやすく説かれます。 バロック芸術そのものだけではなく、その時代背景まで知れるこの作品はぜひぜひおすすめしたい逸品です。
あわせて読みたい
エドワード・ギボン『ローマ帝国衰亡史』あらすじと感想~ローマはなぜ滅びたのかを考察!偉人達も愛し... あれほどの繁栄を誇ったローマ帝国がなぜ崩壊していったのか。 繁栄を謳歌するローマ帝国内で何が起こっていたのか。 それらを考えるのにこの作品はうってつけです。 そして歴史の流れを追いながら現代にも通ずる教訓がこの本では語られます。これが深いのなんの・・・!
あわせて読みたい
石鍋真澄『教皇たちのローマ』あらすじと感想~15~17世紀のローマ美術とバチカンの時代背景がつながる... 私はこの本に衝撃を受けました。それは私の中にあった常識が覆されたかのような凄まじいショックでした。 この本ではそんな衝撃のローマ史が語られます
あわせて読みたい
G・ブアジンスキ『クラクフからローマへ』あらすじと感想~教皇ヨハネ・パウロ2世のおすすめ伝記 世界中から圧倒的な支持を受けていたローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(1920-2005)。この作品はそんなヨハネ・パウロ2世がポーランドで生まれ、そこからローマ教皇となるまでの人生をまとめた伝記です。冷戦を学ぶ上で知ることになったヨハネ・パウロ2世でしたが私の中でとてつもないインパクトを受けることになりました。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次