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私の仏教史はアフリカから!人類発祥の地オルドバイ渓谷を訪ねて

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『シン日本仏教史』(1)私の仏教史はアフリカから!人類発祥の地オルドバイ渓谷を訪ねて

2019年3月某日。アフリカはタンザニア、私は日本からほぼ丸一日をかけて飛行機を乗り継ぎ、アフリカの大地をひた走っていました。

アフリカ中部に位置するタンザニア。キリマンジャロ国際空港に降り立った瞬間、アフリカの熱気と土のにおいを感じたことを今でも覚えています。

私はこの当時、アフリカはおろかヨーロッパにも足を踏み入れたことがありませんでした。そんな私がいきなりアフリカにやって来たのです。

車窓から見える世界はまさに異世界。私は旅の始まりから早々強烈なカルチャーショックに襲われることになりました。

ですが、私はどうしてもここへ来なければならなかったのです。ここから始めなければならなかったのです。

私にとってこのタンザニアは仏教を学ぶ上で大切な視点をくれた極めて重要な場所でした。いわば私にとっての聖地とも言えましょう。

そして私がここでどうしても見たかったものがこちらになります。

手前にそびえ立つ赤茶けた岩山、はるか向こうまで広がるアフリカの大地。

さて、この景色を皆さんにご紹介したのは他ではありません。ここは【人類発祥の地】と呼ばれる記念すべき場所なのです。

ここオルドバイ渓谷では1959年に約180万年前の人類の祖先の化石が発掘されました。

人類の祖先の化石。この写真は約360万年前のもの。

この発見によって人類の祖先の研究に一躍世界の注目が集まるようになり、オルドバイ渓谷が「人類発祥の地」として名を馳せることとなりました。(※現在では発掘が進み人類最古の化石は約700万年前にまでさかのぼり、アフリカ各地で化石が見つかっています。つまり正確にはここは人類発祥の地ではありませんが、今でも1959年の発掘を記念して人類発祥の地と呼ばれています)

それにしても、僧侶である私がなぜわざわざアフリカまで来て人類発祥の地を見なければならなかったのでしょう。仏教を学ぶならばインドに行けばよいのではないでしょうか。

まさにその通り。仏教史を皆さんにお伝えするならばそのスタートはブッダが活躍したインドをご紹介するのが王道でありましょう。

ですが私がここであえてアフリカの【人類発祥の地】をご紹介したのには理由があります。

私はこの旅に出る前に、私の人生を変えたある本と出会ったのです。

それがこちらの『道徳性の起源』になります。

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フランス・ドゥ・ヴァール『道徳性の起源』あらすじと感想~宗教とは何か?人間と動物は何が違うのかを... この作品はチンパンジーやボノボの研究を通して得た知見を基に人間の道徳性や宗教について語っていきます。 私たちの道徳はどこから生まれてきたのか。 性善説、性悪説、人間ははたしてどっちなのか。 こうした議論はこれまで、哲学的、思想的な側面から語られてきました。 しかしドゥ・ヴァールはそれらは人間だけにあるものだけではなく、動物にも存在するものであり、人間だけが特権的に善悪の基準を持っているわけではないことを語ります。 私たちの常識を覆すような驚きの事実が満載です。ぜひぜひ読んでみてください!ものすごくおすすめです!
フランス・ドゥ・ヴァール Wikipediaより

フランス・ドゥ・ヴァールはオランダ出身の霊長類学者で、世界を代表する研究者のひとりです。

この本ではチンパンジーやボノボの研究を通して得た知見を基に、人間の道徳性や宗教について語られていきます。

私たちの道徳や宗教はどこから生まれてきたのか。性善説、性悪説、人間ははたしてどちらなのか。

こうした議論はこれまで哲学的、思想的な側面から語られてきました。あるいは神が道徳や善悪を決めたというようにです。

しかしドゥ・ヴァールはそれらは人間だけにあるものだけではなく、動物にも存在するものであり、人間だけが特権的に善悪の基準を持っているわけではないと語ります。

そして「人類の宗教も、途方もなく長い時間をかけた進化の過程で生まれてきたものである」と彼は語るのです。

私にとってこの言葉は雷に等しいものがありました。まさに全身をビリビリビリっと電気が走ったかのような衝撃だったのです。

宗教とは「人間が自分達に都合の良いように作ったもの」ではなく、「自然界を生き抜く中で自然と生まれてきた本能」なのである。

みなさんいかがでしょうか。宗教が「作り出されたもの」か「生まれてきたもの」では天と地ほどの差があるように思えませんか?

オウム真理教事件によって日本人は宗教に対してアレルギーや怖いイメージを持つ方が増えてしまったかと思いますが、宗教は私達の本能に組み込まれた力でもあったのです。過酷な自然環境の中で私達のご先祖様が進化の過程で身につけた強力な本能こそ宗教なのでありました。

そう考えると現代においても私達が人間である限り、宗教というものが大きな役割を果たすことは大いにあり得るのではないでしょうか。食事や睡眠などと同じように、宗教も本能なのです。本能に抗うことはそう簡単にはできません。

「でも、私達日本人は無宗教な人が多いのでは?普段だって別にお寺や教会に行くわけでもないし・・・」と思われる方も多いかもしれません。

ですが、よくよく考えてみると、日本人が「私は無宗教です」という時は「私は特定の宗教を強く信じているわけではありません」という意味で言っている場合がほとんどです。

もし本当に無宗教ということになると、神の存在は全くのでたらめであり、それに類するものも全く存在しえないということになります。ですので日本で言うならば神仏も一切いなければ、お彼岸もお盆も初詣などのお参りも一切しません。お守りもお祓いも御朱印もいりません。占いもなしです。死後の世界もありません。死ねば無です。人間はそもそも物質に過ぎません。魂の存在も否定します。

どうでしょうか。これが本当の無宗教です。日本人の言う無宗教とは随分と毛色が違うように感じませんか?

日本人は一つの何かを強烈に信仰するということはせずとも、なんとなく神仏の存在やご先祖様の存在を身近に感じているのです。

お盆やお彼岸のお墓参りの時、そこに眠る人に声をかけたりしませんか?私は祖父のお墓に行きますと、心の中でですがいつも声をかけ、会話をしているかのような気持ちになります。

私はこうした日本人の宗教のあり方をインドのヒンドゥー教にならって「日本教」と呼んでいます。ヒンドゥー教も日本語訳すれば「インドの宗教」という意味合いで、インド人の多種多様な信仰を総称してヒンドゥー教と呼んでいるのです。シヴァ神やヴィシュヌ神、ガネーシャなど無数の神々を信仰する世界観を共有するあり方を便宜上ヒンドゥー教と呼んでいるのがインドなのです。こう考えてみると、日本のあり方もインドに似ていますよね。

さて、話は少し反れてしまいましたが、宗教は私達の中に本能として組み込まれており、それは私達日本人にとっても決して無縁ではないということをここまでお話ししました。

そしてこのドゥ・ヴァールの本にはさらに興味深いことも書かれていました。

一神教的な宗教が生まれるにはそれに適した環境が必要だったと彼は指摘するのです。

人間の起源についてのこのこだわりを理解するには、ユダヤ教とキリスト教に共通の伝統は、他の霊長類をほとんど、あるいはまったく意識せずに生まれたことを踏まえておかなくてはいけない。砂漠の遊牧民は、レイヨウ、へビ、ラクダ、ヤギぐらいしか知らなかった。彼らが人間と動物の間に大きな隔たりを感じて、魂は人間だけのものだと考えたのも不思議はない。だから一八三五年にロンドン動物園で、初めて生きた類人猿が披露されると、砂漠の遊牧民の子孫たちは愕然とした。人々は気分を害し、嫌悪感を隠すことができなかった。ヴィクトリア女王は類人猿のことをこう思った。「痛ましいまでに、そして不快なまでに人間に似ている」

紀伊國屋書店、フランス・ドゥ・ヴァール、柴田裕之訳『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』P132-133
イスラエルの砂漠と死海。世界遺産マサダ要塞からの眺め。筆者撮影

いかがでしょうか。ドゥ・ワールの指摘は実に興味深いですよね。ユダヤ教とキリスト教が生まれたイスラエルの砂漠には霊長類がいなかったのです。だからこそ「人間は他の動物とは違う」という感覚が生まれ、一神教的な宗教が生まれたというのです。

イエス・キリストが悪魔の誘惑に打ち克った岩山、エリコ。筆者撮影

ここで重要なポイントはその地の環境が人々の宗教観に大きな影響を与えているという点です。

一神教的な宗教が生まれるにはそのような環境が必要でした。もちろん、環境が全てを決定するわけではありませんが、大きな影響を与えていることは間違いありません。

では、ひるがえって日本はどうでしょう。上のドゥ・ヴァールの言葉から考えてみると、自然豊かで身近に様々な動物がおり、さらにニホンザルという私達そっくりの存在もいます。こうした環境だからこそあらゆる自然に神さまの存在を見る宗教が生まれたと言えるかもしれません。

このように、宗教を考える上で「動物としての人間」や「環境」という視点を与えてくれたのがドゥ・ヴァールの『道徳性の起源』だったのです。

私自身、仏教とは何か、自分とオウムは何が違うのかと悩み続けていた時期が本当に長かったのです。ですがこの本と出会ったことで宗教に対する考え方ががらっと変わりました。ここまでお話ししてきましたように、宗教は私達の中から自然と生まれてきたものなのです。そして宗教は人類の道徳や結束を強化し、さらに力を与えるはたらきをしてきました。だとすれば、宗教も捨てたものではない。自信を持って仏教に邁進しようと私は勇気づけられたのです。

だからこそ私はこうした気づきを与えてくれたアフリカの大地を見てみたかったのです。私達のご先祖様が宗教と出会ったその世界を見てみたい!そこから私の仏教は始まるのだ!そう思わずにはいられなかったのです。

こういうわけで私の仏教通史はアフリカから始まることになったのです。

私の宗教を巡る旅はここアフリカから始まりました。そしてここから世界一周の旅をスタートさせ、先ほど紹介したイスラエルやイタリア、スペインなど宗教の聖地を巡りました。これが2019年のことです。

そして帰国後も私は親鸞や仏教の研究を続け、2023年にいよいよインドへと旅立っています。一見遠回りのように見えるかもしれませんが、こうした回り道が私にはどうしても必要だったのです。

仏教とは何かを考えることは、そもそも「宗教とは何なのか」「人間とは何なのか」を問うことと同義です。だからこそこの『シン日本仏教史』の始まりはアフリカでなければならなかったのです。

さて、こういうわけで仏教とは一見関係のなさそうなアフリカについて今回お話ししましたが。次の記事からはいよいよインドについてお話ししていくことにしましょう。

主要参考文献一覧

〇インドの歴史・宗教・文化について知るのにおすすめの参考書一覧
〇インド仏教をもっと知りたい方へのおすすめ本一覧
〇仏教国スリランカを知るためのおすすめ本一覧
〇中国仏教・中国思想のおすすめ解説本一覧
〇親鸞聖人や日本仏教を学ぶためのおすすめ参考書一覧

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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