石川陽平『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』~プーチン大統領はいかにしてオリガルヒと戦ったのか。今後の展開は

現代ロシアとロシア・ウクライナ戦争

石川陽平『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』概要と感想~プーチン大統領はいかにしてオリガルヒと戦ったのか。今後の展開は

今回ご紹介するのは2016年に日本経済新聞出版社より発行された石川陽平著『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』です。

早速この本について見ていきましょう。

「オリガルヒ」と呼ばれる新興財閥と激しい権力闘争を繰り広げ、石油・天然ガスなど国家的利権を支配したプーチン「帝国」。肥大化した国家部門によって民間の活力が削がれ、天然資源に深く依存したまま構造改革や技術革新の進展が遅れた経済は、崩壊の危機に直面している。2015年まで10年にわたってモスクワ支局でプーチン政権を追ってきた日経記者が、ユーコス事件など新興財閥を標的にした3つの不可解な事件を通じて、15年に及ぶ不毛な戦いの末、衰退へと向かい始めた「帝国」の本質に迫る。

著者について
石川 陽平

1992年早稲田大学大学院修士課程を修了、同年日本経済新聞社に入社、経済部、国際部、モスクワ支局、消費産業部、モスクワ支局長を経て2015年よりヴェリタス編集部次長。その間、モスクワ国立国際関係大留学。日経で最もロシアに精通した記者として評価されている。

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この本では2000年にロシア大統領となったプーチン大統領がいかにして権力を強化していったかが語られます。

特にこれまで当ブログでも見てきましたオリガルヒ(新興財閥)に対し、プーチン大統領がかなり強引な方法でその力を削いでいこうとしていたのがよくわかります。(オリガルヒについて知るためにはM・I・ゴールドマン著『強奪されたロシア経済』やJ・モンタギュー著『億万長者サッカークラブ』がおすすめです)

この本のまえがきでは次のように述べられています。少し長くなりますがこの本についてわかりやすくまとめられていますのでじっくり見ていきます。

ウラジミル・プーチン大統領が就任した2000年を境に、ロシア経済の主導権は「オリガルヒ」と呼ばれる一部の寡占資本家が率いる新興財閥からプーチン政権に移っていった。「略奪資本主義」(投資家ジョージ・ソロス氏)ともいわれた混乱の時代がようやく終わったかに見えたが、代わって姿を現したのは、資本主義を基盤にしながらも政権が経済活動を管理、支配する「国家資本主義」だった。

プーチン政権が国富の源である石油産業から新興財閥を退出させ、国営や政府系企業、政権に近いビジネスマンが世界で最も豊富な天然資源を手に入れた。主役交代の波は資源産業を超えて、銀行や軍需、鉄道など幅広い分野に及び、プーチン大統領の旧友や側近が主要な企業のトップを占めた。

1990年代後半のエリツィン政権下で政治的影響力を誇り、「クレムリンのゴッドファーザー」とも呼ばれたオリガルヒの巨魁、ボリス・べレゾフスキー氏は1996年、英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、自分も含めた7人の銀行家がロシア経済の半分を支配していると豪語した。だが、いまやプーチン政権がロシア経済の大半を管理する特異な経済状況が生まれてしまった。

欧米諸国や日本は市場化された自由主義経済を重視するが、ロシアの国民にとって1990年代の社会主義から市場経済への急激な転換はあまりに過酷だった。生産は急減し、生活水準が急速に低下、貧困が広がった。

混乱の中で、石油企業など国家資産の不正な民営化によりオリガルヒが台頭し、陰でエリツィン政権を動かすようになった。新興財閥の暗躍をまのあたりにしてきたロシアの庶民にとって、プーチン政権が確立した「国家資本主義」は好ましくさえ映る。

帝政ロシアからソ連まで中央集権体制が続いたロシアでは、強権的な手法を用いてでも政治的、経済的秩序を回復できる権威主義的な政権が評価される傾向が強い。「国家資本主義」も欧米からみれば異質なものであっても、保守的な国民が多い現在のロシアには適しているのかもしれない。

だが、15年を超えた「プーチン体制」で、ロシア経済の停滞は深刻になっている。民間企業の育成が遅れ、イノべーション(技術革新)や生産、経営の効率化がなかなか進まなくなった。天然資源への依存は強まり、財政は硬直化した。グローバル化した世界で、プーチン政権が管理、支配するロシアの経済システムは孤立しかねず、資本が海外に逃避する。社会と政治も、権威主義的な色を強めたプーチン政権の下で民主化が滞った。欧米諸国と対立する場面も増え、武力を背景にクリミア半島を編入したウクライナ問題をめぐって経済制裁を受けた。

こうした経済と国内政治、外交の複合的要因が、2015年に国内総生産(GDP)が前年比、3.7%減(速報値)となる経済危機をもたらした。プーチン政権が抱える問題の多く、特に資源依存は、これまで15年に及ぶオリガルヒとの戦いの過程で生まれ、深刻になった。ソ連から新生ロシアへの移行と同じく、オリガルヒ経済から国家資本主義への転換も大きな副作用を伴ってしまった。

日本経済新聞モスクワ支局に2000年から04年、2010年から15年の2度赴任した。そこで身近に取材する機会を得た、石油大手ユーコスの社長逮捕などプーチン政権とオリガルヒとの戦いを象徴する3つの経済事件を追いながら、「プーチン帝国」の衰退の深層を探った。

日本経済新聞出版社、石川陽平、『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』Pⅰ~ⅲ

ソ連崩壊後の混乱を経て台頭してきたオリガルヒ。

これまで見てきた本でもありましたように、ロシア国民は彼らの横暴に怒りを募らせていました。

そしてそんなオリガルヒと戦うプーチン大統領という構図。これが国民の支持を得た大きな要因の一つでした。

しかし、その実態はどのようなものだったのか、その副作用は何だったのかということがこの本では語られます。

クリミア併合や今回のウクライナ侵攻にも繋がっていくプーチン大統領とオリガルヒの関係を知るのにとてもおすすめな作品です。

以上、「石川陽平『帝国自滅 プーチンVS新興財閥』プーチン大統領はいかにしてオリガルヒと戦ったのか。今後の展開は」でした。

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