『NHKスペシャル 四大文明 中国』~黄河は自然破壊から生まれた?遥かなる中国文明の概要を学ぶのにおすすめ

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『NHKスペシャル 四大文明 中国』概要と感想~黄河は自然破壊から生まれた?遥かなる中国文明の概要を学ぶのにおすすめ

今回ご紹介するのは2000年に日本放送出版協会より発行された『NHKスペシャル 四大文明 中国』です。

早速この本について見ていきましょう。

黄土によって育まれてきたといわれる黄河流域の古代文明。さらに近年多くの遺跡と発掘品によって注目を集める長江流域の文明。多元的な広がりを見せる中国文明の最新の研究成果を、さまざまな角度から丹念に紹介する。

 「黄土が生んだ青銅の王国」。タイトルだけを見ると、「エジプトはナイルの賜物」と同様、自然の恩恵と古代文明の栄光を称えた内容のように思えるが、実はそうではない。四大文明シリーズの最後を締めくくる本書は、新しい切り口でこの文明を見直そうとしている。

 「かつて、中国には象がいた」という衝撃的な話から始まり、豊かな森だった黄河地域が殷、周、秦などの時代を通じていかにして変容していくかが述べられている。現在、黄河は読んで字のごとく、黄色い水が流れる大河で、流域には黄色の大地が広がっている。だが、筆者によると、この河はかつて「河」と呼ばれていたという説もあり、都市形成による環境破壊の深刻さがうかがえる。

   もちろん、この本は環境問題を扱ったものではなく、古代中国が生み出した青銅器製造の技術や甲骨文字、始皇帝が残した遺構など、中国文明の栄光の数々を紹介しているが、筆者が注目しているのは、あくまで森や河といった自然がいかに文明の形成に寄与したか、自然と共生することがいかに素晴らしいことか、という点である。本書は単なる考古学趣味を超越し、歴史を学ぶことの本来の意義を再確認させてくれる。(土井英司)

Amazon商品紹介ページより
中国北部を流れる黄河の流路図 Wikipediaより
青海省を流れる黄河上流 Wikipediaより

私がこの本を読んだのは以前古代インドを学ぶ際に読んだ『NHKスペシャル 四大文明 インダス』がきっかけでした。

この本がとにかく面白かったので、いざこれから中国史を学ぶにあたり、ぜひ今回もこのシリーズから始めようと私はこの本を手に取ったのでありました。

そしてそれは大当たり!この本も期待に違わぬとても面白い一冊でした。

上の本紹介にありますように、この本ではいきなり衝撃的な話から始まります。せっかくですのでその箇所をご紹介します。

木は人々に快適な生活環境をあたえる。今でこそ水気にとぼしい広漠とした華北平原や黄土高原も深い森に覆われていた時代があった。殷周時代における黄河流域の景観が現況とはまったく異なり、緑あふれる美しいゆたかな大地であったことが近年の研究によって判明している。野生動物が生息する広大な森は原始社会の狩猟民に日々の糧をあたえ、木々が蓄えて平野に供給する水は農耕社会の発展をささえた。人々は森のめぐみを存分に享受していたのである。ところが古代社会の大躍進期とされる戦国時代から秦漢時代にかけて、耕作地の拡大や大規模な建設にともなう木材の大量消費によって、華北の森林は大きく減少し、深刻な自然破壊が進行した。その結果、森は人々の居住地から遠ざかり、燃料となる灌木のみがしげる荒れた大地がのこった。森の後退がもたらす災禍が単に木材資源の枯渇にとどまらないことは、現代人もよく知るところである。樹木の剥がされた大地は保水能力が低下し、豊かな森の土壌は容赦なく流されてゆく。河川の水量は安定を欠き、清流は濁流となって飲用にたえなくなる。古代の人々も自らが変えた風土にさいなまれることになった。中国文明が森の文化から生まれながら、森と共存することができなかったことは悲劇であるが、森を失うことによって生じた試練は、結果として文明を育てた。

日本放送出版協会、『NHKスペシャル 四大文明 中国』P12

私はこの箇所を読んで、思わず現代におけるソーラーパネルと森林破壊を思い浮かべてしまいました。

かつて中国には豊かな森林があったにもかかわらず、それらは消費しつくされ、荒れた大地が残るのみ・・・黄河はこうして土砂が流れ込む「黄色い河」となったのでありました。

今日本でも起こりつつある山林のソーラーパネル敷設はまさにその繰り返しではないでしょうか。クリーンエネルギーを謳うソーラーパネルですが、結局山を切り崩し、自然を破壊しているのが実態ではないでしょうか。しかもそのソーラーパネルは中国製がほぼシェアを占めているという・・・。歴史は形を変えて繰り返すとよく言われますが、私は恐ろしくてたまりません。自然と共に生きてきた日本のあり方が今問われているのではないでしょうか。

中国文明を学ぶために手に取った本書ですが、思わぬところで衝撃の事実を知ることになりました。黄河流域がまさか緑豊かな場所だったというのには驚きでした。

また、本書巻末では著名な研究者による座談会も収録されていて、その中でも次の対話がとても印象に残っています。

文明とは何か

井上 文明というのは残酷なものだなと思いますね。いちばん上の本当のいいところだけがぽこっと残って、それをわれわれは文明だ文明だといっているわけですね。

吉村 ピラミッドをつくるような高度な文明ということがよくいわれますし、それは確かにすごいけれども、一を生かしたからああいうものができるんです。九九を生かせば絶対できないですよ。

井上 一〇〇分の一の部分が輝きとして、偉大な文明として残って、残りの九九はナイルの藻屑になっているということですね。

吉村 そうそう。藻屑ですよ。これが偉大な文明とよばれているんです。歴史的にみると、人をたくさん殺した人が英雄とよばれるのですから。

近藤 組織というのはもともとそういう性格をもっているわけです。農村で少し余ったら余分に食べてぐたっと寝ていようかというやつを、とにかくかき集めてきて、モヘンジョ・ダロのような都市の四万人に食べさせて、その四万人のうちの九九パーセント、三万九〇〇〇人以上というのは、ただひたすら朝から晩まで土器や銅器をつくるわけです。朝から晩まで道具をつくるというのが文明で、ではその三万九〇〇〇を越える人たちはどうなんだというと、基本的に農民と同じような扱いになる。それ以外の五〇人とか一〇〇人とかいうグループが、全住民を代表してきらびやかないでたちで何かするのを、外の世界から見たときには、これこそ文明だということになるんです。

吉村 それが文明なんですよ。文明は残酷なんです。

井上 捨てられた九九パーセントの側の気持ちで文明を見ると、見方がまた違ってきますね。

松本 文明とは非文明との対比ですから、明らかに差別なんです。

日本放送出版協会、『NHKスペシャル 四大文明 中国』P218-219

この対談には痺れました・・・!もはや何と言ってよいのかわかりません。現場の最前線で活躍されている先生たちのこの説得力たるや!

私たちは文明というと何か「よいもの、優れたもの」と無意識に考えてしまいがちですがこうした側面もあるのです。これは「文明そのもの」に限らず、宗教や思想に言えることなのではないでしょうか。このことは最近原始仏教を学んでいた私にとってもリアルなものとして感じざるをえませんでした。

いや~刺激的な一冊でした。これは面白いです。以前紹介した『NHKスペシャル 四大文明 インダス』も素晴らしかったですが本書もぜひぜひおすすめしたい逸品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「『NHKスペシャル 四大文明 中国』~黄河は自然破壊から生まれた?遥かなる中国文明の概要を学ぶのにおすすめ」でした。

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