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池上俊一『図説 騎士の世界』あらすじと感想~ドン・キホーテが狂った中世の騎士の歴史を知るのにおすすめのガイドブック

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池上俊一『図説 騎士の世界』概要と感想~ドン・キホーテが狂った中世の騎士の歴史を知るのにおすすめのガイドブック

今回ご紹介するのは2012年に河出書房新社より発行された池上俊一著『図説 騎士の世界』です。

早速この本について見ていきましょう。

ファンタジー小説でもおなじみの騎士。勇猛果敢に戦う一方、風雅な趣味人としてヨーロッパ中世における理想の男子像とされてきた。だがその実像は? 騎士の誕生から没落まで真の姿に迫る。

ときに君主や神のために勇猛果敢な戦いをくり広げ、ときに風雅な趣味人として宮廷に華を添えた、中世ヨーロッパ社会の立役者―騎士。今もファンタジー世界で脈々と生き続けている彼らだが、その実態はあまり知られていない。騎士たちは何のために剣をとったのか、めざす道はどこにあったのか。騎士の誕生から没落まで、歴史のドラマを追いながら、その真の姿に迫る。

Amazon商品紹介ページより

私は『ドン・キホーテ』が大好きです。

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そしてその『ドン・キホーテ』好きが高じて私は2019年『ドン・キホーテ』ゆかりの地スペインのカンポ・デ・クリプターナを訪れました。

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大好きなドン・キホーテが歩いたであろうラ・マンチャの大地を私も体感したのでありました。上のリンク先にもあるカンポ・デ・クリプターナの夕焼けは最高の思い出です。私はこの旅を通してさらに『ドン・キホーテ』が好きになったのでした。旅から帰ってきた後も相変わらず私はこの作品を読み返しています。

さて、今回ご紹介する『図説 中世の騎士』はそんな『ドン・キホーテ』の世界を知るのにおすすめのガイドブックです。

『ドン・キホーテ』そのものの参考書ではないのでドン・キホーテはほとんど出てきませんが、その題材となった騎士とはそもそもどんな存在なのか、どのような歴史を経て生まれてきたのかということをわかりやすく知ることができます。

この本について著者は「はじめに」で次のように述べています。

「騎士」は、西洋中世社会の花形である。騎士というのは、もちろん馬に乗って戦う戦士のことだが、たんにそうした馬上の戦士であるだけでは、騎士の名に値しない。彼ら西洋の騎士は、独特のエートス(習俗)と資質を備えた人間類型だったのである。彼らは、戦場においては人馬一体となって主君と祖国のために勇猛果敢に戦い、宮廷では風雅を心得た趣味人として、貴婦人に心を込めて尽くした。しかも「キリストの戦士」でもある彼らは、教会とキリスト教の防護にも励んだのである。まさに、憧憬すべき、理想の男子像であろう。

だが、騎士について少し詳細に知ろうと思うと、その実像はなかな捉えがたい。騎士はいついかにして生まれたのだろうか、騎士と貴族とは同じ身分の者を指すのだろうか、実戦に参加する修道士身分の者たちが集まった騎士団とはなんだろうか、騎士はいつまで戦争の立て役者であったのだろうか、文学に描かれたような優雅で勇敢な、諸種の美徳を兼ね備えた騎士など、本当にいたのだろうか.・・・・・・疑問は尽きない。

騎士たちの生活・行動規範となった「騎士道」についても、誰もが聞いたことがありながら、私たち現代日本人には、はっきりとわからない点が多いのではないだろうか。騎士道というのは、文学世界以外では、ただうわべの飾り・化粧板にすぎず、実は粗暴な日常を送る貴族たちが、恰好よい見かけ倒しの光沢をまぶして自らの活動を正当化するイメージにすぎないと主張する研究者までいる。だが、もしそうだとしても、その「イメージ」の影響はずっと長く生き延びて独自に進化し、西洋文明と一体となって、今日まで命脈を保っているのだから、けっして無視できない力を持ってきた、と考えねばなるまい。

本書では、西洋中世世界の立て役者である「騎士」の歴史的役割について、一般読者に広く知ってもらうため、八つの章に分けて解説していく。扱う時代は、中世(5~15世紀)を中心としつつも、一部はローマ時代に遡り、また下っては近代の事情にも触れる。騎士の起源から消滅まで、政治・社会・宗教の動向との関連のもとに展開した多面的な活動を概観していくが、とりわけ、騎士たちが西洋の想像界に浸って生きていた事実が、その偉大な活力になるとともに、また限界を定めたことを、明らかにしていきたいと考えている。

河出書房新社、池上俊一『図説 騎士の世界』P4

「騎士について少し詳細に知ろうと思うと、その実像はなかな捉えがたい。騎士はいついかにして生まれたのだろうか、騎士と貴族とは同じ身分の者を指すのだろうか、実戦に参加する修道士身分の者たちが集まった騎士団とはなんだろうか、騎士はいつまで戦争の立て役者であったのだろうか、文学に描かれたような優雅で勇敢な、諸種の美徳を兼ね備えた騎士など、本当にいたのだろうか.・・・・・・疑問は尽きない。」

中世の騎士といえばまさにこれに尽きます。

「騎士道」という言葉は知っていてもその実態がどのようなものだったかは意外とわかりません。

『ドン・キホーテ』はそれ単体でも最高に面白い作品ですが、中世の騎士たちの姿を知ることでより楽しむことができるのではないでしょうか。

図版やイラストも多数掲載されているので視覚的にも非常にわかりやすい作品です。解説の文章も読みやすく、入門書として非常に優れたガイドブックとなっています。

ぜひぜひおすすめしたい作品です。

以上、「池上俊一『図説 騎士の世界』概要と感想~ドン・キホーテが狂った中世の騎士の歴史を知るのにおすすめのガイドブック」でした。

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この記事を書いた人

真宗木辺派函館錦識寺/上田隆弘/2019年「宗教とは何か」をテーマに80日をかけ13カ国を巡る。その後世界一周記を執筆し全国9社の新聞で『いのちと平和を考える―お坊さんが歩いた世界の国』を連載/読書と珈琲が大好き/

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