MENU

篠野志郎『アルメニア共和国の建築と風土』あらすじと感想~世界最古のキリスト教国の独特な教会建築を知れるおすすめ写真集!

目次

篠野志郎『アルメニア共和国の建築と風土』概要と感想~世界最古のキリスト教国の独特な教会建築を知れるおすすめ作品!

今回ご紹介するのは2007年に彩流社より発行された篠野志郎著『アルメニア共和国の建築と風土 Out of the Frame』です。

早速この本について見ていきましょう。

夥しい日常の言葉と石に封印された言葉。学術という枠組みの外側で、陽を懸けて二つの言葉は出会い、そこに風景が生まれる。アルメニア共和国に遺る、中世のキリスト教建築に内包された、千年の時を越えて静まり返る信仰の空間。

東アナトリアの深部、ロシアからペルシャ湾への南北の軸、アジアから地中海への東西の軸。それら二つの軸が交差する場所。有史以前から人々が定住し、古代から文明と民族が行き交った場所。

そこに育まれたもう一つのキリスト教。有り余る石と情熱が作り上げた信仰の姿。千年の時を越えて名も無き人々の夢想した王国が濃いバラ色の衣装をまといひっそりと佇んでいる。

彩流社、篠野志郎『アルメニア共和国の建築と風土 Out of the Frame』帯より

この作品は世界最古のキリスト教国として知られるアルメニアの教会群を取材した写真集になります。

アルメニアといえばこれまで当ブログでも紹介してきたジョージアのすぐ隣の国です。

アルメニアの首都エレバンからはあのノアの箱舟で有名なアララト山を望むことができます。

エレバンから見たアララト山 Wikipediaより

私がアルメニアに興味を持ったのもまさにこのアララト山の存在があったからでした。

私は以前、聖書に説かれた聖地を巡るためにイスラエルを訪れています。

あわせて読みたい
イスラエル旅行記おすすめ記事一覧~世界三大一神教の聖地を訪ねて【僧侶上田隆弘の世界一周記】 イスラエルは私の旅の中でも思い入れの強い国でありました。 滞在の前半は三大一神教の聖地に圧倒され、後半はパレスチナ紛争の現実を目の当たりにし、宗教と争いについて、平和について考えさせられることになりました。

聖書に出てくる世界が実際に目の前に現れた時の感動は今でも忘れられません。

トルストイとカフカースについて学ぶためにジョージアのことを学んでいた私でしたが、なんとそのすぐ隣に「あのアララト山」があるではありませんか!そう思うと居ても立ってもいられなくなり私はアルメニアのことに関心を持ち始めたのでした。

さて、この本は横長の珍しい形の本で、ぱっと見てみると図鑑のようにも見えてきます。

実際この本を読んでみると、写真集ということで大量の写真が掲載されています。

アルメニアの教会建築はカトリックとも正教ともまた違った構造で、雄大な風景の中にぽつんと立っているその姿は独特な雰囲気を醸し出しています。

アルメニアの見どころや有名な教会についてはこのツイートで紹介しているページに詳しく出ているので興味のある方はぜひご覧になってください。きっとその雄大さに驚くと思います。

そして『アルメニア共和国の建築と風土 Out of the Frame』では白黒で味のある写真が大量に掲載されていて、最初は「カラーのほうがよかったのになぁ」という思いが頭をよぎったのですが、見ていくうちに「逆にこのほうがアルメニアの雰囲気が出ていていいのかもしれない」と感じるようになりました。

この本では普通の観光客が行かないようなかなりマニアックな教会にスポットを当てています。半ば廃墟のような場所も出てきますがそれがまたいいんですよね。

巻末にはこの本で紹介された教会の一覧と簡単な解説も付いていてこれが非常にありがたいものとなっています。全部で73の教会、修道院がこの本で紹介されます。地図上でそれぞれの教会の位置も一覧で掲載されていますのでこれらの教会を訪れる際の参考マップとしても活用できます。

歴史ある建築物の写真を見ながら、独特な歴史を歩んできたアルメニアの文化を知れる貴重な作品です。

ぜひぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「篠野志郎『アルメニア共和国の建築と風土』世界最古のキリスト教国の独特な教会建築を知れるおすすめ写真集!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

写真集 アルメニア共和国の建築と風土;Out of the Frame

写真集 アルメニア共和国の建築と風土;Out of the Frame

次の記事はこちら

あわせて読みたい
篠野志郎『写真集 東アナトリアの歴史建築』あらすじと感想~知られざるトルコ、アルメニア、シリアの独... 今回紹介した『写真集 東アナトリアの歴史建築 Stone Arks in Oblivion』も非常に貴重な作品です。こうした作品に出会えたことはとても幸運なことに思えます。この本が世に出たということの意味を考えさせられました。 正直、かなりマニアックな本です。私もトルストイを通してカフカースを学んでいなかったら一生出会わなかったジャンルの本だと思います。ですが、この本のパワーは本物です。ぜひおすすめしたい作品です。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
廣瀬陽子『コーカサス 国際関係の十字路』あらすじと感想~現代コーカサス、ロシアの政治情勢を知るのに... 北コーカサスのチェチェンについては多くの本がでていますが、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンの三国についてもわかりやすく解説してくれる本となるとなかなか貴重です。 この本は2008年に出版された作品ですので、2022年段階では最新の情報というわけではありません。ですがソ連崩壊から15年以上経った段階でのカフカースを知る上で今なお価値ある作品だと思います。 難しいコーカサス情勢をわかりやすく知れるおすすめな1冊です。

関連記事

あわせて読みたい
(25)アルメニアのわからなさ、ソ連的どん詰まり感にショックを受け体調を崩す。カルチャーショックの洗礼 アルメニア滞在の3日目、私はノアの箱舟の聖地アララト山や世界遺産エチミアジン大聖堂を訪れました。 しかし実はその前日の夕方から私の身体に異変が生じ、エチミアジンの辺りで完全にダウンしてしまったのです。 これは単に体調が悪くなったで済まされる話ではありません。私とアルメニアという国についての根本問題がそこに横たわっていたのでありました。 私の身に何が起こったのか、この記事でお話ししていきます。
あわせて読みたい
(23)アルメニア山中のマトサヴァンク修道院の圧倒的な廃墟感!時が止まった姿に言葉を失う アルメニア滞在二日目。 この日は朝から山道を走り、マトサヴァンク修道院を目指します。 この修道院はまさに時が止まったかのような姿で有名です。 私はその修道院を目指してアルメニアの山の中を1時間以上かけて歩いたのでした。 圧倒的な廃墟感漂うマトサヴァンク修道院を目の前にして私は言葉を失ってしまいました。異世界としか言いようのない光景に驚くしかありません。
あわせて読みたい
森和朗『乗っ取られた箱舟 アララト山をめぐるドラマ』あらすじと感想~ノアの箱舟は『ギルガメッシュ叙... 現在トルコ領となっているアララト山は旧約聖書で「ノアの箱舟」が漂着した場所として知られる聖地中の聖地です。 ですがその「ノアの箱舟」の物語が実は紀元前3000年から2600年頃に繁栄したメソポタミア文明のシュメール神話『ギルガメッシュ叙事詩』から着想を得ていたという驚きの事実がこの本では語られます。
あわせて読みたい
『ギルガメシュ叙事詩』あらすじと感想~ノアの箱舟の起源はここに!?最古の世界文学は想像以上の面白さ... 単なる古代の神話とあなどるなかれ。訳者が述べるように、この叙事詩は私たちの想像を圧倒的に超える面白さです。私もこの作品を読んで度肝を抜かれました。今から5000年も前に書かれた物語がこんなに面白いなんて・・・! 現代の小説や物語と比べても遜色がないくらいドラマチックで面白い作品です。5000年前の人類の英知をぜひ味わってみてはいかがでしょうか。非常におすすめです。
あわせて読みたい
篠野志郎『アルメニア巡礼 12の賑やかな迷宮』あらすじと感想~圧倒的な廃墟感!ダークでディープな旧ソ... 『アルメニア巡礼 12の賑やかな迷宮』はソ連崩壊後取り残された旧共産圏の姿を知る上でこの上ない作品なのではないかと私は思います。日本ではありえないインフラ事情がどんどん出てきます。あまりに異世界過ぎてかなりショックを受けました。先程はホテルの話を引用しましたが、他にも驚きの内容がどんどん出てきます。
あわせて読みたい
『カフカース 二つの文明が交差する境界』あらすじと感想~カフカースとロシア文学のつながりを知るのに... 私がこの本を手に取ったのはトルストイ伝記の金字塔、藤沼貴著『トルストイ』でこの作品が紹介されていたからでした。 この作品はそれぞれの分野の専門家による共著になります。この本では文学だけでなく様々な観点からカフカースを見ていくことができます。 私はトルストイとの関係性からカフカースに関心を持つようになりましたが、入り口は人それぞれだと思います。そんな中多様な視点からカフカースを見ていくこの本の試みは非常に面白いなと思いました。
あわせて読みたい
V・ベリゼ『ジョージアの歴史建築 カフカースのキリスト教建築美術』あらすじと感想~ジョージア観光の... この作品はジョージアの独特な教会建築を余すことなく解説してくれる非常に貴重なガイドブックとなっています。 日本ではジョージアの教会についてはほとんど知られていませんが、その独特な構造や美しさは写真を見ただけでもどきっとするほどです。 そしてこの本では教会建築の解説だけではなく、教会を巡るための旅のガイドまで掲載してくれています。 これは貴重な1冊です。
あわせて読みたい
トルストイとカフカース(コーカサス)の強いつながり~圧倒的な山岳風景とトルストイの軍隊経験 トルストイは1851年、23歳の年にカフカース(コーカサス。旧グルジア、現ジョージア)を訪れています。 そしてその圧倒的な自然やそこで出会った人々、命を懸けて戦った経験が彼の文学に大きな影響を与えています。 この記事では藤沼貴著『トルストイ』を参考にトルストイの「カフカース体験」を見ていきます。 トルストイの文学や人柄の特徴を見ていくためにもこれらは非常に参考になります。
あわせて読みたい
ロシアとカフカース・チェチェンのつながり~ロシア帝国とジョージア(旧グルジア)地方の戦争の歴史を... トルストイが訪れた1850年代にはすでにロシアとカフカースは戦争状態でした。そしてその時から続く歴史は現代のロシア・チェチェン戦争とも繋がってきます。ロシア帝国、ソ連、現代ロシアという歴史の流れを知る上でもカフカースの歴史を知ることは大きな意味があります。 この記事ではそんなカフカースとロシアの歴史についてお話しします
あわせて読みたい
トルストイ『コサック』あらすじと感想~カフカースの圧倒的美しさを描いたトルストイの傑作中編!あの... 『コサック』はトルストイのカフカース体験の集大成とも言える作品です。 カフカースの美しさをここまで表現するトルストイにはただただ脱帽するしかありません。 『コサック』はあの大作『戦争と平和』にも直接繋がっていく非常に重要な作品となっています。 文豪トルストイのスタイルが定まる記念碑的な作品とも言えるかもしれません。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次