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ドストエフスキーは何から読むべき?読む順番のおすすめは?

ドストエフスキー
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ドストエフスキーは何から読むべき?読む順番のおすすめは?

フョードル・ドストエフスキー(1821-1881)Wikipediaより

あのトルストイと並ぶロシアの文豪、ドストエフスキー。

ドストエフスキーといえば『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』など文学界では知らぬ者のない名作を残した圧倒的巨人です。彼の作品は人間心理の深層をえぐり出し、重厚で混沌とした世界を私達の前に開いてみせます。そして彼の独特な語り口とあくの強い個性的な人物達が織りなす物語には何とも言えない黒魔術的な魅力があります。私もその黒魔術に魅せられた一人です。

ですがそのドストエフスキーに関して大きな問題があります。

それが「ドストエフスキーを読んでみたいけど、一体何から読み始めるべきなのか。おすすめの順番はあるのだろうか」という問題です。

これはドストエフスキーを初めて読もうという方の多くが悩む問題ではないでしょうか。

たしかにこれは難しい問題です。

「有名な作品だし」ということで『罪と罰』や『カラマーゾフの兄弟』を読んでみたはいいものの早い段階で挫折してしまった方も多いのではないでしょうか。

最近私も学生から「『罪と罰』は読みやすいですか?何から読めばいいでしょうか?私でもドストエフスキーを読むことができますか?」と質問されましたが、これはなかなか難しい問題です。

私個人のお話をすれば、私が初めて読んだのは『カラマーゾフの兄弟』でした。

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そして上の記事でお話ししたようにこの作品で私は稲妻に打たれたようなショックを受けることになりました。私の僧侶人生を決定づけてしまうほどの魔力がこの作品にはあったのです。

ただ、『カラマーゾフの兄弟』はいかんせん難しい!そして何より、長いのです!正直、読書初心者の方がいきなりこの作品を読むのはかなり難易度が高いです。読書慣れしている方であれば問題ないのですが、それでも『カラマーゾフ』は難敵です。

この作品の何が一番厄介かというと、上巻の後半に入るまでがとにかく難しいのです。強烈な個性の登場人物達がよくわからないことをひたすら話し続けるという展開は読書慣れした玄人でも苦戦必至です。ただ、それをなんとか我慢して突破するとそこからもう極上の体験が待っています。私も上の記事でお話しした「大審問官の章」にすっかり撃ち抜かれました。そしてそのままの勢いで中巻下巻も一気に進んでいきます。どちらの巻にもド級の見せ場が待っていますので、さすが世界最高の小説作品というところでしょう。

ただ、私の最初のドストエフスキー体験は『カラマーゾフの兄弟』でしたが、私がここまでこの作品に衝撃を受けたのは私が僧侶という宗教に携わる人間だったからこそだったのかもしれません。「『カラマーゾフの兄弟』はなぜ難しい?何をテーマに書かれ、どのような背景で書かれたのか~ドストエフスキーがこの小説で伝えたかったこととは」の記事でもお話ししましたが、この作品はドストエフスキーの宗教観が込められています。ですのである程度宗教やキリスト教の知識があった方が楽しめるのは間違いないです。

というわけで、私自身は『カラマーゾフの兄弟』からドストエフスキーを読み始めたのでありますが、「まずは読みやすい作品を」という方には私は『死の家の記録』をおすすめしています。

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『死の家の記録』はとにかく読みやすいです。しかも話が章ごとに分かれているのでテンポもいいです。登場人物の名前や物語の筋も五大長編と比べると圧倒的にすっきりしていてわかりやすいのもその特徴です。

後の五大長編のベースとなったのもこの小説です。ですのでドストエフスキーとはどんな作家なのだろうかと知る上でこの作品はうってつけと言うことができるでしょう。

そして『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』の五大長編に関してですが、読書に慣れている方であればどれから読んでも問題はないと思います。それぞれ独立した作品ですので順番に関係なく楽しむことができます。

ただ、私個人の好みから言いますと、『白痴』と『カラマーゾフ』がおすすめです。『悪霊』はかなりどぎついので好き嫌いがかなり分かれると思います。逆に言えばハマる人はものすごくハマる作品と言えるでしょう。『罪と罰』は最も一般向け、万人向けということができるかもしれません。ドストエフスキーの黒魔術におけるオーソドックスというところでしょうか。読みやすさ、入りやすさは『罪と罰』です。

そしてできればでありますが『罪と罰』や『白痴』、『悪霊』、『カラマーゾフの兄弟』などの長編に入る前にいくつか解説書を読むのがおすすめです。ただ単に読むより圧倒的にその作品を楽しく読むことができます。

私のおすすめは高橋保行著『ギリシャ正教』やフーデリ著『ドストエフスキイの遺産』、佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』です。

高橋保行著『ギリシャ正教』ではドストエフスキーとキリスト教の関係を知ることができます。私たちはキリスト教というとローマカトリックやプロテスタントをイメージしてしまいがちですが、ドストエフスキーはロシア正教を信仰していました。このロシア正教についての知識がないとドストエフスキー作品で説かれる宗教の話がなかなか見えてきません。

特に『カラマーゾフの兄弟』ではそれが顕著です。最大の山場「大審問官の章」はまさにドストエフスキーの宗教論の核心になります。『罪と罰』にも宗教的要素が大きく絡んできますので、この『ギリシャ正教』を入門書として読むことを強くおすすめします。

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次のフーデリ著『ドストエフスキイの遺産』ではドストエフスキーの生涯に沿って作品を論じていきます。作品理解を深めるという意味でも非常に懇切丁寧でわかりやすいです。伝記のように読める作品ですので彼の生涯を知る上でも非常に便利です。

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そして佐藤清郎著『観る者と求める者 ツルゲーネフとドストエフスキー』ですね。これも名著中の名著です。私の大好きな参考書です。

この本はタイトルにもありますように「観る者」ツルゲーネフと「求める者」ドストエフスキーの気質、個性に着目して2人の文学スタイルを改めて見ていこうという試みがなされています。

この本の特徴は何より、ツルゲーネフとドストエフスキーの違いを彼らの生涯や作品を通して明らかにしていく点にあります。

冷静で中道的な観察者ツルゲーネフ、激情的で何事も徹底的にやらなければ気が済まない求道者ドストエフスキー。

なぜ二人はこうも違った道を進んだのか、そしてその作風の違いはどこからやってきたのかを著者は語っていきます。ドストエフスキーとツルゲーネフ、二人の作品を読んでからこの参考書を読むのがベストですが、全く読んだことがなくても二人の違いを知ることができて非常に面白いです。これからドストエフスキーを読んでみたいという方にも素晴らしい羅針盤になる解説書です。

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これらの解説書を読み、ドストエフスキーの大枠を知ってから五大長編に突入することでより楽しく読むことができるのではないかと私は感じています。

また、ここでぜひおすすめしたいのがドストエフスキーの奥様による伝記『回想のドストエフスキー』です。

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回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

回想のドストエフスキー〈1〉 (みすずライブラリー)

私がドストエフスキーを学ぼうと思ったきっかけは『カラマーゾフの兄弟』でした。

ですが心の底からドストエフスキーを好きになったのはこの『回想のドストエフスキー』のおかげだったのです。

そしてこの本の中で説かれるドストエフスキーとアンナ夫人の西欧旅行。これが私の心を打ちました。新婚早々二人はロシアを離れてヨーロッパへと旅立ちました。そして4年に及ぶ西欧滞在で2人の運命は大きく変わることになります。この旅がなければ『白痴』以降の大作、つまり『悪霊』も『未成年』も『カラマーゾフの兄弟』も生まれることはなかったでしょう。それほどこの旅はドストエフスキーにとって大きなものがあったです。

そして何よりこの旅を通して2人は強く結ばれ、ドストエフスキーは苦しみ抜いた前半生と全く異なる幸福な家庭生活を過ごすことができました。ドストエフスキーといえば重く陰鬱なイメージがあるかもしれませんが、彼の晩年は幸福そのものだったのです。これは私にとっても大いに救いとなった事実でありました。

そしてドストエフスキーを学び始めてすでに4年以上が経った今、私は強く感じています。「私はアンナ夫人と共にいるドストエフスキーが好きなのだ」と。

ドストエフスキーの小説は面白いです。そして何より、深いです。私の僧侶人生にとてつもない影響を与えました。

ですがこのアンナ夫人の伝記もそれに劣らず私に巨大な影響を与えることになりました。ドストエフスキーその人を心の底から好きになったのはこの本のおかげです。私はこの伝記が好きで好きでたまらなく、昨年2022年にこの伝記で語られるゆかりの地巡りに出掛けたほどです。その旅の記録が『ドストエフスキー、妻と歩んだ運命の旅~狂気と愛の西欧旅行』という記事になります。

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まずは『死の家の記録』を読み、そこからいくつか解説書を読んでから好きな長編に突入する。これが私のおすすめの流れになります。

以下の記事でドストエフスキーのおすすめ参考書をまとめていますので参考にして頂ければ幸いです。

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ドストエフスキーは面白い!これは間違いありません。

ですが闇雲に突撃しても返り討ちに遭ってしまいかねないのも事実。そうした危険を避けるためにも「良い解説書」を読んでみるというのも非常に効果的な手段になります。

また、ドストエフスキー作品は岩波書店や新潮社、光文社など数多くの出版社から発行されています。

その中で私がおすすめしたいのは新潮社版のドストエフスキー作品です。

特に五大長編においてはぜひ新潮社版をというのが私の個人的な思いです。

訳も素晴らしく、ドストエフスキーの原典に忠実かつ、現代人の私たちにも読みやすい訳となっています。

その中でも『カラマーゾフの兄弟』はぜひぜひ原卓也訳の新潮社版を手に取って頂けたらと思います。

また、近年新たに翻訳された水声社、杉里直人訳の『詳注版 カラマーゾフの兄弟』もおすすめです。解説が非常に充実していて、私も「『カラマーゾフの兄弟』はなぜ難しい?何をテーマに書かれ、どのような背景で書かれたのか~ドストエフスキーがこの小説で伝えたかったこととは」の記事で参考にさせて頂きました。

ドストエフスキー作品を気軽に手に取るのであれば新潮社版が一番おすすめです。私も基本的には新潮社版で作品を読んでいます。

ぜひ、楽しくドストエフスキー作品と付き合って頂けましたら幸いでございます。

以上、「ドストエフスキーは何から読むべき?読む順番のおすすめは?」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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