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加地伸行『儒教とは何か』あらすじと感想~死と深く結びついた宗教としての儒教とは。中国人の宗教観を学ぶのにおすすめの解説書

儒教とは何か
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加地伸行『儒教とは何か』概要と感想~死と深く結びついた宗教としての儒教とは。中国人の宗教観を学ぶのにおすすめの解説書

今回ご紹介するのは2015年に中央公論新社より発行された加地伸行著『儒教とは何か』(増補版)です。

早速この本について見ていきましょう。

儒教は宗教というより、単なる倫理道徳として理解されがちだ。
古い家族制度を支える封建的思想という暗いイメージもつきまとう。
しかし、その本質は死と深く結びついた宗教であり、葬儀など日本人の生活の中に深く根を下ろしている。
本書は、死という根本の問題から儒教を問い直し、その宗教性を指摘する。
そして孔子以前に始まる歴史をたどりながら、現代との関わりを考える。
全体を増補し、第六章「儒教倫理」を加えた。

Amazon商品紹介ページより

この本はタイトル通り、儒教とは何かを見ていく作品です。上の本紹介にありますように、儒教といえば宗教というより倫理道徳と見られがちですが、著者によれば儒教こそまさに中国人の宗教に大きな影響を与えたと述べます。

儒教は死と深く結びついており、儀礼、倫理道徳だけで収まるものではないことをこの本で知ることになります。

本書の冒頭で中国人の思考や現世、来世観について興味深いことが書かれていましたのでここに引用します。少し長くなりますが重要な箇所ですのでじっくり読んでいきます。

中国人の思考は、漢字ならびに漢字を使った文章によってなされる。とりわけ漢字が重要である。この漢字は本質的には表意文字である。その表意とは、物の写しのことである。物の写しであるから、まず先に物があり、それに似せた絵画的表現として漢字の字形が生れる。とすると、なによりもさきに、物体(自然的存在)があるということになり、物の世界が優先する。「はじめにことば(神)ありき」ではなくて、「はじめに物ありき」なのである。だから、形而上的世界よりも形而下的世界に中国人の関心がまず向うようになる。こういう思考構造であるから、中国人はものごとに即して、事実を追って考えるという現実的発想になったのである。現実とは何か。それは物に囲まれた具体的な感覚の世界である。このため、感覚の世界こそ中国人にとって最も関心のある世界とならざるをえなかったのである。

中国人が現実的であり、即物的である、ということの根本的理由はここにある。中国人は、現実に密着する五官(五感)の世界をこそ最優先するのである。

五官(五感)の世界、これはこの世のものである。美人を見たい、いい音楽を聴きたい、よい香りをかぎたい、おいしいものを食べたい、気持のよいものにさわりたい—この現世の快楽を措いて、他になにがあろう。これが中国人の現世観なのである。

とすれば、中国人は、快楽に満ちたこの現世に、たとい一分でも一秒でも長く生きていたいと願わざるをえないではないか。来世とか、天国とか、地獄とか、そのような現実感のないフワフワとしたものは、中国人にとって信じがたい虚構の世界であった。

しかし、いくら現世の快楽を尽そうとしても、いずれ必ず死が訪れる。現世をこそ最高とする中国人にとって、これはたいへん辛いことである。インド人やキリスト教徒のように来世や天国を信ずることのできる者にとっては、この世は仮の世にすぎないから、死もまたその過程の一つにすぎない。神仏のおぼしめしと思えば、死の不安も恐怖もない。しかし、現実のこの世しか世界はないと考える中国人にとって、死はたいへんな恐怖である。とすれば、その死を恐くないものとしてなんとか納得できるようにだれかに説明してほしい、と中国人が願うのは当然である。その要求に応えて、中国人に納得できる説明を行なって成功したのが儒教なのである。(中略)

まず結論から先に入ることにする。中国人は、この現世に一秒でも長く生きていたいという現実的願望を持っているから、やむをえぬ死後、なんとかしてこの世に帰ってくることができることを最大願望とせざるをえない。そこで、死後、再び現世に帰ってくることができるという方向で考える。生と死との境界を交通できると考えるわけである。

中央公論新社、加地伸行『儒教とは何か』(増補版)P15-17

この後も魂魄についての考え方も語られるのですが長くなりますのでこの後はぜひ本書を読んで確かめてみて下さい。非常に興味深いお話です。

本書ではこのようにわかりやすく、かつ面白い解説がどんどん語られていきます。非常に読みやすいです。

加地伸行氏の著作については前回の記事で紹介した『孔子 時を越えて新しく』もとてもおすすめです。孔子がどのような人物でどのような人物だったかがわかる素晴らしい伝記です。本作とセットで読めば相乗効果抜群です。ぜひ二冊セットでおすすめしたいです。

ただ、一点だけ気になったのが本書でよく出てくる「本来の仏教は〇〇であるのに、後の仏教は△△だ」という表現です。インドでブッダによって説かれた教えが仏教の本来の教えであり、後の仏教(特に日本仏教)は間違っているというニュアンスで批判されることもあるのですが、この「本来の仏教ではこうだった」という考え方は近年の仏教学の研究によって逆に批判されるようになっています。これまで「本来の仏教」だと考えられていたものがそもそも成立しなくなってきているのです。このことについては長くなってしまいますので以前当ブログでも紹介した『新アジア仏教史02インドⅡ 仏教の形成と展開』『シリーズ大乗仏教 第十巻 大乗仏教のアジア』、新田智通「大乗の仏の淵源」などを参考して頂けたらと思います。

僧侶という立場から一点だけ気になったところをお話しさせて頂きましたが、仏教が儒教の影響を受けて変容していったことについては私も全く異論ありません。仏教に影響を与えた儒教とは何かを知れたこの本はとても刺激的でした。

儒教とは何かに興味がある方にぜひおすすめしたい一冊です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「加地伸行『儒教とは何か』~死と深く結びついた宗教としての儒教とは。中国人の宗教観を学ぶのにおすすめの解説書」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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