目次
はじめに
エミール・ゾラ(1840-1902) Wikipediaより
前回の記事「エミール・ゾラの小説スタイル・自然主義文学とは―ゾラの何がすごいのかを考える」ではゾラの小説スタイル、自然主義文学やゾラの魅力についてお話ししました。
そしてここまでゾラについて色々とお話ししてきましたが、皆さんの中にはゾラという作家を今まで知らなかったという方も多いかもしれません。
私も名前だけ聞いたことがあるくらいで、作品のことはほとんど何も知りませんでした。ドストエフスキーからフランスの歴史や文化を学んだ過程でようやくゾラのことを知ったくらいで、もしフランスのことを学んでいなかったらずっと知らないままだったかもしれません。
日本ではゾラは知名度がかなり低い作家のようです。
ですが、フランスにおいては国を代表する偉人として今でも非常に人気のある作家だそうです。
実際、このブログでもこれまで作品を紹介してきましたように、その作品はどれも超一級の作品です。
あれほどの作品を大量に生み出したゾラはやはり超一流です。
日本にいるとその偉大さは伝わりにくいですが、ちょうど私が読んだ『獣人』藤原書店、寺田幸德訳の訳者解説にフランスでのゾラ作品の発行部数が載っていたので、今回はその数字を参考にいかにゾラがフランスで人気だったのかを見ていきたいと思います。
発行部数からみるゾラの人気ぶり
早速寺田光德氏の解説を見ていきましょう。
『獣人』が単行本として発行されたとき、販売価格は一冊当たり三フラン五十で、初版として六万部印刷された。
価格については一フラン当たり千円として現在の値段に換算すれば三千五百円ということになる。また当時の書籍の出版部数は平均して千五百部から三千部ということなので、印刷部数は初版刊行時から人気作家ゾラの評判を当て込んだ破格の扱いということになる。
しかも『獣人』はその予測をもいい意味で裏切って、十一か月後の一八九一年二月にはそれまでに発行した八万三千部に加えてはやくも第四刷を五千五百部印刷している。
十年後の一九〇〇年には総発行部数九万九干部に加えてふたたび五干五百部の増刷を行った。一九〇三年から出版社はシャルパンチェからファスケルに代わるが、初版刊行から三八年を経過した一九二八年には刊行総部数は十四万五千部にのぼっている。
※適宜改行しました
藤原書店出版 寺田光德訳『獣人』P512
当時の平均部数が1500~3000部に対し、ゾラは初版でいきなり6万部。
しかもすぐに売り切れて増刷。
さらにさらに刊行から38年後の1928年には14万5千部にまで伸びています。
これだけでもゾラが他の作家と比べてずば抜けて売れている作家であることが明らかだと思います。
ちなみにゾラ作品の売れ行きベスト3をランキング順に見ていくと以下のようになります。
第1位、『ナナ』(1880)27万8千部
第2位、『壊滅』(1892)26万5千部
第3位、『居酒屋』(1877)21万2千部
平均部数1500~3000部という、本の流通量が現代よりもはるかに少ない時代においてこれだけの売れ行きをコンスタントに出し続けるというのは尋常ではありません。
さらにもう一つ、ゾラの売り上げの指標になるデータが残っています。
ゾラは1902年に亡くなったのでその50年後の1952年から著作権がなくなり、誰でも彼の作品を自由に出版できるようになりました。
そのため多くの出版社から彼の作品が出版されることになりましたが、残念ながらその全体の出版部数を網羅した統計は存在していません。
ですがリーヴル・ド・ポッシュという出版社の文庫版においてはその統計が残されていました。そこには1953年から1993年までの40年間の売り上げ統計があります。訳者の寺田光德氏はこの統計を参考にしています。
リーヴル・ド・ポッシュ版の文庫本の売れ行きをランキング順に見ていきましょう。
第1位、『ジェルミナール』(1885)320万部
第2位、『居酒屋』(1877)228万部
第3位、『獣人』(1890)130万部
第4位『ボヌール・デ・ダム百貨店』(1883)127万4千部
第5位『ムーレ神父のあやまち』(1875)115万部
第6位『ナナ』(1880)114万5千部
なんと、叢書20巻中、6冊も100万部超えのミリオンセラーとなっており、第1位『ジェルミナール』においてはトリプルミリオン達成です。
そして、さらに注目したいのはこれはあくまでひとつの会社の文庫版における売れ行きであるということです。
ゾラ作品は他の会社でも出版されており、さらに文庫版だけでなく様々なバージョンでも売られていることから、実際にフランスで売れたゾラ作品はこれらの数字をはるかに上回ることになるでしょう。
ゾラがいかにフランスで人気のある作家であるか、数字を見てみると非常にイメージしやすいのではないでしょうか。
日本ではあまり知名度が高くない作家でありますが、ゾラは世界的に見ればやはり超一級の文豪であります。
ですが、それにしても、なぜ日本ではこれほど知名度が低いのでしょうか。
ドストエフスキーやトルストイ、ユゴ―、ディケンズ、ヘミングウェイなど、日本で親しまれている世界の文豪が数多くいる中で、異様なほど影の薄いゾラ・・・
いったいこれはなぜなのでしょうか。
次の記事ではなぜゾラが日本で不人気なのか。また、逆になぜドストエフスキーが異常なほど人気になったのかを考えてみたいと思います。
以上、「ゾラはどれほどすごい作家だったのか―フランスでの発行部数から見るゾラの人気ぶり」でした。
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