伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』~荘園から見る日本史!寺院と荘園の関係を知るのにもおすすめ

荘園 日本仏教とその歴史

伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』概要と感想~荘園から見る日本史!寺院と荘園の関係を知るのにもおすすめ

今回ご紹介するのは2021年に中央公論新社より発行された伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』です。

早速この本について見ていきましょう。

荘園は日本の原風景である。公家や寺社、武家など支配層の私有農園をいい、奈良時代に始まる。平安後期から増大し、院政を行う上皇の権力の源となった。鎌倉時代以降、武士勢力に侵食されながらも存続し、応仁の乱後に終焉を迎えた。私利私欲で土地を囲い込み、国の秩序を乱したと見られがちな荘園だが、農業生産力向上や貨幣流通の進展に寄与した面は見逃せない。新知見もふまえ、中世社会の根幹だった荘園制の実像に迫る。

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本作『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』は書名通り、日本の歴史に大きな影響を与えた「荘園」にスポットを当てた作品です。「荘園」という切り口から日本史を眺めていくというのはありそうでなかなか目がいかない興味深い視点ですよね。

この「荘園」について「はじめに」で著者は次のように述べています。

現代の私たちは中央集権的な近代国家に生きているから、荘園はともすれば土地制度の鬼子扱いで、貴族や寺社が私利私欲で国の土地を囲い込み、国の秩序を乱したように取られることがある。しかし荘園は国の役人から干渉を受けることなく自由に経営でき、その成果を子孫に伝えることができたので、農地開発や農業経営の進化が促された。荘園では年貢・公事物を送る手段も自由に任されたから、そこに中国から輸入された銅銭が浸透して、鎌倉時代後期から日本は本格的な貨幣経済に入った。荘園が拡大しなけれぱ、日本の貨幣経済化は、もっと遅れたはずだ。

なにより日本の荘園は、七四三年に発布された墾田永年私財法から数えると約七五〇年間、一二世紀の領域型荘園の成立から数えても約四〇〇年間の歴史がある。鬼子であれ何であれ、日本社会が数千もの自律的な細胞に分かれ、それが主従関係と契約によって、緩やかに結ばれていた長い歴史があることは厳然たる事実だ。それは現代の日本社会のあり方にも、なにかしらの影響を与えているはずだ。

中央公論新社、伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』Pⅱ

「現代の私たちは中央集権的な近代国家に生きているから、荘園はともすれば土地制度の鬼子扱いで、貴族や寺社が私利私欲で国の土地を囲い込み、国の秩序を乱したように取られることがある。」

たしかにこの指摘は私達にも思い当たるものがあるのではないでしょうか。そのように教えられてきたという場合もあれば、自ずからそのように感じてしまうということもあるかもしれません。

ですが上の引用で語られますように、「荘園」というものが日本の歴史において大きな影響を与えた存在であったことは間違いありません。単に「私利私欲の囲い込み」という面で捉えるのではなく、経済や技術、流通の発展に寄与したプラス面の意義にも目を向けることも重要なのではないかと本書を読んで考えさせられます。

また、本書は近年の研究成果に基づいて荘園の解説がなされる点にも特徴があります。著者は同じく「はじめに」で次のように述べています。

日本の荘園については一九五〇年代から七〇年代まで盛んに研究された。戦後日本の歴史学はマルクス主義の影響を強く受けて、下部構造(社会の経済的しくみ)が上部構造(法律・政治・意識など)を規定するという唯物史観が主流で、日本の古代~中世社会の下部構造にあたる荘園のあり方が詳細に研究された。(中略)

ただ、一九七〇年代までの荘園研究に問題がなかったわけではない。階級闘争による社会の進歩を説いたマルクス主義歴史学は、在地領主である武家を革命勢力と位置づけ、貴族や寺社が持つ荘園を侵略して封建制社会を形成する道筋を描いた。またマルクスの歴史の発展段階によると中世は農奴制社会のはずなので、日本の中世に土地に緊縛された西欧的な農奴を探し求めた。さらに鎌倉幕府で成立した土地を仲立ちとした主従関係が西欧の封建制と類似していることから、日本の荘園史を西欧史の枠組みで理解しようとしたところもある。

しかし、この捉え方は実態とは異なる。在地領主は一二世紀の領域型荘園の成立の当初から荘官として荘園を支えており、一五世紀の室町時代に至っても荘園はなくなっていない。これでは在地領主による革命は四〇〇年もかかったことになる。また日本の荘園の百姓には移動の自由があり、その自由がない下人の割合は大きくはない。日本では荘園領主の大半が京都に住み、地方から年貢が送られてくる時代が長く続いたが、そのような荘園は西欧ではまれだ。こうした想定と実態との乖離は研究が進むにつれて明らかになってきたが、近年の研究によって、さらに強く意識されつつある。本書では近年の研究成果を取り入れ、かつてのドグマから離れて、荘園の歴史を日本の実態に即して描いてゆこうと思う。

中央公論新社、伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』Pⅲ-ⅳ

「戦後日本の歴史学はマルクス主義の影響を強く受けて、下部構造(社会の経済的しくみ)が上部構造(法律・政治・意識など)を規定するという唯物史観が主流で、日本の古代~中世社会の下部構造にあたる荘園のあり方が詳細に研究された」

やはりマルクス主義の影響は戦後大きなものがあったのですね。こうした形でも学問に影響していたとは・・・著者のこの指摘には驚きました。歴史や文化を学ぶ上でその研究がどのような立場からなされているかというのはやはり重要なポイントではないかと思います。

本書ではそうした流れも振り返りつつ、近年の研究成果を基にした「荘園」の歴史を見ていくことになります。

寺院と荘園のつながりは日本仏教を考える上でも大きな意味があります。宗教は宗教だけにあらず。政治経済や時代背景、すべてのものが繋がっています。そうした意味でも大きな経済基盤となり、また情報や技術が発展していく現場となった荘園は大きなポイントとなってくるのではないでしょうか。

奈良時代から中世にかけての流れも知れるおすすめ作品です。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

以上、「伊藤俊一『荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで』~荘園から見る日本史!寺院と荘園の関係を知るのにもおすすめ」でした。

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