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(32)パリでの緊迫の逃走劇!ユゴーのカメラ・アイが冴えわたる!

ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む
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「ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む」(32)パリでの緊迫の逃走劇!ユゴーのカメラ・アイが冴えわたる!

『レ・ミゼラブル』 第二部 コゼット 第五章 暗闇の追跡に無言の同勢 ⑴

間一髪でゴルボー屋敷から逃走したジャン・ヴァルジャンとコゼット。ここから彼らはパリの街をあてどなく彷徨うことになります。

折しも、この日は満月でした。道は明るく、歩くには好都合でしたが、その分視界が良すぎました。月明かりに照らされたパリは、追う者にとっても追われる者にとっても互いの存在を感じずにはいられない実にスリリングな舞台と化していたのです。

そして逃げ回るジャン・ヴァルジャンでしたが、ついに追跡者の存在に気付きます。やはり彼は追われていたのです。

追っ手は3人から4人に増えました。そして月明かりがその一人を照らします。間違いありません。ジャヴェールがすぐそばまで来ていたのです。

「今度こそ間違いない。ジャヴェールは俺を嗅ぎつけた!」

この緊迫した事態にジャン・ヴァルジャンはいよいよ決心し、大胆な逃走を始めます。彼らの隙をついて、セーヌ川に架かるオーステルリッツ橋を渡ったのでありました。

この橋は上の地図にありますように今も現存しています。作中で「植物園に沿って低い道を通り、川岸に出た」とありますように、この植物園も現存しているようです。しかもこの橋のすぐ近くにはノートルダム大聖堂やパンテオン、バスティーユ広場など有名所がひしめいています。こういう場所をジャン・ヴァルジャンは、走っていたのです。

そしてこの橋の逃走シーンなのですが、実に臨場感があり、まさに映画を見ているかのような気分になります。ミュージカル映画ではなぜかこの最高に映画向きな場面がなく、私も不思議に思っていたのでありますが、フランス文学者鹿島茂先生はこのことについて『「レ・ミゼラブル」百六景』で次のように解説しています。

しばしばユゴーは「映画の出現を先取りしたシナリオ・ライター」と言われるが、この場面はたしかに幻視者ユゴーのカメラ・アイが冴えを見せているところである。ただ、『レ・ミゼラブル』はあまりに直接的な映画技法が使われているせいか、そのまま忠実に映画化すると、かえって映画文法の紋切り型に堕してしまうらしく、これまで何度となく映画化されながら、いまのところ原作を凌ぐような傑作は生まれていない。

文藝春秋、鹿島茂『「レ・ミゼラブル」百六景』P183-184

なるほど、「あまりに直接的な映画技法が使われているせいか、そのまま忠実に映画化すると、かえって映画文法の紋切り型に堕してしまう」という理由があったのですね。

つまり、映画という存在が生まれる前からすでに王道中の王道すぎるものをすでに生み出してしまっていたということなのですね。さすがユゴー、恐るべしです。

そしてぎりぎりのところまで追っ手が迫る中、目の前の通りの先に見張りがいることに気付きます。このまま進めばその見張りに見つかってしまう!とはいえ今戻れば追っ手に捕まるだけだ・・・。

ジャン・ヴァルジャンは影に隠れながらも必死に考えますが、ここで少し向うからさらに足音が響いてくるのが聞こえてきます。なんと、今度は7、8人の兵隊が列を作ってこちらに向かって来ていたのです。これもジャヴェールが救援を要請したからでありました。さすがジャヴェール、抜かりがありません。

もはや絶体絶命!逃げ場はない!

さすがのジャン・ヴァルジャンも万事休すかと思われたその瞬間、彼は閃きます。「壁があるなら登ればいいではないか」と。ジャン・ヴァルジャンは徒刑囚時代から驚異的な壁登りの技術を持っていました。この技術によって何度も脱獄を成功させたほどです。そしてその技術を使ってこの行き止まりと思われた壁を乗り越え、コゼットを路面ランプの綱で吊り上げたのでありました。

まさにぎりぎり!サスペンス映画さながらの緊張感あふれる逃走シーンはこうして完結したのでありました。

そして何とか逃げおおせた2人でしたが、今度はその逃げた先があまりに謎で恐怖に震えることになります。

ピンチを切り抜けたと思った瞬間、次なる謎が襲い掛かって来る。もはやお手本のような展開が続いていますが、次の記事ではその謎について見ていくことにしましょう。ここでもユゴーの十八番、偉大なる「たまたま」が姿を現します。

続く

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「『レ・ミゼラブル』おすすめ解説本一覧~レミゼをもっと楽しみたい方へ」
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ユゴーの原作『レ・ミゼラブル』を読む

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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