カミュ『異邦人』あらすじと感想ー村上春樹ファンにもおすすめ

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カミュ『異邦人』あらすじと感想ーカミュらしさとは何なのかを考える

今回ご紹介するのは1942年にフランス人作家カミュ(1913-60)によって発表された『異邦人』という作品です。私が読んだのは新潮社版の久保田啓作訳の『異邦人』です。

私がカミュを読もうと思ったのは以前当ブログでも紹介したトニー・ジャッドの『ヨーロッパ戦後史』で言及されていたからでした。第二次世界大戦、そして戦後ヨーロッパの空気を知るのにカミュの作品は非常に大きな位置を占めているということがそこで書かれていました。というわけでカミュの代表作である『異邦人』と『ペスト』を読んでいくことにしたのでした。

では、早速この本のあらすじを見ていきます。

母の死の翌日海水浴に行き、女と関係を結び、映画をみて笑いころげ、友人の女出入りに関係して人を殺害し、動機について「太陽のせい」と答える。判決は死刑であったが、自分は幸福であると確信し、処刑の日に大勢の見物人が憎悪の叫びをあげて迎えてくれることだけを望む。通常の論理的な一貫性が失われている男ムルソーを主人公に、不条理の認識を極度に追求したカミュの代表作。

新潮社、カミュ、窪田啓作訳『異邦人』裏表紙

「不条理の認識を極度に追求した」とここで述べられるように、このあらすじを見ても正直この作品の中身があまりはっきりしませんよね。

なかなか掴みどころのない作品ではありますが、巻末の解説を見ていきます。

『異邦人』は、フランスの旧植民地アルジェリア生まれの、中央文壇とはなんの関係もなかったひとりの文学青年を、一躍文壇の寵児にしたすぐれた小説である。この一作によってカミュは、短いが、まことに栄光に満ちた文学的生涯にむけて出発した。

彼の発表した小説のうち、あるいは『ぺスト』を、あるいは『転落』を最上とする批評家がいるにちがいないが、『異邦人』は、あらゆる処女作がそうであるように、作者の内的音楽を最もあからさまに伝え、カミュ的問題の根本を私たちに示している。

したがって、文学に対してほとんど正反対ともいえる考え方を抱懐するふたりの文学者、一方はいわゆるアンチ・ロマンの作家アラン・ロブグリエと、マルキシズムを批評方法の根底に据える評論家リュシアン・ゴールドマンとが、そろって『異邦人』をサルトルの『嘔吐』とともに、ここ二、三十年間のフランス小説史上の傑作であると見なしているのは、理由のないことではない。

ムルソーはロカンタンと同様、作者が非常な愛着をもって造形した人物であるが、そればかりではなく、一九三〇年代の青年たちの歓びや苦しみを一身に具現している典型的人物なのだ。いやそれ以上のものさえある。彼らの悲劇性は、二十世紀ヨーロッパの暗さの反映でもあるが、同時に、人間とはなにかという根源的な問いかけに発したもので、それ故に、国がちがい、環境がちがうわれわれに対しても強く訴えかけるカを持つのである。

新潮社、カミュ、窪田啓作訳『異邦人』P158-159

『異邦人』はカミュの処女作であり、カミュらしさが最も出ている作品とも言うことができます。

さて、この小説ですがあらすじにもありますようにムルソーという男が主人公の物語です。

彼は一見普通の人間ですが、どこか冷めたところがあります。かと言って感情がないというわけではありません。

人並みに悲しみ、人並みに人を好きになる感性もあります。

彼は彼なりの「ふつう」を生きています。ですがその「ふつう」が他の人とは何かずれているのです。

ムルソーは強い意志や信念があって人と違うことを思ったり、行動しているのではありません。彼は彼なりに他の人と同じように生きているはずなのです。ですが何かが違う。他の人には理解されない何かがある。そしてそのことを自覚もしているのです。

そんなムルソーなのですが不思議なことに異様にモテます。(不思議ではないのかもしれませんが)

あらすじにもありましたように、母の死の後、すぐにある女性といい仲になります。これといって彼が特別なことをしたわけではありません。彼女が彼に首ったけなのです。

彼女は彼との結婚を強く望みます。しかしムルソーは「君を愛してはいるけど結婚はしたくない」と勝手なことを言いながら関係を続けます。彼は彼なりの「ふつう」を続けようとするのです。

自分は他人とは何かがずれている。でもそんなの仕方がないと妙に冷めた目で世界を見る男。そしてなぜか異様に女にモテるきざな男・・・

・・・あれ?これはどこかで見たことあるような・・・

・・・あ!村上春樹だ!村上春樹の小説に出てくるタイプの男だ!

村上春樹の小説を読んだことがある人ならきっと思い当たる節があると思います。

思わぬところで共通点を感じました。

解説に「ムルソーはロカンタンと同様、作者が非常な愛着をもって造形した人物であるが、そればかりではなく、一九三〇年代の青年たちの歓びや苦しみを一身に具現している典型的人物なのだ。いやそれ以上のものさえある。彼らの悲劇性は、二十世紀ヨーロッパの暗さの反映でもあるが、同時に、人間とはなにかという根源的な問いかけに発したもので、それ故に、国がちがい、環境がちがうわれわれに対しても強く訴えかけるカを持つのである。」とありましたように、こうした人間像は私達の根源に関わる問題なのかもしれません。

村上春樹が直接的にカミュの『異邦人』を参考にしたかはわかりません。

ですがこの『異邦人』を読んで私は村上春樹を連想してしまったのでした。

この本の内容に関してはあまりお話しできませんでしたが、私の感想としてこれが一番印象に残っています。文庫本で150ページ少々という読みやすい分量となっていますのでぜひ手に取って頂きたいなと思います。村上春樹ファンの方には特におすすめかもしれません。

以上、「カミュ『異邦人』あらすじと感想ー村上春樹ファンにもおすすめ」でした。

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