『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』~法華経の思想や中国、日本の天台の流れを知れるおすすめ解説書!

仏教の思想5 日本仏教とその歴史

田村芳朗、梅原猛『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』概要と感想~法華経の思想や中国、日本の天台の流れを知れるおすすめ解説書!

今回ご紹介するのは1996年に角川書店より発行された田村芳朗、梅原猛著『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』です。

早速この本について見ていきましょう。

日本の仏教の母ともいうべき、天台。法然、道元、日蓮、親鸞などの鎌倉仏教の創始者はすべて、最澄が叡山に開宗した日本天台に基を発している。その『法華経』にもとづく思想は、日本の文学、芸術にはかりしれない影響を及ぼした。天台の理解なくして、日本仏教、日本文化は語れない。インドで作られた『法華経』の上に、6世紀の中国・天台智顗によって大成された宇宙の統一的世界観。その哲理と、日本で開花した天台本覚思想とを解明する。

Amazon商品紹介ページより
最澄(766あるいは767-822)Wikipediaより

天台といえば私たち日本人は比叡山延暦寺の最澄が開いた天台宗をイメージしますが、その源流は紀元1世紀から2世紀にかけてインドで生まれた『法華経』にあります。『法華経』の教えはインドから中国を経て日本に伝えられました。

本書ではそんな『法華経』の歴史や思想内容について知れるおすすめ作品です。

本書について「はしがき」では次のように述べられています。

天台は日本仏教の母といってよいかもしれない。最澄が七八八年に、叡山に延暦寺をたてて以来、そこは、古代・中世の長い時代を通じて、日本仏教ばかりか、日本文化の生みの地となった。多くの仏教がそこで生まれ、そこで育った。円仁により種を植えられ、源信によって育てられた浄土教は、法然・親鸞によって、叡山の地を離れて、民衆の中に広がっていった。そして天台止観の中に含まれていた禅は、栄西・道元によって、叡山を離れて、純粋に培養され、武士の勃興の時代とあいまって、浄土教とならんで、日本においてもっとも普及した仏教となった。そして、天台の復興者としての情熱にもえた日蓮もこの叡山の地を離れて、自己の思想を日本に広めた。ほとんどの日本の仏教が、そこで生まれ、そこで育ち、しかもそこを離れて日本に広がった。

仏教にたいしてばかりではなく、天台の思想が、特に法華経信仰が、どんなに深く、日本の文学や、日本の芸術に影響を与えていることであろう。私はここで、『枕草子』や、「平家納経」などのことをのみ語っているのではない。おそらく、この天台仏教と、法華経信仰の日本文化にあたえた影響は、人が、ただ形式的に影響を指摘しうる範囲をこえて、はるかに広く、はるかに遠く、及んでいるであろう。

天台思想は、多くの日本仏教や日本の文化を生み出した生みの母である。しかしこの生みの母は、今やどうなっているのか。生みの母は、偉大なる出産を終えて、あまりにも老い、今や死になんなんとしているかに見える。今日天台宗は、浄土真宗や、禅宗はもちろん、同じ平安仏教の名でよばれる真言宗と比べてすら、いちじるしく力の弱い宗派となっている。そしてこの弱い宗派の勢いを反映して、天台の教理にかんする研究は、他の宗派の教理研究と比べて、はるかにおくれている。

この偉大なる日本仏教の母は何であったか。今日の日本人は、それにかんしてほとんど何も知らない。たとえば、日本天台の創造者最澄がどんな人生を送り、どんな思想をもっていたかをわかりやすく説明する著書は、一冊もないといってよい。日本の仏教・文化を生んだ生みの母は今日完全に忘却にさらされたままである。

われわれはこの忘却をもう一度回復しなければならぬ。この日本の仏教および日本の文化の生みの母となった天台仏教の研究なくして、日本の仏教・文化は十分に明らかにされないのである。

角川書店、田村芳朗、梅原猛著『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』P13-14

本書が発行された1996年当時と比べると2024年の今では最澄や法華経に関する書籍もかなり増えてきたように思えます。最澄、空海を主役にした漫画『阿吽』のヒットも象徴的な出来事でしょう。

ですがやはりそうは言っても天台宗そのものやその教義についての参考書となるとなかなか身近には見つからないというのが正直なところかもしれません。そういう面で本書『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』は現在でも天台のおすすめ解説書の筆頭と言うべき存在であると言えるのではないでしょうか。私にとっても本書はこの「仏教の思想シリーズ」の中でも特にお気に入りの作品です。

この作品の素晴らしい点はインドでの法華経成立の歴史から中国での受容、日本への伝播をすっきり学べる点にあります。

法華経が生まれて日本で受容されるまでにどのような変遷があったのかは非常に興味深いです。

そして注目したいのが、上の引用にもありましたように比叡山の天台宗が後の法然、親鸞、栄西、道元、日蓮という鎌倉仏教を生み出す母体となった点です。これら偉大な祖師たちは皆比叡山で天台を学んでいました。なぜ彼らは天台の教えに満足せず新たな仏教を開こうとしたのか、そのことも本書では見ていくことになります。

また、本書では時代背景なども絡めて語られますので、大きな視点から天台仏教を見ていけるのも魅力です。日本仏教の基礎を考える上でも天台宗や法華経を学ぶことは非常に重要であると私も思います。本書はその入り口として最適の一冊です。ものすごく面白いです。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。

また、本書と合わせて次巻の『仏教の思想6 無限の世界観〈華厳〉』もおすすめです。『法華経』と『華厳経』はその後の大乗仏教の展開に決定的な影響を与えた二大巨頭です。両宗派は中国で互いに刺激し合いながら思想を磨き上げて発展してきました。そしてあの奈良の東大寺大仏はまさに『華厳経』の思想が体現されたものです。奈良仏教の政治理念も『華厳経』と密接に関わっています。奈良から平安時代の歴史を知る上でも『華厳経』は非常に重要な存在となっています。本書『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』と合わせて読むことでさらにこの時代の仏教を深く学べますのでぜひおすすめしたいです。

以上、「『仏教の思想5 絶対の真理〈天台〉』~法華経の思想や中国、日本の天台の流れを知れるおすすめ解説書!」でした。

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