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(53)ABCの友の議論熱に驚くマリユス~三島由紀夫の東大公開討論を連想してしまう

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(53)ABCの友の議論熱に驚くマリユス~三島由紀夫の東大公開討論を連想してしまう

第三部 マリユス 第四章 ABCの友 ⑶

ボシュエ、クールフェラックと友人となったマリユスは、ある日クールフェラックに連れられてABCの友の集うカフェを訪れることになりました。

映画では登場シーンからABCの友の主要メンバーのように見えるマリユスでありますが、実は最初からそうだったわけではありません。むしろ、この結社に対して一歩引いてしまったのがその実態だったのでありました。

では、なぜ彼は一歩引いてしまったのでしょう。

今回の記事ではそんなマリユスとABCの友について見ていくことにします。

クールフェラックはマリユスをキャフェ・ミュザンに連れて行った。それから、彼の耳もとにほほえみながらささやいた。「君を革命に入学させなきゃならん」。それから、ABCの友の部屋に連れて行った、マリユスをほかの仲間に紹介するとき「生徒だよ」という簡単なことを小声で言ったが、彼はその意味がわからなかった。

マリユスはいろいろな精神の集まる蜂の巣に落ちこんだ。それに、彼は無口で、落着いてはいたが、羽もなく、針もないような男ではなかった。

マリユスは、それまで孤独で、習慣と趣味から、独り言や、一人でこっそり物を言う傾向があったので、まわりで飛びまわっている青年たちには、いささかたじろいだ。さまざまの独創的な発言が、彼を同時にそそのかし、惑わした。自由で、活動的な精神が、うるさく行きかうので、彼の思想もかきまわされた。ときどき混乱して、自分の思想を取戻すのに苦労するほど自分から遠く離れて行った。思いもかけぬ調子で、哲学、文学、芸術、歴史、宗教が語られるのを聞いた。幾つもの奇妙な見解を垣間見たが、それを展望できなかったので、どうもただ混沌をながめるような気持だった。祖父の意見を捨てて、父の意見を支持したとき、自分の立場は決ったと思った。今、疑いが頭をもたげ、不安を感じても、自分の立場は決っていないと自認するだけの勇気は出なかった。すべてのものを見る角度が、またもやぐらつきだした。なんとも言えぬ動揺が、頭脳の全領域を揺るがした。心の奇妙な混乱だった。ほとんど耐えきれないほどだった。

これらの青年たちには、「神聖なもの」は何もないように見えた。マリユスはあらゆることについて、変った言葉を耳にしたが、まだ内気な心には不快な言葉だった。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P160-161

なるほど、たしかにこれは私もわかる気がします。

マリユスはこれまでほとんど一人で勉強し、考え事をしながら生きてきました。祖父に連れられてサロンに行っていたとしてもそれは幼少期の話で、彼が大きくなってからは一人でいるのが好きな青年だったわけです。前回の記事でも見ましたように、読書しながら宇宙を見るような本の虫です。そんなちょっと内気で空想的な青年がいきなりこんなガヤガヤした世界に入ってしまったら面食らうのも当然です。

そしてこのABCの友のメンバーはとにかく議論好きです。ここから先そんなやたらめっぽうな言葉の応酬が展開されていくのですが、これがまあややこしいのなんの!その雰囲気はぜひ本文で読んで頂きたいのですが、そんな彼らの議論についてユゴーは次のようにまとめています。

皮肉や、機知や、ひやかしや、陽気と呼ばれるフランス気質や、ユーモアと呼ばれるイギリス気質や、よい趣味、悪い趣味、正しい理屈や、屁理屈や、すさまじい火花のような対話などが、部屋の隅々から、同時に立ちのぼり、もつれ合い、頭上で一種の陽気な砲撃戦を演じていた。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P175-176

若い精神がぶつかり合うのは、全く思いもよらない火花や、想像もつかない光が飛び出すので、すばらしい。これから何がほとばしり出るか?それはわからない。しんみりしているかと思うと、爆笑が起る。おどけている最中に、急に真面目になる。どんな衝動が起るかは、そのとき言われた言葉次第である。めいめいの情熱がその場を支配する。ちょっとした諧謔で、思いがけない視野がひらける。急なカーブを幾つも切るので、話の展望はたちまち変る。偶然がそういう会話をあやつるのである。

新潮社、ユゴー、佐藤朔訳『レ・ミゼラブル㈢』P176

これらの解説を読み、私はふと、あるものを連想しました。それがこちらです。

この映画は1969年に三島由紀夫と東大全共闘の間で行われた伝説の討論会を追った作品です。

当ブログでは三島由紀夫の作品や生涯について紹介してきましたが、私が三島由紀夫に関心を持つきっかけとなったのもまさにこの1969年の討論でした。この映画では当時の学生たちの姿を知ることができるのですが、まさに上でユゴーが述べていた若者たちの解説と重なるものを感じてしまったのです。

私がなぜこの討論に関心を持つようになったのかはここでは長くなってしまうのでリンクだけ掲載させていただきますが、私にとってマルクス主義と学生の関係は非常に大きな意味を持つテーマでありました。

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さて、話は少し逸れてしまいましたが、マリユスがそんなABCの友の議論熱に面食らってしまったのは私もよくわかる気がします。いきなりこんな言葉の応酬に放り込まれてしまったらパニックになってもそれはおかしくないでしょう。

こうしてマリユスはABCの友とは最初から一歩引いた距離感での付き合いになったのですが、この後彼はとてつもない事件を起こしてしまいます。なんと、突然彼が大演説を始めたのです。これには一同唖然でした。

次の記事ではそんなマリユスの突拍子もない大演説とその結末を見ていくことにしましょう。

続く

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この記事を書いた人

2019年「宗教とは何か」をテーマに80日間で13カ国を巡り、その旅をもとにした世界一周記を全国9紙で連載。
現在は北海道新聞「みなみ風」で『インド・スリランカ仏跡紀行』を連載中。

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