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「ルーゴン・マッカール叢書」第1巻『ルーゴン家の誕生』概要とあらすじ
『ルーゴン家の誕生』はエミール・ゾラが24年かけて完成させた「ルーゴン・マッカール叢書」の記念すべき第1巻目にあたり、1871年に出版されました。
私が読んだのは論創社出版の伊藤桂子訳の『ルーゴン家の誕生』です。
この本は20巻におよぶ叢書のまさしく起源であり、後の19巻に登場する人物すべての始まりがここにあります。
ルーゴン・マッカール家家系図
こちらの家系図を見て頂ければそれも一目瞭然です。
ゾラの名作『居酒屋』、『ナナ』、『ジェルミナール』もこの書がベースになって展開されているのです。
ただ、恐るべきことにゾラはそれぞれの作品が単体で読んでも全く問題なく読めるように物語を作っています。
ですので、代表作である『居酒屋』などだけを読んでもまったく問題ないのですが、この『ルーゴン家の誕生』を読むことでそれぞれの作品がさらに深く理解できるようになります。
そういう意味でもこの書は「ルーゴン・マッカール叢書」の要と言える位置づけになります。
さて、訳者あとがきを参考にこの作品のあらすじを見ていきましょう。
物語は一八五一年一二月七日、サン=ミットル平地で蜂起軍に参加しようとするシルヴェールの登場で始まり、一二月一四日、同じ場所でシルヴェールが処刑されたところで終わる。この平地はかつて墓であった。
墓は満杯になり町の反対側に新しく作られることになり、遺骨の発掘が行われ、何の宗教的儀式もないまま運ばれていった。長い間、旧墓地は放置され自然の浄化作用を待ち、やがて公共の空き地として住民に利用されるようになった。
聖なる地が俗化し、蘇り、新しいサイクルが始まった。まさに「ルーゴン=マッカール叢書」二〇巻の巻頭を飾るにふさわしい設定である。
※一部改行しました
論創社出版 伊藤桂子訳『ルーゴン家の誕生』P393
この小説ではルーゴン=マッカール家がいかに誕生し、そこからどのようにフランス中に広がっていったかが描かれていて、その始まりの舞台が見捨てられた墓地というのが何とも意味深いものがあります。
そして、この物語の語られる時代はフランス第二帝政がまさに始まらんとしていく時代です。
このフランス第二帝政樹立の混乱に乗じてルーゴン=マッカール家は彼らの住むプラッサンの町での覇権制圧を狙い、 様々な策略をこらし 一族内でも騙し騙されの骨肉の争いを繰り広げます。
作中ではこの一族の気風を絶妙な言葉で表現しています。
「もしどこかの曲がり角で運命の女神に出会ったら、強姦してやろうと身構えていた。まるで騒動に乗じて、追いはぎをしようと待ち伏せている盗賊家族だった。」
凄まじい表現ですよね。よくこんなフレーズが思いつくものだなと私は度肝を抜かれてしまいました。これがルーゴン=マッカール家の人間たちを最も言い当てたものなのです。
後の作品に登場するルーゴン=マッカールの血塗られた一族はこうした人間たちが繰り広げる争いの中から生まれていくのです。
感想―ドストエフスキー的見地から
ドストエフスキー見地からとは言いつつも、今回の作品ではそこまでドストエフスキーに関する感想はありません。
ただ、1848年フランス二月革命から1852年の第二帝政までのフランスの混乱ぶりがよくわかる作品でした。
誰がどちら側に与する者なのか。誰が裏切り者なのか。誰が村の権力者になるのか。
全てが混沌とした状態。
「真面目に、誠実に」なんてものは通用しません。あっという間にころころ変わる政治体制、権力の風向き、これらを読む力がなければただただ強者にいいように食われてしまう。
そんな難しい時代だったというのがこの作品を通して感じたものでした。
ですが、だからといって勝つためには何をしてもいいのかと言われたらそれは違いますよね。
そこは当然ゾラもわきまえています。
しかしゾラはそういうことを作中ではあえて言いません。
彼はあくまで科学実験のごとく、客観的にその物語を描いていくのみです。
つまり、悲惨な争いをただただ正確に描いていくのみなのです。
作中で「だからこういう風になってはいけない。人間は〇〇すべきで、そうすればよりよい人生があるのだ」という教訓めいたことは言わないのです。
ここから先、「ルーゴン=マッカール叢書」はひたすら社会の悲惨を描き続けます。
ゾラは社会の悲惨を読者に赤裸々に暴き出します。
ただただ、見せつけるのです。
そこから何を感じ、どう生きるべきかは読者次第。
それが彼の立場なのです。
これはドストエフスキーとは似ているようでやはり違います。
ドストエフスキーは私たちに答えは押し付けませんが問いを投げかけます。いや、もっと正確に言えば、絶対的な答えのない問いを私たちに投げかけます。
彼は私たちに圧倒的な迫力を以て問いをぶつけてくるのです。
しかし、ゾラは問いを投げかけることすらしません。ただ、悲惨な現実を見せるだけです。
作家によって物語るスタイルが違うことが実感できて非常に面白い発見でした。
『ルーゴン家の誕生』は物語としても非常に面白いです。前にもお話ししましたが映画のように読めてしまいます。脳内で映像が浮かんでくるようです。
戦いのシーン、そしてシルヴェールの処刑のシーンは息を飲むほどです。
読んでいて「あぁ~さすがですゾラ先生!」と 何度心の中で うめいたことか。もう言葉のチョイス、文章のリズム、絶妙な位置で入る五感に働きかける表現、ゾラ節全開の作品です。正直、私は『居酒屋』や『ナナ』よりもこの作品の方が好きです。とても面白かったです。
以上、「ゾラ『ルーゴン家の誕生』あらすじ解説~衝撃の面白さ!ナポレオン第二帝政の始まりを活写する名作!全てはここから始まった!」でした。
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