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竹内照夫『四書五経入門』あらすじと感想~中国思想の背景を学ぶのにおすすめの解説書。インドとの違いに驚く

四書五経入門
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竹内照夫『四書五経入門』あらすじと感想~中国思想の背景やベースを学ぶのにおすすめの解説書

今回ご紹介するのは2000年に平凡社より発行された竹内照夫著『四書五経入門 中国思想の形成と展開』です。

早速この本について見ていきましょう。

儒教の主要文献である『論語』『孟子』『易経』『春秋』など、いわゆる四書五経に対する正当な評価と、これらの古典を生み出した心と生活態度を解明した好著。

Amazon商品紹介ページより

本書は中国思想の根本ともいえる四書五経のおすすめ参考書です。

四書五経は儒教において特に重要視される書物で、古代から中国思想に巨大な影響を与えてきました。その四書五経は、『論語』『孟子』『大学』『中庸』の四書と、『書経』『易経』『礼記』『詩経』『春秋』の五経で成り立っています。

『論語』『孟子』については以前当ブログでも紹介しましたが、さすがに他の書物までは手を付けることができずにいました。ですが最近中国史の本を改めて読み返していると、やはり仏教を学ぶ上でも中国政治の基本となった儒教の聖典を読まねばならないなという気持ちが強くなってきました。

中国における宗教は政治と非常に強く結びついているというのはこれまで読んできた本でも述べられていたことでした。中国における仏教もそうです。そしてその根本を知るためにも儒教聖典との関係性を知ることは重要なのではないでしょうか。

というわけで私はその四書五経の参考書である本書を手に取ったのでありました。

そして本書を読み始めていきなり驚くことになりました。せっかくですので少し長くなりますがその箇所を引用します。ここで語られるのは中国の世界創造の神話になります。

盤古ばんこ

宇宙の最初、そこには天地も日月もなく、それは暗黒の、混沌たる一つのかたまり、いわば巨大な鶏卵のような物であった。ーやがてその中に生き物が一つ芽ばえ、一万八千年かかって成長をとげ、盤古という神になった。かれは暗黒の中にじっとせぐくまって、生きておった。

ある日、すさまじい音がして突然に卵が割れ、内部の軽くて清らかな成分はふわふわと雲を成し上昇して天空となり、重くて濁った成分は下に沈み固まって大地となった。そこで自然に盤古は突っ立って頭と両手で天を支え、両足で大地を踏みしめる形になった。

さて宇宙は速やかに膨張し、毎日、天は一丈ずつ高くなり、地は一丈ずつ厚くなり、また盤古の身もずんずん大きくなリ、この膨張が一万八千年のあいだ続いた。ー今や、高い青空と広い大地との中間に、とほうもない巨人たる盤古が、天地の柱として突っ立っているのであった。

盤古は、暗く静まりかえった広大な宇宙のただなかに、まさしく孤独のままで、しんぼう強く天空を支え、長い時間を耐えたが、やがて疲れ果て、ついにどさりと大地に倒れ、横たわって死んだ。ー既に天地は固まっていて、この巨人の柱が抜けても崩れなかった。

盤古が死ぬと、そのいまわのきわの声は雷となり、いきは風となり、左目は太陽に、右眼は月に、手足は山々に、血しおは川になるなど、身体の各部がすべてそれぞれに変化して、天地間の万物になった。

五色の石

天地が開け、山川草木や虫魚鳥獣は出そろったが、まだ人間はいなかった。その時、女媧じょかという神が、土を水でこねて、初めて人間を造った。一つ一つ丹念に造っているわけにはゆかないので、しまいには、なわをどろに浸して引き上げ、したたり落ちたどろを人間にした。だから初期に造られたのは上等の人間になリ、あとで造られたのは下賎の人間になった。(中略)

帝俊

人間生活に文明をもたらし、文化を開いた神々は、黄帝こうてい神農しんのう伏羲ふくぎ帝嚳ていこく帝俊ていしゅんしゅん)などであり、「三皇五帝」と呼ばれる諸神もしくは英雄はそれである。そしてこれらの中でも最も重要なのは帝俊である。

帝俊に三妻があった。ひとりは娥皇がこうで、これは三身国を生んだ。その国人はみな一頭三身で、五穀を作り、また虎・豹・熊などを使いならした。もうひとりの妻は義和ぎかで、十人の太陽神を生み、東南の海のはずれに住み、毎日ひとりずつ太陽を洗い上げては空にのぼすのであった。もうひとりの妻は常儀じょうぎで、この人は十二月の月神を生み、西方の野に住んで月神のせわをした。

帝俊には后稷こうしょく義均ぎきんを始め、なお多くの子孫があり、衣食住の法や工芸美術の道を人間に教え、文明を大いに進歩させた。なお帝俊の世には、美しい五彩の鳥が東方の野に舞い遊んでいたが、後世に太平の象徴と認められた鳳凰ほうおうというのは、この鳥の一種である。

平凡社、竹内照夫『四書五経入門 中国思想の形成と展開』P9ー12

中国にもこのような世界創造の神話があるというのは驚きですよね。混沌から神が天と大地、万物を創造し、最後に人間が造られたというのも面白いです。やはり創造神話というのは世界でも共通する点が多いのかもしれません。

インドでもまさに『マヌ法典』でこうした創造神話が語られます。

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しかも神の体がさまざまなものに変化し、人間のランク付けがなされるという点も似ています。なるほど、中国、インドと、共に仏教が隆盛した地でありますが神話的な土壌としては共通するものもあるのかもしれません。インドではこの『マヌ法典』の創造神話が古代だけでなく現代においても大きな影響を与えています。

ですが、本書『四書五経入門 中国思想の形成と展開』ではこの後に驚きの事実が語られます。

神話と経書

以上に述べたのは中国の古代神話の一部分であるが、むかし中国ではこうした怪奇な、、、物語は四書五経のような正統の経書に記録されず、神話伝説の類を収めたものは雑説、、とか小説、、とか呼ばれる著述として扱われた。つまり本格的な学問や教養の対象とするに足リない、雑多な・価値の低い伝承と見られたのである。ー清朝の詩人袁枚えんばいに『子不語しふご』という著書があり、神変怪異の物語の数々を紹介しているが、この書名は『論語』(叙而篇)の、

子不語怪力乱神。(は怪力乱神を語らずー孔子は怪異のこと、荒っぽいこと、理に合わないこと、神秘のこと、これらを話題にすることがなかった)

という文の最初の三字を取ったもので、「孔子さまには嫌われる話ばかり」という意味である。つまりこの書名には、神話伝説の類を編述することについての、編著者の、やや自嘲的な感慨が込められているのである。

しかし、そうは言っても、古代の中国人が先祖からの伝承を尊ばなかったわけではなく、むしろ大いに尊んだがために、先祖の伝承を怪奇不思議の物語のままで保つことに甘んぜず、経書の中に、できるだけ合理化した形で神話を収録したのである。

たとえは、五経の一つたる『書経』は、盤古や女娼などの類の開闢神話をすべて捨て去り、純然たる人間の聖賢たる尭帝・舜帝のことから話を始めている。舜帝はすなわち神話中の帝俊である、ー「『書経』では、舜はすばらしい賢人で、かつ大の孝行ものとして登壇する。そのあらましを言うと、次のようである。

舜と旬・俊

尭帝は良く世を治め、天下太平であったが、年老いて後継者を求める段になると、なかなか候補者が見当たらない。ーそのうち民間に虞舜ぐしゅんという賢人がいると聞いた。

舜は、がん父、ぎん母、ごう弟(わからずやの父、ロやかましい母、なまいきな弟)の家族を良く治めて外にぼろを出さず、その円満な人格は、その住む村里の人々をすっかり感化して、敬慕されていた。

尭帝は舜を召し出し内治外交の要職につけてその手腕を確かめたうえ、二王女をその妻としてめあわせ、後継者と定めた。

舜は即位すると盛んに人材を住用して民治を整え、漢族の勢力範囲をひろげ、特にを重用して中国の河川を改修させ、行政区画を明確にして九州を設定し、各州の地理や物産を詳しく調査させた。ー舜帝は年老いて、南方の視察旅行をしている途中で死んだ。

右のように、『書経』中の舜帝は、賢人で聖王ではあるが、ただの人間にすぎない。『書経』の作者たちは、神話を歴史化し、神々を聖賢として描きなおしたのである。ーこの舜、もしくは俊が、本来は神話的な存在であることは、さきに紹介した説話(それは主として『山海経せんがいきょう』に拠るものであるが)のほか、「股代甲骨文」に照らしても明らかである。

平凡社、竹内照夫『四書五経入門 中国思想の形成と展開』P12-14

「以上に述べたのは中国の古代神話の一部分であるが、むかし中国ではこうした怪奇な、、、物語は四書五経のような正統の経書に記録されず、神話伝説の類を収めたものは雑説、、とか小説、、とか呼ばれる著述として扱われた。つまり本格的な学問や教養の対象とするに足リない、雑多な・価値の低い伝承と見られたのである。」

この指摘には驚きました。なるほど、そういうことだったのですね。

中国史の参考書ではよく「中国思想は現実的で政治的である」ということが説かれますがその意味がようやく腑に落ちた感覚です。

たしかにこれはインドの『マヌ法典』と比べると一目瞭然です。インドでは神話的な伝承が現代に至るまで確固たる力を持っていました。しかしそれに対して中国ではそれらの神話が「とるにたらないもの」と捉えられ、より現実的な記述に書き直されたという歴史があります。この差がインドと中国の宗教思想にも大きな影響を与えているようです。

これは中国仏教を考える上でも非常に重要なポイントになりそうです。神話的・宗教的な世界たるインドと、現実的・合理的な中国では精神的な土壌が全く異なります。その違いが中国の仏教受容においても大きな影響を与えていることは間違いありません。

そうした中国の精神的な土壌を考える上でもこの四書五経を学ぶというのは大きなプラスになるのではないでしょうか。

本書『四書五経入門 中国思想の形成と展開』はそうした四書五経の全体像を掴むためのおすすめの解説書です。私も大いに参考にさせていただきました。これから先私も実際に四書五経を読んでいきたいと思います。

以上、「竹内照夫『四書五経入門』あらすじと感想~中国思想の背景を学ぶのにおすすめの解説書。インドとの違いに驚く」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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