MENU

ラファエロ『小椅子の聖母』の魅力について考えてみた~フィレンツェ、ピッティ宮の名画に思う

小椅子の聖母
目次

ドストエフスキーも愛したピッティ宮のラファエロ『小椅子の聖母』

2022年12月、私はフィレンツェを訪れました。

私がここに来たのは「上田隆弘『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一世一代の旅の軌跡を辿る旅」の記事でお話ししたように、ドストエフスキーゆかりの地を訪ねるためでありました。

そして今回の記事で紹介するラファエロの『小椅子の聖母』はそのドストエフスキーも愛した名画です。私もその名画を観にピッティ宮までやって来たのでありました。

ラファエロ 『小椅子の聖母』Wikipediaより

ピッティ宮はドゥオーモからはアルノ川を渡った対岸にあります。

さすがはフィレンツェの誇る美術館。宮殿内部の美しさを堪能しながら、所狭しと並んだ彫刻や絵画を鑑賞することができます。ウフィツィ美術館と比べると空いていて、のんびりした雰囲気で拝観できるのもありがたい点です。

さあ、ラファエロの『小椅子の聖母』ある部屋までやって来ました。

部屋の壁におもむろに掛けられているその絵を観た時、私は二度見してしまいました。「えっ!こんなにあっさりと飾られていいの!?」と。

あまりに無造作、あまりに無防備である。これには驚きました・・・

これがドストエフスキーも愛した『小椅子の聖母』です。

だが、実はこの絵に対して私は最初強い印象を受けなかったのです。「あぁ、なるほど、これが例の絵なのだな・・・」くらいだったのでした。

しかし、少し経ってドストエフスキーがこの絵に惚れ込んだということを頭に浮かべながら見続けていると、段々この絵に引き込まれていきました。というより、もう虜になっていました。もう目が離せません。気づけば10分以上も経っています。そしていつものように仕切り直しで館内を歩き回りリセットしてからもう一度この絵の前に立ちます。

すると色々なことに気付いたのでありました。

まず、この聖母。母の慈しみの仕草が強く出ています。

ちょうどこの絵の向かい側に展示されているのもラファエロの聖母子画です。これと比べればわかりやすいです。

向かいのマリアはただイエスを抱えているだけ。しかも下を見て瞑想的な雰囲気。幼子イエスもどこか悟った顔をしています。

ですがこちらのマリアは明らかに幼子イエスを慈しみ、守っています。そしてイエスも何か不安げな顔をしてマリアに身を委ねています。これは意外と珍しい構図なのではないでしょうか。母マリアの愛がこれほどストレートに感じられる絵はほとんどないのではないでしょうか。少なくとも私には記憶がありません。母を早くに亡くしたドストエフスキーは優しい母の面影をここに投影していたのかもしれません。

そしてこの絵は額縁も素晴らしい。円形の絵と四角い金の額縁がバランスよく組み合わさっています。そして背景が真っ黒というのが極めて重大な効果を与えています。この絵をしばらく見つめていると本当にマリアがそこにいるかのように感じられてきます。黒は無限の奥行きを感じさせます。そしてそこに浮かび上がってくるマリア。絵の丸い輪郭が本当にそこに空間があるかのような感覚にさせます。特にイエスのあごの下の黒い空間が中心点の役割をしています。この奥に無限がある。マリアが無限の暗黒からこちらに飛び出てくるような動きすら感じてしまいます。画像で観るのと実際にオリジナルを目の前にするのではまるで違います。

あぁ・・・なんと素晴らしい絵でしょう。私はもはや完全にマリアの虜です。

ボッティチェッリのマリアにも撃ち抜かれましたがこのマリアにもどうにも抗えません。何て浮気者な私でしょう!

このマリアの優しい姿に私は心底うっとりしてしまいました。ドストエフスキーがこの絵を好きになったのがよくわかります。ボッティチェッリの強い顔とは全く違います。このマリアの優しさは度を超えている。

私はこのマリアに完全に参ってしまいました。

一時間近く私はこの絵の前で呆然としていました。帰ろうと立ち去っても結局「あともう一回だけ」と戻るのを繰り返しました。ボッティチェッリの時と一緒です。あぁ、また会いたい。フィレンツェに行きたい・・・この記事を書いている今も心の底から思います。

Amazon商品ページはこちら↓

回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

前の記事はこちら

あわせて読みたい
ボッティチェッリのマリアに夢中!フィレンツェの顔ウフィツィ美術館を訪ねて フィレンツェの王道、ウフィツィ美術館を訪れて思わぬ出会いをすることになりました。それがボッティチェッリのマリアでした。私は彼女から目を離せなくなってしまいました・・・! ボッティチェッリの絵は何かが違います。そう、言うならば顔力(がんりき)とでも言うべきものをボッティチェッリからは感じるのです。

関連記事

あわせて読みたい
僧侶ならではのローマおすすめ観光スポット15選!王道からマニアックな教会まで美の極致を味わう この記事では私も大好きなローマのおすすめ観光スポットをご紹介していきます。 サン・ピエトロ大聖堂やコロッセオなどの有名どころだけではなく、観光客があまり訪れないマニアックな教会もこの記事ではご紹介していきます。 ローマは実に素晴らしい街です。ですがあまりに見どころが多すぎるが故の罠もあります。ぜひ当ブログの記事が皆様のお役に立てれば何よりでございます。
あわせて読みたい
(19)フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』のオリジナルは想像をはるかに超えた傑作だった マウリッツハイス美術館にはもうひとつ、フェルメールファン必見の名画があります。 それがあの『真珠の耳飾りの少女』です。 実は私はこの絵にそこまでの期待をしていませんでした。私は『デルフト』が一番好きなのであって、この絵には元々あまり興味がなかったのです。 ですが、そうした私の思いはこの日を境にがらっと変わりました。こんなにすごい絵だったとは!
あわせて読みたい
(13)モネの『印象・日の出』が好きでたまらない!マルモッタン・モネ美術館でその名画を堪能! モネの『印象・日の出』は本当に不思議な絵です。全体がぼんやりしているものの、それが心地よい。夕陽とその光の反射の描写はまさに天下一品だと思います。なぜか引き込まれる不思議な魅力がこの絵にはあります。これ以上はうまく言葉にできません。 私がパリで最も好きになった絵画は間違いなくこの作品です。
あわせて読みたい
上田隆弘『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』~文豪の運命を変えた妻との一... この旅行記は2022年に私が「親鸞とドストエフスキー」をテーマにヨーロッパを旅した際の記録になります。 ドイツ、スイス、イタリア、チェコとドストエフスキー夫妻は旅をしました。その旅路を私も追体験し、彼の人生を変えることになった運命の旅に思いを馳せることになりました。私の渾身の旅行記です。ぜひご一読ください。
あわせて読みたい
(22)フィレンツェでのドストエフスキーの日々~ゆかりの地や彼お気に入りの芸術をご紹介! 悲しみや苦しみを分かち合い、今や二人は強固な絆で結ばれました。彼らの復活はいよいよここから始まっていきます。自分たちをミコーバー夫妻になぞらえたフィレンツェでの生活はこの旅の大きなポイントになったのではないでしょうか。 あぁ、美しきフィレンツェ!できるなら私ももっともっとゆっくり滞在したかった!さすがは花の都。この街の芸術には感嘆させられっぱなしでした。
あわせて読みたい
(23)芸術の都ヴェネツィアを訪ねて~美しき水の都にドストエフスキーは何を思ったのだろうか この記事ではドストエフスキー夫妻が訪れたヴェネツィアと、その道中で立ち寄ったボローニャをご紹介します。 誰もが憧れる水の都ヴェネツィア。ドストエフスキー夫妻はわずか数日の滞在でしたが、楽しい一時を過ごしたようです。私も夫妻が過ごしたヴェネツィアを歩き、彼らの滞在に思いを馳せながらこの街のゆかりの地を巡ったのでありました。 どこを撮っても美しい写真が出来上がる驚異の街でした。
あわせて読みたい
(42)ローマ・カトリックを批判したドストエフスキーは美の殿堂・劇場都市ローマに何を思うのだろうか 私にとってはこのローマの滞在中、片時もドストエフスキーを忘れたことはありませんでした。私はこのヨーロッパ滞在中常にドストエフスキーと共にいました。 ではこのローマ滞在においてドストエフスキーは実際にローマをどう思ったのでしょうか。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次