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鹿島茂『明日は舞踏会』概要と感想~夢の社交界とパリの女性たちの恋愛と結婚模様を解説!
今回ご紹介するのは1997年に作品社より発行された鹿島茂著『明日は舞踏会』です。
早速この本について見ていきましょう。
もしも十九世紀のパリで生活できるなら、一度は華麗なドレスに身をつつみ、舞踏会でワルツを踊ってみたい…。乙女たちの永遠の夢舞踏会、優美可憐な衣装を競いあう視線の戦場の風俗を、「二人の若妻の手記」を元に探る。
チュイルリ公園の果たしていた機能とは、―貴婦人にとっては、どれほど多くのダンディーが審判を仰ぎに自分のところにやってくるかを知る人気投票に近いものだった。ようするに、この当時のチュイルリ公園は、「見る」/「見られる」という、いかにもフランス的な男女の恋愛ゲームの一回戦が毎日繰り広げられている視線の競技場のようなものだったのである。乙女たちの永遠の夢。女たちの視線の戦場。
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前回の記事で紹介した『馬車が買いたい!』ではパリの若い青年たちの成り上がりストーリーについて書かれていましたが今作はその女性版になります。
女性にとって、舞踏会は戦場です。ここでの立ち振る舞いがその後の生活に決定的な影響を与えかねません。
華やかな衣装に身を包み、優雅な社交界でダンディー達と夢のようなひと時を…という憧れがこの本を読むともしかしたら壊れてしまうかもしません。
社交界は想像以上にシビアで現実的な戦いの場だったようです。
当時の結婚観や男女の恋愛事情を知るには打ってつけの1冊です。
フランス文学がなぜどろどろの不倫や恋愛ものだらけなのかが見えてきます。
フランスといえば奥手な日本人にはわからない、恋愛上手というようなイメージがありますがその秘密もこの辺に隠されているように思えてきます。
イラストもたくさん挿入されており、とても楽しく読んでいける本なのでフランス社交界に興味のある方には特におすすめの一冊です。
以前紹介した『職業別 パリ風俗』、そして前回の『馬車が買いたい!』と合わせて読むことで19世紀フランスの人々の生活がかなりくっきりと浮かび上がってきます。鹿島氏の著作のいいところはとにかく面白いという点です。語り口がもう素晴らしいです。好奇心がそそられ、もっと知りたいという思いがどんどん膨らんでいきます。
私たち日本人を魅了してやまないフランスですが、その実態に迫る素晴らしい作品です。19世紀のフランスという私達とはまったく異なる文化を知ることで、私達自身の文化や生活を考える鏡にもなる作品です。異質なものと相対するからこそ、私達の当たり前の価値観が揺さぶられます。そうしたことから新たな発見や気づきが生まれ、私達の世界は広がっていきます。この本はそんな体験を与えてくれる本です。ぜひともおすすめしたい一冊となっています。
以上、「鹿島茂『明日は舞踏会』夢の社交界とパリの女性たちの恋愛と結婚模様を解説!」でした。
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明日は舞踏会 (中公文庫 か 56-2)
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コメント
コメント一覧 (5件)
こんばんは。
水村美苗『日本語が亡びる時』(英語の世紀の中で)を読むと、いかにフランス語が豊かであるか、
そして、大切な言語文化がこれからどうなるのか、考えさせられます。
本を読む、言語に触れる、そんな事が当たり前だった頃は、今は昔、、、。
昭和の中頃の日本は、フランスに憧れてフランス病なるものが存在しました。
おそ松くんのイヤミは、そのアイコンでした。
フランスのバカロレアの科目には『哲学』があるそうです。
大学受験資格試験に『哲学』!
さすがフランスです。
鹿島茂のこの本、早速、読んでみたいと思います。
こんばんは!コメントありがとうございます!
『日本語が亡びる時』面白そうですね!私も読んでみようと思います!
じっくりと本と向き合うことが無くなってしまう世界には恐怖を感じますよね。言語が退化していく世界はそのまま文化も失われていく・・・ちょうど昨日『華氏451度』を読み、ものを考えなくなっていく世界の恐ろしさを目の当たりにしました。
学ぶべきもの、あるべきものとして哲学を必須としているフランスはさすがですね。
鹿島先生のこの本はとても面白かったのでものすごくおすすめです!
こんばんは。
『明日は舞踏会』大変面白かったです。
ドレスの絵がモダン、写真とはまた違う美しさ!
ボヴァリー夫人、彼女の最期がそれはもう恐ろしくて、、、。
鹿島茂のこの本を読んで、また思い出しました。
けれど、本が与えてくれる『モノ』がボヴァリー夫人にとって悲劇であったとしても、やはり、上田さんが書いておられたように、本、物語はその人を形成する大きな要素であると、私も思います。
こんばんは。
『明日は舞踏会』、大変面白かったです。
ドレスの絵がモダン、写真とはまた違う美しさ!
ボヴァリー夫人、彼女の最期がそれはもう恐ろしくて、、、。
鹿島茂のこの本を読んで、また思い出しました。
けれど、本が与えてくれる『モノ』が、ボヴァリー夫人にとって悲劇であったとしても、やはり、上田さんが書かれておられたように、本、物語は、その人を形成する大きな要素であると、私も思います。
こんにちは。
よかったです!この本とても面白いですよね!私も一気に読んでしまいました!
ありがとうございます。そう言って頂けまして嬉しいです。
本や物語の大切さが世の中にもっと広まってくれればと私は願っています。