中国仏教・中国思想のおすすめ解説本一覧~思想、歴史、時代背景を学ぶ
中国仏教のおすすめ参考書一覧~時代背景や歴史・思想を学ぶ
今回の記事では中国仏教を学ぶのにおすすめの参考書を紹介していきます。
当ブログではこれまで、インドやスリランカのおすすめ仏教書も紹介してきました。
今回の記事でもこれらの記事にならって、仏教だけでなくその歴史や時代背景、関連思想についての本も紹介していきます。
中国仏教は日本の仏教に直接的な影響を及ぼしています。仏教発祥の地はインドではありますが、日本仏教の故郷は中国なのではないかとすら私自身感じています。それほど中国の仏教の影響は甚大です。
ではその中国仏教がいかに形成されてきたのか、どのような点がインドとは異なるのか、これが日本仏教を考える上でも極めて重要なポイントとなってきます。私自身、中国の歴史や仏教を学び、これまでの仏教観が覆されるほどの衝撃を受けました。やはり「宗教は宗教だけにあらず」。その教義や信仰だけでなく当地の風土や政治状況と密接に関わらざるをえません。そのことを学ぶのに中国の歴史や仏教を学ぶのは非常に有益です。
そしてこれもぜひお伝えしたいのですが、中国史や中国仏教の本には名著が多い!人間や世界の本質に迫る素晴らしい本がたくさんありました。ぜひぜひ皆さんにおすすめしたい刺激的な本がたくさんあります。
これから紹介する本のリンク先ではより詳しくその本についてお話ししていますので、興味のある本がありましたらぜひリンク先もご参照ください。
では早速始めていきましょう。
中国仏教のおすすめ参考書
菊地章太『儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間』
中国の宗教はそもそも何なのか。儒教?仏教?道教?わかるようでわからない中国の宗教事情ですが、この本ではそんな難しい中国宗教をわかりやすく学ぶことができます。
著者によればこの本は入門書としての位置づけではありますが、この本で説かれることはものすごく濃いです。
この本では儒教、仏教、道教それぞれの教えや特徴を見ていきながらそれらがどのように絡み合っているかを見ていきます。
さらには「そもそも宗教とは何なのか」という直球ど真ん中の問題にもこの本では切り込んでいきます。
これは面白いです!
私達の隣人である中国。その隣人の宗教は一体何なのか。意外とこれがわからない。そんな疑問をずっと持ち続けていた私にとってこの本は非常に刺激的で興味深いものがありました。中国仏教入門に最適です。
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儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間 (講談社学術文庫 2717)
森三樹三郎『老荘と仏教』
この本はとてつもなく面白い名著です!頭がスパークするほど刺激的な一冊です!
いやあこの本には参りました。中国関連の本をこれまで当ブログではご紹介してきましたが、その中でも間違いなくトップクラスに君臨します。いや、中国に限らず仏教関連の本全てにおいてもこの本はその位置に来るでしょう。それほど面白い一冊です。
インドから伝来した仏教が中国においてどのようにして受容され変容していったのかが本書の主要テーマでありますが、これがものすごく刺激的です。ぜひぜひおすすめしたい名著です。
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鎌田茂雄『仏教の来た道』
この本では有名な玄奘三蔵をはじめとした三蔵法師たちの活躍やその時代背景を知ることができます。
仏教はインドから中国へ伝播しました。そのこと自体は広く知られていることではありますが、では実際にいつどこでどのように伝えられていったかというと意外とわからないですよね。私自身も漠然としか知りませんでした。この本を読んで中国からインドへ経典を求めて旅をすることがどれほど危険で命がけだったかに驚くことになりました。
また、この本では中国やシルクロードの仏教遺跡についても多く説かれます。写真も掲載されているのでとてもイメージしやすいです。仏教ゆかりの地を訪れる際の参考文献としても非常にありがたい作品となっています。
命がけで経典を求めた僧侶たちや中国仏教の伝播、発展過程を知れるおすすめの一冊です。
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『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』
「仏教はインドで梱包されて中国に送り届けられたわけではない」
本書で語られたこの言葉を読んで私は思わず「おぉ!」と膝を打たずにはいられませんでした。何たるパワーワード!
本書ではそんな中央アジアの仏教について幅広く学んでいくことになります。中国伝来の過程で何が起こっていたのか、そして中央アジアにはどのような仏教があったのか、最新の研究成果はどうなっているのかということを知ることができます。
正直この本はかなりマニアックです。仏教初学者の方が読めばめまいがするような内容かもしれません。
ですが、マニアックな方にはたまらない内容だと思います。仏教伝播について関心のある方にもとても読み応えのある作品です。
日本人にとってはあまり馴染みのない中央アジアの仏教を知れる貴重な一冊です。
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『新アジア仏教史06 中国Ⅰ 南北朝 仏教の東伝と受容』
『新アジア仏教史』シリーズはこれまで見てきたように幅広く仏教史を学べる作品です。今作も中国における仏教伝来を幅広く見ていきますので、中国仏教入門にとてもおすすめです。参考文献も豊富に掲載されていますので今後の学びにも非常に役立ちます。
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『新アジア仏教史07 中国Ⅱ 隋唐 興隆・発展する仏教』
私たち日本に伝わった仏教もまさにこの時代の中国仏教あってこそです。そういう意味で今作で語られる内容は日本仏教のベースとも言うこともできるのではないでしょうか。
また、前作もそうでありましたが今作も単に思想や教義面だけではなく時代背景、特に国家との関係性が重視されます。
宗教は宗教だけにあらず。当時の時代背景、政治経済、あらゆる要因が絡んで宗教は変化生成されていきます。
中国は特に国家との関係性が強かったという事情があります。では翻って日本はどうでしょうか。
こうしたことを考える上でも本書は非常に良い思考実験になります。
そして本書を読んで一番興味深かったのは中国浄土教の流れが解説されていた箇所でした。特に道綽と善導という浄土真宗でも七高僧として崇められている二人の高僧についてのお話には刺激を受けました。
この道綽、善導の生涯や人柄についてはなかなか知る機会がないのでこの本で語られる内容はとにかく驚きでした。
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船山徹『仏典はどう漢訳されたのか スートラが経典になるとき』
古代インドの言葉で作られた経典がいかにして中国語に変換されたのか。
そもそも言語が違うということは単に単語レベルで直訳してなんとかなる問題ではありません。
日本人は漢文を書き下し文にして訓読する方法を編み出しましたが、普通はそう簡単にはいきません。
やはり英語を直訳しても語順やニュアンスの問題は大きく残ります。そもそも、ある単語に相当する言葉をこちらが持ち合わせていない場合もあります。そうした時に翻訳者はどうやってその難問を解決するのか。この本を読めばそうした翻訳の作業や困難さも知ることになります。
私たちはすでに出来上がった漢訳経典を受け取り、それを当然のものとして拝受しています。だからこそお経が漢文であることに何の違和感も感じませんが、このインドからの翻訳過程に中国や日本の仏教の特色があるとも言えます。こうした翻訳過程を学ぶことで私達が日々接している「お経」がまた違って見えてくるのではないでしょうか。
普段なかなか考えることすらない「漢訳の過程」ではありますが、いざその実態を見てみるとこれが面白いのなんの!「ほお!そうやってお経が作られていったのか」と驚くこと間違いなしです。これは刺激的です。
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横超慧日、諏訪義純『人物 中国の仏教 羅什』
この本は法華経や維摩経、阿弥陀経の漢訳で有名な翻訳僧鳩摩羅什のおすすめ伝記です。
鳩摩羅什の苦難の人生は有名ですが、そのひとつひとつの苦難をこの本では詳しく見ていくことになります。
後世を生きる私たちは鳩摩羅什や数々の翻訳僧が遺した経典を当たり前のように享受していますが、その翻訳がなされるまでにどれだけの御苦労があったかをこの本では感じることになります。
上で紹介した船山徹著『仏典はどう漢訳されたのか スートラが経典になるとき』とセットでぜひおすすめしたい一冊です。
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森三樹三郎『梁の武帝 仏教王朝の悲劇』
この本は6世紀前半から中頃にかけて中国の梁という国の王の伝記です。
梁武帝は仏教を篤く信仰した驚くべき大人物でありますが、この人物がどのような時代背景で生まれてきたのか、そしてどのような最期を迎えたのかは非常に興味深いです。
本書では梁武帝の政治と宗教の問題を詳しく見ていくことになります。武帝は当時としては考えられないほどの善政を行っていました。武帝の仏教的な平和文化路線は明らかに人々の生活を豊かにしました。しかしその善政そのものに国の崩壊の原因があったというのは何たる悲しい皮肉ではないでしょうか。
本書ではそんな武帝の善政と国家の崩壊を詳しく見ていくことになりますが、国が滅亡していく様はものすごく悲しくなります。武帝自身も脇の甘さと言いますか、失策がもちろんないわけではないのですがそれでもやはり「歴史のもし」を想像したくなります。
また、今作の主人公梁の武帝は浄土真宗にとっても実は非常に深いつながりのある存在です。
浄土真宗で大切にされている親鸞の『正信偈』の中には、「本師曇鸞梁天子 常向鸞処菩薩礼」という一節が出てきます。この一節は「梁の天子が常に曇鸞を菩薩として礼していた」という意味合いの箇所ですが、この「梁天子」こそまさに梁の武帝であります。浄土真宗が重んじている七高僧の一人、曇鸞が中国において王からも敬意を受けていたことがここで謳われていたのでありました。
親鸞の「鸞」の文字はこの曇鸞から来ています。親鸞自身にとってもこの曇鸞は非常に大切な存在であり、その重要人物の一節でわざわざ梁武帝の名を出すというのはやはり見逃せません。親鸞にとっても「あの梁武帝が常に曇鸞を敬い尊敬していた」というのはぐっと来るものだったのでしょう。
親鸞や浄土真宗について考える上でもこの梁武帝のことを学ぶことは大きな意味を持つと私は思います。
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鎌田茂雄『中国仏教史』
本書は中国仏教の大枠を掴むためのおすすめの教科書です。
「中国における仏教の変遷は、勝れて政治的であるため、国家権力と仏教教団との関係はきわめて密接である。そのため政治と仏教、社会と仏教との関係の叙述に意を用いた。」
これこそ本書を貫く大きなポイントになります。
この本では単に仏教の歴史や教義を見ていくのではなく、その時代背景も見ていくことになります。まさに「宗教は宗教だけにあらず」ということを感じさせられます。
ただ、この記事のタイトルにも書きましたように、あくまでこの本は教科書としておすすめです。入門書としては情報量が多すぎるのでかなり苦労すると思います。
ですので他の入門書や中国の歴史書を読んでざっくりとでも中国仏教のことを知ってから読むことをおすすめします。私はその順番で読みましたのでこの本が面白くて面白くてたまらなかったです。体系的に中国仏教のことが解説されますので頭もすっきりしました。
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エーリク・チュルヒャー『仏教の中国伝来』
本書『仏教の中国伝来』は初期中国仏教を学ぶのにおすすめの参考書です。中国への公式な仏教伝来は1世紀後半頃という伝承もあれば、2世紀の西域訳経僧の安世高や支婁迦讖らの中国入国をもって本格的な始まりとする説もありますが、そこから仏教が中国に根付くまでは様々な紆余曲折がありました。伝来してすぐに流行したわけではなかったのです。
本書ではそんな中国仏教の最初期について詳しく語られることになります。
ただ、本書は入門書としてはかなり厳しいこともお伝えしなければなりません。
実は私はこの本に一度挫折しています。
中国仏教を学び始めの頃にこの本を手に取ったのですがとてもじゃありませんが太刀打ちできませんでした。人物名や地名などの固有名詞が多く、しかも私自身当時は中国の時代や都市の位置もわかっていなかったのでこの本があまりに難しく感じたのです。
ですがそこから時を経て、中国史の本を改めて読み直し、時代背景や位置関係なども把握した上で再チャレンジするとこれが面白いのなんの!やはり時代背景や地理を学ぶことは大事ですね。一見遠回りなように思えますが、やはり歴史を学ぶということが結局一番の近道であることを実感しました。
下でも紹介しますが、塚本善隆『世界の歴史4 唐とインド』や川勝義雄『魏晋南北朝』、平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』など中国の歴史を学んだ上でこの本を読むとものすごくわかりやすくなると思います。ぜひこれらの本とセットで読まれることをおすすめします。
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藤善眞澄『隋唐時代の仏教と社会』
この本は三武一宗の法難と呼ばれる4つの中国の仏教弾圧のうち、隋唐時代にスポットを当てた参考書になります。
三武一宗の法難は、
446年の北魏太武帝の廃仏
574年の北周武帝の廃仏
845年の唐武宗の廃仏
955年の後周世宗の廃仏
の4つの仏教弾圧を指します。こう見るとほぼ百年おきに大規模な仏教弾圧が起きていることがわかります。そして興味深いのは、これらの弾圧を決定した皇帝が死去し新皇帝が即位すると再び仏教が一気に復活するという流れがある点です。仏教は大弾圧によってその度に壊滅的な被害を受けるのでありますが、それで消滅するのでなく何度となく復活するのです。この弾圧と復活の流れがなぜ中国で繰り返されるのかというのも本書の見どころとなっています。
そして本書ではそもそもなぜ中国王朝が仏教の弾圧を行ったのかを詳しく見ていくのでありますが、まさにそこで「宗教は宗教だけにあらず」という姿を見ることになります。これらの弾圧は単に宗教的な対立問題では片づけられない事情があったのでした。そこには極めて政治的、行政的な背景があったのです。
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隋唐時代の仏教と社会: 弾圧の狭間にて (白帝社アジア史選書 5)
ライシャワー『円仁 唐代中国への旅』
本書『円仁 唐代中国への旅 『入唐求法巡礼行記』の研究』は838年から847年に遣唐使として唐を旅した円仁の旅路を知れるおすすめの参考書です。
円仁はその遣唐使としての体験を 『入唐求法巡礼行記』という旅行記に書き記しました。ただ、この書物は現代の日本人にはほとんど馴染みのないものとなっています。ですが、この旅行記こそ実は世界史上とてつもなく大きな意味を持つ作品だったとしたらどうでしょう。
当時の仏教弾圧の様子や一般民衆の動きなども知れる刺激的な一冊でした。円仁という人物がいかに巨大な人物だったかを知れる本書はとてもおすすめです。
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円仁 唐代中国への旅: 『入唐求法巡礼行記』の研究 (講談社学術文庫 1379)
六度集経研究会『全訳 六度集経』
本書『全訳 六度集経ー仏の前世物語』はブッダの仏伝物語であるジャータカの中国版とでもいうべきお経になります。
ジャータカについては以前当ブログでも松本照敬『ジャータカ 仏陀の前世の物語』というおすすめ入門書をご紹介しましたが、その代表的なお話が法隆寺の玉虫厨子にも描かれている「捨身飼虎」です。飢えた母虎を救うために自らの身体を与えたというあの有名な物語です。
他にも自分の身体を切って鷹に肉を与え鳩を救ったシビ王物語やバラモンへの供養のために自ら火に飛び込んだウサギの話など有名な物語がジャータカに説かれています。特にこのウサギの物語は「月のウサギ」の元となったお話でもあります。
というわけで私達にとっても身近な物語がこのジャータカには収められています。
そして本書『全訳 六度集経ー仏の前世物語』はそんなインドで制作された多数のジャータカの内、翻訳僧康僧会(?-280)が中国に合わせて撰述し翻訳したお経になります。
中国人が大乗仏教をどのように考えたのか、どのように受容していくことになったのかを考える上でも本書は大きな手掛かりを与えてくれる作品です。巻末の解説もわかりやすいのでぜひおすすめしたい一冊です。
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鎌田茂雄『中国仏教の寺と歴史』
本書は浄土真宗において重要な聖地である玄忠寺や天台宗の聖地天台山など、私達日本仏教徒にも関係の深い名刹を学べるおすすめの参考書です。教義だけでは見えてこない中国仏教の姿を知れる刺激的な作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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『高僧法顕伝(仏国記)』
『高僧法顕伝』あるいは別名『仏国記』の著者法顕(337頃-422)は中国を代表する求法僧です。
法顕の残した偉大な業績について、以前紹介した『新アジア仏教史06 中国Ⅰ 南北朝 仏教の東伝と受容』では次のように解説されています。
この頃の求法僧の中で最も有名なのは法顕である。彼は、戒律がいまだ完全には伝わっていないことを嘆き、還暦に近い年齢をも顧みず、何人かの同志と共に隆安三(三九九)年に長安を出発した。道中に同志の慧景らを失いながら、ついにインドのラージャグリハ(王舎城)にまで至り、『摩訶僧祗律』『雑阿毘曇心論』などを得る。帰りは海路で獅子国(スリランカ)を経由して、義熙十(四一四)年に戻った。そのとき戻ったのは、法顕ただ一人であった。彼が著した旅行記録である『高僧法顕伝』(『仏国記』とも呼ばれる)は、単なる旅行記というだけではなく、インドの様子を記録した最古の記録であり、玄奘の『大唐西域記』、義浄の『南海寄帰内法伝』『大唐西域求法高僧伝』とともに、西域やインドの様子を知る重要な資料となっている。佼成出版社、沖本克己、菅野博史編集『新アジア仏教史06 中国Ⅰ 南北朝 仏教の東伝と受容』P90
なんと、法顕は還暦に近い年齢で過酷な旅に出たのでありました。当時の旅路はあまりに危険で、若くて健康な男性ですら命を落とす者が続出するほどの道のりでした。玄奘三蔵よりも200年以上も前にインドを訪れた高僧の驚異の旅路を本書では知ることができます。
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玄奘『大唐西域記』
今作『大唐西域記』はあの『西遊記』のモデルとなった作品です。中国からインドに渡った僧は上で紹介した法顕も有名ですが、やはり玄奘の知名度は圧倒的です。
彼は「三蔵法師=玄奘」というくらい日本でも有名な高僧ですが、彼が世界的に有名になったのは三蔵(経、律、論という経典群)を求めて中国からはるばるインドへ旅し、大量の経典を無事中国へもたらし翻訳したという偉業にありました。
本作『大唐西域記』はそうした玄奘の旅路が記された書物になります。
ただ、この本を読み始めてすぐに気づくのですが、その語りがあまりに淡白・・・
私達がイメージする刺激的な冒険譚とはかなり趣が異なるのです。実はこれには理由があるのですが、それについてはリンク先の記事で詳しくお話ししていますのでそちらをご参照ください。
『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』
天台といえば私たち日本人は比叡山延暦寺の最澄が開いた天台宗をイメージしますが、その源流は紀元1世紀から2世紀にかけてインドで生まれた『法華経』にあります。『法華経』の教えはインドから中国を経て日本に伝えられました。
本書ではそんな『法華経』の歴史や思想内容について知れるおすすめ作品です。
この作品の素晴らしい点はインドでの法華経成立の歴史から中国での受容、日本への伝播をすっきり学べる点にあります。
法華経が生まれて日本で受容されるまでにどのような変遷があったのかは非常に興味深いです。
そして注目したいのが、上の引用にもありましたように比叡山の天台宗が後の法然、親鸞、栄西、道元、日蓮という鎌倉仏教を生み出す母体となった点です。これら偉大な祖師たちは皆比叡山で天台を学んでいました。なぜ彼らは天台の教えに満足せず新たな仏教を開こうとしたのか、そのことも本書では見ていくことになります。
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『仏教の思想8 不安と欣求〈中国浄土〉』
本書『仏教の思想8 不安と欣求〈中国浄土〉』は浄土教の流れを知るのにおすすめの参考書です。浄土教は日本でも源信、法然、親鸞などが有名ですが、日本に浄土教が伝えられるまでには当然ながらインドから中国、中国から日本へという流れが存在しています。その流れをわかりやすく解説してくれる本書は非常にありがたいです。
本書では曇鸞、道綽、善導の思想だけでなく彼らの生涯や時代背景も知ることができます。当時の中国の政治情勢あってこその仏教ということがよくわかります。度重なる戦乱や仏教弾圧の中で中国浄土教が発展し、善導の時代には繁栄極める国際都市長安の繁華街で善導浄土教が支持を受けていくという流れは非常に興味深かったです。やはり歴史に名を残す偉人たちと時代背景のつながりというのは面白いです。浄土真宗僧侶としてはどうしても親鸞や法然と向き合う時間が長くなってしまいがちですが、その源流を辿るというのもやはり大きな意味を感じます。源流を辿るからこそ親鸞の特徴や独自性が見えてくるというものです。
そういう意味でも本書は親鸞を学ぶ上でも非常に貴重な作品ということができるでしょう。著者の語りもわかりやすく、ひとつの時代絵巻を読んでいるかのような読後感です。シンプルに読み物として面白いです。
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仏教の思想 8 不安と欣求<中国浄土> (角川文庫ソフィア 113)
藤善眞澄、王勇『天台の流伝 智顗から最澄へ』
この本はものすごい参考書です。
まず、驚くほど読みやすい!本格的な参考書でありながら物語のように智顗の生涯を学ぶことができます。智顗の波乱万丈の人生や偉大な師南岳慧思の桁外れのスケールは読んでいて非常に刺激的です。
また本書後半では鑑真と日本天台宗についての驚きの事実を見ていくことになります。
最後の最後まで非常に読みやすく、刺激的な内容が語られますので私も夢中になって読み込んでしまいました。これはものすごい名著です。
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竹村牧男『華厳とは何か』
本書『華厳とは何か』は東大寺の大仏で有名な華厳経についてのおすすめ入門書です。
竹村牧男先生は以前当ブログでも紹介した『インド仏教の歴史「覚り」と「空」』の著者でもあります。竹村先生の著作は一般読者にもわかりやすく仏教の奥深さを教えてくれる素晴らしい作品揃いです。
「現在、華厳思想にいての平易な解説書が少ない状況の中では、その簡便な入門書のひとつとして活用していたたければと存じます」という著者の言葉にありますように、本書は最高の『華厳経』入門です。
私も本書を読んで『華厳経』に対するイメージが変わりました。こんなに壮大でドラマチックな経典だったのかと驚きました。
しかもそんな『華厳経』が親鸞聖人にも大きな影響を与えていたとは!
本書では親鸞聖人についても度々言及されますので浄土真宗関係の方にもぜひおすすめしたいです。
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鎌田茂雄『観音さま』
本書は日本でも親しまれている観音菩薩について知ることができるおすすめ参考書です。
インドから伝わってきた大乗仏教の菩薩たる観音さまでありますが、いつ、どこで生まれ、どのように伝わっていったのか、それを本書では知ることができます。
著者の鎌田茂雄氏は上でも紹介した『仏教の来た道』、『中国仏教史』の著者であります。本書『観音さま』はその中でも特に一般読者向けに書かれていますのでとても読みやすい一冊となっています。
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中国史のおすすめ参考書
『ビジュアル大図鑑 中国の歴史』
この本は中国史を学ぶ上で非常に参考になる作品です。何と言っても圧倒的なボリュームの図版が最大の魅力です。しかもオールカラー!中国の歴史と文化をビジュアルで学べるありがたい作品です。
この本は素晴らしい写真が満載です。中国の壮大さ、文明の洗練さに度肝を抜かれること請け合いです。
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『NHKスペシャル 四大文明 中国』
私がこの本を読んだのは以前古代インドを学ぶ際に読んだ『NHKスペシャル 四大文明 インダス』がきっかけでした。
この本がとにかく面白かったので、いざこれから中国史を学ぶにあたり、ぜひ今回もこのシリーズから始めようと私はこの本を手に取ったのでありました。
そしてそれは大当たり!この本も期待に違わぬとても面白い一冊でした。
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『中国の歴史02 都市国家から中華へ 殷周 春秋戦国』
この本では秦の始皇帝が中国を統一するまでの時代を学ぶことができます。人気漫画『キングダム』で語られる世界はまさにこの時代がベースとなっています。
また、中国の思想や宗教を学ぶ上でもこの時代は孔子や諸子百家が出てきた重要な時期となります。思想や文化も時代背景を離れて存在しえません。当時の中国の大まかな歴史を学ぶのにこの本は最適です。
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『中国の歴史03 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国』
本書では始皇帝が生まれた秦や、日本史ともつながりが出てくる漢や後漢の歴史を学んでいくことになります。
秦の始皇帝は人気漫画『キングダム』によってここ最近特に存在感が高まっているように感じます。私も『キングダム』を読んでいましたので、その始皇帝がどんな国を作りどんな統治体制を取ったのか非常に興味深く読むことになりました。そして秦という国が20年ももたずに滅亡してしまったという事実に改めて驚くことになりました。
あの三国時代の前史となる時代背景を学べるのが本書です。中国全土を統一するのは誰か、そうした壮大な戦いがリアルな形となって生じたのはこの秦漢の存在があったからこそです。
また、中国において歴史がどのように編纂されてきたかということも学べるのも本書の嬉しいポイントです。
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中国の歴史3 ファーストエンペラーの遺産 秦漢帝国 (講談社学術文庫 2653)
渡邉義浩『始皇帝 中華統一の思想『キングダム』で説く中国大陸の謎』
本書は秦が中国統一に成功した独特の要因を漫画『キングダム』の挿絵と共に見ていく参考書です。下で紹介する渡邉義浩著『横山光輝で読む三国志』と同じように、この『キングダム』も私は読んでいましたので親しみを持って本書を読み進めることになりました。
この本では秦が中国統一を果たした最大の要因として「法家の思想」を徹底したことを挙げています。秦は従来の中国圏の国々とは全く違うシステムを政治に持ち込みました。そしてそれによって秦国の財力、軍事力は飛躍的に高まり、他国を圧倒するようになっていきます。
中国王朝の巨大な権力の源泉とは何なのか、秦の中国統一は中国史においてどんな意義があったのかを知れる本書は実に刺激的でした。これは名著です。
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始皇帝 中華統一の思想 『キングダム』で解く中国大陸の謎 (集英社新書)
渡邉義浩『横山光輝で読む三国志』
横山光輝先生の『三国志』は日本人に最も影響を与えた『三国志』であることでしょう。私もこの漫画が大好きで、学生の時に夢中で読み耽ったものでした。
その横山先生の『三国志』をベースに史実の三国志の歴史をざっくりと学んでいこうというのが本書『横山光輝で読む三国志』になります。「これはもう面白いに違いない」、私は勇んで本書を読み始めたのでありました。
本書では横山『三国志』の名場面が挿絵として挿入され、漫画の世界に浸りながら三国志の歴史を学ぶこと事になります。 横山『三国志』と他の『三国志』の違いも語られるのでここも非常に興味深いです。横山光輝先生の意図やその素晴らしい演出ぶりがよくわかるのでこれは面白いです。
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『中国の歴史04 三国志の世界 後漢 三国時代』
三国時代は華々しい豪傑たちの舞台だけではなく、思想、文化面でも大きな意味を持つ時代でした。
この時代に中国に仏教が根付き、ゆくゆくは大きく花開いていくことになります。この本は仏教を学ぶ上でも非常に興味深い作品でした。そしてやはり三国志は面白いということを再確認した読書になりました。小説である『三国志演義』が面白いのはもちろんですが、史実そのものもやはりドラマチックで面白いということをこの本では知ることになります。
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『中国の歴史05 中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝』
中国仏教の発展に大きな影響を与えた時代が今作で説かれる魏晋南北朝時代になります。宗教は宗教だけにあらず。様々な社会要因も絡んで人々に伝わっていきます。
三国時代や隋唐時代と比べるとマイナーな時代ではありますが、今作も時代背景と仏教のつながりについて学べるおすすめの一冊です。
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岡本隆司『物語 江南の歴史』
本書『物語 江南の歴史』は中国の歴史を学ぶ上で実に助かる1冊となっています。
と言いますのも、本書のタイトルにありますように、この本では長江の南側の地域を表す江南を中心に見ていくことになります。私達日本人にとっていきなりぽんと「江南」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、この江南地方を知ることで中国の見え方ががらっと変わることになります。
私もこの本を読んで驚きました。これまでいくつもの中国史に関する本を読んできましたが、正直、中国には王朝や都市が多すぎていつどこに何があったか混乱してしまっていたのです。しかしこの本を読んだことでそのこんがらがりがすっきり解消したのです。これには私もびっくりでした。
長江を分水嶺に北と南の地方が分かれる。そしてそれは同時に社会や文化の違いでもありました。
中国は大きい!大きすぎる!そんな中国を「ひとつの中国」と呼んでもよいのか、こうした問題提起がこの本ではまず語られます。広大な土地と多種多様な民族、文化が織りなす中国。その多様な歴史を知るためのひとつのものさしとなるのが長江であり、江南地方なのでした。これは面白い!
中国史を学ぶ上で必読と言ってもよい参考書です。
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川勝義雄『魏晋南北朝』
これはものすごい名著です!名著中の名著です!
いやぁ~ものすごい本でした。
これまで当ブログでも紹介してきたように中国史の本は名著が多いのですが、この本はその中でも特にピカイチの輝きでした。
本書『魏晋南北朝』はそのテーマそのものはメジャーどころではありません。中国史のメジャーどころといえば三国志や隋唐時代が来ることでしょう。しかし本書ではその狭間の時代である魏晋南北朝時代にスポットが当てられます。
秦漢帝国から三国時代、魏晋南北朝を経て隋唐帝国へとつながっていく中国。
漢が滅亡してから次の中華統一がなされるまでのおよそ450年、中国は乱世の世でした。しかも「魏晋南北朝」と呼ばれるように中国は北と南で国家が分断し、さらにはその領内においても騒乱が続くことになります。
たしかにこの乱世の世は暗黒時代というイメージになってしまうのも仕方ないかもしれません。しかし著者はこの戦乱の時代を「輝かしい暗黒時代」と表現します。この戦乱の時代こそ中国文明の深化を促し、隋唐時代への布石になったと捉えるのです。
中国史の入門書としては本書は厳しいかもしれませんが、ある程度おおまかな流れを知った上でこの本を読むと驚くことが満載だと思います。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
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顔之推『顔氏家訓』
私が本書を手に取ったのは上でも紹介した川勝義雄著『魏晋南北朝』がきっかけでした。
この本の中で顔之推が南北朝貴族を代表する存在のひとりとして紹介されていたのでありました。当時の中国は乱世でありながらも文人貴族の存在が不可欠な時代でありました。いかに軍人がその武力を頼りに王朝を立てようとも文人貴族の存在がなければその地を統治することができなかったのです。これが中国の歴史の特徴であると川勝義雄著『魏晋南北朝』で学ぶことになりました。
ここではこれ以上詳しくはお話しできませんが、中国においては学問を積んだ教養ある人間が重視され、その才覚によって行政が行われるという土壌があったのでした。その典型例として読書や学問を重んじた顔之推が紹介されていたのでありました。
本書『顔氏家訓』は当時の生活の実態や官僚達の生きる術を知ることができる貴重な歴史書です。また、読書の効能についての言葉は現代においても私達に響く言葉であることは間違いありません。ぜひ中国の賢者の言葉に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。
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宮崎市定『隋の煬帝』
本書は隋の歴史を知るのにおすすめの一冊です。特に本書タイトルにありますように、隋の皇帝、煬帝について詳しく知ることができます。
煬帝といえば隋の最初の皇帝、文帝の跡を継いだ二代目の皇帝です。日本人にとって隋といえば遣隋使の小野妹子や「日出ずる処の天子」の手紙のイメージがあると思いますが、その隋の政治事情を知ることができるのが本書になります。
「凡庸な君主ほど、大きな過失を犯しやすいのである。だから淫乱暴虐な天子は、その当時、他にも数えきれぬほど多く出たのであって、いわばそれが時代の風潮であった」
煬帝は隋を崩壊させた暴君として語られがちですが、事はそう単純ではありません。なぜ煬帝が暴君のような振る舞いをしたのかというのも時代背景が大きく関係していました。さらに、上の言葉にありますように「凡庸な君主ほど、大きな過失を犯しやすい」というのも強烈です。私達は暴君といえばその人自身に問題がある異常な存在のように思ってしまいがちですが、実は凡庸な普通の人間だからこそ特殊な環境に置かれるとそうなってしまうということが本書では明らかにされます。
『隋の煬帝』は素晴らしい名著です。さすが中国史の本には面白い本が多い!これは刺激的な読書になりました。
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平田陽一郎『隋ー「流星王朝」の光芒』
本書ではこのように隋を単に中国的なものと捉えるのではなく、様々な民族が入り乱れるユーラシアという文脈で見ていくことになります。
上で紹介した『魏晋南北朝』ではまさにこの様々な民族についても知ることができましたが、その知識を得てこの本を読むとさらに興味深く読むことができました。
また、本書後半では暴君として悪名高い煬帝の様々な政策が本当に愚策だったのかを検証していきます。大運河の建設や派手な船団行幸、高句麗遠征などは民を苦しめた悪政だったとされがちですが、本書を読むとまた違った面が見えてきます。思わず「なるほど!」と唸ってしまうような見解を知ることになります。これは面白いです。
隋の全体像を知る上でも本書はおすすめの参考書です。
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森部豊『唐ー東ユーラシアの大帝国』
本書『唐ー東ユーラシアの大帝国』は唐の歴史の全体像を学ぶのにおすすめの参考書です。
上で紹介した平田陽一郎著『隋ー「流星王朝」の光芒』も多種多様な民族や地域との関連性から中国史を見ていく作品でしたが、本書もグローバルな視点からその歴史を見ていくことになります。
中央アジアの人々や鮮卑や匈奴など、様々な異民族との関係を無視しては中国の歴史は見えてきません。この本ではものすごく大きなスケールで唐の歴史が語られていきます。これは刺激的でした。
そして僧侶である私にとっては唐の第二代皇帝太宗と玄奘三蔵法師についてのエピソードが特に印象に残っています。
唐の皇帝太宗が玄奘三蔵法師に還俗して外交官として仕えないかとオファーしていた・・・。しかもあの西遊記のモデルとなった『大唐西域記』に関する裏話も衝撃でした。
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『中国の歴史06 絢爛たる世界帝国 隋唐時代』
この本では遣隋使や遣唐使など、日本とも繋がりが深い隋、唐王朝の歴史を学ぶことができます。
遣隋使といえば小野妹子、遣唐使といえば最澄、空海が特に有名ですが、この本ではそんな彼らが目にした隋唐の社会状況を知ることができます。
日本史で馴染み深いこれら隋唐ですが、実際のところはどんな政治状況だったのかということはこれまで私もほとんど知りませんでした。隋や唐が巨大な勢力を誇った世界帝国だったという漠然としたイメージ以外はあまりありませんでした。それこそ豪華絢爛な中国文化というイメージです。
ですがこの本ではこれら隋唐がどのような経緯で建国され、衰退していったかを詳しく見ていくことになります。そして何より、中国全土を統治するというとてつもない難事業をどのように行おうとしていたのかというのは非常に興味深かったです。
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中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代 (講談社学術文庫 2656)
塚本善隆『世界の歴史4 唐とインド』
私がこの本を手に取ったのは中国、特に隋唐の歴史を知りたかったからなのですが、本書を読んで驚きました。この本では中国のみならずインドの歴史まで語られるのです。中国だけでもとてつもないスケールの歴史がありますがそこにあのインドまでやってくるのですからもうお腹いっぱいです。これはすごい本です。
そして何より、著者の語り口も切れ味抜群でものすごく面白いです。文庫本で450ページ超というなかなかの大ボリュームですが、すいすい読むことができました。
この本を読んでさらに唐の歴史に興味を持つようになりました。高宗や玄宗など唐の皇帝だけでなく、則天武后や楊貴妃のことについてももっと知りたくなりました。この本は知的好奇心を刺激してくれる素晴らしい作品です。
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礪波護、武田幸男『世界の歴史6 隋唐帝国と古代朝鮮』
本書は上で紹介した塚本善隆著『世界の歴史4 唐とインド』とテーマ的に重なる部分も多いのですが、この本の特徴は日本との関係性や朝鮮の歴史も知れる点にあります。
本書ではその冒頭から日本と隋唐の関係性について述べられます。日本最初の留学生が588年の善信尼ら5名の尼僧だったという驚きの情報から始まり、そこから隋唐と日本、朝鮮がどのような関係で歴史が進んだのかをまずは見ていくことになります。
こうしてまずは日本と隋唐というとっかかりを得てから中国の歴史解説に入っていきますので、私達読者もスムーズに進んでいくことができます。これはありがたい流れでした。
そして『世界の歴史4 唐とインド』では著者の塚本善隆氏の切れ味抜群の語り口から繰り出される物語が魅力でしたが、本書はより体系的に中国の歴史を学ぶのにぴったりという印象を私は受けました。
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氣賀澤保規『則天武后』
本書の主人公、則天武后はとてつもない大人物です。スケールが違います。男性中心社会であった中国王朝においてその才覚によって初の女性皇帝になった則天武后。長い中国史においても明らかに突出した人物です。
また、則天武后は仏教にも深く帰依していたことが知られており、彼女が全土に作らせた大雲経寺は後の日本の国分寺のモデルになったと言われています。そうした意味でも仏教を学ぶ私にとって非常に興味深い人物でありました。
そして本書はそんな傑物則天武后を知るための最高の参考書です。
何より面白い!小説のように語られる則天武后の人生にあっという間に引き込まれてしまいました。この本もとてつもない名著です。
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村山吉廣『楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡』
世界三大美女のひとり、楊貴妃。時の皇帝、玄宗が彼女に夢中になり国が傾いたことから傾国の美女としても語られる彼女。
上で紹介した則天武后は自らの知恵才覚と美貌で中国史上唯一の女性皇帝へと成り上がりましたが、この楊貴妃はどんな道を歩んだのでしょうか。それを知れるのが本書『楊貴妃』になります。
この本では楊貴妃や玄宗皇帝時代の唐の時代背景がかなり詳しく語られます。私も読んでいて驚いたのですが、楊貴妃その人についての記述が思いのほか少なく、それよりも彼女を取り巻く時代背景や宮中の事情などが中心となっています。これはまさに著者の宣言する通りです。
楊貴妃という稀代の美女を通して唐の時代背景を知れる本書はとても刺激的です。
私も本書を読んで楊貴妃に共感を持つようになりました。楊貴妃自身は単に美貌の人であっただけではなく、音楽や踊り、文学などの教養もあり、機転の利く人でもありました。聡明で心の機微を理解する楊貴妃に玄宗皇帝がすっかり夢中になってしまったのもわかるような気がします。
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藤善真澄『安禄山』
本作の主人公安禄山は755年に起きた安史の乱の首謀者として知られています。
上の「『楊貴妃 大唐帝国の栄華と滅亡』」では唐の全盛期をもたらした名君玄宗皇帝と傾国の美女楊貴妃について語られましたが、そのふたりを破滅に導いたのがこの安禄山になります。
この本を読めば単なる極悪非道の悪役として見えてこなかった安禄山の別の姿を知ることになります。私もこの本を読んでかなり驚きました。「極悪非道の安禄山が帝位簒奪を目指して反乱を起こした」と一言で言ってしまえばそれでおしまいですが、なぜ彼がそのような暴挙に出たのかということを細かく見ていくとまた違ったものが見えてきます。これは面白い。
本書は伏魔殿たる中国宮廷内の権力闘争の模様や安禄山の波乱万丈の生涯を知ることができます。ものすごく面白いです。上で紹介した『楊貴妃』とセットで読まれることを強くおすすめします。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
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安禄山: 皇帝の座をうかがった男 (中公文庫 ふ 36-1)
川合康三『白楽天』
本書は唐の大詩人白居易のおすすめ入門書です。
白居易(白楽天)は唐時代の後半に生きた詩人です。白居易が生まれた772年は唐を大混乱に陥れた安史の乱の勃発から15年以上経った時代です。
玄宗皇帝の善政で唐が全盛期を迎えるも、楊貴妃との恋によって政治が傾き、その隙をついて安禄山が大反乱を起こしたというその時代の後に白居易は生まれたのでした。
本書では白居易の生涯や時代背景をわかりやすく学ぶことができます。また、白居易の詩が従来のものとどのような点が違うのか、その特徴はどこにあるのかということも知ることができます。
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白楽天――官と隠のはざまで (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1228)
礪波護『唐の行政機構と官僚』
本書はそのタイトル通り「唐の行政機構と官僚の実態」を詳しく見ていく作品なのですが、これまたものすごい一冊でした。
「唐の行政機構と官僚の実態」というテーマそのものはものすごくマニアックです。一般読者が中国史を学ぶ上ではなかなか深入りすることはないであろうこのテーマでありますが、本書ではこの題材を通して歴史研究における重大な側面を学ぶことになります。まさにこの点こそ本書が「比類なき名著」と評される所以であることでしょう。
本書の内容自体はたしかにマニアックです。しかしそのマニアックなテーマを通じて普遍的な問題にまで突き抜けるその流れは圧巻です。唐の時代背景をまた違った角度から見ることができた本書は非常に刺激的でした。
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『中国の歴史07 中国思想と宗教の本流』
宋といえば私の中で平清盛の日宋貿易のイメージしかなかったのですがこの本を読んで驚きました。隋や唐と比べて印象が薄い宋ではありますが、中国文化が圧倒的に洗練されたものになったのはこの時代だったのでした。
本書ではそんな唐の歴史とともにその文化面も詳しく見ていくことができます。写真も豊富ですのでその見事な陶磁器の姿も見ることができます。視覚的にイメージできるのでこれはありがたいです。
そして私が最も驚いたのは印刷術の発明によってもたらされた革命的な変化です。「本を読む」という行為が決定的に変容したその瞬間が非常に興味深かったです。
宋時代に印刷術が発達し、知識の意義が大きく変わりました。その変化に仏教も儒教も道教も大きな影響を受けています。その点についてもこの本では見ていくことができます。これは刺激的な読書になりました。
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中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝 (講談社学術文庫)
礪波護『馮道 乱世の宰相』
今作の主人公馮道は唐末から戦乱の五代十国の時代を生き抜いた官僚です。
本書ではそんな大混乱の時代を生きた名宰相の生き様を時代背景と共に見ていくことになります。
唐末から五代十国、宋へと続いていく時代というのは三国志や隋唐時代と比べるとかなりマイナーな時代です。正直、私自身もこれまでこの時代にはあまりピンとくるものがありませんでした。
しかし本書を読んで907年に唐が滅び、960年に宋が建国されるまでの時代はこんなことになっていたのかと驚きました。そしてさらにそんな武力がものを言う世界の中で、一人の文人官僚が民を救わんと奔走していたことに私は衝撃を受けました。
馮道という人物は日本ではほとんど知られていないと思います。私も中国史を学ぶまで知りませんでした。しかし、巨大な官僚システムの中でこうした立派な官僚がたしかにいたのです。彼のおかげで救われた無数の民が実際にいたのです。中国史の見方がまた変わった刺激的な読書となりました。これは間違いなく名著です。ぜひおすすめしたい一冊です。
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杉山正明『遊牧民から見た世界史』
この本では私たちが漠然と想像する遊牧民のイメージを根底から覆す作品です。また、単に遊牧民という存在だけにとどまらず私たちの歴史認識そのものを問う恐るべき作品となっています。
そもそも遊牧民とは何か。彼らが生きた世界とはどのような世界だったのか。私達はどのような先入観を持ってしまっているのかということからわかりやすく語られていきますので読めば読むほど目から鱗です。
本記事のタイトルに「先入観を粉砕」と書きましたがまさにその通り。少なくとも私は思いっきり粉砕されました。
これまで様々なジャンルを読んできて、なるべく色んな視点から物事を見ていこうと意識していたにも関わらずこの様です。この事実にものすごく恥じ入ってしまいました。
この本を読めばきっと私と同じ思いになる方も多いのではないでしょうか。いやあ痛快な一冊でした。この本は元々いつもお世話になっている中国史にも詳しい僧侶の先輩から勧めて頂いた本でした。ずっと当ブログで紹介したいと思っていた本でしたので、ようやくここに紹介出来て私も嬉しく思っています。この場を借りてお礼申し上げます。
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儒教、道教など中国思想のおすすめ参考書
松本浩一『中国人の宗教・道教とは何か』
本書は中国の宗教、道教のおすすめの入門書です。
道教は日本人にとってはなかなかイメージしにくいものではありますが、この本では写真や資料も多数掲載されていますので視覚的にも優しい作りになっています。
解説も初学者でもわかりやすく読めるよう配慮されているのも嬉しいです。
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村山吉廣『中国の思想』
本書では中国における儒教、道教、仏教の流れの全体像を眺めることができます。
文庫サイズのコンパクトな作品ですが中身は非常に濃厚です。
この本は切れ味抜群です。あえて私たちのイメージを壊すかのような切り口で孔子や孟子などを論じていきます。
孔子や孟子はたしかに歴史上の大人物です。ですが無批判に聖人君子として崇め奉りすぎることは思想理解の弊害になってしまう。そのことを指摘してくれるのが本書の特徴です。
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イアン・ジョンソン『信仰の現代中国』
この本は宗教を禁じていた共産党中国において、今宗教はどのような状況になっているかを追っていく作品です。
かつての中国では共産党当局による厳しい宗教弾圧が行われていました。この宗教弾圧については以前当ブログでも高橋保行著『迫害下のロシア教会―無神論国家における正教の70年』という本を紹介しました。
この本でもソ連における激しい宗教弾圧の実態を知ることになりましたが、本書『信仰の現代中国 心のよりどころを求める人々の暮らし』を読んで改めて共産党における宗教への対応について考えさせられることになりました。
ただ、本書においてはかつての宗教弾圧が主題ではなく、それが緩んだ現代中国における宗教事情が語られます。近年の中国では「当局の監視の下」という制限はありますが信仰の自由が認められるようになりました。それによって一度は失われかけていた信仰が人々の間で取り戻されつつあることが本書で語られます。
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加地伸行『孔子 時を越えて新しく』
この作品は『論語』や儒教で有名な孔子のおすすめ伝記です。
この本はとにかく面白いです!
この本では孔子を神のように崇め奉るのではなく、あくまで「人間」孔子を探究していきます。徒に孔子を神格化し聖人君子のように描くのではなく、時代背景から丁寧にその生涯を追っていきます。なぜ孔子が世に現われ、彼の教えが中国に広まっていったのかがよくわかります。
この伝記ではまさに孔子その人だけでなく、彼の生きた時代も見ていくことになります。孔子が何を望み、何に苦しんだかを学べるのは非常に刺激的です。著者の語りも素晴らしく、ものすごく読みやすいです。
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加地伸行『儒教とは何か』
この本はタイトル通り、儒教とは何かを見ていく作品です。儒教といえば宗教というより倫理道徳と見られがちですが、著者によれば儒教こそまさに中国人の宗教に大きな影響を与えたと述べます。
儒教は死と深く結びついており、儀礼、倫理道徳だけで収まるものではないことをこの本で知ることになります。
儒教とは何かに興味がある方にぜひおすすめしたい一冊です。
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孔子『論語』
『論語』といえばもはや言わずもがなの古典中の古典です。
ただ、誰しもがその名を聞いたことがある名著ではありあすが、意外とこの書物を通読するとなるとなかなか機会がないというのが実際の所ではないでしょうか。かく言う私もまさにその一人です。
今回初めて『論語』を読んでみて、「あぁ!あの名言はここでこういう流れで説かれていたのか」という刺激的な読書になりました。
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貝塚茂樹『孟子』
今回ご紹介するのは孔子と並ぶ儒家の賢人孟子です。孟子と言えば性善説や浩然の気という言葉で有名ですよね。私もかつて高校の倫理の授業で習った記憶があります。
ですが実際その単語は知っていてもその深い所の意味や、孟子の人生、その思想が語られた時代背景についてはほとんど知りませんでした。
本書『孟子』はそんな彼の生涯や思想、時代背景をじっくり見ていける作品になります。
この本を読めば時代背景がいかに重要かがよくわかります。孟子が単に理想主義的に性善説を述べたのではなく、当時の世相において説得力のある理論として述べていたかが明らかにされます。彼は自説の性善説を「国を統治するための策」として王に売り込んでいます。孔子も老子もそうですが、中国思想はそのどれもが国の政治方針と関わってくる点が興味深いです。
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内山俊彦『荀子』
本書は「性悪説」で有名な儒家、荀子のおすすめの参考書です。荀子は秦帝国が生まれてくる戦国時代最後の時代を生きた諸子百家です。
荀子は「性悪説」を説きましたがそれより上で紹介した有名な儒家、孟子(前370頃~300頃)は「性善説」を説きました。
同じ儒家でありながらなぜ真逆の思想を説いたのか、そこに時代背景の影響が強く見られることを本書では知ることができます。
荀子の思想や時代背景をわかりやすく知れるおすすめの参考書です。
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加地伸行『韓非子 悪とは何か』
本書では法家を代表する中国の思想家韓非の思想を学ぶことができます。
加地伸行氏は上で紹介した『孔子』や『儒教とは何か』の著者で、その面白さ、わかりやすさは折り紙付きです。今作でもその加地節は冴えわたっています。
私個人の感想ですが、以前読んだ『論語』より圧倒的に読みやすいです。そして少し皮肉が効いているというかいいますか、ブラックユーモアのような内容が語られるのも面白いです。まるでチェーホフの短編小説を読んでいるような気分になったのが印象に残っています。特に以前紹介した『仮装した人びと』は特にそれが当てはまるのではないかと思います。この一致は二人の冷静で徹底的な人間洞察のなせる業でありましょう。非常に興味深かったです。
ものすごく刺激的で面白い読書となりました。古典=堅苦しいというイメージを覆す書物です。
浅野裕一『墨子』
今作では中国諸子百家の中でも一際異彩を放つ墨家の思想を学ぶことができます。
孔子、孟子の儒家、老子、荘子の道家、韓非子の法家などと比べてあまり日本では知られていない墨家ではありますが、かつては儒家と並ぶ勢力を持った思想集団でした。
本書は戦乱の世において平和主義を説いた異色の思想家集団の実態を知ることができる貴重な参考書です。
本書ではそんな墨家がどのように生まれ、どのようにして中国に広がり、さらにはいかにして消滅していったかが説かれます。
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池田知久『『老子』 その思想を読み尽くす』
本書ではその前半で老子の生きた時代背景と、『老子』という書物の成立過程を見ていきます。そしてそこから著者は「倫理思想」「政治思想」「養生思想」「自然思想」と大きく4つのテーマに分けて『老子』の思想を見ていきます。
とてつもないボリュームです。この本ではかなり詳しく老子について語られます。注も充実しています。
著者の意気込みがものすごく感じられる一冊です。
入門書としては正直厳しいのではないかというのが私の思う所ではありますが、より詳しく老子について学んでみたいという方にはぜひおすすめしたい作品です。また、この本とセットで蜂屋邦夫著『老子探究 生き続ける思想』もおすすめです。こちらは老子と政治、国家、時代背景についてより詳しく知れる作品です。
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『老子』 その思想を読み尽くす (講談社学術文庫 2416)
大形徹『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』
本書『不老不死ー仙人の誕生と神仙術』は中国史に何度となく出てくる不老不死や仙人について知るのにおすすめの参考書です。
秦の始皇帝は中華統一後、不老不死を追い求め仙薬を服用したことで有名です。他にも唐末の皇帝たちがこぞって不老不死をもたらすという怪しい仙薬を服用し、かえって副作用に苦しみ早死にしたことが知られています。
中国の錬金術たる錬丹術もまさにこの不老不死、仙人思想から発展してきています。中国においては水銀に様々な金属を溶かして仙薬を作っていました。もちろん現代においてはそんな水銀を飲んだら身体に悪いのは自明のことでありますが、当時は真剣に不老不死を求めての必死な行為だったのでした。
ではなぜ中国人はそこまで不老不死にこだわるのか、仙人思想はどこから生まれてきたのか、それを知るのに本書はとてもおすすめです。
かつての中国において生と死はどのように考えられていたのか。また、具体的にどのような薬物を処方していたのかということも詳しく知ることができます。
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不老不死: 仙人の誕生と神仙術 (講談社現代新書 1108)
清水茂『中国目録学』
本書は中国における書物の歴史を学べるおすすめの参考書です。
私がこの本を読もうと思ったのは仏教と書物の関係、特に中国特有の文化である目録学について知りたかったからでありました。
本書は中国思想の特徴を考える上でも非常に有益です。
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竹内照夫『四書五経入門』
本書は中国思想の根本ともいえる四書五経のおすすめ参考書です。
四書五経は儒教において特に重要視される書物で、古代から中国思想に巨大な影響を与えてきました。その四書五経は、『論語』『孟子』『大学』『中庸』の四書と、『書経』『易経』『礼記』『詩経』『春秋』の五経で成り立っています。
『論語』と『孟子』については上でも紹介しましたが、さすがに他の書物までは手を付けることができずにいました。ですが最近中国史の本を改めて読み返していると、やはり仏教を学ぶ上でも中国政治の基本となった儒教の聖典を読まねばならないなという気持ちが強くなってきました。
中国における宗教は政治と非常に強く結びついているというのはこれまで読んできた本でも述べられていたことでした。中国における仏教もそうです。そしてその根本を知るためにも儒教聖典との関係性を知ることは重要なのではないでしょうか。
というわけで私はその四書五経の参考書である本書を手に取ったのでありました。
中国史の参考書ではよく「中国思想は現実的で政治的である」ということが説かれますが本書を読みその意味がようやく腑に落ちました。
神話的・宗教的な世界たるインドと、現実的・合理的な中国では精神的な土壌が全く異なります。その違いが中国の仏教受容においても大きな影響を与えていることは間違いありません。
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下見隆雄『礼記』
私たちの「礼」のイメージはというと、「社会生活上の規範」というのが妥当であると思います。しかし中国の儒教世界においてはこの「礼」が単なる社会規範のみならず、宗教的な観念とつながっているというのが重要なポイントになります。上でも紹介した加地伸行著『儒教とは何か』でも儒教の宗教的な側面が説かれていましたが、この「礼」においてもまさにそうした宗教的な側面があることを本書で知ることになります。
私はこの本を読んで原始仏教で説かれる教えとそっくりなことにそれこそ度肝を抜かれました。
中国において原始仏教ではなく大乗が主流となった理由のひとつにこのお経があるのではないかと感じたほどでした。
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赤塚忠『易経』
中国の占いといえば「当たるも八卦、当たらぬも八卦」といういわば慣用句のような言葉もあるくらいですが、この「八卦」というのもこの『易経』から来ているものになります。
そしてこの『易経』は単なる占いのレベルにとどまるものではなく、中国人の思想体系に大きな影響を及ぼしていたのでありました。
本書冒頭ではまずこの『易経』における「易」とは何なのかということが解説されます。その最初期における「易」は「運命にもて遊ばれる人間が、それに対処する吉凶をあらかじめ知ろうとするうらないの聖書」だったと著者は述べますが、そこから哲学的、思想的に発展していたことが解説されます。
中国思想のベースとなった四書五経を学ぶのは実に刺激的です。まさかここまでインドと比べながら学べるとは思っていませんでした。
やはり比べてみるのは面白いですね。これまで意識していなかったことも改めて見えるようになってきました。
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加地伸行『孝経〈全訳注〉』
「物・心ともに親に尽くすことは、伝統的概念の孝としては、三分の一の内容にすぎず、残りの三分のニを加えてはじめて孝の完成となる」
「孝」といえば親孝行をイメージしてしまいますが、実はその親孝行が「孝」の三分の一の内容にすぎないというのは驚きでした。しかもその残りの三分の二を無視したまま『孝経』というものが語られているのが現状であると著者は指摘します。
そして本書ではその三分の二がいかなるものかということをじっくりと見ていくことになります。そこに宗教的な側面や、親を超えた先祖に対する孝というものが出てくることになります。
また、本書後半ではこの「孝」と仏教の関係性についても語られるのですがこれがまた刺激的です。僧侶の方にもぜひおすすめしたい作品となっています。
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おわりに
以上、私のおすすめ本をご紹介しました。
膨大な数になってしまいましたが、やはり仏教を学ぶのに仏教の本だけを学ぶより、こうして様々な本を読んだ方が新たな発見を得ることができるのではないかと私は感じています。
この一覧記事が皆様のお役に立てますことを願っております。
以上、「中国仏教のおすすめ参考書一覧~時代背景や歴史・思想を学ぶ」でした。
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