おすすめ!齋須直人×上田洋子「ドストエフスキーは戦争を支持するか?〜2022年のロシアを旅して」#シラス

ドストエフスキー論

おすすめ!齋須直人×上田洋子「ドストエフスキーは戦争を支持するか?〜2022年のロシアを旅して」#シラス

今回ご紹介するのは2022年11月22日にシラス「上田洋子のロシア語で旅する世界УРА!」で放送された『齋須直人×上田洋子「ドストエフスキーは戦争を支持するか?〜2022年のロシアを旅して」』です。

今回はいつもの本紹介ではなくドストエフスキーについてぜひおすすめしたい番組がありますのでそちらを紹介します。

早速この番組について見ていきましょう。

ドストエフスキー研究者の齋須直人さんをお迎えし、ドストエフスキーと戦争を考えます。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、ドストエフスキーの名はさまざまな文脈で持ち出されています。プーチン大統領は10月のヴァルダイ会議(ロシア政府が主宰する国際問題に関する有識者会議)の演説で、『悪霊』から「かぎりない自由から出発しながら、かぎりない専制主義で終えようとしている」(光文社文庫第2巻、亀山郁夫訳、p.473)というニヒリストの言葉を引用して西欧を批判していました。また、『作家の日記』などに見られるドストエフスキーの愛国的言説は、「ロシア世界」など現代の愛国イデオロギーのプロパガンダに用いられています。
他方、ドストエフスキーも、トルストイほどではないにせよ、人類愛に満ちたロシア作家の代表として戦争反対の文脈で語られこともあります。愛や憐み、人間の弱さを描いた作家であるというイメージも失われてはいません。

今回は齋須さんに、ドストエフスキーが同時代の戦争をどう語っていたかについてレクチャーをいただきつつ、この作家が今生きていたら本当に戦争を肯定したのか、考えてみたいと思います。齋須さんはドストエフスキーとロシア正教をテーマとしており、いまの保守イデオロギーと作家の関係を宗教面からも紐解いてくださるでしょう。愛国心の鼓舞という文脈でも、ドストエフスキーはたくさんの仕事をしています。

齋須さんはロシアで博士号を取得しており、ロシア滞在歴も長く、ドストエフスキーゆかりのあらゆる場所を訪れています。今夏もロシアの学会に出席し、ドストエフスキーが暮らしたペテルブルクはもちろん、地方都市の様子も見て来られました。後半は旅の写真を見ながら、いまのロシア人が戦争をどう見ているか、リアルタイムの情報を伺いたいと思います。

齋須さんのドストエフスキーを辿る旅の記録を、webゲンロンでお読みいただけます。
つながりロシア(16)「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く
https://www.genron-alpha.com/gb063_04/

【齋須さんよりメッセージ】

2021年はドストエフスキー生誕200年にあたり、ロシアでも世界でもイベントや学会が盛り上がっていました。まさに生誕200年にあたる作家の誕生日の11月11日には、モスクワのドストエフスキー博物館がリニューアルオープンされます。その最初の訪問客がプーチンで、ロシアのニュースで大々的に取り上げられました。丁度、アメリカが、ロシアがウクライナに攻め込む可能性を指摘し始めていた頃です。

この日から今年2月24日にウクライナ侵攻が開始されるまではたったの3カ月でした。ウクライナ侵攻では、ロシア人のウクライナに対する帝国主義、汎スラヴ主義的な態度が原因の一つとされています。汎スラヴ主義的な主張をしたと見なされるロシアの思想家や作家は沢山いますが、ドストエフスキーは最も有名であることもあり、しばしば話題になっています。

こうした、主に『作家の日記』で描かれるドストエフスキーの政治思想だけでなく、作品が話題になることも多くありました。たとえば『カラマーゾフの兄弟』の「反抗」の章で、イワン・カラマーゾフがアリョーシャに語った罪のない子供の残酷な死を語る場面では、トルコ兵に残酷に殺される子どもの例も出てきます。ドストエフスキーのどの部分に着目するかで、戦争に対する姿勢も違って見えてきます。

私はここ10年近くロシアのドストエフスキー学会に定期的に参加しています。今年2022年の夏にも幸運にもドストエフスキーが子供時代を過ごしたウサージバ(屋敷)のあるダラヴォーエで行われた学会に対面で参加することができました。部分動員より少し前の時期のロシアの様子、ロシアでのドストエフスキー研究やイベント、博物館などを写真とともに紹介しつつ、ドストエフスキーの政治的な立場と文学作品について考えてみたいと思います。

【登壇者プロフィール】
齋須直人(さいす・なおひと)
1986年東京都生まれ。専門はロシア文学、ロシア宗教思想史、ドストエフスキー。現在、日本学術振興会特別研究員などを経て、名古屋外国語大学教養教育推進センター講師。ゲルツェン記念ロシア国立教育大学文学部ロシア文学科Ph.Dコース修了。Ph. D(文献学)。最近の共訳書にエヴラムピーエフ『ロシア哲学史』。

シラス視聴ページより

今回出演されます齋須先生については以前「『ゲンロンβ63』齋須直人『「カラマーゾフの子供たち」、聖地ヴァラームへ行く』ドストエフスキーとロシア正教のディープな世界へ」の記事でも紹介させて頂きました。

齋須先生は上の紹介文にもありますように長期にわたりロシアに滞在し、ドストエフスキーゆかりの地も数多く巡られています。

今回の番組ではその齋須先生と上田洋子さんが「ドストエフスキーは戦争を支持するか」というテーマでお話をしていきます。

番組冒頭では齋須先生が紹介して下さる様々な資料をもとに、ドストエフスキーがロシアでどのように引用されているかということをまずは見ていきます。特にプーチン大統領がどのような文脈でドストエフスキーを引用し、そこにどんな意図を持たせているのかということは非常に興味深かったです。

プーチン大統領がどのような国家観を持ち、どのような理論で西欧を批判しているのかというのがとてもわかりやすかったです。そしてそれをドストエフスキーと絡めて聴けるというのも私にとってはとても嬉しいものがありました。

テレビやネットで見るロシアよりもっともっとディープな所で私達はプーチン大統領の思想を考えていくことになります。なぜプーチン大統領はこれほどまでに西洋を強く批判するのか、その根拠はどこにあるのかということを学ぶのはとても大きな意味があると思います。

中盤からはドストエフスキーその人の作品から彼の戦争への言説を丁寧に見ていきます。たしかに戦争を肯定している箇所はあるものの、それは一体どういう文脈で語られたものなのか、そしてそれをどこまで私たちは彼の意見として認めていいのかということも考えていきます。

上の紹介にありましたように、ドストエフスキーは人類愛や子供への優しい眼差しを説いた作家でもあります。

一方では戦争を肯定し、一方では愛を説く。

ドストエフスキーは両面的な人、矛盾を抱えた人とよく言われますが、まさに彼は何とも捉え難い存在です。

そんなドストエフスキーについて専門家の齋須先生はどのように述べられるのか、そして私たちはどのようにドストエフスキーを見ていけばいいのかということもこの番組の見どころなのではないかなと思います。

番組の時間は延長戦も入れますとなんと5時間半!衝撃ですよね。基本的にずっと喋りっぱなしです。ですが全く飽きません。あっという間に時間が過ぎていった感覚です。

思えば、ウクライナ侵攻が始まってからロシア関連のものはすべて口に出すことすらはばかられる状況になってしまいました。ですが改めてロシアとは何かということを考える上で今こうしてドストエフスキーをテーマに文学や文化の方面からたずねていくというのも非常に大きな意味があるのではないでしょうか。

「今だからこそ」と私は強く思いました。このテーマは非常に重要だと私は感じています。

ぜひ多くの方に観て頂けたらと思いここで紹介致しました。非常に刺激的で面白い番組ですのでぜひご視聴ください。

以上、「おすすめ!齋須直人×上田洋子「ドストエフスキーは戦争を支持するか?〜2022年のロシアを旅して」#シラス」でした。

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