ドストエフスキーの代表作『罪と罰』あらすじと感想~ドストエフスキーの黒魔術を体感するならこの作品
ドストエフスキーの代表作『罪と罰』概要とあらすじ
『罪と罰』は1866年に発表された長編小説です。言わずと知れたドストエフスキーの代表作ですね。
私が読んだのは新潮社出版の工藤精一郎訳の『罪と罰』です。
早速この本について見ていきましょう。
鋭敏な頭脳をもつ貧しい大学生ラスコーリニコフは、一つの微細な罪悪は百の善行に償われるという理論のもとに、強欲非道な高利貸の老婆を害し、その財産を有効に転用しようと企てるが、偶然その場に来合せたその妹まで殺してしまう。この予期しなかった第二の殺人が、ラスコーリニコフの心に重くのしかかり、彼は罪の意識におびえるみじめな自分を発見しなければならなかった。(上巻)
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不安と恐怖に駆られ、良心の呵責に耐えきれぬラスコーリニコフは、偶然知り合った娼婦ソーニャの自己犠牲に徹した生き方に打たれ、ついに自らを法の手にゆだねる。―ロシヤ思想史にインテリゲンチャの出現が特筆された1860年代、急激な価値転換が行われる中での青年層の思想の昏迷を予言し、強烈な人間回復への願望を訴えたヒューマニズムの書として不滅の価値に輝く作品である。(下巻)
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この作品はラスコーリニコフという青年が金貸し老婆とその妹を殺してしまい、そこから彼がどんな心理的葛藤をたどっていくのかというのがメインの筋書きです。
巻末の解説では『罪と罰』がどのような要素を持つ作品であるのか、次のように記されています。
『罪と罰』について
これはいろんな要素をもつ作品である。まず推理小説的な要素。これは犯人ラスコーリニフと予審判事ポルフィーリィの知的対決という形をとる。犯人は読者にはわかっており、それを予審判事が追いつめてゆくという『刑事コロンボ』の原図である。対決は三度あり、緊迫した腹の探り合いの場面がくりひろげられる。
次に社会風俗画的な要素。この小説の主人公はぺテルブルグであるという社会学者もいるほどで、一八六〇年代の夏のぺテルブルグの下町の様子とそこに住む人々の風俗がリアルに描かれ、その面からも貴重な資料となっている。
更に愛の小説の要素。これは殺人犯ラスコーリニコフと聖なる娼婦ソーニャの、愛を奥底に秘めた、信念の対決という形をとる。更に絶望的ニヒリスト、スヴィドリガイロフとラスコーリニコフの妹ドゥーニャの愛憎、微妙な心理の葛藤もある。
次に当然のことながら思想小説の要素である。こうしていろんな読み方ができるために、読み進むうちに異常な熱気に感染し、ひきこまれて読み終ると、思わず考えこませられてしまう。これはそういう小説である。
新潮社 工藤精一郎訳『罪と罰』下巻P492
※一部改行しました
『罪と罰』はこの解説で述べられますように、推理小説的要素、社会風俗画的要素、愛の要素、思想の要素、心理的要素など、とにかく盛りだくさんな小説です。
しかもただ単に様々な要素があるだけではなく、そのひとつひとつがまた深いこと深いこと・・・!
工藤氏も述べますように「読み進むうちに異常な熱気に感染し、ひきこまれて読み終ると、思わず考えこませられてしまう」、これに尽きます。
主人公ラスコーリニコフの苦悩や様々な登場人物が織りなす物語が尋常ではない迫力で描かれます。
ドストエフスキーがこの小説を書き上げた時、彼の生活はどん底状態でした。
ここでは詳しくお話し出来ませんが、「まるで熱病のようなものに焼かれながら」精神的にも肉体的にも極限状態で朝から晩まで部屋に閉じこもって執筆していたそうです。
もはや狂気の領域。
そんな怪物ドストエフスキーが一気に書き上げたこの作品は黒魔術的な魔力を持っています。
この魔力をなんと説明したらよいのかわからないのですが、とりあえず、読めばわかります。百聞は一見に如かずです。騙されたと思ってまずは読んでみてください。それだけの価値はあります。黒魔術の意味もきっとわかると思います。これはなかなかない読書体験になると思います。
感想
これまでドストエフスキー作品の概要やあらすじ、感想をブログにまとめてきましたが、いよいよこの『罪と罰』からドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)へと突入します。
ただでさえドストエフスキーの作品を簡潔にまとめるのは難しいのですがここから先の五大長編はそれにさらに拍車がかかります。
紹介したいポイントも多く、その魅力を余すことなく伝えようとすればとてもじゃありませんがひとつの記事で語り尽くすことはできません。
思想的な面やその裏話まで立ち入ればそれこそあっという間に1冊の本が書けてしまうほどになるのではないでしょうか。
それほどここから紹介していく五大長編は濃厚濃密な作品となっています。
そのため、泣く泣くではありますが「概要とあらすじ、感想」の記事ではあえて内容や背景にはそこまで深くは踏み込まずに書いていこうと思います。おそらく、書き始めればドツボコースまっしぐらな気がします。
詳しい内容や解説、作品をより楽しむためのポイントは後に改めて記事を書いていこうと考えていますのでしばし時間を頂きたいと思います。
ぜひこの作品を一読してみてください。読めばわかります。この本が名作として読み継がれている理由が納得できると思います。ぜひぜひ皆さんもドストエフスキーの黒魔術にかかってみてはいかがでしょうか。
以上、「ドストエフスキーの代表作『罪と罰』あらすじと感想~ドストエフスキーの黒魔術を体感するならこの作品」でした。
※2024年1月19日追記
『罪と罰』はフランスの文豪バルザックの『ゴリオ爺さん』に強い影響を受けています。
本作『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフと『ゴリオ爺さん』の主人公はラスティニャックはかなり似ています。
ラスコーリニコフは成功を目指して地方から出てきた貧乏学生で、そのどん詰まりの状況を打破するために彼は意地悪な金貸し老婆を殺し、金を得ようとしました。
それに対しラスティニャックも弁護士になるために華の都パリに上京してきた青年でした。そしてラスコーリニコフと同じように、地道に勉強してもどん詰まりであることを感じていたのです。そこでもっと手っ取り早く成功するにはどうしたらいいのか。そういう考えがやがて彼の頭を占めるようになっていきました。
ここから二人の道は違っていきます。『罪と罰』と『ゴリオ爺さん』を読み比べてみると、ロシア的なるものとパリ的なるものの違いが感じられて非常に興味深いです。このことについて考えたのが以下の記事です。ぜひご参照頂けましたら幸いです。
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