MENU

ゾラ『パリの胃袋』あらすじと感想~まるで仏教書!全てを貪り食うパリの飽くなき欲望!食欲は罪か、それとも…

パリの胃袋
目次

「ルーゴン・マッカール叢書」第3巻『パリの胃袋』の概要とあらすじ

エミール・ゾラ(1840-1902) Wikipediaより

『パリの胃袋』はエミール・ゾラが24年かけて完成させた「ルーゴン・マッカール叢書」の第3巻目にあたり、1873年に出版されました。

私が読んだのは藤原書店出版の朝比奈弘治訳の『パリの胃袋』です。直訳では『パリの腹』となるそうですが、訳者が日本語の語感とこれまでの慣習に則って『パリの胃袋』と訳したそうです。

では、早速あらすじをこの本の帯から見ていきましょう。

舞台は食の殿堂パリの中央市場。ガラスと鉄で作られたこの近代建築のなかは、活気あふれる喧騒に満ち、肉、魚、野菜、果物、チーズと、いたるところ食物の山、山、山。

飽食と肥満が美徳のこの世界に、骨と皮ばかりにやせ細ったひとりの若者が入り込む。この男フロランは一八五一年のルイ・ナポレオンのクーデターの折に無実の罪で南米ギアナに流され、苦しみぬいた末に脱走を果たして、ひそかにパリに戻ってきたのだった。

市場で働く人々は、この哀れな男を初めは暖かく迎えるが、やがてうさんくさい異分子の匂いを嗅ぎつけ、彼の行動を監視して隙あらば追い出そうとする。正義と友愛を夢見ているフロランは、安楽な生活を守ろうとする彼らのひそかな敵意に苦しみ、ついには政治的陰謀に加担して第二帝政そのものの転覆をくわだてるのだが、さて、その結末は……。

藤原書店出版 朝比奈弘治訳『パリの胃袋』

今作の主人公は実はルーゴン・マッカール家の人間ではありません。主人公フロランはこの一族と血のつながりはないのです。

しかし彼の弟がマッカール家のリザという女性と結婚していて、その家に居候することになり、ルーゴン・マッカール家とのつながりが初めて生まれるのです。

ルーゴン・マッカール家家系図

リザは家系図では右側のマッカール一族に位置します。

リザは一般的な意味で言う悪者ではありません。いや、むしろまっとうな人間です。ですがそのまっとうさが実際はどんな性質を示しているのか、それがこの小説では問題にされているのです。

訳者解説ではこの点が非常にわかりやすく解説されていますので長くなりますが引用します。

匂いや音と並んでこの小説のなかに一貫して流れているものは、殺された生き物の血や肉や内臓のイメージだろう。

大量の豚が解体され、羊の頭が割られ、ハトの血が抜かれる。食べることには、この血なまぐささが必然的に伴っていることを、中央市場の舞台裏はくっきりと見せてくれる。

鉄とガラスの大建築の下でくり広げられる大食の夢、それは他の生命の肉を食らい、血をすする、動物的で盲目的な食欲の祝祭だ。

ゾラの筆は、近代都市の「美」の下にひそむ、そうした野蛮さ、血なまぐささを描くことによって、フランス第二帝政期の、いや十九世紀ヨーロッパの発展の原動力になった強烈な欲望、とどまるところを知らぬ貪欲を批判的に描き出そうとしているように思われる。

産業革命が完了しつつあったこの第二帝政期は、人間の物質的な欲望が赤裸々に解放された時代だった。宗教や倫理の規範も希薄になり、自分の欲望をどこまでも追求することが良しとされる時代。ゾラはこの小説のなかで、そうした歯止めのない欲求を、「食欲」という身近なかたちで表現しているようだ。

ここでは食べ物と屠殺のイメージを媒介として、生物学的なヴィジョンと資本主義のイメージが連結されている。華やかな近代社会の根底にある、野獣さながらのあからさまな「弱肉強食」の世界。

だがその世界は、強者の力だけで維持されているわけではない。この小説には“ honnête ”という形容詞が頻繁に出てくる。日本語になりにくいことばで、文脈によって「まっとうな」「正直な」「きちんとした」などと訳したが、要するに、悪いことはせず、まじめで律儀で、非難すべき点のない人や暮らしのことだ。

しかしその反面、ゾラが用いるこの形容詞には、自分さえ安楽に暮らせるならそれでよいというエゴイズムも含まれている。たとえば副主人公のリザは、きわめて「まっとうな」生活を送っている正直で善良な女だが、生活の安定を願うあまり外の世界には無関心になり、他人の不幸には目をつぶってしまう。

世間の多数を占めるそうした普通の人々の安楽を求める気持ちが、狭い範囲ではよそ者を排除し、大きく見るならば弱肉強食の社会のシステムを支えることになるのだ。ゾラの目から見れば、彼らも無実ではない。

この「まっとうさ」を目に見えるかたちで示しているのが、「膨れた腹」のイメージである。市場の女たちのでっぷりとした腹から建物や社会に用いられる比喩まで、「腹」はこの小説のなかにあふれている。

それは消化と排泄をつかさどる動物的器官であり、人間の野蛮さの象徴であると同時に、安楽さ、呑気さ、満ち足りた生活といったもののしるしでもある。

「腹」は満腹さえしていればそれで充分で、ほかのことなど気にかけはしない。誕生したばかりの活気ある大衆消費社会の裏側にゾラが見据えていたものは、おそらくこのような膨れた腹たちの勝利の饗宴のありさまだったと思われる。
※一部改行しました

藤原書店出版 朝比奈弘治訳『パリの胃袋』P442-443

感想―ドストエフスキー的見地から

この小説はまさしく私たちの生きる現代とまったく同じ状況を指し示しているのではないでしょうか。

私たちは美味しいものを食べるのが大好きです。そしてできるだけたくさん食べたいという欲求も否定しがたいことでありましょう。

美味しいものを食べることが罪だとは今の人はほとんど思いませんよね。いや、美味しいものを食べることは絶対的な善であるようにすら私たちは感じているのかもしれません。

ですが、私たちはそれが生き物を殺していのちを頂いているということが実感できません。なぜならもはや私たちの大多数が直接手を下していないからです。首を切り、血を流す動物の姿を見ていないのです。これは私たちも色々な場で言われるお話ですよね。

ですが今回の話はそれだけでは終わりません。

ゾラは 今回の作品において 人間のあらゆる欲望を食べ物で象徴しています。私たちは欲望追求が善であるような時代を生きているのです。その時代に順応し秩序を守って安楽に生きることをゾラは「まっとうな」生き方と言うのです。

副主人公リザは「まっとうな」人間の代表です。彼女の言うことは本当にまっとうです。ですがそのまっとうさがゾラの手にかかればどこか虚しさを感じることになるのです。

その中でも印象的だったシーンを取り上げます。

リザは主人公のフロランに感化され反政府活動に肩入れしようとする夫に対して、自分の思いを次のように言いました。

わたしがあなたに不正直な人間になれなんて勧めたことがめる?手形を払わないとか、お客さんを騙すとか、悪いことをしてでも猛烈な勢いでお金を貯めこむとか、そんなことをあなたにさせたりしたことがある?……しまいには怒りますよ!わたしたちはちゃんとした人間よ。略奪だの、暗殺だの、そんなことはけっしてしません。それでたくさんでしょ。ほかの人のことは、どうだっていいわ。(中略)

商売を繁盛させてくれる政府を支持するのは当然でしょ。政府が汚いことをしているとしても、そんなことは知りたくもない。だってわたしは何も悪いことをしてないんだから。ご近所で後ろ指をさされるような心配はけっしてないわ。風車にぶつかって行こうなんて、あんまり馬鹿げている……(中略)

あなたには妻もいれば、子どもたちもいるのよ。何よりもまず家族を守る義務があるでしょう。家族の幸福を壊そうとするなら、それはあなたの罪だわ。鉄砲を撃ちたいと思うのは、火も家もなくて、失う物が何もない人たちだけよ。まさか人に騙される間抜けな男なんかになりたくはないでしよう!だったら家でじっとしてなさい。お馬鹿さんね。よく寝て、よく食べて、お金を稼いで、心にやましいところがないようにすることよ。

藤原書店出版 朝比奈弘治訳『パリの胃袋』P231-233

実にまっとう。まっとうなることこの上なしです。

普通に考えたら最高にいい人です。

ですが、そのまっとうさ、平和な暮らしがどのような犠牲の下成り立っているかをゾラは暴き出すのです。

これはまさしく仏教的な視点なのではないかと私は感嘆しました。

現実をありのままに見る。仏教には、この世はいかなるものかを情を排して徹底的に分析する姿勢が根本にあります。

同じようにゾラは科学的に、客観的な視点によって社会を見通そうとしました。

そして私が今研究しているドストエフスキーは主観的な視点で自らの心の奥底に潜っていきます。

それぞれ時代や方法は違えど、現実をとことんまで掘り下げて見通そうとする姿勢が共通しているなと感じたのでありました。

この小説の最後の言葉は次のような驚くべきセリフで締められています。

まっとうな奴らというのは、なんて悪党なんだ!

藤原書店出版 朝比奈弘治訳『パリの胃袋』P433

恐ろしいセリフですね。ゾラの世の中を見通す力を感じました。

私は『ルーゴン・マッカール叢書』でどの作品が1番好きかと言われたらおそらくこの『パリの胃袋』を挙げるでしょう。それほど見事に人間の欲望を描いています。

ゾラ得意の映画的手法や、匂いなどの五感を刺激する描写、欲望をものや動物を描くことで比喩的に表現する手腕など、すばらしい点を列挙していくときりがないほどです。

文庫化されていないのが不思議なくらいです。ぜひこの本が世の中にもっと広まることを願っています。

以上、「おすすめ!ゾラ『パリの胃袋』全てを貪り食うパリの飽くなき欲望!食欲は罪か、それとも…」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ゾラ・セレクション (第2巻)
ゾラ・セレクション (第2巻)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
ゾラ『プラッサンの征服』あらすじと感想~宗教による洗脳、そして破滅を描いた先駆的作品 この物語は私の中で「ルーゴン・マッカール叢書」中、読んでいて最も辛い作品でした。 宗教者による洗脳がここまで露骨に書かれているのは読んでいて苦しいものがありました。 ですが辛くても目を反らしてはいけない真実がこの作品には描かれていると思います。この時代のヨーロッパにおいて宗教がどのように見られているのか。その大きな手がかりのひとつになったのではないかと私は思います。 とにかく凄まじい作品でした。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ゾラ『獲物の分け前』あらすじと感想~土地投機に熱狂する1850年代パリ。金と権力を求める人間劇! 「金」、「投機熱」、「贅沢」、「色欲」・・・ これでもかと人間の欲望を描き出すゾラ。 金を求める貪欲な人間の姿や男女の欲望を知れる恐るべき作品です。ぜひぜひおすすめしたいです!

関連記事

あわせて読みたい
尾﨑和郎『ゾラ 人と思想73』あらすじと感想~ゾラの生涯や特徴、ドレフュス事件についても知れるおすす... 文学史上、ゾラほど現代社会の仕組みを冷静に描き出した人物はいないのではないかと私は思っています。 この伝記はそんなゾラの生涯と特徴をわかりやすく解説してくれる素晴らしい一冊です。ゾラファンとしてこの本は強く強く推したいです。ゾラファンにとっても大きな意味のある本ですし、ゾラのことを知らない方にもぜひこの本はおすすめしたいです。こんな人がいたんだときっと驚くと思います。そしてゾラの作品を読みたくなることでしょう。
あわせて読みたい
(8)パリのゾラ『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地を一挙紹介~フランス第二帝政のパリが舞台 今回の記事では私が尊敬する作家エミール・ゾラの代表作『ルーゴン・マッカール叢書』ゆかりの地を紹介していきます。 『ルーゴン・マッカール叢書』はとにかく面白いです。そしてこの作品群ほど私たちの生きる現代社会の仕組みを暴き出したものはないのではないかと私は思います。 ぜひエミール・ゾラという天才の傑作を一冊でもいいのでまずは手に取ってみてはいかがでしょうか。そしてその強烈な一撃にぜひショックを受けてみて下さい。
あわせて読みたい
本当にいい本とは何かー時代を経ても生き残る名作が古典になる~愛すべきチェーホフ・ゾラ チェーホフもゾラも百年以上も前の作家です。現代人からすれば古くさくて小難しい古典の範疇に入ってしまうかもしれません。 ですが私は言いたい!古典と言ってしまうから敷居が高くなってしまうのです! 古典だからすごいのではないのです。名作だから古典になったのです。 チェーホフもゾラも、今も通ずる最高の作家です!
あわせて読みたい
フランス人作家エミール・ゾラとドストエフスキー ゾラを知ればドストエフスキーも知れる! フランス第二帝政期は私たちの生活と直結する非常に重要な時代です。 そしてドストエフスキーはそのようなフランスに対して、色々と物申していたのでありました。 となるとやはりこの時代のフランスの社会情勢、思想、文化を知ることはドストエフスキーのことをより深く知るためにも非常に重要であると思いました。 第二帝政期のフランスをさらに深く知るには何を読めばいいだろうか… そう考えていた時に私が出会ったのがフランスの偉大なる作家エミール・ゾラだったのです。
あわせて読みたい
『居酒屋』の衝撃!フランス人作家エミール・ゾラが面白すぎた件について ゾラを知ることはそのままフランス社会を学ぶことになり、結果的にドストエフスキーのヨーロッパ観を知ることになると感じた私は、まずゾラの代表作『居酒屋』を読んでみることにしました。 そしてこの小説を読み始めて私はとてつもない衝撃を受けることになります。
あわせて読みたい
「ルーゴン・マッカール叢書」一覧~代表作『居酒屋』『ナナ』を含むゾラ渾身の作品群 これまで20巻にわたり「ルーゴン・マッカール叢書」をご紹介してきましたが、この記事ではそれらを一覧にし、それぞれの作品がどのような物語かをざっくりとまとめていきます。
あわせて読みたい
僧侶が選ぶ!エミール・ゾラおすすめ作品7選!煩悩満載の刺激的な人間ドラマをあなたに 世の中の仕組みを知るにはゾラの作品は最高の教科書です。 この社会はどうやって成り立っているのか。人間はなぜ争うのか。人間はなぜ欲望に抗えないのか。他人の欲望をうまく利用する人間はどんな手を使うのかなどなど、挙げようと思えばきりがないほど、ゾラはたくさんのことを教えてくれます。 そして何より、とにかく面白い!私はこれまでたくさんの作家の作品を読んできましたが、ゾラはその中でも特におすすめしたい作家です!
あわせて読みたい
19世紀後半のフランス社会と文化を知るならゾラがおすすめ!エミール・ゾラ「ルーゴン・マッカール叢... 前回の記事「エミール・ゾラが想像をはるかに超えて面白かった件について―『居酒屋』の衝撃」ではエミール・ゾラの「ルーゴン・マッカール叢書」なるものがフランス第二帝政のことを学ぶにはもってこいであり、ドストエフスキーを知るためにも大きな意味があるのではないかということをお話ししました。 この記事ではその「ルーゴン・マッカール叢書」とは一体何なのかということをざっくりとお話ししていきます。
あわせて読みたい
木村泰司『印象派という革命』あらすじと感想~ゾラとフランス印象派―セザンヌ、マネ、モネとの関係 前回までの記事では「日本ではなぜゾラはマイナーで、ドストエフスキーは人気なのか」を様々な面から考えてみましたが、今回はちょっと視点を変えてゾラとフランス印象派絵画についてお話ししていきます。 私はゾラに興味を持ったことで印象派絵画に興味を持つことになりました。 それとは逆に、印象派絵画に興味を持っている方がゾラの小説につながっていくということもあるかもしれません。ぜひともおすすめしたい記事です
あわせて読みたい
エミール・ゾラの小説スタイル・自然主義文学とは~ゾラの何がすごいのかを考える ある作家がどのようなグループに属しているのか、どのような傾向を持っているのかということを知るには〇〇主義、~~派という言葉がよく用いられます。 ですが、いかんせんこの言葉自体が難しくて余計ややこしくなるということがあったりはしませんでしょうか。 そんな中、ゾラは自分自身の言葉で自らの小説スタイルである「自然主義文学」を解説しています。それが非常にわかりやすかったのでこの記事ではゾラの言葉を参考にゾラの小説スタイルの特徴を考えていきます。
あわせて読みたい
日本ではなぜゾラはマイナーで、ドストエフスキーは人気なのか―ゾラへの誤解 前回の記事ではフランスでの発行部数からゾラの人気ぶりを見ていきました。 その圧倒的な売れ行きからわかるように、ゾラはフランスを代表する作家です。 ですが日本で親しまれている大作家が数多くいる中で、ゾラは日本では異様なほど影が薄い存在となっています。 なぜゾラはこんなにも知名度が低い作家となってしまったのでしょうか。 今回の記事では日本でゾラがマイナーとなってしまった理由と、それと比較するためにドストエフスキーがなぜ日本で絶大な人気を誇るのかを考えていきたいと思います。
あわせて読みたい
ゾラ『ルーゴン家の誕生』あらすじと感想~衝撃の面白さ!ナポレオン第二帝政の始まりを活写する名作!... この本はゾラの作品中特におすすめしたい名作中の名作です! 読んでいて「あぁ~さすがですゾラ先生!」と 何度心の中で うめいたことか!もう言葉のチョイス、文章のリズム、絶妙な位置で入る五感に働きかける表現、ゾラ節全開の作品です。正直、私は『居酒屋』や『ナナ』よりもこの作品の方が好きです。とても面白かったです。
あわせて読みたい
ゾラの代表作『居酒屋』あらすじと感想~パリの労働者と酒、暴力、貧困、堕落の必然的地獄道。 『居酒屋』は私がゾラにはまるきっかけとなった作品でした。 ゾラの『居酒屋』はフランス文学界にセンセーションを起こし、この作品がきっかけでゾラは作家として確固たる地位を確立するのでありました。 ゾラ入門におすすめの作品です!
あわせて読みたい
ゾラの代表作『ナナ』あらすじと感想~舞台女優の華やかな世界の裏側と上流階級の実態を暴露! ゾラの代表作『ナナ』。フランス帝政の腐敗ぶり、当時の演劇界やメディア業界の舞台裏、娼婦たちの生活など華やかで淫蕩に満ちた世界をゾラはこの小説で描いています。 欲望を「食べ物」に絶妙に象徴して描いた作品が『パリの胃袋』であるとするならば、『ナナ』はど直球で性的な欲望を描いた作品と言うことができるでしょう。
あわせて読みたい
ゾラ『ごった煮』あらすじと感想~ブルジョワの偽善を暴く痛快作!貴婦人ぶっても一皮むけば… この作品は『ボヌール・デ・ダム百貨店』の物語が始まる前の前史を描いています。 主人公のオクターヴ・ムーレは美男子で女性にモテるプレイボーイです。そして彼がやってきたアパートでは多くのブルジョワが住んでいてその奥様方と関係を持ち始めます。 そうした女性関係を通してオクターヴは女性を学び、大型商店を営むというかねてからの野望に突き進もうとしていきます。
あわせて読みたい
ゾラ『ボヌール・デ・ダム百貨店』あらすじと感想~欲望と大量消費社会の秘密~デパートの起源を知るた... この作品はフランス文学者鹿島茂氏の『 デパートを発明した夫婦』 で参考にされている物語です。 ゾラは現場での取材を重要視した作家で、この小説の執筆に際しても実際にボン・マルシェやルーブルなどのデパートに出掛け長期取材をしていたそうです。 この本を読むことは私たちが生きる現代社会の成り立ちを知る手助けになります。 もはや街の顔であり、私たちが日常的にお世話になっているデパートや大型ショッピングセンターの起源がここにあります。 非常におすすめな作品です。
あわせて読みたい
ゾラ『ジェルミナール』あらすじと感想~炭鉱を舞台にしたストライキと労働者の悲劇 ゾラの描く蟹工船 『ジェルミナール』では虐げられる労働者と、得体の知れない株式支配の実態、そして暴走していく社会主義思想の成れの果てが描かれています。 社会主義思想と聞くとややこしそうな感じはしますが、この作品は哲学書でも専門書でもありません。ゾラは人々の物語を通してその実際の内容を語るので非常にわかりやすく社会主義思想をストーリーに織り込んでいます。
あわせて読みたい
ゾラ『制作』あらすじと感想~天才画家の生みの苦しみと狂気!印象派を知るならこの1冊! この物語はゾラの自伝的な小説でもあります。主人公の画家クロードと親友の小説家サンドーズの関係はまさしく印象派画家セザンヌとゾラの関係を彷彿させます。 芸術家の生みの苦しみを知れる名著です!
あわせて読みたい
ゾラ『獣人』あらすじと感想~『罪と罰』にインスパイアされたゾラの鉄道サスペンス!殺人は理性か本能か! 理性で殺したラスコーリニコフ、本能で殺したジャック。 この二人の主人公の対比はドストエフスキーとゾラの人間観の違いを最も明確に示しているのではないでしょうか。 『罪と罰』にはまった人ならぜひともこちらの作品も読んで頂けたらなと思います。 バルザックの『ゴリオ爺さん』(以下の記事参照)と共におすすめしたい一冊です。
パリの胃袋

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次