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ウルリケ・ヘルマン『スミス・マルクス・ケインズ』あらすじと感想~古典経済学の流れを知るのにおすすめ!

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ウルリケ・ヘルマン『スミス・マルクス・ケインズ よみがえる危機の処方箋』概要と感想~古典経済学の流れを知るのにおすすめ!

今回ご紹介するのは2020年にみすず書房より発行されたウルリケ・ヘルマン著、鈴木直訳の『スミス・マルクス・ケインズ』です。

早速この本について見ていきましょう。

今こそ、経済学の最重要人物 スミス、マルクス、ケインズに立ち返ろう!

市場原理主義者スミス、革命理論家マルクス、恐慌の経済学者ケインズというステレオタイプから離れて、その経済思想の核心を、彼らの生涯と代表作『国富論』『資本論』『一般理論』を辿って明らかにする。

いま資本主義は新たな局面に入っており、しかも危機を孕んでいる。この本が、新たな視点を与えてくれる、現代資本主義への処方箋となるだろう。


Amazon商品紹介ページより

はじめに申し上げます。この本は大変おすすめです!これは素晴らしい本です!

アダム・スミス、マルクス、ケインズについての本というと、何やら難しい本のようにも思えますが、著者は一般の読者にもわかりやすいように書いています。しかもそれによって解説の質が下がることもありません。当時の時代背景や思想の流れ、彼らの経済思想がいかに独創的だったかをわかりやすく解説してくれます。

訳者のあとがきにこの本についてわかりやすくまとめられていましたのでそちらを引用します。

アダム・スミス、カール・マルクス、ジョン・メイナード・ケインズの三人が、一八世紀、一九世紀、ニ〇世紀をそれぞれ代表する経済学史上のビッグ・スリーであることは、今日でも大半の人が認めるだろう。ところが驚くべきことに、この三人は大学ではもうほとんど教えられていない。せいぜい経済学史の講義や少人数ゼミで個別にとりあげられる程度だろう。この三人は、理論的にはすでに「終わった」人として歴史の陳列棚に移されている。

しかし、三人に対するこの処遇は間違いだとへルマンは言う。「経済学という学問分野を創設し、変革したのは、この三人の理論家だった。……この三人だけが自分の学問分野の座標軸を新たに定義しなおした」「彼ら三人もまた時代の子だった。だから彼らのアイデアの中には、歴史的発展によって反証されたものも少なからずある。それでもこの三人は、現代の経済学者とは異なり、本質的な問いを立てて、広く現実世界を見渡した。それゆえ三人の分析は今なお現実味があり、その間違いの部分でさえ、資本主義とそのダイナミックな歴史について、現代の主流派経済学者の理論よりも多くのことを教えてくれる」。

では、三人が立てた「本質的な問い」とは何だったのか。それは簡単に言えば、経済活動に参加する各個人は、なぜみずからの意図とは異なる現実をたえず生み出すのかという問いだった。彼らはそこに「見えざる手」(スミス)や、「弁証法的発展」(マルクス)や、「貯蓄のパラドクス」(ケインズ)が作用していることを発見した。今の言葉で言えば、マクロ経済学がミクロ経済学の単純な加算ではないことを彼らはすでに認識していた。その意味でこの三人は、今日「資本主義」と呼ばれている社会システムを初めて逆説に満ちた動学的過程として描き出した。だから「資本主義という名の冒険を楽しむ最善の方法は、資本主義の最も犀利な理論家を知ることだ。すなわちスミス、マルクス、ケインズを」とへルマンは書いている。

本書でのへルマンの狙いは、市場原理主義者スミス、革命理論家マルクス、恐慌の経済学者ケインズといったステレオタイプを解体し、彼らの経済思想がどのような歴史状況と時代経験から生まれてきたかを躍動的に再構成することにある。その着眼点と筆致にはジャーナリストとしての本領がいかんなく発揮されている。読者は、ビッグ・スリーの生涯と理論を辿りながら、同時に重商主義や重農主義、マルサスやリカード、限界効用理論(ワルラス、ジェヴォンズ、メンガー)、シュンぺーターなど、西欧経済学史の大まかな流れをつかむことができる。経済学の予備知識はほとんど不要で、一般向けの啓蒙書として手軽に読めるが、かといって解説の水準は犠牲になっておらず、経済学部の学生のための入門書としても、あるいは大学の一般教養科目の参考書としても十分に利用できる。本書全体を通じてあぶり出されているのは資本主義システムの不均衡動学的な性質であり、それはそのまま現代の主流派経済学への批判ともなっている。


みすず書房、ウルリケ・ヘルマン、鈴木直訳『スミス・マルクス・ケインズ』P385-386

この本はマルクスを学ぶのに最適な本のひとつです。

この本ではまずマルクスに至るまでの経済学の歴史、時代背景をアダム・スミス、リカード、マルサスを中心に見ていきます。そしてそこからいかにマルクスが独自な方法で自らの経済学を生み出したのかを知ることができます。

さらにはマルクスの後に出てくるケインズの経済学や時代背景を見ていくことで、マルクスとケインズの違いも知ることができます。

マルクス以前とマルクスはどこが違うのか。マルクス以後とマルクスは何が違うのか。

この本はそうしたことを比べながら見ていくことができるので非常にわかりやすいです。やはり比べてみて初めて見えてくることもありますよね。

マルクスのことを歴史の流れ、時代背景と絡めながら見ていけるこの本は素晴らしいです。非常に広い視野で書かれた逸品です。

これはぜひぜひおすすめしたい1冊です。マルクスだけでなく、アダム・スミスやケインズを学びたい方にもおすすめです。この本の前半でまず語られるのがアダム・スミスなのですが、この解説がものすごくわかりやすく、その時点ですでに心を掴まれてしまいました。面白くて面白くてそこからは一気呵成に読み切ってしまいました。

ぜひ手に取って頂きたい作品です。

以上、「ウルリケ・ヘルマン『よみがえる危機の処方箋』古典経済学の流れを知るのにおすすめ!」でした。

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スミス・マルクス・ケインズ――よみがえる危機の処方箋

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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