MENU

三島由紀夫『行動学入門』あらすじと感想~三島自らが自決について執筆!三島の自決を理解するためのおすすめ解説書

行動学入門
目次

三島由紀夫『行動学入門』概要と感想~三島自らが自決について執筆!三島の自決を理解するためのおすすめ解説書

今回ご紹介するのは1970年に三島由紀夫によって発表された『行動学入門』です。私が読んだの文藝春秋所収版です。

早速この本について見ていきましょう。

若者よ、モヤシのようなインテリになるな! 行動の美を追求すべし。行動は肉体の芸術である。にもかかわらず行動を忘れ、いたずらに弁舌だけが横行する現代の風潮を憂えた著者が、行動と思索、肉体と精神の問題について思いをめぐらし、男としての爽快な生き方のモデルを示した現代の若者に贈る痛快エッセイ集。

Amazon商品紹介ページはこちら
バルコニーで演説する三島由紀夫 Wikipediaより

1970年11月25日、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決した三島由紀夫。本書『行動学入門』はその前年の1969年から1970年に連載されたエッセイです。

徳岡孝夫著『五衰の人 三島由紀夫私記』では本書について次のように解説されています。

昭和四十四年九月から雑誌連載が始まり翌年八月に終わった『行動学入門』になると、もはや疑う余地なく死の覚悟が読み取れる。

これは東大駒場での全共闘との討論集会(昭和44年5月12日)、国際反戦デー(同10月21日)、よど号事件(45年3月~4月)、瀬戸内海のシージャック犯射殺事件(同5月13日)などとほぼ同時進行的に書かれたものである。さまざまな角度から「行動」を論じ、三島さんの自決を理解するための最良の解説書になっている。事実、彼の自決を報じるに当たって、当時私のいた「サンデー毎日」編集部がまず開いたのは、この『行動学入門』だった。本屋でたちまち売り切れたのを記憶している。

その中で、三島さんはまず「行動は一度始まり出すと、その論理が終るまでやむことがない」という有名な宣言をしている。次いで鞘走った日本刀を比喩に使い、行動する者は鉄砲玉に似て「まつしぐらに突進する」と述べている。死に至る行動を決意した人間にしか書けない文章である。

文藝春秋、徳岡孝夫『五衰の人 三島由紀夫私記』P187-188

「さまざまな角度から「行動」を論じ、三島さんの自決を理解するための最良の解説書になっている」

徳岡氏のこの言葉を読み私は本書『行動学入門』を読むことにしたのでありました。

そして最初の章からいきなり印象的な言葉と出会うことになりました。

行動は迅速であり、思索的な仕事、芸術的な仕事には非常に長い時間がかかる。しかし生はある意味では長い時間がかかり、死は瞬間に終るのに、人々はどっちを重んじるだろうか。

西郷隆盛は城山における切腹によって永遠に人々に記憶され、また特攻隊はそのごく短い時間の特攻攻撃の行動によって人々に記憶された。彼らの人生の時間や、また何百時間に及ぶ訓練の時間は人々の目に触れることがない。行動は一瞬に火花のように炸裂しながら、長い人生を要約するふしぎな力を持っている。であるから、時間がかからないということによって行動を軽蔑することはできない。人々は長い一生を費やして一つことに打ち込んだ人を尊敬するけれども、もちろんその尊敬に根拠はあるけれども、一瞬の火花に全人生を燃焼させた人もまた、それよりもさらに的確、簡潔に人生というものの真価を体現して見せたのである。

至純の行動、最も純粋な行動はかくてえんえんたる地味な努力よりも、人間の生きる価値、また人間性の永遠の問題に直接に触れることができる。私はいつも行動と思索、肉体と精神の問題について思いをめぐらしてきたが、これから『行動学入門』という題のもとに、その私が行動について考えたことのさまざまな思考のあとをお目にかけたいと思う。

文藝春秋、三島由紀夫『行動学入門』P13-14

「行動は一瞬に火花のように炸裂しながら、長い人生を要約するふしぎな力を持っている」

まさに三島がやろうとしていたのはこういうことだったのかと思わざるを得ない言葉です。

現に本書のあとがきで三島自身が次のように述べています。

この本は、私の著書の中でも、軽く書かれたものに属する。いわゆる重評論ではない。しかしこういう軽い形で自分の考えを語って、人は案外本音に達していることが多いものだ。注意深い読者は、これらの中に、(私の小説よりもより直接に)、私自身の体験や吐息や胸中の悶々の情や告白や予言をきいてくれるであろう。いつか又時を経て、「あいつはあんな形で、こういうこと言いたかったんだな」という、暗喩をさとってくれるかもしれない。

文藝春秋、三島由紀夫『行動学入門』P251

『いつか又時を経て、「あいつはあんな形で、こういうこと言いたかったんだな」という、暗喩をさとってくれるかもしれない。』

1970年11月25日の自決決行まで、ほぼ全ての人が三島の決起を予想していませんでした。たしかに、三島の漠然とした異変に気付いていた人も少なくはありませんでしたが、まさかそんなことまでしないだろうと考えていたのです。

ですが自決後時を経て、まさにここで三島の予言していた通りになったのでした。『行動学入門』には三島の思いが真っすぐ述べられています。自分はこれからやるぞ。行動するぞ。俺は口先だけの人間だけではないんだと強く迫ってくるような迫力があります。

そして有言実行。三島は自らの人生に幕を引いたのでありました・・・。

三島の自決は今もなお謎に包まれたままです。

私もその謎に魅入られた一人です。三島の自決について知るには前回の記事で紹介した『三島由紀夫と楯の会事件』という本がとてもおすすめですが、本書『行動学入門』も三島自身が自決について語っているという点で非常に重要な作品となっています。

ぜひ、合わせて手に取って頂けたらと思います。

以上、「三島由紀夫『行動学入門』~三島自らが自決について執筆!三島の自決を理解するためのおすすめ解説書」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

行動学入門 (文春文庫 み 4-1)

行動学入門 (文春文庫 み 4-1)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
三島由紀夫『インドの印象』あらすじと感想~晩年の三島はインド旅行で何を見て何を思ったのか。『豊饒... 三島由紀夫は1967年秋に15日をかけてインドを旅しました。そのルートは広大なインドをぐるっと周遊するまさに強行軍です。 晩年の三島はインドについてかなり強い関心をもっていました。インターネットで何でも簡単に検索できる時代とは違います。自分から積極的に情報を集めなければヒンドゥー教について深く知ることはできません。こうしたインドや仏教への強い関心が三島文学、特に『豊饒の海』にも大きな影響を与えているようです。 このインタビュー記事が三島のインド観を知れる重要な資料であることは間違いありません。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
保阪正康『三島由紀夫と楯の会事件』あらすじと感想~1970年自衛隊市ヶ谷駐屯地での自決に至るまでの詳... この本では三島が自決に至る過程をかなり詳しく見ていくことができます。特に楯の会の結成やその進展、そして三島と自衛隊とのつながりについての解説は非常に興味深いものがありました。

関連記事

あわせて読みたい
三島由紀夫おすすめ作品15選と解説書一覧~日本を代表する作家三島由紀夫作品の面白さとその壮絶な人生とは この記事では三島由紀夫のおすすめ作品と解説書を紹介していきます。 三島由紀夫という尋常ならざる巨人と出会えたことは私の幸せでした。 三島文学というととっつきにくいイメージがあるかもしれませんが、しっかり入門から入ればその魅力を十分すぎるとほど味わうことができます。まさに三島文学の黒魔術です。ぜひおすすめしたい作家です。
あわせて読みたい
三島由紀夫の自決現場、自衛隊市ヶ谷駐屯地(現防衛省)市ヶ谷記念館を訪ねて 市ヶ谷記念館での見学は三島の「力」への憧れや最後の瞬間を感じられた素晴らしい体験となりました。三島由紀夫に興味のある方にはぜひおすすめしたいツアーです。 私はこの部屋で過ごした時間を忘れることはないでしょう。三島はここで死んだのだ。この場所が残されていることに心から感謝したいです。
あわせて読みたい
多磨霊園で三島由紀夫のお墓参り~生と死を問い続けた三島に思う 市ヶ谷記念館で三島由紀夫の自決現場を訪れた私は、そのまま東京都立多磨霊園へと向かいました。 目的はもちろん、三島由紀夫のお墓参りです。 私にとって三島由紀夫はもはや巨大な存在になりつつあります。そして壮絶な死を遂げた三島由紀夫にぜひ挨拶をしてから私はインドに発ちたいと思ったのでした。
あわせて読みたい
三島由紀夫『葉隠入門』あらすじと感想~「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」の真意とは。三島思想... 「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」 誰もが知るこの言葉の元となった『葉隠』を三島由紀夫は生涯愛しました。そして彼自身この作品を発表した3年後にまさに武士のように自刃しています。この本が三島に与えた影響が並々ならぬことは間違いありません。
あわせて読みたい
三島由紀夫『憂国』あらすじと感想~後の割腹自殺を予感?三島のエキスが詰まったおすすめの名作! 私自身、最初の三島体験となった『金閣寺』の次にこの作品を読んだのですが、この『憂国』を読んで私はいよいよ三島の魔力に取り憑かれてしまったのでした。 『憂国』は三島作品の中でも特におすすめしたい作品です。30ページほどの物語の中に三島由紀夫のエッセンスが凝縮されています。
あわせて読みたい
三島由紀夫『金閣寺』あらすじと感想~「金閣寺を焼かねばならぬ」。ある青年僧の破滅と内面の渦 私は『罪と罰』をかつて「ドストエフスキーの黒魔術」と呼びました。ドストエフスキーの作品は私たちに異様な感化力を以て襲いかかってきます。 そしてまさに三島由紀夫の『金閣寺』もそのような作品だと確信しました。この文体。この熱量・・・!恐るべき作品です
行動学入門

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次