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(8)ジャン・ヴァルジャンはミリエル司教にとって特別な存在だったのだろうか

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(8)ジャン・ヴァルジャンはミリエル司教にとって特別な存在だったのだろうか

第一部 ファンチーヌ 第二章 転落 ⑸

ジャン・ヴァルジャンはすやすやと眠るミリエル司教を裏切り、ついに銀の食器を盗み出してしまいます。

翌朝、その食器がないことに気がついたマグロワール夫人が大騒ぎしますが、司教はどこ吹く風。あんなにも大切にしていた銀の食器が盗まれてしまったにもかかわらずこの対応。あまりに聖人すぎます。

そしてミュージカルでもお馴染みの、あのシーンへと繋がっていきます。

憲兵に捕らえられて司教の前に引き出されるジャン・ヴァルジャン。「この銀食器は司教からもらったのだ」と嘘をついたものの、そんなでまかせを誰が信じるでしょう。もはや万事休す。またもや彼は地獄行きかと思われた瞬間、司教が信じられない言葉を語り出します。

「彼の言ったことは本当です」と。

そしてさらに銀の燭台まで彼に持たせ、自由の身にさせたのです。

これは『レ・ミゼラブル』の中でも特に有名なシーンですよね。ここからジャン・ヴァルジャンは新たな人生を歩んでいくことになります。

このジャン・ヴァルジャンの衝撃や内面の葛藤については今更私がお話しすることはないのですが、今回読んでいてふと思ったことがあります。

それが「もしジャンバルジャンがあと何人もいたらどうなっていただろうか」ということです。

つまり、ジャン・ヴァルジャンの他にも彼のような訪問者がいた場合、その銀食器や燭台はどうなっていただろうかということです。

これまで見てきましたように、ミリエル司教はとびっきりの善人です。そして彼の館はいつも鍵が開けられていて、誰でも訪れることができるようになっていました。

となれば、ジャン・ヴァルジャンのような訪問者が他にいてもおかしくはありません。そしてその場合もきっとミリエル司教は温かく迎えていたことでありましょう。

ここに微妙な問題が浮上してくるのです。つまり、ジャン・ヴァルジャンは特別だったのか否かということです。

私達は当たり前のようにこのシーンを観ていますが、こんな寛大な措置を何度も繰り返していたらさすがのミリエル司教も破産してしまいます。これはそう何度と出来ることではありません。ですが、リアリズム的に考えるなら、ミリエル司教ならやりかねないというのも正直思ってしまいます。この時代のフランスではジャン・ヴァルジャンのような「レ・ミゼラブル惨めな人々」は山ほど存在していました。そんな名も無きジャン・ヴァルジャンが無数にいたことを考えると、司教の下にもそんな訪問客が来ていたことは自然なように思えます。

ですが、ジャン・ヴァルジャンにあの銀の食器と燭台を渡すことができた以上、それ以前にはこのような振る舞いはしていないということになります。

となると、やはりこのジャン・ヴァルジャン、、、、、、、、、、、、はミリエル司教にとって特別な存在だったのではないでしょうか。

私はやはり、ジャン・ヴァルジャンは特別だったと思いたい。

ミリエル司教が彼の中に何か特別なものを見たからこそ、これほどの信頼を示したのだと私は信じたいのです。

実際、ジャン・ヴァルジャンはまさにそれにふさわしい生涯をこれから生きていきます。

ジャン・ヴァルジャンの英雄的な行動はまさにミリエル司教が見抜いたその通りのものだったのではないかと私は思うのです。

さすがのミリエル司教も、誰それ構わず「あなたの魂を買おう」と言って究極の十字架を背負わせることはしないでしょう。その十字架を背負うにふさわしい人物だからこそ司教はジャン・ヴァルジャンにあれほどの慈悲を施したのではないでしょうか。並の人間であれば、これほどの重荷を背負うことは不可能です。コゼットへの愛やマリユスを救った自己犠牲の心を知っている私たちであればそれは納得できるのではないでしょうか。ジャン・ヴァルジャンという男はやはり神話的な英雄なのです。それほどの存在だからこそミリエル司教は大切な銀器を彼に託したのです。

もちろん、この『レ・ミゼラブル』はジャン・ヴァルジャンを主人公とした物語です。だからこそミリエル司教が彼に銀器を託したというのも当然と言えば当然なのですが、小説を読みながらじっくりとこの出来事について考えていた時、ふと私の中で今回のようなことが浮かんできたのでありました。

続く

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ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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