MENU

田中亮三、増田彰久『イギリスの近代化遺産』あらすじと感想~イギリス産業革命の歴史的スポットを知るのにおすすめ!

目次

田中亮三、増田彰久『イギリスの近代化遺産』概要と感想~イギリス産業革命の歴史的スポットを知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2006年に小学館より出版された田中亮三、増田彰久著『イギリスの近代化遺産』です。

早速この本について見ていきましょう。

世界遺産の鉄橋・工場等の華麗な姿を紹介
産業革命期の近代化遺産40件あまりを日本で初めて紹介。世界遺産となった鉄橋、工場をはじめ、駅、発電所、ダム、炭坑、温室など、その壮大で華麗な姿をカラーで収録。あわせて明治近代化の舞台裏に迫ります。

近年日本でも、富岡製糸場など近代化遺産に対する関心が高まっています。その明治近代化のお手本とされたのが、産業革命の本家イギリスでした。本書はイギリス各地を取材して橋梁・駅舎・炭坑・工場・発電所などの代表作と、産業革命の歴史を紹介。さらに、近代化遺産を大切に保存してきた、文化財保護の先進国イギリスの精神に迫る一冊です。


Amazon商品紹介ページより

この本の特徴はまずその美しい写真にあります。見開き一杯に写真が掲載され、そこに解説も添えられています。

最初の章は巨大な橋が紹介されます。「イギリス土木技術が生み出した産業革命の美の頂点」と著者が述べるように、写真で見るだけでもその美しさが伝わってきます。

その中でも私が特に気になったのは世界初の鉄橋とされるアイアンブリッジです。

1780年当時のアイアンブリッジ Wikipediaより

この橋は1777年に作られ、産業革命の象徴としてイギリス初の世界遺産として登録されました。

この本ではそんなアイアンブリッジの素晴らしい写真と共に簡潔な解説も受けることができます。これは生で見たくなりました。現地に行って見てみたいなという気持ちになるくらい素晴らしい写真です。

こちらがこの本の目次になりますが、見ての通り様々な種類の建築物を見ることができます。

イギリスの産業革命の遺産を満遍なく学べるのもこの本のありがたい所です。

そしてこの本の後半ではイギリスの産業革命についてのわかりやすい解説が説かれます。これまで産業革命について知識がなかった人でも楽しく読めるような、とても丁寧な解説です。これも非常にありがたい点でした。

この本の中で私が一番興味深かったのはやはり世界遺産ニューラナーク工業団地でした。

ニューラナーク工業団地 Wikipediaより

ここはフーリエ、サン・シモンと並んで空想的社会主義者と呼ばれたロバート・オーエンの作った工業団地です。

あわせて読みたい
(21)空想的社会主義者ロバート・オーエン~労働環境の改善に努めたスコットランドの偉大な経営者の存... エンゲルスに空想的社会主義者と呼ばれたロバート・オーエンですが、彼は明らかに他の二人(サン・シモン、フーリエ)とは異質な存在です。 結果的に彼の社会主義は失敗してしまいましたが、その理念や実際の活動は決して空想的なものではありませんでした。 後の記事で改めて紹介しますが彼の自伝では、彼がいかにして社会を変えようとしたかが語られます。19世紀のヨーロッパにおいてここまで労働者のことを考えて実際に動いていた経営者の存在に私は非常に驚かされました。 彼のニューラナークの工場は現在世界遺産にも登録されています。
あわせて読みたい
ロバート・オウエン『オウエン自叙伝』あらすじと感想~イギリスの空想主義的社会主義者の第一人者によ... 社会主義者というとマルクスやエンゲルスなどのイメージで革命家とか経済学者、哲学者のイメージがあるかもしれませんが、オーウェンは全く違います。彼は根っからの商人であり、実業家でした。 彼が自分の工場でなした改革は今でも評価されるほど人道的でした。 資本家はあまねく強欲であり、労働者を搾取する悪人だという考え方には明らかに収まりきらないものがオウエンにはあります。 この『オウエン自叙伝』ではそんなオウエンがなぜそのような思想に至るようになったのか、彼の原動力とは何だったのかを知ることができます。読めばきっと驚くこと間違いなしです

産業革命によって労働者の環境が劣悪になっていく時代の中、ロバート・オーエンはひとり人道的な工場経営を目指し奮闘していました。その画期的な経営は世界中に衝撃を与えたという歴史があります。

この本では次のように解説されていました。

スコットランドのクライド渓谷に1784年、企業家ディヴィド・デイルと近代的綿織物の先駆者リチャード・アークライトによっで創設された工場。のちにデイルの娘婿で社会主義者のロバート・オーウェン(1771~1858)が「よりよい環境は高い生産性を生む」という信念のもと、学校・集会所、今日のコー・オプ(生協)の元祖となる購買組合を開設。理想的社会の建設をめざした

小学館、田中亮三、増田彰久『イギリスの近代化遺産』 P36

ニュー・ラナーク工業団地

当時の社会矛盾を真剣に考え、理想の社会環境を精力的に模索したロバート・オーウェンのような社会主義者が現われたことは、イギリスの中世からの伝統「高貴なるものの責務(ノブレス・オブリージ)」の精神の表われであった。ニュー・ラナークは社会改良の好例として世界から注目されるー方で、工場経営としても成功をおさめる。こうした歴史的価値が評価され、ニュー・ラナーク工業団地は2001年に世界遺産に登録された。

小学館、田中亮三、増田彰久『イギリスの近代化遺産』 P 39

私にとっても産業革命といえば労働者の悲惨な環境をイメージしてしまいますが、その中でもこうした人道的な経営を目指していた人がいたということ、そしてその工場が今もこうして残されて世界遺産として大切にされているというのはとても興味深いことでした。ぜひ一度訪れてみたいなと思ったのでした。

この本は産業革命時代の遺産を素晴らしいビジュアルと共に学べる1冊です。

ぜひぜひおすすめしたい1冊です。

以上、「『イギリスの近代化遺産』イギリス産業革命の歴史的スポットを知るのにおすすめ!」でした。

Amazon商品ページはこちら↓

イギリスの近代化遺産 (ショトル・ミュージアム)

イギリスの近代化遺産 (ショトル・ミュージアム)

次の記事はこちら

あわせて読みたい
『写真で見る ヴィクトリア朝ロンドンの都市と生活』あらすじと感想~ディケンズも見た19世紀後半のロン... この本では19世紀中頃から後半にかけてのロンドンの姿を大量の写真で見ることができます。 この本の特徴は19世紀イギリスの偉大な文豪ディケンズと絡めてロンドンの街が語られる点にあります。 たくさんの写真と一緒にディケンズ作品との関わりも解説されていきますのでディケンズファンにはたまらない構成となっています。

前の記事はこちら

あわせて読みたい
サイモン・フォーティー『産業革命歴史図鑑 100の発明と技術革新』あらすじと感想~産業革命の歴史と発... この本の特徴は何といっても資料の豊富さです。書名にもありますように、100の発明が写真、イラストと共にわかりやすく解説されます。 産業革命について書かれた本が意外と少ない中で、この本は非常にありがたい作品です。タイトルに「歴史図鑑」とありますように、写真やイラストが豊富なのも素晴らしい点です。解説もとてもわかりやすいです。 産業革命の歴史を学ぶ入門書としてこれはかなりおすすめな一冊です。

関連記事

あわせて読みたい
(65)エンゲルスの『反デューリング論』から生まれた『空想から科学へ』~空想的社会主義者という言葉... 誰も読まない、いや読めない難解な『資本論』を一般の人にもわかりやすく広めたことの意義はいくら強調してもし足りないくらい大きなものだと思います。 難解で大部な『資本論』、簡単でコンパクトな『空想から科学へ』。 この組み合わせがあったからこそマルクス主義が爆発的に広がっていったということもできるかもしれません。
あわせて読みたい
(16)空想的社会主義者サン・シモンの思想とは~後のフランス第二帝政に巨大な影響を与えた経済思想家 空想的社会主義者とはエンゲルスによって1880年に出版された『空想から科学へ』の中で説かれた有名な言葉です。 エンゲルスはマルクス以前に社会主義思想を説いた有名な3人、サン・シモン、シャルル・フーリエ、ロバート・オウエンを「空想的社会主義者」と述べました。 そして彼らの「空想的」な理論に対して、マルクスの理論は「科学的」であると宣言します。 今回の記事ではまず、そのサン・シモンという人物についてお話ししていきます。
あわせて読みたい
(17)空想的社会主義者フーリエの思想とは~ファランジュやユートピアで有名なフランス人思想家 エンゲルスはマルクス以前に社会主義思想を説いた有名な3人、サン・シモン、シャルル・フーリエ、ロバート・オウエンを「空想的社会主義者」と述べました。 そして彼らの「空想的」な理論に対して、マルクスの理論は「科学的」であると宣言します。 前回の記事ではサン・シモンを紹介しましたが、今回の記事ではシャルル・フーリエという人物についてお話ししていきます。
あわせて読みたい
カール・B・フレイ『テクノロジーの世界経済史』あらすじと感想~産業革命の歴史と社会のつながりを学ぶ... この本ではなぜイギリスで産業革命が起きたのか、そしてそれにより社会はどのように変わっていったのかを知ることができます。 マルクスとエンゲルスは、機械化が続けば労働者は貧しいままだという理論を述べました。 たしかに彼らが生きていた時代にはそうした現象が見られていましたが、現実にはその理論は間違っていたと著者は述べます。 この伝記は産業革命とテクノロジーの歴史を知るのに非常におすすめな1冊となっています。
あわせて読みたい
『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』あらすじと感想~資本主義と脱成長、環境問題を問う名著!『人新世の... この本は単に「資本主義が悪い」とか、「資本家が搾取するから悪いのだ」という話に終始するのではなく、より思想的、文学的、人間的に深くその根源を追求していきます。これがこの本の大きな特徴であるように思えました。 斎藤幸平著『人新世の資本論』に魅力を感じた方にはぜひ、あえてこの本も読んでみることをおすすめします。読んでいない人にもぜひおすすめしたい面白い本です。資本主義、マルクス主義だけではなく、「人間とは何か」ということも考えていく非常に興味深い作品です。
あわせて読みたい
マルクス『資本論』を読んでの感想~これは名著か、それとも・・・。宗教的現象としてのマルクスを考える 『資本論』はとにかく難しい。これはもはや一つの慣用句のようにすらなっている感もあります。 この作品はこれ単体で読んでも到底太刀打ちできるようなものではありません。 時代背景やこの本が成立した過程、さらにはどのようにこの本が受容されていったかということまで幅広く学んでいく必要があります。 私がマルクスを読もうと思い始めたのは「マルクスは宗教的現象か」というテーマがあったからでした。 ここにたどり着くまで1年以上もかかりましたが、マルクスとエンゲルスを学ぶことができて心の底からよかったなと思います。
あわせて読みたい
海野弘他『レンズが撮らえた19世紀ヨーロッパ』あらすじと感想~19世紀西欧を写真で概観するおすすめガ... この本では同時代の国家間のつながりはどのようなものだったのか、それぞれの国の特徴はどのようなものだったのかということを知ることができます。しかも写真が大量にありますのでとてもイメージしやすいです。 そしてこの本のタイトルにもありますように、カメラと写真技術そのものの歴史も知ることができます。カメラの技術が発明されたのが1839年で、そこからあっという間にその技術は進歩し1840年代にはかなり性能のよいカメラ技術も出てきます。 これは刺激的な1冊です!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次