マイク・ラポート『ナポレオン戦争』あらすじと感想~ナポレオン戦争の特徴を様々な観点から見ていくおすすめ参考書!
マイク・ラポート『ナポレオン戦争 十八世紀の危機から世界大戦へ』概要と感想~ナポレオン戦争の特徴を様々な観点から見ていくおすすめ参考書!
今回ご紹介するのは2020年に白水社より発行されたマイク・ラポート著、楠田悠貴訳の『ナポレオン戦争 十八世紀の危機から世界大戦へ』です。
早速この本について見ていきましょう。
英雄なき戦いのはじまり
初めての世界大戦にして、初めての総力戦はいかに戦われたか? 師団の創設からトリアージの開発まで、すべてを変えた戦争の全体像。
すべてを変えた戦争の全体像
五百万人が犠牲になったナポレオン戦争は、軍事的天才ナポレオンに焦点を当てて、これまで革命対旧体制という図式で描かれるのが普通だった。一方では、革命理念の伝道と対抗勢力のナショナリズムの覚醒というイデオロギー的観点、他方では、ナポレオンの神がかり的な作戦能力に着目した軍事史的な観点が基調で、なぜこの戦争がかくも膨大な犠牲を出しつつも、収束しなかったのかという根本的な問題については、等閑に付されていた。
本書では、ナポレオン戦争を、先行するフランス革命戦争と統一的に把握するという視点を打ち出し(両戦争を「フランス戦争」と呼ぶ)、十八世紀というより長期のスパンで戦争の意味について考える。こうした視座は、ナポレオンの呪縛からこの戦争を解き放つことを意味する。
また、最新の知見を動員して、この戦争が初めての「世界大戦」であり、「総力戦」であったことを明らかにする。苛烈な戦闘は、いつしか敵と味方という観念を溶解させ、犠牲者の国籍も、兵士なのか民間人なのかもはっきりしない、戦争の無差別的な性格が眼前に立ち現れる。現代の起原としてのナポレオン戦争へ。
Amazon商品紹介ページより
上の商品紹介にありますように、この本はナポレオン戦争を様々な視点から見ていく作品になります。
巻末の訳者あとがきでこの作品の特徴についてわかりやすく説かれていましたのでそちらを引用します。
ラポートが明確に区切っているわけではないが、本書は二部構成をとっている。第一章から第三章までが前半部をなし、「教科書的な」説明がなされる。
第一章で、十八世紀のヨーロッパが勢力均衡に基づいて競合と同盟を繰り返す熾烈な国際関係で成り立っており、フランス革命勃発期にこれらの問題が複雑に絡み合って一七九二年の戦争を引き起こすまでが描かれる。
そして第二章と第三章で、フランス革命戦争とナポレオン戦争を政治的観点から眺め、個々の戦いの連鎖が淡々と辿られる。
前半部でラポートが力点を置いている特徴は、次の二点である。一つは世界戦争だったという点である。アメリカ大陸、インド、エジプトなど、帝国の広がりにともなって、戦争はヨーロッパにとどまらない世界規模の連鎖を引を起こした。もう一つは、アンシァン・レジーム期からの持続的性格である。ラポートは、戦争をフランス革命の勃発によって生じたアンシァン・レジームとの新旧イデオロギー対立と見なしておらず、十八世紀が抱えていた国際問題の延長線上に位置付けている。
後半部の第四章から第七章では、様々な人と国の視点で戦争が捉えられる。従来の軍事史は、もっぱら参謀本部から戦争を眺め、軍事技術の革新や、軍隊の編制と展開などの戦術を研究する分野であり、これまでの書籍は、ナポレオンや彼の元帥たち、また彼のライヴァルといった「英雄」を主役として描いてきた。
これに対してラポートは、戦術や軍隊の編制の問題を最小限に抑えて、陸軍兵士はもちろん、水兵、ゲリラ兵、民間人、女性、捕虜、軍医といった様々な立場の人々に照準を合わせて、徴兵、入隊、従軍、懲罰、脱走、捕虜生活、交戦などの多様な戦争体験を扱っている。
本書に布陣図が一切付されていないことで期待を裏切られたと感じる読者がいらっしゃるかもしれないが、本書は近年注目を集めている「新しい軍事史」(「広義の軍事史」)の成果なのである。
また著者は、ゲリラ戦を繰り広げたスぺイン、抜本的な改革を遂げたプロイセン、農奴制を抱えるロシア、海軍偏重で大同盟を財政的に支援したイギリスなど、国ごとの経験や事情に目を向けることも忘れていない。このようにナポレオンとは異なる多様な観点で戦争を見つめた点こそ、本書の三つ目の特徴にして、最大の魅力と言えるだろう。
白水社、マイク・ラポート、楠田悠貴訳『ナポレオン戦争 十八世紀の危機から世界大戦へ』P183-184
※一部改行しました
「本書に布陣図が一切付されていないことで期待を裏切られたと感じる読者がいらっしゃるかもしれないが、本書は近年注目を集めている「新しい軍事史」(「広義の軍事史」)の成果なのである。」
まさにこの本は「ナポレオンの天才的な軍事作戦」を解説するタイプの本ではありません。それよりもこの戦争が起きた背景や、戦争遂行に必要な様々なものをじっくりと見ていく作品になります。
ナポレオン一人の存在で戦争が起こったのではなく、すでに十八世紀の国際状況がそれを誘発するものをはらんでいたということ。そしてナポレオンの天才ぶりばかりが強調されがちな中で、実はその戦勝の背景にある個々の兵士たちの存在が大きな意味を持っていたこと。それらをこの本では学ぶことができます。
「ナポレオンひとりであの戦争が動いていたわけではない。広大な世界の動きはそんな一人の人間に作用されるものではない」という考え方はあの『戦争と平和』を連想してしまいます。
トルストイはこの作品の中でまさしくナポレオンのことをそのように語っていくのでありました。
となると、トルストイはこの作品で語られていたことを100年以上も先取りしていたことになります。う~む、やはり恐るべしトルストイ。
さて、話はトルストイに逸れてしまいましたが、ナポレオン戦争を様々な視点から見ていけるこの本は非常に興味深いものがありました。これは面白いです!ぜひぜひおすすめしたい作品です。
以上、「マイク・ラポート『ナポレオン戦争』~ナポレオン戦争の特徴を様々な観点から見ていくおすすめ参考書!」でした。
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