MENU

渡辺研二『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』概要と感想~仏教との比較も興味深いおすすめ解説書!

ジャイナ教
目次

渡辺研二『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』概要と感想~仏教との比較も興味深いおすすめ解説書!

今回ご紹介するのは2005年に論創社より発行された渡辺研二著『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』です。

早速この本について見ていきましょう。

一、生きものを殺すなかれ。二、偽りのことばを語るなかれ。三、与えられないものをとるな。四、淫事を行うなかれ。五、なにものも所有するなかれ(執着するなかれ)―出家修行者が遵守すべき五大誓戒が出発点である。宗教的苦行があって、解脱が得られると解く。この厳しい戒律によって、仏教と異なりインド以外の地に渡っていないが、およそ二五〇〇年の長きにわたり、インド文化・経済に強い影響を与えつづけ、現在もなお篤信の在家信者二三〇万人を擁する“勝利者”の意を冠した究極の平和宗教集団―ジャイナ教のすべてを知る初めての本。

Amazon商品紹介ページより
開祖マハーヴィーラ像 Wikipediaより

ジャイナ教は仏教と姉妹宗教と言われるほど共通点の多い宗教です。「はじめに」ではこのことについて次のように述べられています。

ジャイナ教は、紀元前五~六世紀ごろ、インドの地で生まれ、現在もなお生命を保っている古い歴史をもつ宗教である。紀元前五-六世紀に二四人のジナ(輪廻に「打ち勝った者」の意)の最後に位置するといわれるマハーヴィーラと呼ばれる人物のもとに反バラモン主義運動として組織されて以来、今にいたるまで続いているインドの宗教運動である。時代・地域つまり紀元前五~六世紀のインドというのは仏教の開祖ゴータマ・ブッダ(釈迦)の活躍したのとほぼ同じ頃、同じ地方のことをいう。

ジャイナ教の、いわゆる開祖はマハーヴィーラという名前の人物であった。「いわゆる」というのは、パーサという先駆者が認められるので実際は改革者と呼ぶほうが相応しいからである。彼の教えはとくに、生きものを傷つけない、殺さないという誓いを実行することで知られている。そしてその説くところは業(カルマ karma)の消滅と個人の救済であった。諸聖典を知り、教義を信じ、禁欲と不殺生(アヒンサー ahimsā)を倫理的に実践することが、ジャイナ教の最も重んじるところである。

信者には、ニつの道が開かれている。一つは遊行し乞食し教導する修行者としての道と、もう一つは信心深い世俗の信徒としての道である。この不殺生の教えがジャイナ教を特徴づける大きな要因となって、今もなお我々の関心をこのインド土着の宗教に向けさせているといえよう。

さて、これはジャイナ教を語るときによく持ち出される話ではあるが、西洋でインド学が始まったとき、つまりインド以外の国がインドを意識しはじめたとき、はじめのうち学者たちはジャイナ教というのは仏教の一派であるとみなしていたということが伝えられている。それほど仏教とジャイナ教はよく似ていて、外国人からは区別が付けにくかったのである。姉妹宗教とか、双子の宗教などといわれているのも理由のないことではないといえよう。

研究が進み、両者には大きな違いもあることがわかり、ジャイナ教と仏教は別の宗教であり違うことが判明したが、それでもなお、両者はインドの同じ時期、同じ地方で起こっていることから、お互いにとてもよい比較の材料を提供している。たとえば、人生を苦であるとみなすこと、輪廻転生、業、過去仏思想をはじめとして、解脱、涅槃、戒律、とくに五戒などはほとんど同じといってよい。両者の間には、何かしら起源を同じくする共通の基盤を感じさせるものがあるのである。仏教のことをたいへん詳しく研究した西洋の学者H・オルデンべルグは「もしわれわれがジャイナ教の聖典を読むと、そのたびに仏教徒の説を聴くように感じる」と述べているのは象徴的である。

仏教とジャイナ教をたとえていえば、子供の頃、同じ土地で幼児期を過ごした二人が、成長して大人になり、ふりかえると、現在の置かれた立場や地位は違うが、共通の記憶を保っていた、といったようなものではないだろうかと私は考える。その共通の記憶が、仏教でいえば原始仏教聖典のなかに、ジャイナ教でいえばアーガマのなかに保存されていて、両宗教の教典中に並行句として伝承されているのであろう。

論創社、渡辺研二『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』P15-17

この本ではジャイナ教の基本的な教義や成立の背景などをわかりやすく知ることができます。

特にこの本ではジャイナ教が生まれてくる背景としての六師外道についても詳しく知れるのがありがたかったです。

六師外道とは仏教側から見たブッダと同時代のインドの思想家のことです。この中の一人がジャイナ教の開祖マハーヴィーラ(仏教ではニガンタ・ナーマプッタと呼びます)になります。

ブッダの生きた時代を学ぶ上でも六師外道の思想家は非常に重要な存在です。やはり仏教とジャイナ教は同じ時代に同じ文化的背景の中で生まれてきたとあってその成立過程も共通するものが多々あります。

こうした時代背景と一緒にジャイナ教とは何かを知れるこの本はとてもおすすめです。

ジャイナ教の入門書としてとても読みやすく、仏教の参考書としてもありがたい作品でした。

以上、「渡辺研二『ジャイナ教 非所有・非暴力・非殺生―その教義と実生活』~仏教との比較も興味深いおすすめ解説書!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

ジャイナ教: 非所有・非暴力・非殺生

ジャイナ教: 非所有・非暴力・非殺生

次の記事はこちら

あわせて読みたい
間永次郎『ガンディーの真実―非暴力思想とは何か』あらすじと感想~ガンディーの人柄や思想の核を知るの... マハトマ・ガンディーといえば誰もが知るインド独立に大きな役割を果たした偉人中の偉人です。 本作ではそんなガンディーの思想や人柄、そして社会に与えた影響についてわかりやすくかつ詳しく見ていけるおすすめの参考書になります。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
平川彰『インド仏教史』概要と感想~仏教学の不滅の古典!仏教の歴史や教義が網羅された名著! 一つの著作でここまで教えを網羅し、ひと流れの仏教史として書き上げられた本書は驚異としか言いようがありません。 これはものすごい本です。初学者に気軽におすすめできる本ではありませんが、仏教をより深く学びたいという方にはぜひおすすめしたい一冊です。

関連記事

あわせて読みたい
中村元選集第10巻『思想の自由とジャイナ教』概要と感想~六師外道の思想やジャイナ教と仏教のつながり... この本では六師外道が生まれてきた背景やそこからブッダが活躍するまでの流れも知ることができます。ブッダもたったひとりで全ての思想を生み出したわけではありません。六師外道をはじめとした優れた思想家たちとの切磋琢磨を経て思想を生み出しています。 こうした思想形成の流れを知る上でも六師外道やジャイナ教を学ぶことは大きな意味があると思います。
あわせて読みたい
山下博司『古代インドの思想―自然・文明・宗教』あらすじと感想~インドの気候・風土からその思想や文化... この本ではモンスーン気候や乾季、雨季、森などインド思想を考える上で非常に興味深いことが語られます。 これは面白いです。インドだけでなく、あらゆる宗教、思想、文化を考える上でもとても重要な示唆を与えてくれる一冊です。
あわせて読みたい
保坂俊司『インド宗教興亡史』あらすじと感想~仏教、ヒンドゥー教、イスラム教だけでなくシク教、ジャ... インド古代のバラモン教と仏教、ジャイナ教の関係。そこから時を経てヒンドゥー教とイスラム教が力を増す背景とは何だったのか。なぜ仏教は衰退したのか、そしてその姉妹宗教と言われるジャイナ教はなぜ今も生き残ることができたのか。これらを時代背景や宗教間の相互関係から見ていけるこの本は非常に貴重です。
あわせて読みたい
中村元『インド思想史』概要と感想~仏教の学びに大いに役立つ名著!インド思想の流れを概観できるおす... 今作『インド思想史』は仏教研究における古典中の古典とも言える名著です。 中村元先生の著書の特徴は、単に思想や哲学理論を語るのではなく、時代背景や実際の現地での生活と絡めて説く点にあります。今作『インド思想史』もまさにそうした中村節を堪能できる名著となっています。
あわせて読みたい
中村元『古代インド』あらすじと感想~仏教が生まれたインドの風土や歴史を深く広く知れるおすすめ参考書! 仏教の教えや思想を解説する本はそれこそ無数にありますが、それらの思想が生まれてきた時代背景や気候風土をわかりやすくまとめた本は意外と少ないです。この本は私達日本人にとって意外な発見が山ほどある貴重な作品です。これを読めばきっと驚くと思います。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次