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(7)源信の『往生要集』と現代の地獄巡り~なぜ戦争や弾圧、虐殺を学ばなければならないのか

目次

「なぜそこまでやらなきゃいけないの?」というお声を頂き・・・

ちょうど去年の今頃から私はドストエフスキーの記事をこのブログで書き始めました。なぜ僧侶の私がドストエフスキーについてブログを書いているのかと不思議に思われた方も多かったかもしれません。

ですが長いこと続けていると、きっと多くの方もそれに慣れてきたのではないでしょうか(笑)

しかし、ドストエフスキーや世界文学について書いていくならまだしも、ソ連史や独ソ戦について書いている最近のブログはどういうことなのでしょうか。

実は最近、「戦争のこととか大量殺人ばかりで読むのもつらくなってきました。なぜそこまでやらなきゃいけないのですか」という言葉を頂くことが何度もありました。

たしかに、ここしばらくソ連の歴史や独ソ戦、ホロコーストについて更新を続けています。

また、今まで通り本を紹介して一つの記事で完結するのではなく、「~を読む」という形で詳しく記事を書き始めました。

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そのきっかけはこのレーニン伝でした。この本が異常に面白く、現代を生きる上でも重要な教訓を与えてくれることからこうした試みを始めました。

このレーニン伝もなかなかにヘビーな内容も書かれていましたが、まだ普通に読み物として読める内容です。

ですがスターリンくらいからその風向きは変わり始め、前回まで更新していた『ブラッドランド』ではかなりどぎついものとなっています。(それでもあまり露骨になりすぎない箇所を選んでいます)

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読んでいてつらい部分があると思います。ですが、記事を書いている私もつらいのです。

ここ数カ月ソ連史と独ソ戦、虐殺関係の本をずっと私は読んでいます。全体主義の恐怖、いつ殺されるかわからない日々、極限状態における人間の混沌、戦争の悲惨さ、残虐さ・・・

毎日毎日、朝から晩までずっとそれらのことについて考えています。そしてそれらと今の世界についても・・・

正直、精神的にかなり追いつめられる時もあります。

ですが、私はやらねばなりません。

私はドストエフスキーが警告していた世界の有り様を知らねばなりません。

宗教を、仏教をもっともっと突き詰めていくには地獄のような世界を記した書物も読まねばなりません。

ただ単に「平和は大事です」「いのちは大切です」「殺人はいけません」「みんな仲良くしましょう」と語る言葉が私にとっては逆に恐ろしいものなのです。なぜなら、現実はこれらと真逆のことがあまりに多く起こっているからです。私はこういう言葉をぽんと言うことに対し絶望的な責任と恐怖を感じてしまうのです。

きっとこういう風に思ってしまうのもドストエフスキーの影響です。『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官の章」が私の宗教観に今もなお強烈な影響を与えています。

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ですがあくまでこれは私自身の思いです。他の方が言うことに異を唱えているわけでは決してありません。これはあくまで私個人の抱える問題であり葛藤なのです。私にとって解決しなければならない切実な問題なのです。

だから私はやるしかないのです。私にとっては、「そこまでする必要なんてないじゃないか」ということにはなりようがないのです。もし私がそこから目を背けたら、私は私でなくなってしまうのです。

これが私が戦争や虐殺、弾圧を学ぶ理由です。

ただ、もうひとつ、こうも言うことができます。

私が今苦しくとも地獄のような世界を見ようとするのは、「最後に私が納得するためだ」とも。

これはどういうことでしょうか。

これまで様々な宗教や思想を私は学んできました。そして世界の文学や歴史も学んできました。

歴史に名を残した偉人達、あるいは小説の主人公達はそれこそ絶望的な状況からも立ち上がり、人々に勇気を与えてきました。彼らは苦しみながらもその苦しみと向き合い、そこから前へ進んで行きます。

彼らにとって、地獄は終着点ではないのです。彼らは地獄のような現実を経てもなお進み続けるのです。

また、日本でも地獄を描いた有名な方がおられます。

それが平安時代中期に活躍した源信和尚(942-1017)です。

恵心源信像。聖衆来迎寺所蔵

源信といえばその著作『往生要集』で有名です。『往生要集』は985年に完成し、日本仏教にとてつもない影響を与えた書物です。きっと皆さんも日本史の授業で一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

この本ではまず地獄の様子が克明に描かれ、その後で極楽浄土の様子や、書名にありますように「浄土へ往生するための要」が書かれていきます。

つまり恐ろしい地獄へと堕ちることなく極楽浄土へ至る道筋をこの本で述べていくことになります。

国宝『六道絵』黒縄地獄幅(聖衆来迎寺蔵)

ただ、源信としては極楽浄土にいくための正しい生活や修行法を広めたかったのでしょうが、前半の地獄の描写があまりに恐ろしかったので読む者はこの強烈なインパクトに恐れおののき、地獄にだけは堕ちたくないという風潮が一気に広がっていったそうです。地獄を導入部として書いたはいいもののそっちの印象が強すぎてそこばかりがクローズアップされるという現象が起こってしまったのです。

しかしこうしたことがきっかけとなり日本の浄土教は一気に広がっていったのでした。何がきっかけでどうなるかはわかりません。源信和尚もきっと驚いたことでしょう。(もしかしたら計算済みだったかもしれませんが)

何はともあれ、源信は地獄と向き合い、そこから自分の仏道を歩んでいったのでありました。

また、地獄巡りの様子を描写するというのはダンテの『神曲』も有名ですよね。この作品でも地獄からスタートして煉獄、天国へと向かって行きます。

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このように宗教と地獄巡りは強い結びつきがあります。

私にとって独ソ戦やホロコーストなどの悲惨な歴史を学ぶことは、ある意味現代の地獄巡りでもあるのです。その地獄を通して世界を新たに見つめ直していく。そして自分の信じる宗教や道とは何なのかを考えていく。これが今私がやろうとしていることなのです。

先ほど私は、『私が今苦しくとも地獄のような世界を見ようとするのは、「最後に私が納得するためだ」』と言いました。

まさしく、私はこうした地獄を学ぶことで私自身の道を進んで行きたいのです。これは極めて個人的な問題です。私自身が宗教者として生きていくためにはこれがどうしても必要なのです。

そういうわけで、もうしばらく今のようなテーマでブログを続けようと思っています。読んで下さる方にはもう少しの間辛い思いをさせてしまうかもしれません。ですがこれが私の地獄巡りなのです。

もちろん、私は実際にこの身体でホロコーストや虐殺、弾圧を経験したことはありません。本当の意味での「体験」はないのです。しかしだからといって何もしないわけにはいきません。先人たちが残してくれた歴史を少しでも感じとれたらなと思い、日々本を読み、考え続けています。

「だったら個人的にやればいいだけで何もブログで書かなくてもいいではないか。」

たしかにそうかもしれません。

ですがこのブログはもはや私にとって、なくてはならないものになっています。ここに書くということの意味が日に日に大きくなっていることを感じています。

本当にここに書けないくらいえげつないものに関してはもちろん自重しています。ですが書ける範囲のものに関しては今までと変わらず書いていきたいなと思っています。

長くなりましたがこれが今私の思う所でございます。

独ソ戦が終われば次は冷戦世界について記事を更新していく予定です。それが終わればさらにマルクス、トルストイ、聖書と進んで行きドストエフスキーにまた帰っていきたいと思っています。

ドストエフスキーの記事も終えればそこからはいよいよ仏教に入っていきます。

まだまだ長い道のりになりそうですが、これからも変わらず学び続けていきます。今後ともどうかよろしくお願い致します。

以上、「(7)なぜ戦争や弾圧、虐殺を学ぶのか~源信の『往生要集』と現代の地獄巡り」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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