アーヴィング『アルハンブラ物語』あらすじと感想~魅惑のスペイン紀行!世界遺産アルハンブラ宮殿に行くならぜひおすすめ!

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アーヴィング『アルハンブラ物語』あらすじと感想~魅惑のスペイン紀行!世界遺産アルハンブラ宮殿に行くならぜひおすすめ!

今回ご紹介するのは1832年にワシントン・アーヴィングによって発表された『アルハンブラ物語』です。私が読んだのは1997年に岩波書店より発行された平沼孝之訳の『アルハンブラ物語』です。

早速この本について見ていきましょう。

グラナダの丘に今もその姿を残すアルハンブラ宮殿。アーヴィング(1783‐1859)はアメリカ公使館書記官としてスペインに赴き、偶然の幸運からモーロ人の築いた城に滞在した。その幻想的な日々が、処々に伝わるさまざまな物語を織りまぜて、詩情ゆたかに綴られる。(上巻)

城を抜け出し、フクロウとオウムをお供に恋の巡礼の旅に出る王子。モーロ人の遺産を偶然手に入れるお人好しの水売り。亡霊の遺した銀のリュートを奏でる美しい乙女。片腕の総督、豪傑な兵士…。伝承の世界の人びとが、アルハンブラを舞台によみがえる。(下巻)

Amazon商品紹介ページより
ワシントン・アーヴィング(1783-1859)Wikipediaより

『アルハンブラ物語』の著者ワシントン・アーヴィングはアメリカ出身の作家です。

アーヴィングは1829年にここグラナダに旅行し、アルハンブラ宮殿に滞在しました。

その旅を基に書かれた作品が『アルハンブラ物語』で、この本がきっかけで西欧社会にアルハンブラ宮殿が知られるようになりました。訳者あとがきではこのことについて次のように述べられています。

初版『アルハンブラ物語』が、イスラム教徒の時代のアンダルシア(「アル・アンダルス」と呼ばれた)、とりわけグラナダのアルハンブラへの興味を、英語圏はもとより西欧全域に急騰させ、トゥーリズム熱を呼び覚ましたことはよく知られている。イスラム・スぺイン史家、W・M・ワットが的確に要説するように、「『アルハンブラ』という言葉が十四世紀の宮殿について何一つ知らぬ多くの人びとに親しまれるようになったのは、疑いもなくワシントン・アーヴィングの影響である」。グラナダは、アルハンブラ・ブームを背景に、画家たちの活躍舞台にもなった。ロンドンで、この時期に描かれた挿絵や旅行スケッチを調べてみると、保存されているものだけでも相当数にのぼる。

岩波書店、ワシントン・アーヴィング、平沼孝之訳『アルハンブラ物語』下巻、P424

アーヴィングがグラナダに滞在した時アルハンブラ宮殿は荒廃したまま放置されていた箇所が多々ありました。

もしアーヴィングがいなければ、アルハンブラ宮殿は世界に知られることもなく、もっと荒廃していた可能性もあります。

ヨーロッパ世界にその素晴らしさが認知されたおかげで観光地としての人気が高まり、さらには文化財の保護という観点から修復や整備が進められたのでした。

さて、この作品の内容ですが、アーヴィングの実体験を基にした旅行記となっています。スペイン・アンダルシア地方への移動から始まり、その時点で旅情満点でものすごく面白いです。アメリカ人アーヴィングにとってスペインアンダルシア地方は未知の国です。気候や土地の様子から人々の文化まで全てが異世界。そんな未知との遭遇をアーヴィングは臨場感たっぷりで語ってくれます。これは面白い!

スペインはかつてイスラーム王国が栄えた地域でした。私達はヨーロッパといえばキリスト教文化をイメージしてしまいますが、ここスペインは15世紀までイスラーム世界がその主流だったのです。特にアルハンブラ宮殿があるグラナダや、メスキータで有名なコルドバはスペインイスラーム文化の中心地でした。そうした歴史的背景があったからこそアーヴィングの新鮮な驚きに繋がったのです。

そしてアーヴィングの筆が冴えわたるのが何と言ってもアルハンブラ宮殿の描写です。これを読めばそのあまりの魅力に現地に行きたくて仕方なくなります。下に出てくるモーロ人とはイスラム教徒のことです。

ロマンスの国スぺインの年代記に分かちがたく織り込まれている、史実とも詩とも見分けがたい世界に惹かれ、そのとりことなった旅人には、アルハンブラは、敬虔なイスラム教徒のだれもが詣でたいと願うカアバ神殿にも比べられる、巡礼の聖地のようなものだ。史実と虚構を取り混ぜ、なんと多くの伝説、伝承が、そして、愛と戦いと騎士道を主題とする、なんと多くのアラブの、またスぺインの歌やバラッドが、このオリエントの城と結ばれていることだろうか!

この宮殿は、かつて、モーロ人の歴代の王たちの居城だった。モーロ人の王たちは、アジア的豪奢の絢爛典雅な美に固まれて、これぞ地上の楽園よ、と誇らかに我が世の春を謳い、ここをスぺインにおけるイスラム教徒の帝国の最後の砦にしたのだった。

宮殿そのものは、城塞全体のほんの一角を占めるにすぎない。点々と塔が突き出た長大な外壁が、万年雪を戴くシエラ・ネバダの一山脚である丘陵地の上部全体をうねうねと取り囲み、グラナダ市を見下ろしている。

アルハンブラは、外から眺めれば、いくつもの塔や胸壁の雑然たる石の集積物で、構想上の統一性にも、建造物の優雅さにも欠けている。こんな殺風景な城塞の内部に、あふれかえるばかりの優雅と美とが眠っていると、だれが思うだろうか。

岩波書店、ワシントン・アーヴィング、平沼孝之訳『アルハンブラ物語』上巻P73-74

いかがでしょうか。何ともミステリアスでたまらない魅力を放つ文章ですよね。

先ほども述べましたが、当時欧米の人々はほとんどアルハンブラ宮殿のことを知りませんでした。ですがこうしたアーヴィングの語りを聞いて「そんなすごいところがあるのか!」と騒然となりました。その結果は上で紹介した通りです。

アーヴィングはこうした旅行記的な情景描写と共にアルハンブラにまつわる伝承や物語をこの後に語っていきます。まるで『千夜一夜物語』のようにたくさんの物語が語られるのですがこれがまたエキゾチックで面白い話が満載です。

そしてもうひとつぜひ紹介したいのがこの本の挿絵です。これがまた素晴らしいんです!

私が初めてこの本を読んだのは2019年の旅に出る直前でした。私はこの挿絵を見てアルハンブラ宮殿のイメージを膨らませていました。アーヴィングの素晴らしい語りと共にこの何とも味わい深い挿絵が旅への期待を掻き立てます。

そして私は実際にこの地を訪れたのでありました。

おぉ!挿絵とそっくりだ!と私は思わず声が漏れてしまいました。

そしてアルハンブラ宮殿の道へはアーヴィングの像もありました。

アーヴィングの像 撮影上田隆弘

アーヴィングの本を読んでじっくりとイメージを膨らませてきた私にとってこのアルハンブラ宮殿での体験はとにかく楽しいものになりました。

「あ!これが例のやつだな!ふむふむ」と色々なことを考えながらじっくりと宮殿を堪能することができました。

その中でも一番感動したのはやはりライオンの噴水でした。もう私はこれが見たくて見たくてここまでやってきたと言っても過言ではありませんでした。

アルハンブラ宮殿での体験は「世界遺産アルハンブラ宮殿とライオンの中庭~美しさの起源とは? スペイン編23」の記事で詳しくお話ししていますのでぜひこちらも合わせてご覧ください。

また、ぜひおすすめしたいのがこちらの「夜間入場のアルハンブラ宮殿~ライトアップされた宮殿を堪能 スペイン編24」の記事です。

大好きなライオンの噴水をライトアップで見れた時の体験をこの記事で紹介しています。人もほとんどいない中でスポットライトを浴びるライオンたち。

静寂の中、噴水の水音だけがこの空間に響きます。

暗闇の中で白く輝くライオンの噴水はあまりにも、あまりにも美しかった。

私のアルハンブラ体験のハイライトは間違いなくここでした。今でもあの時の感動は強烈に残っています。ぜひこの記事をご覧になって頂けたらなと思います。

さて、ここまでアーヴィングの『アルハンブラ物語』についてお話ししてきましたがいかがでしょうか。何か、アルハンブラ宮殿に行ってみたくなってきませんか?この本を読めば間違いなく行きたくなります。もしすでに行く予定が決まっている方はぜひこの本を読んでみて下さい。現地に行ったら何倍も楽しめること間違いなしです。旅に出るまでのモチベーションアップに絶大なる威力を発揮する作品です。

スペインの文化を知る上でもこの本は非常に素晴らしいものとなっています。ぜひおすすめしたい作品です。

以上、「アーヴィング『アルハンブラ物語』あらすじと感想~魅惑のスペイン紀行!世界遺産アルハンブラ宮殿に行くならぜひおすすめ!」でした。

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