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ユゴー『九十三年』あらすじと感想~人間愛はすべてに勝るのか!フランス革命期の混乱を描いたユゴー渾身の名作!

九十三年
目次

人間愛はすべてに勝るのか!フランス革命期の混乱を描いたユゴー渾身の名作『九十三年』の概要、あらすじ

ヴィクトル・ユゴー(1802-1885)Wikipediaより

ユゴーの『九十三年』は1874年に出版された作品です。

私が読んだのは潮出版社の辻昶訳の『九十三年』です。

早速あらすじを見て参りましょう

フランス革命たけなわの1793年、ヴァンデの反乱を舞台に、信条と使命感に生きる群像の葛藤を描きながら、人類愛と人間の進歩への希望を高らかに謳いあげた歴史小説。

潮出版社HPより https://www.usio.co.jp/books/works/14301

1793年は1789年に始まったフランス革命が進み、フランス国王ルイ16世がギロチンで処刑され、ロベスピエール、マラ、ダントンなどによる恐怖政治が始まりだした年でありました。

自由・平等・友愛を掲げた革命が、その革命を守るために今度は互いに互いを敵だと密告し合いギロチン送りにする恐怖の時代に突入する恐るべき時代だったのです。

ユゴーはそんな悲惨な内紛が起こっていた1793年を題材にこの小説を書き始めます。その内容について解説では次のように述べられています。

『九十三年』を読んで我々がまず感じるのは、進歩・保守の両精神、人間愛の精神などの凄まじい葛藤である。この小説の中には、ラントナック、シムールダン、ゴーヴァンという三人の人物が登場する。そしていろいろな事件や争いが繰り広げられていく。「九十三年」とはもちろん、フランス革命がたけなわだった一七九三年であり、この時に活躍する三人の登場人物は歴史小説を提供するように見えよう。しかしこれは歴史小説というよりむしろ革命観の諸問題を提供した思想小説である。ラントナックは保守的な王統派の精神の化身であり、シムールダンは革命の冷厳な精神を代表する。そしてゴーヴァンは寛容と人間愛に立った革命精神の典型として描かれている。この意味で、この小説は歴史小説というよりも思想小説としての色彩が濃い。

潮出版社 辻昶訳『九十三年』P382

残虐で凄壮な革命のシーンが随所に繰り広げられ、最後には共和派のふたりの指揮者が死んでいくこの小説は、一見したところ、『ノートル=ダム・ド・パリ』と同様に宿命の恐ろしさを描いた作品のように見えるかもしれない。しかしここにはあくまでも「良心」という剣を手にして、暴虐な運命と戦う人間の姿が描かれているのである。子供たちを救ったラントナックを救うべきかどうかについて、「良心」に苦しめられるゴーヴァン(第三部第六編、二)はジャン・ヴァルジャンが『レ・ミゼラブル』の中で、やはり良心を前にして苦しむ「頭の中の嵐」(第一部第七編、三)を思い起こさせる。

潮出版社 辻昶訳『九十三年』P382

感想―ドストエフスキー的見地から

この作品はドストエフスキーとは直接の関係はありません。

しかし上の引用にありますように『「良心」という剣を手にして、暴虐な運命と戦う人間の姿』がこの作品の大きなテーマとなっています。

本文中でも次のようなシーンがあります。

 ぎりぎりの立場に立った場合、進むにせよ、退くにせよ、これからどういう道をたどるべきか、われとわが胸に言いきかせたり、自問自答したりしない人間がこの世にひとりでもいるだろうか?

 ゴーヴァンはいましがたひとつの奇跡に立ち会ったのだ。

 地上の戦いのみではなく、天上の戦いがおこなわれたのだ。

 悪に対する善の戦いだ。

 世にもおそろしい心が、ついに敗れ去ったのだ。

 ラントナックが暴力、迷妄、無分別、不健全な頑固さ、傲慢、利己心などなど、人間のありとあらゆる悪徳を一身に備えた男だっただけに、ゴーヴァンがさきほど目にしたのは、まさにひとつの奇跡だったのである。

 人間愛の精神が人間に打ち勝ったのだ。

 人間愛の精神が人でなしの精神を打ち破ったのだ。(中略)

 この戦闘くらい、悪魔と神とがはっきりと姿を見せたことはない。

 この戦闘の舞台となったのは、ひとりの人間の良心だった。

 ラントナックの良心である。

潮出版社 辻昶訳『九十三年』P332-334

「悪魔と神の戦い。その舞台となるのがひとりの人間の良心だった」という言葉。

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』でも似たような言葉が出てきます。

『罪と罰』の主人公、ラスコーリニコフが苦しむのも彼の心において善と悪の戦いが行われているからでありました。

これはまさしく人類普遍の問題なのでしょう。

それをユゴーはフランス革命下のヴァンデの反乱を舞台に描き、ドストエフスキーはペテルブルグの老婆殺しの青年や、カラマーゾフ一家をめぐる事件を背景に描いていきます。

そしてユゴーはこの作品で人間愛こそがすべてに勝り、そこに救いがあることを宣言するのです。

『九十三年』はユゴーの思想がぎゅっと濃縮された作品です。

以上、「『九十三年』人間愛はすべてに勝るのか!フランス革命期の混乱を描いたユゴー渾身の名作!」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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