(13)「世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた」男、ジャヴェール

「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(13)「世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた」男、ジャヴェール
『レ・ミゼラブル㈠』第五章 堕落 ⑵
さて、いよいよレミゼのもう一人の主人公とも言ってもよい存在、ジャヴェールの登場です。
ジャヴェールといえば、ミュージカルでも大人気のキャラクターです。かく言う私も大好きです。
このジャヴェールについてはすでに「ジャヴェールこそ『レ・ミゼラブル』のもう一人の主人公である!愛すべき悪役ジャヴェールを考える」の記事でもお話ししましたのでここではあまり深くは立ち入りませんが、登場シーンからしてすでに注目すべき描写がいくつかなされています。
ある種の警察官は、権柄ずくと下劣さとをつきまぜた、複雑で、特別の人相をしている。ジャヴェールも、こうした人相だが、下劣さだけはなかった。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈠』P318
そうです。ジャヴェールには下劣さがないのです。
彼は狂おしいほど真っすぐな男でした。職務上、人から忌み嫌われるような汚れ仕事もしていますが、彼には彼の高潔な規範があったのです。
彼は禁欲的で、真面目で、厳格であり、陰気な夢想家で、狂信家のように謙遜でいて、傲慢だった。その視線は錐のようだった。冷たく、つらぬいた。彼の全生涯は、警戒と監視の二語につきた。世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた。自分の有用さを自覚し、職務を神聖視し、まるで司祭のような態度でスパイをやっていた。
新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈠』P322
「世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた」
さすがユゴーです。よくこんな言葉を思いつくなとため息が出てきます。この世に人間ほど曲がりくねった存在はありません。あっちに行くかと思いきやそっちに行き、そうかと思えばこっちにやって来る。どこへ進むか一寸先は闇。自分自身でも何をしているのかわからない。それが人間というものでしょう。
そこに定規で一本線を引くがごとくジャヴェールは直線を取入れたのです。
「世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた」
ジャヴェールのあり方をこれほど的確に示した言葉があるでしょうか。彼の生き様はまさにその通りです。彼は人間という曲がりくねった存在に対して容赦なく直線を貫いていきます。それが彼の生き様であり、世界そのものなのです。
「世の中で最も曲りくねったものの中に、直線を取入れた」
登場シーンにおいてすでに彼を表す重大な言葉が置かれていたというのは興味深いですよね。
この言葉を頭の片隅に置きながら、私達もこれからの展開を追っていくことにしましょう。
続く
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