MENU

(6)パリ、バルザックゆかりの地巡り~ブローニュの森、バルザックの家、ペール・ラシェーズ墓地へ

目次

【パリ旅行記】(6)パリ、バルザックゆかりの地巡り~ブローニュの森、バルザックの家、ペール・ラシェーズ墓地へ

さて、前回の記事でナポレオンの墓についてお話ししたが、今回の記事ではそのナポレオンの影響を強く受けたバルザックゆかりの地を紹介していきたい。

オノレ・ド・バルザック(1799-1850)Wikipediaより

バルザックは「彼が剣で始めたことを自分はペンで成しとげよう。」という言葉を座右の銘にするほど、ナポレオン的成功を夢見ていた。己の才覚によって成り上がることを何よりも望み、まさに彼の人生は「小説は現実より奇なり」を地で行く凄まじいものだった。

彼の生涯を知るにはシュテファン・ツヴァイクの『バルザック』という伝記がおすすめだ。彼の豪快過ぎる生涯をこの作品で堪能することができる。

バルザック(上) (中公文庫 ツ 2-1)

バルザック(上) (中公文庫 ツ 2-1)

フランス社交界で名を成すために莫大な借金をし、いい商売があると思い立ったらすぐに莫大な投資をするもすぐに失敗。その借金を返すためにひたすら小説を書き続け、時には睡眠時間もほぼないままにどろどろの特製超濃厚コーヒーで頭を強制的に目覚めさせ、数週間も執筆し続けるという狂気の行動を繰り返す・・・。

この他にも数え切れないほどのエピソードがあり、どれも度肝を抜かれるようなものばかり。

おそらく、ドストエフスキー以上にぶっ飛んだ個性を持った人間なのではないだろうか。

さて、そんなバルザックの代表作は何と言っても『ゴリオ爺さん』だ。

あわせて読みたい
バルザック『ゴリオ爺さん』あらすじと感想―フランス青年の成り上がり物語~ドストエフスキー『罪と罰』... この小説を読んで、私は驚きました。 というのも、主人公の青年ラスティニャックの置かれた状況が『罪と罰』の主人公ラスコーリニコフとそっくりだったのです。 『ゴリオ爺さん』を読むことで、ドストエフスキーがなぜラスティニャックと似ながらもその進む道が全く異なるラスコーリニコフを生み出したのかということも考えることが出来ました。

そしてその続編である『幻滅』もとても面白い作品でぜひともお薦めしたいのだが、まずはこれらの作品にも出てくるブローニュの森を歩いていくとしよう。

ブローニュの森はパリの西側に位置する。エッフェル塔や凱旋門に近いエリアに広がる大きな公園だ。

公園の外の道路から見ると緑豊かな公園というより、もはや森のような雰囲気。やはりブローニュの森と言われるだけのことはある。

中は散歩道が整備されていて、緑豊かな空気を味わいながら散策できる。

さらに進むといよいよ森の中を歩いているような雰囲気になってくる。

その先には池があってこれがまたのどかでほのぼのとした気分になれる素晴らしい場所だった。

私は時間の都合上、ブローニュの森のほんの一部分だけしか歩くことができなかった。ここには有名なロンシャン競馬場やテニスの全仏オープンが開かれるローランギャロスもある。ロンシャン競馬場はゾラの『ナナ』でも出てくるのでぜひとも行きたい場所ではあったが泣く泣くあきらめた。

このブローニュの森やシャンゼリゼを上流階級の女性たちは馬車で通っていたわけである。そしてその煌びやかな女性達を狙って『ゴリオ爺さん』の主人公ラスティニャックは成り上がりを目指した。そんな19世紀前半のパリのギラギラした社交界の一世界がここにあったのである。

このことについてはフランス文学者鹿島茂先生の著書『馬車が買いたい!』『明日は舞踏会』などで非常にわかりやすく説かれているのでぜひおすすめしたい。パリの社交界というと私たちは憧れの目で見てしまいがちだが、想像以上に生々しく、弱肉強食の凄まじい世界が展開されていたことにきっと驚くと思う。ものすごく刺激的な作品なのでぜひ『ゴリオ爺さん』と合わせて読んで頂けたら幸いだ。

さて、ブローニュの森の次に向かったのがバルザックの家だ。ブローニュの森から歩いて行ける距離にある。

入り口はいたってシンプル。入場して階段を下ると実際にバルザックが住んでいた家がそこにある。

こちらがバルザックの家。こう見ると一階建ての平屋に見えるが、ここは建物の最上階。

このエリアは急な坂が多く、その坂に沿って建物が作られているのでこうした変則的な入り口になったのだそう。そしてこの家は現在バルザックの博物館として使用されている。

中に入るとバルザックの生涯についての解説や様々なバルザック像が迎えてくれる。

そしてバルザックといえばやはりこれ。特注のステッキだ。上流階級の社交界に仲間入りしたくてたまらなかったバルザックはものすごくオシャレに気を遣っていた。そのバルザックが特に念入りにこしらえたのがこの特注のステッキだったのだ。

ずんぐりむっくりでものすごく男くさいバルザックがこんなかわいいステッキを愛用していたというのは何ともアンバランスなような気もする。当時バルザックを風刺する絵もたくさん出回ったがその時にはたいがいこのステッキが槍玉に挙がっていたそうだ。

近くで見てみるとかなり繊細に作られているのがわかる。こうして見ると、結構オシャレな気がしてきた。ステッキ全体をごてごてに飾るのではなく、さりげなさを演出しているのがいい。敵ややっかみの多かったバルザックだからこそこんなにも揶揄されてしまったが、このステッキ自体はかなり洒落たものなのではないかと個人的には思う。

そして何と言ってもこれだ。バルザックは特濃のコーヒーを愛飲し、徹夜で鬼のように執筆を続けていたことで有名だ。おそらくこの異常なコーヒー量も彼の死に大きな影響を与えているのではないかと思う。コーヒー好きの私にとって、バルザックのコーヒー好きはやはり見逃せない。バルザック愛用のコーヒーポッドを見れたのはこの博物館で最も嬉しかった瞬間だった。

さらに進んでいくと、バルザックの書斎があった。窓を背に置かれたシンプルな机と椅子がものすごく格好良かった。まさに文豪の迫力。

机の上には彼の原稿が展示されていた。別の展示室には彼の原稿について多数展示されていたので右にそれを並べてみた。

バルザックは原稿を出版する際、何度も何度も校正を要求することで有名だった。しかもそれが膨大な量で何度も何度もそれが繰り返されるためよく出版社ともめていたそう。上の写真を見て頂ければその雰囲気も伝わるのではないだろうか。

書斎を別の角度から

さて、ここまでブローニュの森とバルザックの家を訪れたが、最後にバルザックのお墓があるペール・ラシェーズ墓地をご紹介しよう。

ペール・ラシェーズ墓地は数多くの有名人が葬られていることで有名だがとにかく広い!そして道がわかりにくい。ガイドがいなければ私もバルザックのお墓に行くまでかなり苦戦したことだろう。

やはり由緒ある家のお墓が多いからか、どこを見てもとにかく墓が立派。

坂や階段もかなり多いので歩くには体力を要する。

バルザックのお墓に到着。思ったより小さめのサイズで驚く。他のお墓が巨大すぎて感覚が狂ってしまったようだ。

ゾラ、ユゴー、ヴォルテール、ルソー、ナポレオンに続き、バルザックのお墓にも参りすることができた。

そしてこのペール・ラシェーズ墓地にはもうひとり、大切な人が眠っている。

それが『レ・ミゼラブル』の主人公、ジャン・ヴァルジャンだ。

ジャン・ヴァルジャンはこの墓地のどこかにひっそりと葬られた。これまでお話ししてきた通り、私は『レ・ミゼラブル』が大好きだ。その愛すべき主人公ジャン・ヴァルジャンが眠っているのがこのペール・ラシェーズ墓地なのだ。

もちろん、それは小説の話でフィクションだ。だが私にとってはそれでもここは大切な場所なのである。このどこかにジャン・ヴァルジャンはたしかにいる。私はジャン・ヴァルジャンにもお参りしてこの墓地を後にしたのであった。

続く

次の記事はこちら

あわせて読みたい
(7)パリ下水道博物館~レミゼのジャン・ヴァルジャンが踏破した怪獣のはらわたを体験!その他ゆかりの... 私の大好きな『レ・ミゼラブル』の主人公ジャン・ヴァルジャンはパリの下水道を踏破しマリユスを救います。 ですが当時のパリはすさまじい悪臭と汚物の都市として知られていました。しかも下水道はほとんど迷宮と化し人が立ち入ることさえ危険な魔窟でした。ジャン・ヴァルジャンが踏破したこの闇と汚染の世界を少しでも感じられるならと私はこの博物館に向かったのでありました。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
(5)ナポレオンの墓があるアンヴァリッドへ~知れば知るほど存在感が増すナポレオンというカリスマにつ... パンテオンでルソーやヴォルテール、ゾラ、ユゴーのお墓参りをした後に私が向かったのはアンヴァリッド。ここにはあのナポレオンが葬られています。 それにしても、アンヴァリッドの堂々たる立ち姿にはため息が出るほどです。これほどの建築物がある意味ナポレオンの墓石なわけです。そう考えるとナポレオンという人物がいかに巨大な人物だったかを思い知らされます。 この記事ではそんなナポレオンについてお話ししていきます。

関連記事

あわせて読みたい
上田隆弘『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一... この旅行記は2022年に私が「親鸞とドストエフスキー」をテーマにヨーロッパを旅した際の記録になります。 ドイツ、スイス、イタリア、チェコとドストエフスキー夫妻は旅をしました。その旅路を私も追体験し、彼の人生を変えることになった運命の旅に思いを馳せることになりました。私の渾身の旅行記です。ぜひご一読ください。
あわせて読みたい
【ローマ旅行記】『劇場都市ローマの美~ドストエフスキーとベルニーニ巡礼』~古代ローマと美の殿堂ロ... 私もローマの魅力にすっかりとりつかれた一人です。この旅行記ではローマの素晴らしき芸術たちの魅力を余すことなくご紹介していきます。 「ドストエフスキーとローマ」と言うと固く感じられるかもしれませんが全くそんなことはないのでご安心ください。これはローマの美しさに惚れ込んでしまった私のローマへの愛を込めた旅行記です。気軽に読んで頂ければ幸いです。
あわせて読みたい
上田隆弘『秋に記す夏の印象~パリ・ジョージアの旅』記事一覧~トルストイとドストエフスキーに学ぶ旅 2022年8月中旬から九月の中旬までおよそ1か月、私はジョージアを中心にヨーロッパを旅してきました。 フランス、ベルギー、オランダ、ジョージア・アルメニアを訪れた今回の旅。 その最大の目的はトルストイとドストエフスキーを学ぶためにジョージア北部のコーカサス山脈を見に行くことでした。 この記事では全31記事を一覧にして紹介していきます。『秋に記す夏の印象』の目次として使って頂けましたら幸いです。
あわせて読みたい
バルザック『ウージェニー・グランデ』あらすじと感想~守銭奴の父と素朴な愛を貫く高潔な娘の物語 この作品はドストエフスキーと非常に関係の深い作品で、1843年、彼が22歳の頃、この作品をロシア語に翻訳して出版しようとしていた作品でした。 ドストエフスキーは若い頃からバルザックに傾倒していて、強い影響を受けています。 その彼がロシア語に翻訳する作品として目を付けたのがこの『ウージェニー・グランデ』だったのです。 この作品は強烈な守銭奴のフェリックス爺さんとその娘のウージェニーを中心にした物語で、金銭に象徴される物欲と精神的な高潔との戦いが描かれています。
あわせて読みたい
バルザック『あら皮』あらすじ解説と感想~まるで仏教説話!欲望は実現するとつまらない? この作品は欲望がすべて叶うとわかった瞬間、人生が一変し、欲望が叶う度に残りの命が減っていくという運命を背負ってしまった青年の物語です。 私がこの作品を読んで真っ先に思い浮かんだのはブッダの生涯のとあるお話でした。 この記事ではそんな仏教説話とのつながりについてもお話ししていきます。
あわせて読みたい
バルザック『幻滅』あらすじと感想~売れれば何でもありのメディア・出版業界の内幕を赤裸々に暴露!衝... この作品は19世紀中頃のフランスメディア、出版業界の実態を暴露した驚くべき作品です。バルザック自身が出版業界で身を立てていたこともあり彼はこの業界の裏も表も知り尽くしています。この作品ではそんなバルザックの容赦ないメディア批判が展開されます。もちろん、それは単なる批判ではなくバルザックの悲痛な願いでもあります。本当にいいものがきちんと評価される世の中になってほしいという思いがそこににじみ出ています。
あわせて読みたい
ドストエフスキーも愛した『レ・ミゼラブル』 レミゼとドストエフスキーの深い関係 ドストエフスキーは10代の頃からユゴーを愛読していました。 ロシアの上流階級や文化人はフランス語を話すのが当たり前でしたので、ドストエフスキーも原文でユゴーの作品に親しんでいました。 その時に読まれていた日本でもメジャーな作品は『ノートル=ダム・ド・パリ』や『死刑囚最後の日』などの小説です。 そんな大好きな作家ユゴーの話題の新作『レ・ミゼラブル』が1862年にブリュッセルとパリで発売されます。 ちょうどその時にヨーロッパに来ていたドストエフスキーがその作品を見つけた時の喜びはいかほどだったでしょうか!
あわせて読みたい
『レ・ミゼラブル』おすすめ解説本一覧~レミゼをもっと楽しみたい方へ 原作もミュージカルもとにかく面白い!そして知れば知るほどレミゼを好きになっていく。それを感じた日々でした。 ここで紹介した本はどれもレミゼファンにおすすめしたい素晴らしい参考書です。
あわせて読みたい
鹿島茂『馬車が買いたい!』あらすじと感想~青年たちのフレンチ・ドリームと19世紀パリの生活を知るな... この本ではフランスにおける移動手段の説明から始まり、パリへの入場の手続き、宿探し、毎日の食事をどうするかを物語風に解説していきます。 そしてそこからダンディーになるためにどう青年たちが動いていくのか、またタイトルのようになぜ「馬車が買いたい!」と彼らが心の底から思うようになるのかという話に繋がっていきます。 ものすごく刺激的な作品です!おすすめ!
あわせて読みたい
鹿島茂『明日は舞踏会』あらすじと感想~夢の社交界の実態やいかに!?パリの女性たちの恋愛と結婚模様を... 華やかな衣装に身を包み、優雅な社交界でダンディー達と夢のようなひと時を…という憧れがこの本を読むともしかしたら壊れてしまうかもしません。 社交界は想像以上にシビアで現実的な戦いの場だったようです。 当時の結婚観や男女の恋愛事情を知るには打ってつけの1冊です。 フランス文学がなぜどろどろの不倫や恋愛ものだらけなのかが見えてきます。
あわせて読みたい
鹿島茂『文学的パリガイド』あらすじと感想~フランス文学ファンにおすすめのパリガイドブック!これを... この本は当ブログでもお馴染み、フランス文学者鹿島茂氏によるパリガイドになります。 そしてこの作品の特徴は何と言っても、パリの文学ゆかりの地を鹿島氏の名解説と共に見ていくことができる点にあります。 パリの名所ひとつひとつを文学と絡めてお話しして下さるこの本はフランス文学ファンにはたまらない作品となっています。 これを読めばパリに行きたくなること間違いなしです。ぜひぜひおすすめしたい一冊です。
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次